ここから物語が大きく動き始めます。
学校での関係、そして“同じ屋根の下”での生活。
それぞれの距離が少しずつ変わっていく回になっています。
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不定期更新にはなりますが、丁寧に書いていきますので、ゆっくりお付き合いいただければと思います。
「はあぁぁ~……」
五つ子の家の火事があった次の日。
突然始まった同居生活と、これからどう関わっていくべきか──頭の中がうまく整理できず、僕は机に肘をついてため息をついていた。
正直、嬉しくないわけじゃない。
でも、それ以上に分からないことの方が多すぎる。
「おい!人の勉強見てる時に盛大なため息つくなよ!」
「逆に言うけど、人に教えてもらう態度それでいいの?」
「お前が“かしこまるな”って言ったんだろ」
「まあ、そうなんだけどね……」
目の前でノートを広げているのは、
修学旅行の後から、こうして空き時間に勉強を見てやっているクラスメイトだ。
黒髪短髪に鋭い目つき。言葉も荒いし態度もでかい。
……だけど、不思議と嫌いにはなれない。
「そこ、漢字違う」
「げっ!?マジかよ!」
慌てて消しゴムを動かす風太郎。
こういうところを見ると、ちゃんとやる気はあるらしい。
「うわっ!今日も勉強してるんだ。どうしちゃったの、風太郎ってば?」
振り向くと、黒髪セミロングの女子──
学級委員で、面倒見が良くて、クラスの中心にいるタイプだ。
「うるせぇぞ竹林!邪魔すんな!」
「はいはい。ほんと素直じゃないんだから」
軽く流しながら、竹林は僕の方を見る。
「吉満君も大変でしょ?こんなの相手して」
「ははは……まあ、ちゃんとやってるからね。教えがいはあるよ」
そう答えると──
「ふ……ふーん……」
竹林はそっぽを向いた。
その頬が、ほんの少しだけ赤くなっていることに気づいたのは、多分僕だけだった。
「なんか俺との態度違くねぇ?」
「日頃の行いってやつよ」
軽く肩を叩かれて、風太郎は不満そうに顔をしかめる。
「はーい、席についてー!」
担任の後藤先生が教室に入ってくる。
「みんなおはよー。早速だけど、今日からクラスメイトになる転校生が来ました」
教室の空気がざわつく。
「入ってきていいわよ」
扉が開いた瞬間──
「……あ」
思わず声が漏れた。
そこに立っていたのは、三玖と──二乃(多分…)だった。
「え、なんでお前が……」
風太郎が思わず立ち上がる。
「上杉君、座りなさい!」
慌てて席に戻る風太郎。
二人は少し戸惑った様子で教室を見渡している。
「自己紹介、お願いできる?」
「中野二乃。五つ子の次女よ」
「中野三玖。三女」
教室が一気にざわつく。
「五つ子ってマジかよ……」
「そっくりすぎだろ……」
「はいはい静かにー。珍しいからって騒がないの」
後藤先生が軽く注意しながら、席を示した。
「二人は……吉満君の両隣でいいかしら?」
「「はい!」」
やっぱりか、と思いながらも頷く。
「よろしくね、カズマ君♪」
「よろしく……カズマ君」
「ああ、よろしく」
両隣に座る二人。
距離が近い。昨日までとは明らかに違う。
そうして授業が始まり──気づけば給食の時間になっていた。
「いただきます」
クラスの中で机を寄せ合い、給食が始まる。
「……なんか視線すごくない?」
二乃が小声で言う。
「まあ、そりゃね……」
転校初日で五つ子。目立たない方がおかしい。
「……カズマ君」
隣の三玖が小さく呼ぶ。
「ん?」
「これ……食べる?」
自分の皿の一品を差し出してくる。
「いや、それ三玖のでしょ」
「……いいの。ちょっと多いから」
ほんの少しだけ顔を赤くしながら言う三玖。
「じゃあ……ありがとね」
受け取ると、三玖は小さく頷いた。
「……うん」
その様子を見て、二乃がじっとこちらを見ている。
「なによそれ。ずいぶん仲良しじゃない」
「別に普通でしょ」
「ふーん……」
どこか面白くなさそうな声。
──そのまま給食の時間は過ぎていった。
そして昼休み。
「カズマ君ー!」
元気な声と共に教室に入ってきたのは四葉だった。
「一緒に遊ぼ!」
その後ろから、五月も顔を出す。
「……少しだけならな」
「やったー!」
自然と集まる四人。
「……なんか増えたわね」
「別にいいでしょ」
二乃がため息をつく。
「そういえば一花は?」
ふと思い出して聞くと──
「あの子は別のクラス。……多分好き勝手やってると思うけど」
二乃が肩をすくめた。
「……ああ、それは想像つくな」
思わず苦笑する。
その時だった。
「なあ!お前ら五つ子なのか!?」
風太郎が勢いよく近づいてくる。
「そうだけど。誰君?」
「これ分かるか!?」
差し出された写真。
そこには、金髪の風太郎と──
「……四葉だ」
二乃が即答する。
「てか君さ、前に四葉と間違えて一花と話してたでしょ?」
「……は?」
「えっと……風君だっけ?修学旅行の時の」
風太郎の表情が固まる。
「四葉、すっごいショック受けてたよ?」
その一言で、風太郎の視線がゆっくりと横へ動いた。
そこには──
「……あ」
四葉が、少しだけ困ったように笑って立っていた。
一瞬、沈黙が落ちる。
「……その……」
言葉を探す風太郎。
そして──
「ごめん」
短く、でも真っ直ぐに頭を下げながら言った。
四葉は少しだけ目を見開いて──
「……うん!」
すぐに、いつもの笑顔で頷いた。
けれど、その笑顔はほんの少しだけ遅れていた気がした。
(……あれで終わり、か)
そんな違和感が、胸の奥に残る。
「……なんなの、あの子」
二乃が呆れたように言う。
「真っ直ぐなやつだよ」
思わず、少し笑う。
すると──
「……カズマ君」
三玖が小さく呼ぶ。
「嬉しそう」
「そう?」
「うん……」
その声は、ほんの少しだけ不満そうだった。
気づけば、三玖は僕のすぐ隣に座っていた。
さっきよりも、少しだけ近い距離。
「……あの子と、仲いいの?」
「まあね。面白いやつだし」
「……そっか」
小さく頷く三玖。
けれど、その手はそっと僕の袖を掴んでいた。
──離さないようにするみたいに。
(変わってきてるな……)
昨日までとは違う距離。
違う関係。
同じ場所にいるのに、どこか落ち着かない。
でも──
それが嫌じゃないと思っている自分もいた。
「カズマ君?」
「ん?」
「ぼーっとしてる」
「……ちょっとね」
そう答えると、三玖は少しだけ笑った。
「……そっか」
そのまま、肩が触れそうな距離で座り続ける。
(これからどうなるんだろうな……)
そんなことを考えながら、僕は静かに息を吐いた。
──きっと、昨日までとは違う。
そんな予感だけが、はっきりと残っていた。
その日の夜。
いつもであれば、大きなテーブルを端の方で三人で食べていた夕食。
だが、今日から違う。
五つ子と零奈さんも一緒であるのだ。
父さんを上座とし、僕の隣には三玖、二乃、一花が。
母さんの隣には、零奈さん、五月、四葉が並んで座っている。
「どうだったかな、転校初日の学校は?」
「すっごく楽しかった♪カズマ君と同じクラスだったし♪」
「……うん…」
父さんの質問に真っ先に答える二乃と三玖。二人の表情はやはりどこか嬉しそうである。
「ふたりは良いよねぇ~、カズマ君と一緒で」
「それでも、みんな仲良くしてくれるから楽しいのは変わらないよ」
五月の不評に四葉がフォローをいれる。
「そうだよね。わたしも友達たくさんできたし楽しいよ♪」
一花の言葉で、その場の空気は明るくまとまった──ように見えた。
(……あれ?)
ふと、違和感に気づく。
視線を向けると──
「……」
零奈さんが、ほとんど手をつけていない皿を前に、静かに箸を止めていた。
「……零奈さん?」
思わず声をかける。
すると零奈さんは、ゆっくりとこちらを見て──
「大丈夫ですよ」
にこり、と微笑んだ。
その表情はいつも通り優しくて、柔らかい。
……だけど。
(食べてない)
明らかに、量が減っていない。
~零奈side~
「……あんまり食欲、ないんですか?」
和真の一言に、零奈は一瞬だけ目を見開いた。
「……ふふ、流石ですね」
柔らかく微笑む。
「少し疲れが出ているだけですから、お気になさらず」
そう言って、また箸を持とうとする。
──その手が、ほんの少しだけ止まった。
「……無理しなくていいですよ」
和真が静かに言う。
「え……?」
「食べなきゃって思うと、逆に食べられなくなる時ありますよね」
優しく、でも踏み込みすぎない距離で。
「そういう時は……少しだけでいいと思います」
「……」
零奈は、しばらく何も言わなかった。
ただ、目の前の少年をじっと見つめる。
(この子は……)
気遣いではない。
同情でもない。
“分かっている”言葉だった。
「……本当に、よく見ていますね」
小さく、そう呟く。
「いえ。ただ気づいただけです」
あっさりと返す和真。
「……ふふ」
思わず、笑みがこぼれた。
それは、いつもの“母としての笑顔”とは少し違うものだった。
「ありがとうございます」
その一言は、とても自然に出た。
──久しぶりに、“安心している自分”に気づきながら。
そのやり取りを見ていた母さんが、ぱっと顔を明るくした。
「やっぱり和真はよく見てるわねぇ~!」
「ほんとだな。気配りができるのは良いことだ」
父さんまで頷く。
「いや、別にそんな……」
少しだけ居心地が悪くなって、視線を逸らす。
その時だった。
「……そうだな」
父さんが、ふと箸を置いた。
「ひとつ提案がある」
その場の空気が、わずかに変わる。
「零奈さん」
「……はい」
「今回の件もある。しばらくこの家にいるのは決定事項として──」
一度言葉を区切り、父さんは僕の方を見た。
「いっそ、和真と娘さんの誰かを許嫁にする、というのはどうだろうか」
『え?』
一斉に声が上がる。
「許嫁?」
「なにそれ?」
五つ子達がざわつく中、母さんが楽しそうに笑みを浮かべた。
「あら、いいじゃない♪」
そしてそのまま、零奈さんの方へ体を向ける。
「それなら零奈も安心でしょ?この家にいる理由もはっきりするし」
「……ですが……」
少し戸惑う零奈さん。
そんな様子を見て、母さんはさらに言葉を重ねた。
「それにね。零奈、あなたこれからどうするつもり?」
「……え?」
「生活のことよ。家のこと、子ども達のこと、全部ひとりで抱えるつもり?」
優しく、でも逃がさない問い。
「もしよければ──うちで働かない?」
「働く……?」
「ええ。私の秘書みたいな形でサポートしてもらえたら助かるわ」
母さんはにこりと笑う。
「もちろん無理にとは言わないけど……教師の仕事はどうするの?」
その問いに、零奈さんは少しだけ目を伏せた。
「……教師は、続けたいと思っています」
静かに、でもはっきりと。
「元々……あの人に憧れて選んだ仕事ですから」
一瞬だけ、空気が静まる。
“あの人”──逃げた夫のことだろう。
「……そう」
母さんはそれ以上深くは聞かず、優しく頷いた。
「なら、両立できる形を一緒に考えましょう?」
「……ありがとうございます」
零奈さんは小さく頭を下げた。
──その横で。
「で?許嫁ってなに?」
「結婚ってこと?」
五つ子達がざわつき始める。
それを見て、母さんがくすっと笑った。
「許嫁っていうのはね──」
ゆっくりと、一人一人を見る。
「将来、結婚することを前提にした相手のことよ」
「「「「「えぇぇ!?」」」」」
一斉に声が上がる。
「じゃあカズマ君と結婚するってこと!?」
「それ、私でもいいの!?」
「え、待ってそれ普通にありじゃない!?」
四葉以外の四人が一気に食いついた。
「ちょ、落ち着けって……!」
思わず止めに入る。
「えー!だってカズマ君だよ!?」
「そりゃ立候補するでしょ!」
「私も!」
「私も!」
「私も!」
……一人を除いて。
四葉だけは、少しだけ困ったように笑っていた。
「……いや」
僕は小さく息を吐いてから、はっきりと言った。
「あり得ないから」
「「「え?」」」
「僕は三玖以外考えてない」
一瞬、静まり返る。
「……っ!」
三玖が一気に顔を赤くする。
「はぁ!?ちょっとそれどういうことよ!」
「ズルくない!?」
「いやいや納得いかないんだけど!」
三人が一斉に抗議する。
「だって事実だろ」
そう言い切ると──
「……ふふ」
母さんが楽しそうに笑った。
「なら、こうすればいいじゃない」
「は?」
「和真が全員面倒見ればいいのよ」
「……は?」
今度は本気で意味が分からない。
「だってみんな好きなんでしょ?」
「いやそれは……」
「だったら、平等に愛せばいいじゃない」
軽く、とんでもないことを言う。
「……」
言葉が出ない。
すると──
「……ふふ」
零奈さんが、小さく笑った。
「それも……悪くないかもしれませんね」
「いやいやいやいや!?」
思わず声を上げる。
「ちょっと待ってくださいよ!?」
「だって和真ならできるでしょ?」
「できるか!!」
即答した。
──だけど。
「……」
ちらっと横を見ると、三玖と目が合った。
「……私は、それでもいいよ」
小さく、でもはっきりと。
「カズマ君と一緒にいられるなら」
その言葉に──
胸の奥が、少しだけざわついた。
(……なんだよこれ)
今日だけで、全部が変わりすぎている。
日常も。距離も。関係も。
──そして。
これから先も。
きっと、もう元には戻らない。
そんな予感だけが、はっきりと残っていた。
第2話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は“日常”と“変化の始まり”を意識して書きました。
特に食卓のシーンは、この作品の軸になる部分です。
五つ子それぞれの想いと、和真との関係。
そして、零奈や光莉も含めて──これから少しずつ動いていきます。
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引き続き、よろしくお願いします。