揺籃の魔法少女 作:ほむほむぷでぃんぐ
まどかと一夜を共にし、恋人同士になってから数日が経った。あれから私の性欲はある程度落ち着き、いつも通りの生活を送る事が出来るようになった。むしろ心配事が無くなったので、この頃は絶好調と言っても良いぐらいである。
しかし、後で魔法で癒したとはいえ、タガが外れてまどかを意識を失う程犯した筈なのに、彼女は案外私との行為に積極的であるようだった。最低でも一週間に一度はしたいと望んでおり、性欲が溜まるようであれば、学校でも手伝うとのことだ。それに彼女とは週末にデートの約束までした。
そんなまどかの変化は目を見張るもので、以前よりも性格が明るく積極的になり、彼女の纏う雰囲気もまた、色気づいたとさやかや仁美に言われる程であった。恐らく、私と付き合い始めたことや、私の為に役立つことが出来ているという実感が、彼女の自己肯定感を大幅に向上させたのだろう。実際、私は彼女に頭が上がらない思いではある。
こんな感じで、もう何も恐くない──と言いたいところだが、そうやって油断しているとマミ先輩どころか私がマミることにもなりかねない。私は未だに魔法少女のことをまどかに話してはいないのだ。もし私が魔女との戦いで死ねば、行方不明となって彼女を悲しませることになるだろう。
そして、今日もまた私はマミ先輩と共に見滝原のパトロールに出掛けていた。
「マミ先輩、今日は魔女、居るんでしょうかね」
「どうかしらね。でも、二人になったとはいえ、ソウルジェムの濁りにはまだ余裕があるもの、焦らずに行くわよ」
「そうですね。まぁ、それに最終手段はありますしね」
魔法少女の先輩として余裕に満ちた態度をしていたマミ先輩であったが、私が以前試したソウルジェムの浄化方法を口に出すと、その表情は一変した。
「んんっ、あっ、あれはちょっと…………それに、東雲さんにも何が起こるかわからないのだから……」
彼女は紅潮して語尾を濁した。初めて行った時もそうであったが、あまりにも動揺しすぎている。
使用時には繋がっているような感覚がするものの、激しい快感が発生するようなものでは無く、せいぜい安心感を得られる程度のものだ。けれど、もしかするとそれが今まで孤独感を感じていたのであろう彼女の心に何らかの作用を及ぼしているのかもしれない。
そんなことを考えていると、彼女はわざとらしく咳払いをした。
「そっ、そういえば、東雲さんが良ければ、この後私の家でお茶でもどうかしら?」
「じゃあ、そうさせてもらいます。マミ先輩の作ったお菓子は美味しいですから、楽しみです」
これはお世辞等ではなく、マミ先輩のお菓子のクオリティは中学生とは思えない程に高いのだ。私の言葉に彼女は満面の笑みを浮かべた。
「あら、気に入って貰えたのなら嬉しいわ。今日はブドウとマスカットのケーキを用意してあるわよ」
その言葉に私は楽しみに思いつつも、よく考えるとそのような話をするのはやめておいた方がいいかもしれないと思った。魔女との戦いの前に終わった後の話をするというのは、何となく死亡フラグが立ちそうだからだ。
そうして、しばらく歩き回っているとソウルジェムが反応を示した。
「……近くに魔女が居るようね。探すわよ、東雲さん」
「はい」
☆♡☆
やがて、魔女の結界を見つけた私達がその中に入ると、そこには夜の海が広がっていた。そこには海水よって錆び付いた幾つもの檻が散乱しており、その中には所々がほつれたテディベアの姿があった。
「じゃあ、行きましょうか」
海の中を進んで行くにつれて、周囲には檻を中心としてその周りを回る、頭が監視カメラに置き変わった魚の群れが見え始めた。
「哨戒っぽいですね」
「そうね、人を襲わないように倒して行きましょうか」
「そうですね」
マミ先輩は迷いなくリボンで構成されたマスケット銃を取り出した。私もそれに合わせて背中から鎖の剣を四本展開する。
ちなみに、魔法少女にとって使い魔とは、倒しても得るものは何も無いので戦う必要のない存在である。むしろ倫理的な問題を無視すれば、倒さず放置しておくことで人を捕食し、グリーフシードが得られる魔女へと成長するので、有益な存在とも言えなくはないのだ。
実際、『まどマギ』のメインキャラクターの佐倉杏子はその方法でグリーフシードを得ていた筈だ。しかし、マミ先輩のような正義の魔法少女を自認している者はそれでも使い魔を倒している。
それに、私は正義の魔法少女を自認している訳では無いが、人が死ぬのは後味が悪く、もし知り合いが死ぬようなことがあったら最悪なので、マミ先輩と出会うことが無くても出来る限り使い魔は倒していただろう。
「行くわよ!」
マミ先輩の合図と共に私は駆け出した。私は使い魔に突っ込むと、その行動を許す間もなく蛇のようにうねる鎖の刃でそれらを切り刻む。使い魔の身体を熱されたバターのように刃が難無く通り、今までよりも断然に調子が良い事に気が付かされた。
やがて、やや遠方から侵入者に気づいた他の使い魔達がけたたましいアラームを鳴らしてこちらへと迫まってくる。マミ先輩はそれらに向かって数多のマスケット銃を生成し、正確に仕留めて着実にその数を削っていく。
それから、集まってきた使い魔達を殲滅しながら先へと進んで行き、最深部へと到達するとまるでカイロウドウケツのような白い網目によって形成された巨大なドームが姿を現した。
「ここに魔女が居るようね。気を引き締めて行くわよ」
「もちろんです」
そして、ドームの中に入るとベッドや皿、人形と手錠によって飾られたピンクのタイル床の空間が広がっていた。そこには監視カメラの集合体で形成された頭を持ち、硝子容器の身体をした巨大なタツノオトシゴの姿があった。身体の硝子容器はショッキングピンクの液体で満たされ、ひび割れた部分からそれが漏れ出ている。
「見るからに毒を使ってきそうな魔女ですね」
「ええ、あまり近づかない方が良さそうね。……ッ! 来るわ!」
私達が話していると、魔女はショッキングピンクの液体をこちらへと飛ばしてきた。すぐさま飛び退くと、液体は私達が立っていた場所に着弾し、ジュワジュワと音を立てて泡立つ。
私は魔女に向かって鎖を数本放つが、難なく避けられて鎖は空中で停止する。魔女は私に狙いを定めたのか、何度も液体を私に飛ばし始めた。私はそれらを空間に固定した鎖を生成することで足場にして回避していく。
「あら、私のことを忘れてないかしら?」
私の方へと意識が向いていた魔女はマミ先輩に背後を取られ、その背を弾丸に貫かれた。それにより、次はマミ先輩に意識を向けた魔女に向かって鎖を放ち、返しの付いた釘が突き刺さって魔女の動きを制限する。
「マミ先輩!」
私はそれでも液体を放つ魔女の周囲を回るようにして跳び、遂にマミ先輩に合図をした。
「ええ!」
そして、避けられた鎖や足場として固定されていた鎖が一気に動き出し、マミ先輩が放った弾丸もまた解けて動き出し、それらが魔女に殺到してその動きを絡め取る。それを確認するとマミ先輩は巨大な銃を形成し、構える。
私はマミ先輩のおかげで固有魔法に頼らない戦法の幅が広がったのだが、彼女のように鎖から発展的な武器を生成することは出来ずとも、こんなことが可能になった。
「──ティロ・フィナーレ!」
マミ先輩が放った必殺技が魔女に着弾すると同時に、魔女を拘束していた鎖が閃光を放ち、炸裂する。これはマミ先輩の魔力に反応して爆発するという性質を後から鎖に付与することによる彼女の攻撃のサポートだ。ただでさえ威力の高いティロ・フィナーレに発動すればただでは済まない筈だ。
「お疲れ様、東雲さん」
マミ先輩は勝利を確信し、私に労いの言葉を掛けてきた。一方、私はお菓子の魔女という『まどマギ』の前例から、煙が立ち上る爆発跡をグリーフシードを探してじっと見詰めていた。マミ先輩はそんな私の様子を不思議そうにして歩み寄って来た。
「えっと、どうしたのかしら?」
「グリーフシードが──風船の魔女ッ!」
「きゃっ!」
突如として煙の中から硝子の破片が含まれた毒液の奔流がこちらに押し寄せた。私はすぐさま近くに居たマミ先輩を抱き寄せて、数多の風船で浮かぶ入れ歯のような魔女、風船の魔女を召喚し、彼女の口から放たれるロケット風船の群れによってそれを散らして食い止める。
「ぐっ……」
「しっ、東雲さんっ!」
ソウルジェムが穢れの逆流によって侵され始める。しかし、その程度は以前よりも遥かにマシだった。やはり調子が良いのは確かなようだ。
これなら、と私は深く息を吸って魔法の制御に集中し、穢れの逆流を堰き止めようと試みた。段々と全身を襲う苦痛が和らぎ、逆流が収まっていく。これならば魔女一体を戦闘時に召喚し続けても支障はないだろう。
そして、その頃には毒液の奔流は止まっていた。そこに居たのは至る所から血管が伸びたツギハギのハート型。それはショッキングピンクの毒液を纏い、脈打つ度に血管から毒液を生み出し続けていた。
「……ごめんなさい、東雲さん、油断してたわ。守ってくれてありがとう」
「大丈夫ですよ。でもまた同じのが来るかもしれないので、あまり離れないでくださいね」
「ええ···今度は油断なんてしないわ」
彼女は再びマスケット銃を複数丁生成すると、魔女に向けて弾丸を放った。魔女は避ける必要が無いと言わんばかりに、自身の纏った毒液によってそれらを受け止めた。
「まだこれからよ! ティロ・ボレー!」
それでも構わず、マミ先輩は更なる射撃を魔女に浴びせかける。魔女が再び毒液を放つが、それらは風船の魔女によって相殺していく。
「させない」
やがて、受け止められた弾丸は再び解けて、細いリボンが魔女を毒液に潜り込んで縛り上げる。魔女は抵抗を強めるが手遅れで、その力は段々と強くなって、遂にはその圧力が魔女の脈動を止めてしまった。
「今度こそ終わりよ! ティロ・フィナーレ!」
今度こそトドメの一撃を食らった魔女は、その身体を崩壊させてグリーフシードを落とした。主を失った結界は崩壊し、私達は元の世界へと帰還した。
「ふぅ…………先輩としてかっこ悪いところ見せちゃったわね……」
グリーフシードを拾い、そう言うマミ先輩は眉を下げていた。
「誰にだってあることですよ、そんなこと」
「でも……魔女との戦いは命懸けなのよ、それなのに……」
彼女は自嘲してより一層沈み込んでしまった。心做しか彼女のソウルジェムも濁って見える。
「まぁ、今回はどうにかなったんですから、それでいいんじゃないですか? 今度からトドメを刺せたかちゃんと確認するってことで」
「そう、よね……」
「それに、そんなに肩を張らなくでも、マミ先輩はかっこよくて尊敬出来る人ですよ」
彼女はいまいち納得出来ていないようで、幾らかマシになったが依然としてその表情は暗い。
「そうかしら……?」
「そうですよ、リボンの魔法の並外れた応用力とか、売り物に出来そうなクオリティのお菓子とか、それに美人で性格も優しいですし」
「東雲さんっ!」
すると、マミ先輩は目を潤ませて私を抱き締めた。私もまた彼女を抱き返すと、その力は強くなった。
「私、あなたとお友達になれて良かったわ」
「私もです」
戦闘だけ。
気が乗ったら続く。