※この作品はR-18です。

五等分の花嫁~五つじゃ足りない想い~   作:吉月和玖

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第2話になります。

ここから物語が大きく動き始めます。
学校での関係、そして“同じ屋根の下”での生活。

それぞれの距離が少しずつ変わっていく回になっています。

少しでも「続きが気になる」と思っていただけたら、ぜひお気に入り登録していただけると嬉しいです。

不定期更新にはなりますが、丁寧に書いていきますので、ゆっくりお付き合いいただければと思います。



2.五つの想いと、ひとつの食卓

「はあぁぁ~……」

 

五つ子の家の火事があった次の日。

突然始まった同居生活と、これからどう関わっていくべきか──頭の中がうまく整理できず、僕は机に肘をついてため息をついていた。

 

正直、嬉しくないわけじゃない。

でも、それ以上に分からないことの方が多すぎる。

 

「おい!人の勉強見てる時に盛大なため息つくなよ!」

「逆に言うけど、人に教えてもらう態度それでいいの?」

「お前が“かしこまるな”って言ったんだろ」

「まあ、そうなんだけどね……」

 

目の前でノートを広げているのは、上杉風太郎(うえすぎふうたろう)。

修学旅行の後から、こうして空き時間に勉強を見てやっているクラスメイトだ。

 

黒髪短髪に鋭い目つき。言葉も荒いし態度もでかい。

……だけど、不思議と嫌いにはなれない。

 

「そこ、漢字違う」

「げっ!?マジかよ!」

 

慌てて消しゴムを動かす風太郎。

こういうところを見ると、ちゃんとやる気はあるらしい。

 

「うわっ!今日も勉強してるんだ。どうしちゃったの、風太郎ってば?」

 

振り向くと、黒髪セミロングの女子──竹林(たけばやし)が立っていた。

学級委員で、面倒見が良くて、クラスの中心にいるタイプだ。

 

「うるせぇぞ竹林!邪魔すんな!」

「はいはい。ほんと素直じゃないんだから」

 

軽く流しながら、竹林は僕の方を見る。

 

「吉満君も大変でしょ?こんなの相手して」

「ははは……まあ、ちゃんとやってるからね。教えがいはあるよ」

 

そう答えると──

 

「ふ……ふーん……」

 

竹林はそっぽを向いた。

その頬が、ほんの少しだけ赤くなっていることに気づいたのは、多分僕だけだった。

 

「なんか俺との態度違くねぇ?」

「日頃の行いってやつよ」

 

軽く肩を叩かれて、風太郎は不満そうに顔をしかめる。

 

「はーい、席についてー!」

 

担任の後藤先生が教室に入ってくる。

 

「みんなおはよー。早速だけど、今日からクラスメイトになる転校生が来ました」

 

教室の空気がざわつく。

 

「入ってきていいわよ」

 

扉が開いた瞬間──

 

「……あ」

 

思わず声が漏れた。

そこに立っていたのは、三玖と──二乃(多分…)だった。

 

「え、なんでお前が……」

 

風太郎が思わず立ち上がる。

 

「上杉君、座りなさい!」

 

慌てて席に戻る風太郎。

二人は少し戸惑った様子で教室を見渡している。

 

「自己紹介、お願いできる?」

「中野二乃。五つ子の次女よ」

「中野三玖。三女」

 

教室が一気にざわつく。

 

「五つ子ってマジかよ……」

「そっくりすぎだろ……」

「はいはい静かにー。珍しいからって騒がないの」

 

後藤先生が軽く注意しながら、席を示した。

 

「二人は……吉満君の両隣でいいかしら?」

「「はい!」」

 

やっぱりか、と思いながらも頷く。

 

「よろしくね、カズマ君♪」

「よろしく……カズマ君」

「ああ、よろしく」

 

両隣に座る二人。

距離が近い。昨日までとは明らかに違う。

 

そうして授業が始まり──気づけば給食の時間になっていた。

 

「いただきます」

 

クラスの中で机を寄せ合い、給食が始まる。

 

「……なんか視線すごくない?」

 

二乃が小声で言う。

 

「まあ、そりゃね……」

 

転校初日で五つ子。目立たない方がおかしい。

 

「……カズマ君」

 

隣の三玖が小さく呼ぶ。

 

「ん?」

「これ……食べる?」

 

自分の皿の一品を差し出してくる。

 

「いや、それ三玖のでしょ」

「……いいの。ちょっと多いから」

 

ほんの少しだけ顔を赤くしながら言う三玖。

 

「じゃあ……ありがとね」

 

受け取ると、三玖は小さく頷いた。

 

「……うん」

 

その様子を見て、二乃がじっとこちらを見ている。

 

「なによそれ。ずいぶん仲良しじゃない」

「別に普通でしょ」

「ふーん……」

 

どこか面白くなさそうな声。

 

──そのまま給食の時間は過ぎていった。

そして昼休み。

 

「カズマ君ー!」

 

元気な声と共に教室に入ってきたのは四葉だった。

 

「一緒に遊ぼ!」

 

その後ろから、五月も顔を出す。

 

「……少しだけならな」

「やったー!」

 

自然と集まる四人。

 

「……なんか増えたわね」

「別にいいでしょ」

 

二乃がため息をつく。

 

「そういえば一花は?」

 

ふと思い出して聞くと──

 

「あの子は別のクラス。……多分好き勝手やってると思うけど」

 

二乃が肩をすくめた。

 

「……ああ、それは想像つくな」

 

思わず苦笑する。

その時だった。

 

「なあ!お前ら五つ子なのか!?」

 

風太郎が勢いよく近づいてくる。

 

「そうだけど。誰君?」

「これ分かるか!?」

 

差し出された写真。

そこには、金髪の風太郎と──

 

「……四葉だ」

 

二乃が即答する。

 

「てか君さ、前に四葉と間違えて一花と話してたでしょ?」

「……は?」

「えっと……風君だっけ?修学旅行の時の」

 

風太郎の表情が固まる。

 

「四葉、すっごいショック受けてたよ?」

 

その一言で、風太郎の視線がゆっくりと横へ動いた。

 

そこには──

 

「……あ」

 

四葉が、少しだけ困ったように笑って立っていた。

一瞬、沈黙が落ちる。

 

「……その……」

 

言葉を探す風太郎。

そして──

 

「ごめん」

 

短く、でも真っ直ぐに頭を下げながら言った。

四葉は少しだけ目を見開いて──

 

「……うん!」

 

すぐに、いつもの笑顔で頷いた。

けれど、その笑顔はほんの少しだけ遅れていた気がした。

 

(……あれで終わり、か)

 

そんな違和感が、胸の奥に残る。

 

「……なんなの、あの子」

 

二乃が呆れたように言う。

 

「真っ直ぐなやつだよ」

 

思わず、少し笑う。

 

すると──

 

「……カズマ君」

 

三玖が小さく呼ぶ。

 

「嬉しそう」

「そう?」

「うん……」

 

その声は、ほんの少しだけ不満そうだった。

気づけば、三玖は僕のすぐ隣に座っていた。

さっきよりも、少しだけ近い距離。

 

「……あの子と、仲いいの?」

「まあね。面白いやつだし」

「……そっか」

 

小さく頷く三玖。

けれど、その手はそっと僕の袖を掴んでいた。

──離さないようにするみたいに。

 

(変わってきてるな……)

 

昨日までとは違う距離。

違う関係。

同じ場所にいるのに、どこか落ち着かない。

でも──

それが嫌じゃないと思っている自分もいた。

 

「カズマ君?」

「ん?」

「ぼーっとしてる」

「……ちょっとね」

 

そう答えると、三玖は少しだけ笑った。

 

「……そっか」

 

そのまま、肩が触れそうな距離で座り続ける。

 

(これからどうなるんだろうな……)

 

そんなことを考えながら、僕は静かに息を吐いた。

──きっと、昨日までとは違う。

そんな予感だけが、はっきりと残っていた。

 


 

その日の夜。

いつもであれば、大きなテーブルを端の方で三人で食べていた夕食。

だが、今日から違う。

五つ子と零奈さんも一緒であるのだ。

 

父さんを上座とし、僕の隣には三玖、二乃、一花が。

母さんの隣には、零奈さん、五月、四葉が並んで座っている。

 

「どうだったかな、転校初日の学校は?」

「すっごく楽しかった♪カズマ君と同じクラスだったし♪」

「……うん…」

 

父さんの質問に真っ先に答える二乃と三玖。二人の表情はやはりどこか嬉しそうである。

 

「ふたりは良いよねぇ~、カズマ君と一緒で」

「それでも、みんな仲良くしてくれるから楽しいのは変わらないよ」

 

五月の不評に四葉がフォローをいれる。

 

「そうだよね。わたしも友達たくさんできたし楽しいよ♪」

 

一花の言葉で、その場の空気は明るくまとまった──ように見えた。

 

(……あれ?)

 

ふと、違和感に気づく。

 

視線を向けると──

 

「……」

 

零奈さんが、ほとんど手をつけていない皿を前に、静かに箸を止めていた。

 

「……零奈さん?」

 

思わず声をかける。

 

すると零奈さんは、ゆっくりとこちらを見て──

 

「大丈夫ですよ」

 

にこり、と微笑んだ。

 

その表情はいつも通り優しくて、柔らかい。

……だけど。

 

(食べてない)

 

明らかに、量が減っていない。

 


 

~零奈side~

 

「……あんまり食欲、ないんですか?」

 

和真の一言に、零奈は一瞬だけ目を見開いた。

 

「……ふふ、流石ですね」

 

柔らかく微笑む。

 

「少し疲れが出ているだけですから、お気になさらず」

 

そう言って、また箸を持とうとする。

 

──その手が、ほんの少しだけ止まった。

 

「……無理しなくていいですよ」

 

和真が静かに言う。

 

「え……?」

「食べなきゃって思うと、逆に食べられなくなる時ありますよね」

 

優しく、でも踏み込みすぎない距離で。

 

「そういう時は……少しだけでいいと思います」

「……」

 

零奈は、しばらく何も言わなかった。

ただ、目の前の少年をじっと見つめる。

 

(この子は……)

 

気遣いではない。

同情でもない。

“分かっている”言葉だった。

 

「……本当に、よく見ていますね」

 

小さく、そう呟く。

 

「いえ。ただ気づいただけです」

 

あっさりと返す和真。

 

「……ふふ」

 

思わず、笑みがこぼれた。

それは、いつもの“母としての笑顔”とは少し違うものだった。

 

「ありがとうございます」

 

その一言は、とても自然に出た。

──久しぶりに、“安心している自分”に気づきながら。

 


 

そのやり取りを見ていた母さんが、ぱっと顔を明るくした。

 

「やっぱり和真はよく見てるわねぇ~!」

「ほんとだな。気配りができるのは良いことだ」

 

父さんまで頷く。

 

「いや、別にそんな……」

 

少しだけ居心地が悪くなって、視線を逸らす。

その時だった。

 

「……そうだな」

 

父さんが、ふと箸を置いた。

 

「ひとつ提案がある」

 

その場の空気が、わずかに変わる。

 

「零奈さん」

「……はい」

「今回の件もある。しばらくこの家にいるのは決定事項として──」

 

一度言葉を区切り、父さんは僕の方を見た。

 

「いっそ、和真と娘さんの誰かを許嫁にする、というのはどうだろうか」

『え?』

 

一斉に声が上がる。

 

「許嫁?」

「なにそれ?」

 

五つ子達がざわつく中、母さんが楽しそうに笑みを浮かべた。

 

「あら、いいじゃない♪」

 

そしてそのまま、零奈さんの方へ体を向ける。

 

「それなら零奈も安心でしょ?この家にいる理由もはっきりするし」

「……ですが……」

 

少し戸惑う零奈さん。

そんな様子を見て、母さんはさらに言葉を重ねた。

 

「それにね。零奈、あなたこれからどうするつもり?」

「……え?」

「生活のことよ。家のこと、子ども達のこと、全部ひとりで抱えるつもり?」

 

優しく、でも逃がさない問い。

 

「もしよければ──うちで働かない?」

「働く……?」

「ええ。私の秘書みたいな形でサポートしてもらえたら助かるわ」

 

母さんはにこりと笑う。

 

「もちろん無理にとは言わないけど……教師の仕事はどうするの?」

 

その問いに、零奈さんは少しだけ目を伏せた。

 

「……教師は、続けたいと思っています」

 

静かに、でもはっきりと。

 

「元々……あの人に憧れて選んだ仕事ですから」

 

一瞬だけ、空気が静まる。

“あの人”──逃げた夫のことだろう。

 

「……そう」

 

母さんはそれ以上深くは聞かず、優しく頷いた。

 

「なら、両立できる形を一緒に考えましょう?」

「……ありがとうございます」

 

零奈さんは小さく頭を下げた。

──その横で。

 

「で?許嫁ってなに?」

「結婚ってこと?」

 

五つ子達がざわつき始める。

それを見て、母さんがくすっと笑った。

 

「許嫁っていうのはね──」

 

ゆっくりと、一人一人を見る。

 

「将来、結婚することを前提にした相手のことよ」

「「「「「えぇぇ!?」」」」」

 

一斉に声が上がる。

 

「じゃあカズマ君と結婚するってこと!?」

「それ、私でもいいの!?」

「え、待ってそれ普通にありじゃない!?」

 

四葉以外の四人が一気に食いついた。

 

「ちょ、落ち着けって……!」

 

思わず止めに入る。

 

「えー!だってカズマ君だよ!?」

「そりゃ立候補するでしょ!」

「私も!」

「私も!」

「私も!」

 

……一人を除いて。

 

四葉だけは、少しだけ困ったように笑っていた。

 

「……いや」

 

僕は小さく息を吐いてから、はっきりと言った。

 

「あり得ないから」

「「「え?」」」

「僕は三玖以外考えてない」

 

一瞬、静まり返る。

 

「……っ!」

 

三玖が一気に顔を赤くする。

 

「はぁ!?ちょっとそれどういうことよ!」

「ズルくない!?」

「いやいや納得いかないんだけど!」

 

三人が一斉に抗議する。

 

「だって事実だろ」

 

そう言い切ると──

 

「……ふふ」

 

母さんが楽しそうに笑った。

 

「なら、こうすればいいじゃない」

「は?」

「和真が全員面倒見ればいいのよ」

「……は?」

 

今度は本気で意味が分からない。

 

「だってみんな好きなんでしょ?」

「いやそれは……」

「だったら、平等に愛せばいいじゃない」

 

軽く、とんでもないことを言う。

 

「……」

 

言葉が出ない。

 

すると──

 

「……ふふ」

 

零奈さんが、小さく笑った。

 

「それも……悪くないかもしれませんね」

「いやいやいやいや!?」

 

思わず声を上げる。

 

「ちょっと待ってくださいよ!?」

「だって和真ならできるでしょ?」

「できるか!!」

 

即答した。

 

──だけど。

 

「……」

 

ちらっと横を見ると、三玖と目が合った。

 

「……私は、それでもいいよ」

 

小さく、でもはっきりと。

 

「カズマ君と一緒にいられるなら」

 

その言葉に──

 

胸の奥が、少しだけざわついた。

 

(……なんだよこれ)

 

今日だけで、全部が変わりすぎている。

日常も。距離も。関係も。

──そして。

これから先も。

きっと、もう元には戻らない。

そんな予感だけが、はっきりと残っていた。

 

 




第2話を読んでいただき、ありがとうございます。

今回は“日常”と“変化の始まり”を意識して書きました。
特に食卓のシーンは、この作品の軸になる部分です。

五つ子それぞれの想いと、和真との関係。
そして、零奈や光莉も含めて──これから少しずつ動いていきます。

もし今回の話で少しでも面白いと感じていただけたら、評価やお気に入り登録で応援していただけると、とても励みになります。

引き続き、よろしくお願いします。
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