※この作品はR-18です。

五等分の花嫁~五つじゃ足りない想い~   作:吉月和玖

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本作で5作品目となります。

今回は、ふとした思いつきから書き始めた物語になりますが、
「五等分の花嫁」という作品の中で、自分なりに描いてみたかった
“平等な愛”というテーマに挑戦しています。

現在、他作品も並行して執筆しているため、更新は不定期になる可能性がありますが、
その分、一話一話を大切に仕上げていくつもりです。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

※18禁ではありますが、暫くはそういった描写はございません。ご了承いただきますと何よりです。


1.五つの涙と、ひとつの約束

「私は誰でしょ~?」

 

腰まで伸びた真っ直ぐなロングヘア。白のワンピース。

ニッコリと笑いながら、両手の人差し指で頬をつつき、少しだけ顔を傾けている少女が、僕の目の前で楽しそうに問いかけてくる。

どう見ても、答えを当てられるのを期待している顔だ。

けれど──

 

「…………五月(いつき)?」

 

恐る恐る答えると、目の前の少女は一瞬ぽかんとした後、みるみるうちに頬を膨らませた。

 

「もう! 二乃(にの)だよ! なんでわかんないの!?」

「いや……そう言われても困るんだが……」

 

思わず本音が漏れる。

だって仕方ないじゃないか。

同じ顔、同じ髪型、同じ背格好。おまけに今日は服まで同じ白のワンピースだ。これで見分けろと言われても、普通は無理がある。

そんな僕の言葉に、二乃はますます不満そうな顔をする。

 

「困るじゃないの! ちゃんと見てよ!」

「ちゃんと見てるよ。でもわからないもんはわからない」

「むぅ~~……」

 

唇を尖らせる二乃。

とはいえ、本気で怒っているというより、拗ねているだけなのは分かる。こうして反応を楽しんでいる節すらある。

 

ふと、窓に映った自分の姿が目に入る。

黒髪の短髪に、少しだけ跳ねた前髪。

日課のジョギングのおかげで、体はそこそこ締まっている。

……別に格好いいわけじゃないと思うが、

「カズマ君は格好いいよ?」

なんてことを、二乃は平然と言ってくる。

どこからどう見ても普通にしか見えないけどなぁ…

 

その時、廊下の方からぱたぱたと足音が聞こえてきた。

 

「どうだった?」

「駄目だった?」

「え? また三玖だけ?」

 

次々と部屋に入ってくる、同じ顔の少女達。

そう──彼女達は五つ子なのだ。

並んで立たれると、圧巻というか何というか、改めてすごい光景である。

小学生の僕からしたら、ちょっとした恐怖映像に近い時すらある。けれど、それにも少しずつ慣れてしまった自分がいるのも事実だった。

 

「むー……なんで三玖だけわかるの!?」

 

二乃が納得いかないというように声を上げる。

その言葉に、四人のうち一人だけがぴくっと肩を震わせ、頬を赤くして俯いた。

三玖(みく)だ。

 

「そりゃあ、三玖は可愛いから」

 

何気なくそう言うと、場が一瞬静まり返った。

 

「同じ顔でしょ!」

「いや、僕にしてみれば全然違うし」

 

反射的に言い返してきたのは、星形のヘアピンをつけた少女──五月だった。

正直、そのヘアピンはかなりありがたい。

五月はある時からその星形のヘアピンをよくつけるようになっていて、それだけで見分ける難易度が大きく下がるのだ。

もっとも、今日みたいに五(・)つ(・)子(・)ゲ(・)ー(・)ム(・)で外していたら結局分からないのだけれど。

 

「ねえねえ、カズマ君……」

 

その五月が、いつの間にか僕のすぐ隣に立っていた。

しかも、ちょん、と僕の服の袖を摘まんでくる。

 

「本当に、私のことわからない?」

 

上目遣いで見上げてくる顔が、やたら近い。

 

「……ヘアピンがないと……」

「それ、答えになってないよ?」

「つまり分からんってことだ」

 

そう答えると、五月は「えぇ~……」とあからさまに残念そうな声を出し、そのまま肩を軽く預けるように身を寄せてきた。

 

「もう少し頑張ってくれてもいいのに……」

 

甘えるような、少し拗ねた声。

……こういうところが、五月はずるいと思う。

普段は割と真面目でしっかりしているのに、こうして時々妙に甘えてくるから調子が狂うのだ。

 

「凄いよね。三玖だけわかるなんてさ」

 

大きな緑のリボンをウサミミみたいにつけた四葉(よつば)が、感心したように声を上げる。

 

「もう!カズマ君酷いよ!」

「そうだよ!私だってカズマ君のこと好きなのに!」

 

一花と二乃が揃って抗議してくる。

 

「て言われても……僕が好きなのは三玖だし」

「~~~~っ……!」

 

二人が同時に声にならない声を漏らす。

一方で、三玖は顔を真っ赤にしたまま、俯いてもじもじと指先をいじっていた。

やっぱり、三玖だけは分かる。

声がどうとか、仕草がどうとか、うまく説明できるわけじゃない。

ただ、目が合った時の空気が違うのだ。

少しだけ不安そうで、少しだけ期待していて。

それなのに僕が見るとすぐ恥ずかしそうに逸らしてしまう、その一瞬の揺れ。

それだけで、僕には十分だった。

 

「どうしましたか?」

 

ふいに、落ち着いた優しい声が部屋に入ってきた。

 

「あ、お母さん!」

 

五月がぱっと顔を明るくし、部屋の入口へ向かって駆けていく。

そのまま迷いなく、現れた女性に抱きついた。

 

「おかえりなさい」

 

現れたのは、五つ子の母親──零奈(れな)さんだった。

黒髪のセミロングは肩口で柔らかく揺れ、毛先だけが少しだけ内側に丸くなっている。

大人の女性らしい落ち着いた雰囲気と、目を奪われるほど整った顔立ち。綺麗、という言葉が一番似合う人だと思う。

 

「聞いてよ、お母さん。カズマ君ったらまた三玖しかわからなかったんだよ」

「あら。それだけでも凄いことではないですか」

 

零奈さんは優しく微笑みながらそう言って、僕へと視線を向けた。

その表情は穏やかで、五つ子達を見る時の目には確かな愛情がある。

でも──ほんの一瞬だけ、その笑顔の奥に疲れの色が差したように見えた。

気のせいかもしれない。

けれど、なぜだかその僅かな影が妙に印象に残った。

 

「私だって好きなのに……」

 

二乃が不服そうに言うと、零奈さんは「あらあら」とくすりと笑う。

 

「和真さんは本当に人気者ですね」

「いや、そんなことないです」

 

慌てて否定すると、零奈さんは少しだけ目を細めた。

その笑い方が、妙に大人っぽくて、胸の奥が落ち着かなくなる。

 

「ねえ……カズマ君」

 

五月が零奈さんに抱きついたまま、こちらを見上げてくる。

 

「今度はちゃんと見分けてよ……?」

 

いつもより少しだけ弱々しい、甘える声。

そんなふうに言われると、流石に少し申し訳なくなる。

 

「……努力はする」

「ほんと?」

「多分な」

「もう……そこは“絶対”って言ってよ」

 

そう言いながらも、五月はどこか嬉しそうだった。

零奈さんはそんな僕達のやり取りを見て、静かに笑っている。

その姿はとても綺麗で、思わず視線を向けてしまう。すると零奈さんがこちらに気づいて、ふっと微笑んだ。

──しまった。

慌てて目を逸らす。

小学生の僕には、あの柔らかな微笑みは少し刺激が強すぎた。

 

「さ。今日はそろそろ帰りますよ」

 

零奈さんがそう言うと、部屋の空気に一斉に名残惜しさが漂った。

 

「え~……」

 

四葉が分かりやすく残念そうな声を漏らす。

 

「また来ていい?」

 

五月が今度は僕の方へ近づいてきて、少し不安そうに聞いてくる。

 

「ああ、いつでもいいよ」

「ほんと? 約束ね」

 

そう言って、また僕の袖をぎゅっと掴む。

 

「……うん」

 

ようやく満足したのか、五月は小さく笑って手を離した。

けれど、その指先にはまだ少しだけ名残惜しさが残っていた。

 

「カズマ君……」

 

その時、三玖がそっと僕の前へ出てきた。

 

「その……私も、カズマ君が好きだよ……」

 

顔を真っ赤にしながらも、はっきりとそう言ってくれる。

その姿があまりにも可愛くて、胸の奥がじんわりと温かくなった。

 

「うん。ありがとう。またね」

 

自然と腕が伸びて、三玖を軽く抱きしめる。

すると三玖はびくっと震えた後、おずおずと、でも確かに抱きしめ返してきた。

 

「──っ!うん……!」

「あー!ズルいよ!」

「私も!」

「わたしもー!」

 

一花、二乃、五月が次々に抱きついてくる。

わっと包み込まれて、僕は思わず後ろへよろけそうになった。

 

「あーあ。結局いつもこうなるんだから」

 

少し離れたところで四葉が苦笑する。

 

「ふふ……楽しそうで何よりです」

 

零奈さんはそんな光景を、どこか優しい目で見つめていた。

けれどその時の僕は、そんな穏やかな時間が、この日のうちに大きく変わってしまうなんて思ってもいなかった。

 

・・・・・

 

その日の夕方。

いつものように日課のジョギングを終えて家に戻ると、玄関前で待っていたのは父の秘書である竜彦(たつひこ)さんだった。

 

「お疲れ様でございます、坊ちゃま」

「その呼び方やめてって言ってるよね? で、何か用?」

 

竜彦さんは白髪まじりではなく、もうほとんど真っ白と言っていいほど見事な白髪に眼鏡をかけた初老の男性で、昔から僕のことを“坊ちゃま”と呼ぶ。何度やめてくれと言っても、一向に改まる気配がない。

 

「旦那様と奥様が大広間でお待ちでございます」

「え? 今日は父さん仕事じゃなかったっけ」

「急遽お戻りになられました」

「ふーん……」

 

嫌な予感がした。

汗を拭いていたタオルを竜彦さんに渡し、そのまま大広間へ向かう。

襖を開けた瞬間だった。

 

『カズマ君!!』

 

泣き声まじりの声と一緒に、五つ子が一斉に僕に抱きついてきた。

 

「うわっ、と……どうした?」

 

勢いに押されてよろけながらも、どうにか踏みとどまる。

服を掴む小さな手は、みんな震えていた。

特に五月は、僕の腰にしがみつくようにして離れない。

 

「やだ……」

 

ぽつり、と漏れた声は小さくて、けれどはっきりと怯えていた。

そこでようやく、僕は部屋の空気の重さに気づいた。

上座には父さんと母さん。

そしてテーブルの傍らには、俯いたまま座っている零奈さん。

 

「和真。落ち着いて聞いてくれ」

 

静かに口を開いた父さん──清孝(きよたか)は、四十歳とは思えない若さと、きっちり整えられた雰囲気を持つ人だ。

仕事も交渉も完璧で、人望も厚い。まさに隙のない大人という感じなのだけど──

その隣にいる母さんのことになると、話が別だ。

 

「和真! 聞いてよ、零奈が大変なことになってるの!」

 

母さん──光莉(ひかり)が慌てたように立ち上がり、ずんずんこちらへやってきて、僕の両手をぎゅっと握った。

近い。というか近すぎる。

 

「ちょ、母さん……」

「だって大変なのよ!」

 

ぐいっと顔を寄せられる。

ほとんど額がぶつかりそうな距離だ。

 

「光莉」

 

父さんの低い声が飛ぶ。

 

「……あっ、ごめんごめん」

 

そう言って少し下がる母さん。

けれど、その表情は心配と焦りでいっぱいだった。

 

母さんは三十六歳。

零奈さんとは高校時代からの友人で、今でも姉妹みたいに仲がいい。表情豊かで、感情が顔に出やすくて、そして何より僕のことをかなり甘やかす。

零奈さん程の美人という事でもないが小顔で他の人から見たら年齢の割に可愛い部類に入ると思う。スタイルも良く胸も標準サイズだと思う。

そもそも女性の胸の標準サイズを分かっていないのだが...零奈さんが大きすぎるので母さんの胸が小さく見えるだけだと思うけど...

髪もロングストレートで肩を越すくらいで、父さんから贈られたブランド物の金色ヘアピンをしている。

 

正直、ちょっと距離が近すぎる時がある。

しかも今、母さんのお腹には新しい命が宿っている。

後に僕の妹になるかもしれない、小さな命だ。

だから父さんは余計に神経質になっている。

 

「無理はするな。身体を大事にしろ」

「大丈夫よ、ちょっと興奮しちゃっただけ」

「そういう問題じゃない」

 

父さんが真顔で返す。

母さんは「はいはい」と苦笑しながらも、無意識に自分のお腹へそっと手を添えた。

その仕草に、僕の胸の奥も少しだけ落ち着かなくなる。

母さんのお腹の中には、今、家族の未来がいるのだ。

 

「それで……何があったの?」

 

僕が聞くと、父さんがゆっくりと口を開いた。

 

「零奈さんの住んでいるアパートで火事があった」

「え……?」

 

一瞬、言葉の意味が頭に入ってこなかった。

 

「しかも、零奈さん達の部屋の下の部屋から出火したそうだ。幸い、零奈さんも娘さん達もその時は家におらず怪我はない。だが……」

 

そこで父さんは一度言葉を切った。

 

「家にあったものは、ほとんど駄目になってしまったの」

 

母さんが静かに継ぐ。

 

「全部……なくなっちゃって……」

 

目の前が、少しだけ揺れた気がした。

それでようやく、五つ子達の震えがどういうものなのか理解した。

帰る家がない。自分達の場所が、一日で消えてしまったのだ。

 

「……ごめんなさい……」

 

零奈さんが、小さな声で頭を下げる。

 

「こんなふうに、ご迷惑を……」

 

その声は、昼間に見たどの笑顔よりもか細かった。

五つ子達の前で見せていた母親としての強さが、今はひどく痛々しく見える。

 

「零奈、あなたが謝ることじゃないわ」

 

母さんがすぐに言う。

その優しさに、零奈さんはさらに申し訳なさそうに目を伏せた。

 

「……怖かった……」

 

今度は五月が、僕の服に顔を埋めたまま呟く。

 

「もう……帰る場所……ないの……?」

 

その一言に、胸が締めつけられた。

三玖は何も言わず、ただ僕の服をぎゅっと握りしめている。

二乃は悔しそうに唇を噛み、今にも泣きそうなのを堪えていた。

一花は笑おうとして、笑えずにいる。

四葉は大丈夫だよと言いたげに周りを見ているくせに、目だけが全然大丈夫じゃなかった。

 

(どうする……?)

 

一瞬だけ、迷った。

吉満家の都合だとか、立場だとか、子どもの僕が軽々しく言っていいことなのかとか、色々なことが頭をよぎる。

けれど──

目の前で、僕の服を離さない手がある。

震えて、泣きそうで、それでも必死にしがみついている。

だったら。

 

「……大丈夫だよ」

 

自然と声が出ていた。

三玖の頭に手を置く。

びくっと震えた肩が、少しずつ力を抜いていく。

 

「うちに来ればいい」

 

五つ子が、一斉に顔を上げた。

 

「部屋なんて余ってるし、必要なものも全部用意すればいい」

 

自分でも少し驚くくらい、すらすらと言葉が出てくる。

 

「だから、任せて」

 

その一言で、何かが決まった。

 

「……よかった……」

 

五月がさらに強く抱きついてくる。

さっきまで震えていた手の力が、ほんの少しだけ和らいだ。

三玖も、二乃も、一花も、四葉も。

みんな少しずつ、張りつめていたものを緩めていく。

 

「和真……」

 

母さんがそっと僕の頬に手を添えた。

 

「ほんと、いい男に育ったわね」

「……普通だろ」

「そんなことないわよ?」

 

柔らかな指先が、少しだけ長く頬に残る。

その距離に、父さんがわざとらしく咳払いをした。

 

「光莉」

「もう、分かってるわよ」

 

そう言いながらも、母さんはどこか嬉しそうだった。

父さんは改めて零奈さんへ向き直る。

 

「零奈さん。遠慮はいりません。落ち着くまで、この家にいてください」

 

零奈さんの目に、じわりと涙が浮かぶ。

 

「……ありがとうございます……」

 

その声を聞きながら、僕は五つ子達を見た。

怖かっただろう。

不安だっただろう。

でも――もう大丈夫だ。

そう思わせたくて、僕はもう一度、はっきりと言った。

 

「大丈夫。これからは、うちが皆の家だよ」

 

その日から。

僕達の関係は――

静かに、けれど確実に変わり始めたのだった。

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

第一話はいかがだったでしょうか。

五つ子それぞれの想いや関係性、そしてこれから変わっていく距離感を、
丁寧に描いていけたらと思っています。

もし少しでも続きが気になる、面白いと感じていただけたら、
評価やお気に入り登録で応援していただけると励みになります。

次話では、同居が始まったことで変わる日常と、
それぞれの距離の変化を描いていく予定です。

引き続き、よろしくお願いします。
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