揺籃の魔法少女 作:ほむほむぷでぃんぐ
魔女との戦いを終えて、私はマミ先輩の誘いに乗って彼女の家を訪れていた。中学生で一人暮らしにも関わらず、リビングは綺麗に整えられており彼女の生活力の高さが伺えた。
私が座って待っていると、マミ先輩はトレイにティーセットと二切れのケーキを載せて戻ってきた。マミ先輩はトレイをテーブルに置くと私の横に座り、ケーキとフォークを私と彼女の前へと並べ、ポットから紅茶も淹れてくれた。
「はい、どうぞ、口に合うと良いのだけれど」
「ありがとうございます」
彼女の手作りショートケーキは、ふんだんに載せられたブドウとマスカットとホイップクリームによって飾られており、その断面もまた、丁寧に重ねられた果実が綺麗な層を成している。彼女の努力面での徹底さは戦闘だけで無く、このような面でも表れているようだ。
「それにしても、やっぱり手作りとは思えない程綺麗ですね」
「そうかしら? 東雲さんが喜んでくれるなら腕によりをかけたかいがあるわね」
「ええ、とっても嬉しいです。じゃあ、いただきますね」
フォークで切り分けて口に運ぶと、ホイップの甘さとブドウとマスカットの酸味のバランスの良い味わいが口に広がった。ケーキのスポンジもふわふわで期待を裏切らない美味しさだ。
「どうかしら……?」
「凄い美味しいですよ。マミ先輩、将来パティシエになれるんじゃないですか?」
「ふふっ、口に合ったようで何よりだわ」
私の言葉に嬉しそうにするマミ先輩であったが、やがて何処か遠くを見つめるようにして呟く。
「…………パティシエ、ね。…………こんな生活だもの、将来なんて考えた事なかったわ。でも、魔法少女になる前はそんな夢を見ていたのかしら…………」
「マミ先輩?」
彼女はそう呟いて遠くを見つめているような目をした。私が呼びかけると、彼女ははっとした顔をしてこちらへと視線を戻す。
「あら、ごめんなさいね、ちょっと考え込んじゃってたわ。…………私ったら最近変ね」
それは、いつも気丈に振舞っている彼女の内面が表出しているように私には感じられた。けれど、彼女の心が弱いのではなく、様々な要因から彼女の心が一時的に不安定になって表れたものなのだろう。
「マミ先輩」
そんな彼女の心を少しでも安らげる事が出来るならと、私は両手を伸ばした。彼女はぱちくりと瞬きをした後、ほっとしたような顔で私を抱き締めた。
「……ありがとう、東雲さん」
それからしばらくの間、紅茶の香り立つ部屋で抱擁を交わす穏やかな時間が過ぎ去って行った。
「紅茶……冷めちゃったわね」
「いえ、猫舌なのでちょうどいいくらいです」
マミ先輩の気分が落ち着き、お茶会を再開した頃には湯気が立ち上っていた紅茶は私にとっては丁度いい程度の温度になっていた。私はその香りを楽しみながら再びケーキを味わう。
「うん、美味しいですよ」
「それなら良かったわ」
私のその言葉にマミ先輩は微笑んだ。それから私が黙々と食べていると、彼女は縮こまって何か言いたげにチラチラとこちらを見始めた。それを不思議に思って私が彼女を見つめ返すと逡巡の後に口を開く。
「……ねぇ、東雲さん」
「何ですか? マミ先輩」
「あなたの事……下の名前で呼んでもいいかしら?」
「ええ、勿論ですよ」
私が二つ返事でそれを受け入れると彼女は目を輝かせた。そしておずおずと私の下の名前を口にした。
「じゃあ…………あみ、さんね。それと、これからはもっと砕けた口調で話してくれると嬉しいのだけれど……どう、かしら?」
「良いです、よ。あっ、良いよ、マミ先輩」
私は普段の会話の癖で丁寧語が出そうになるのを抑えて、彼女の要望に応えた。そんな私の様子に彼女はやや頬を赤らめてくすくすと笑った。
「ふふっ、これからもよろしくね? あみさん」
☆♡☆
私の作ったケーキを美味しそうに食べるあみさんの横顔を私は漠然と見つめていた。彼女は私を先輩と呼んでくれる魔法少女で、私のお友達。私にとって彼女は願っても無い存在であったけれど、私の心は複雑だった。
彼女はつい最近までは普通の女の子であったが、魔女の結界に迷い込みやむを得ず魔法少女となった背景がある。それでも、彼女は間に合わなかった私のことを責めることは無かった。しかし、そんな彼女には見滝原を縄張りとする魔法少女として、彼女を魔法少女という過酷な運命に投じさせてしまったことへの罪悪感があった。
そして、私に自分自身を強く嫌悪させたのは、彼女が私と共に戦ってくれるという事をそれ以上に嬉しく感じてしまったことだった。
彼女は私の事を理解して、認めてくれる。それは魔法少女という同じ境遇に身を置いていることによるものだけではなく、あらゆる面でのことだ。私が孤独に戦ってきたことの苦悩を理解して、私のことに細やかに気づいて褒めて、家に招いてお菓子を出せば喜んでくれる。……例外としては、彼女の使う魔法に名前を付けるという点では頑なに拒んで来るけれど。
きっと、彼女が魔法少女にならなければ、私は私の事を本当に理解してくれるお友達を得ることは無かったのだろう。だからこそ、私は喜ばしくて、苦しくて、狂おしい。
放課後には一緒に遊びに行って、その後は家に招待してお茶会をする、そんな日常。彼女と関わっていると、私は魔法少女になる前の普通の女の子に戻ったような気分になれるのだ。
それは甘美な感覚だが、それと同時に私は恐れていた。彼女と触れ合う程に温かさを知って、私の心は脆くなってしまう気がしたから。そのせいか、彼女が私にパティシエに成れそうだと褒めてくれた時にも少し動揺してしまったのだ。
ソウルジェム同士を接触させて私のソウルジェムを浄化する事を拒むのもそれが理由だ。この時に生じる私と彼女が繋がり合っているという安心感が怖かった。
今日の魔女との戦いもそうだった。魔女を倒したと思って油断した結果、私は彼女に守られて負担が掛かる彼女の固有魔法を使わせてしまった。
きっと彼女と出会う前の孤独な私だったら、あんな失態はしなかった。魔法少女は常に死と隣り合わせなのだ、あんなミスをしでかせば命は無い。けれど、仲間が居るという安心感はその意識を鈍らせた。
そして、その後は落ち込んだ私を彼女が励ましてくれた。それは嬉しくもあったが、魔法少女の先輩という自負のある私にとっては情けなくもあった。
しかし、今回の失態は次から気を付ければ良い話だ。それよりも問題だったのは、考えるのも恐ろしい話であるけれど、彼女を魔女との戦いで喪った時、私は孤独に耐えられるのだろうか。もちろん先輩として彼女を守ってみせる、そう決心しているが万が一のことも有り得るのだ。もしも彼女に先立たれた時、私はどうなってしまうのか。
そんな不安感を抱えながらも、私は彼女へと傾倒しつつある己を律することができなかった。
☆♡☆
「またね、マミ先輩」
「ええ、またね」
やがて、お茶会がお開きになってあみさんが帰るの玄関まで見送った後、私がリビングに戻ると彼女の忘れ物に気づいた。
「あら? これ、あみさんの···」
それは彼女のパーカーだった。白い布地にチャック付きのそれは、着てきたは良いものの春になって暖かくなった為に暑くて脱いだまま忘れて行ったのだろうか。
「っ……!」
私がそれを拾い上げると、彼女と抱擁を交わした時に感じた優しい香りがした。恐る恐るそれを顔に近づけるとより強く彼女の匂いがし、私の中の熱が高まってしまった。
それは魔法少女になることのもう一つの代償。魔法少女は魔法を使うことで性欲が溜まるのだ。ソウルジェムを浄化する恩恵もあるけれど、自慰だけでは大した効果も得られないし、何よりもなんだか女の子として恥ずかしい気がする。だから魔法少女として私は戦うのだが、魔法を使えばどの道性欲が溜まり自慰をしなくてはならない。
どうしてキュゥべえは魔法少女をこんな仕様にしたのか。しかも、最大限に効果を発揮するには他者との性行為を要するだなんて女の子には酷な話だ。そんな訳でキュゥべえは何とも思っていないかもしれないけれど、私は彼に対してちょっとだけ苦手、気まずい感じがする。
そして、今日もまた例外ではなく、その結果私は彼女に欲情してしまっていた。こんなことは彼女の信頼を裏切る行為に他ならなかった。しかしそうは思いつつも、もはや歯止めが効かなくなってしまっていた。私は魔法少女になってしまったからには避けられないものだと自分に言い聞かせ、私の行為はエスカレートしていく。
「んぅっ……」
私の手はいつの間にか濡れそぼった自らの秘所をなぞっていた。そこからはただひたすら背徳感と快楽の入り交じった悦びに耽り夜を過ごした。
関係が複雑に。
気が乗ったら続く。