※この作品はR-18です。

揺籃の魔法少女   作:ほむほむぷでぃんぐ

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 お久しぶりです。


9.変わったこと、変わらないこと

 魔法少女としての活動に新たに杏子が加わってから数日が経った。杏子は私たちと共にパトロールや戦闘に参加しつつ、マミ先輩の助言の元で、自身の固有魔法の訓練やマミ先輩が今まで戦ってきた魔女についての解説を受けたりしていた。

 

 私もほんの少し助言をしたり、模擬戦の相手になるなど出来る限りの手伝いをしている。戦闘については鎖の操作の練習も兼ねて、束ねた鎖を魔女に見立てて模擬戦をするなどの工夫はしているが、それ以外で他に思いつく事はマミ先輩が殆どやっているので大して出来ることは無かった。それでも杏子は不満そうな様子は見せていなかった。

 

 ちなみに、マミ先輩と話し合った結果、彼女には緊急時を除いて、もうしばらくは私の固有魔法を見せないでおくという結論になっている。なので、私の固有魔法を使えれば今まで取り込んできた魔女を用いてより実践的な訓練を行えるのだが、残念ながらそれは今のところは不可能だった。

 

 そんな不自由な点はあるものの、三人で活動を始めてから今のところは特にこれといった問題が起こることも無く平日を過ごし、待ちに待った週末が訪れたのだった。

 

 

 

 白く塗装された鉄骨の柱に、壁の大半がガラス張りの、建物を覆うドーム型の屋根もまた巨大なガラスの埋め込まれた駅舎、見滝原駅前にて、集合場所に敢えて早めに到着した時計に寄りかかってまどかを待っていた。

 

 今日はまどかとのデートの約束をした日だ。天気は快晴で、絶好のデート日和だった。それどころか、寧ろ眩しく感じる程で、駅舎のガラスが空色を綺麗に映し出していた。現在の時刻は大体八時四五分、週末のそこそこ早い時間なだけあって周辺は疎らに人がいる程度だった。

 

 約束の時間まではあと十五分あり、私は手持ち無沙汰で手鏡を取り出して自分の髪を弄ったり、服装の乱れを確認するなどして時間を潰していた。こうしていると、十数年のうちに随分と少女らしい仕草が染み付いてきたような気がする。

 

 そして待つこと五分、ふと駅へと向かってくる特徴的なピンク色の髪をした少女の姿が見えた。私はまどかが思っていたよりも早く来たことに驚きつつ、周囲を見回している彼女に手を振る。彼女は私を見つけると手を振り返し、こちらへと駆け寄って来た。

 

「お待たせ、あみちゃん」

「いや、全然待ってないよ、早かったね」

「えへへ、デートが楽しみで早く来ちゃったんだ」

 

 そう言うまどかは、はにかみながら笑みを浮かべていた。彼女の容姿を近くでよく見てみると、三人で出掛ける時にはしない化粧までしていて、普段よりも気合いが入っていることが分かった。服装は以前購入した淡いピンク色のワンピースに白色のファーベレー帽を被っていた。

 

「ワンピースと帽子、似合ってるよ。化粧もして一段と可愛いね」

「ありがとう! あみちゃんもとっても似合ってるよ、かっこいいね」

「それなら良かった、ありがと」

 

 私の服装はというと、ゆったりとしたデニムパンツに黒いTシャツとその上からオーバサイズシャツを羽織ったもので、私に合っているか不安だったが、まどかの反応からしてそれは杞憂であったようで一安心だ。

 

「それじゃ、予定より早いけど行こっか」

 

 私はまどかと手を繋ぐ為に手を差し出した。彼女は私の手を取る。

 

「うん…………えいっ」

「わっ」

 

 彼女はそのまま手を繋ぐかと思ったが、私の腕に抱き着いて腕を組む形となった。

 

「ま、まどか?」

「……えへへ、ちょっと恥ずかしいね。……じゃあ、行こっか」

「………………そうだね」

 

 どちらのものか、あるいは両方のものかもしれない、高鳴った鼓動がドクドクと私の身体を揺らし、季節的にはまだ暖かくなってきたばかりだと言うのに顔は火が出そうな程熱かった。そうして、私たちは俯いて黙り込んだまま駅へと歩を進めた。

 

 

 

 駅のホームは閑散としていて、床に広がる白黒のブロックチェックのタイルが隅々まで見渡せた。そこまでやって来て人目が無くなると、私はようやく普段の調子を段々と取り戻すことが出来た。

 

「まどか、遊園地、楽しみだね」

「う、うん、そうだね!何しよっか?あみちゃん」

 

 私がまどかに話し掛けると、彼女は自らの抱く私の腕を見つめていた顔を上げた。彼女の頬には朱色の余韻が残っている様で、上目遣いに私を見遣る姿も相まって、またしても鼓動が早まるのが感じられた。

 

「観覧車……は夜の方がいいかな?」

「うん、なんだかロマンチックでいいなぁ……」

 

 そう言って彼女はうっとりとした様子で目を輝かせる。けれどそれも少しの間のことで彼女はころころと表情を変える。

 

「あっ、後、絶叫系って行くかな···?」

「えっ、絶叫系? ジェットコースターとかお化け屋敷?」

「うん、そうだよ?」

 

 私は突如として出されたまどかの提案に面食らってしまった。彼女はそういう類のものは苦手でさやかに促されでもしない限り行かないと思っていたからだ。けれど、現実にまどかはやや身を竦めつつも私に期待の眼差しを投げかけているのだった。

 

「うーん……」

 

 一方私はというと、以前の彼女程ではないにしろ絶叫系は苦手である。魔女と戦っている身で何を今更とは言われるかもしれないが、なんとなく死を連想とされられるからだ。特に心霊系は転生というものを実体験した身であるが故に、所詮フィクションだと笑い飛ばすことが出来た前世よりも明確に苦手になった。

 

 そうやって私が逡巡している間、まどかは純粋な期待を込めた眼差しを私に向け続けていた。私はとうとうそれに屈せざるを得なかった。

 

「···うん、まぁ、じゃあ、いこっか」

「うん!」

 

 満面の笑みを浮かべるまどかを見ながら、私には魔女との戦いを通して自身に絶叫系への耐性が身に付いている事を祈るしか無かった。

 

「あ、そろそろだ」

 

 そうこうしている内にまもなく目的へ向かう電車がやって来た。目的地へと向かうまでの間、私たちはとりとめのない話をしながら電車での時間を過ごした。

 

 

 

 見滝原市から離れ、電車に揺られること暫くして辿り着いた遊園地は、家族連れで賑わっており入場するのにもやや時間を要することになった。やがて遊園地内に入ると、そこにはスワンボートの浮かぶ池に、急降下と激しいカーブ、一回転といった動きをするらしいジェットコースターのレール、メリーゴーランド、そして中央に聳える大観覧車が目の前に広がる。

 

「わぁ……! 凄いね、あみちゃん! 何から乗ろっか?」

「んー……とりあえず、混んでるのもあるから、それをスマホで予約してから先に空いてるやつから回ろう」

 

 私はスマホを取り出すと、予め行く予定だったジェットコースターやお化け屋敷などに予約を入れ、アトラクションとその混雑状況の示されたマップを開いた。まどかはそれをつま先で背伸びしながら私の肩越しに見ていたので、私はスマホを持つ手を彼女の方へ寄せた。

 

「今、何が乗れそうなの?」

「今はコーヒーカップが空いてるみたい。乗る?」

「うん!」

 

 

☆♡☆

 

 

 コーヒーカップに私達は向かい合うようにして座り込んだ。やがてコーヒーカップが動き始めると、まどかはハンドルを握った。

 

「回していいかな?あみちゃん」

「いいよ」

 

 ティーカップは徐々に回転を早め、景色が目まぐるしく流れていく。まどかと目が合う。

 

「コーヒーカップ乗るの久しぶりだね、わたしたち」

「そもそも遊園地なんて、幼稚園の時に行ったっきりだからね」

 

 あの時はさやかも乗っていて、ハンドルを勢い良く回すものだからまどかは怖がっていたし、私もちょっと気持ち悪くなったな、と私は懐かしい気分になった。

 

 周囲から一時的に隔絶された世界で二人きり、こうして彼女と見つめ合っていると、私と彼女の関係性を含めて色々な所が変わった事を改めて感じさせられる。彼女は以前よりも大人びて色気付いたし、まさか私も彼女と恋人同士になるとは思いもしなかった。

 

「……なんだかこうして見つめ合ってるとドキドキしちゃうな」

「うん、私もドキドキしてる。でも、こうしてまどかを見てると綺麗になったなって思うよ」

「えへへ、そっか……あみちゃんがそう思ってくれてるなら、とっても嬉しいな。あみちゃんも綺麗でかっこいいよ」

「ありがと、まどか」

 

 くすぐったくありながらも心地良いような雰囲気の中で、コーヒーカップが止まるまで私は彼女と見つめ合っていた。

 

 

☆♡☆

 

 

 次に向かったのはお化け屋敷。廃病院を舞台としていて、過去に医院長が人体実験を繰り返していた事が発覚し、廃院になった経緯を持つ、という設定らしい。

 

 廃病院のエントランスに入ると、外見通りひび割れて苔むしたコンクリート剥き出しの壁に、ひび割れて変色したリノリウムの床、ズタズタになった長椅子が不気味さを演出していた。

 

「うぅ……やっぱり怖くなってきちゃった……」

「まどか、手、握っておくから頑張って」

「うん……」

 

 カツン、カツン、と私たちの歩く音が室内を反響する。私達は床に伸びる、血で描かれた矢印に従い、恐る恐る受付カウンターへと近づく。すると、無人の筈だったカウンターから声が響いた。

 

『外来の方ですね?』

「ひゃぁっ!」

「わっ」

 

 唐突に声を掛けられた事でまどかが跳ね上がり、私にひしと抱き着く。私はどちらかというとまどかの動きの方に驚かされて声を上げてしまった。

 

 そんな中、受付の声はこちらの様子に構わず、陰気な廃墟とは似合わない不快感を煽るような妙に浮ついた声で続ける。

 

『手続きは必要ありませんので、どうぞ診療室にお進みください』

 

 受付の声がそう言い終えると、電灯が緑色に診療所へと続く廊下を仄暗く照らす。私たちは血の矢印が示す順路に従って先へと進んでいった。

 

 

 

 そこから先は、血塗られたカルテの散らばる診療室や手術室とその地下などを巡った末に院内からの脱出を遂げ、今世初のお化け屋敷を終えた。まどかは未だに私にしがみついた状態でやや目を潤ませていた。

 

「はぁ〜、怖かったぁ……。あみちゃんは全然大丈夫そうだったね、怖くなかったの?」

「まぁ、うん、なんか思ってたよりも大丈夫だった」

「えっ、すごいね……」

 

 お化け屋敷に入る前には考えていなかったことだが、魔法少女になった影響である程度は周囲の気配を感じ取ることが出来る為、先に気づいてしまうという点と、結局は本物ではないので魔女よりもマシだと考えてしまうという二つの要因により、あまり恐怖を感じなかった。

 

 むしろドキドキさせられたという面では、驚かされたまどかが急に抱きついて来ることによるものが大きい。

 

「次はどこ行くの?」

「ジェットコースターかな。そろそろ順番来るし」

 

 

☆♡☆

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ!」

 

 景色が目まぐるしく変わり、身体をGによって揺さぶられる中、これもやはり私は平常心を保つ事が出来ていた。急速に降下することによって内臓が浮き上がるような感覚に晒されるのは少しだけ恐怖感を感じるがその程度だった。

 

 そもそも魔法少女は戦闘時に高い跳躍力で跳びまわったり、そもそも結界内が足が竦むような高所だったりすることはザラにあるので、その辺の感覚もキュゥべえによって調整されているのかもしれない。

 

 一方まどかはというと、自ら絶叫系を提案はしたものの昔よりも大して得意になった様子は無く、むしろ心配になってくる程の怖がり方だった。叫び方もそうだが、ジェットコースターが上昇していく途中から最後までずっと手を握っている間、魔法少女じゃなければこちらの手が痛みそうな程強く手を握られた。

 

「はぁ……はぁ……うぅぅ…………怖かったぁ……」

「まどか、大丈夫そう? とりあえず一旦休もっか、無理しないでよ」

「うん……」

 

 私たちは近くのベンチを見つけるとそこに腰を下ろした。移動している間にまどかの様子は随分と落ち着いたようだった。

 

「それにしてもどうしたの、まどか?絶叫系とかって前から苦手だったでしょ」

「…………えっと、あみちゃんに良い所を見せたくって……それに絶叫系ならあみちゃんともっと近づけるかなって」

「わざわざそんな事しなくたって、ほら」

 

 そんなばつの悪い顔をしたまどかの両肩に手を置く。すると、彼女は不思議そうにこちらを見るが、それに構わず私は顔を近づけると彼女の唇にキスを落とした。

 

「──あっ」

 

 まどかは呆気にとられていたが、段々とその顔が真っ赤に染まっていくのが分かった。

 

「うぅぅ…………」

 

 それからまどかは両手で顔を隠して縮み込んでしまった。けれど、震えはすっかり収まったようで私は息を吐いた。

 

 

☆♡☆

 

 

 その後私たちは色々なアトラクションを巡り、やがて日が沈むと予定通り観覧車に乗り込んだ。ゴンドラが夜空へと浮かび上がり、高くなっていく夜景を見下ろす。

 

 観覧車の直ぐ下にはメリーゴーランドやライトアップされたジェットコースターなどのアトラクションの数々が輝き、遠くには数え切れない程のビル群の窓から光が溢れ、まるで地上の星々のようだった。

 

「わぁ…………綺麗だね、あみちゃん」

「うん」

 

 まどかはうっとりとした様子で夜景を見つめていた。そんな彼女の姿は私にとって観覧車から見える夜景に勝るもののように思えた。

 

「ねぇ、あみちゃん」

 

 私たちは静かにゴンドラからの景色を見つめていたが、やがてゴンドラが頂上に辿り着くと、不意にまどかが話しかける。

 

「どうしたの、まどか?」

「えへへ……」

 

 隣合ってゴンドラに座っていたまどかは、それに答えることなくこちらへと撓垂れ掛かる。彼女との視線が交わり、蕩けたような熱の篭った瞳が見え、彼女が私の頬へと手を添えると、彼女の意図を言わずとも理解した。

 

 私もまた彼女の頬に手を添え、お互いの顔が近づき──そして、唇と唇が交わった。

 

「んちゅ♡んっ……♡れろっ♡」

 

 それはただの口付けではなく、舌と舌を絡ませ合う濃厚なものだった。私の口内や舌を通して彼女の熱、ヌメヌメ、ザラザラとした感触や唇の柔らかさが伝わってくる。私たちは息も忘れてお互いの感触にしばらくの間耽溺していた。

 

「んぅっ♡はぁ、はぁ……♡」

 

 やがてお互いの唇が離れると、混ざりあってどちらのものか分からなくなった唾液が糸を引いて口元を汚した。まどかは頬は上気させ、淫靡な表情を見せた。

 

「じゃあ、続きは家で……ね?」




 気が乗ったら続く。
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