※この作品はR-18です。

五等分の花嫁~五つじゃ足りない想い~   作:吉月和玖

3 / 6
いつも読んでいただきありがとうございます。

本作も気づけば3話目となりました。

今回は少し時間が進み、和真たちの“現在”を描いた回になります。
大きな事件はありませんが、その分だけキャラクター同士の距離や関係の変化を感じていただけたら嬉しいです。

また、他作品との兼ね合いもあり、更新は不定期になる可能性があります。
ゆっくりでも丁寧に書いていきたいと思っていますので、気長にお付き合いいただければ幸いです。

それでは、第3話「変わりゆく関係と、変わらない朝」。
少し賑やかで、少しだけ優しい朝の時間をお楽しみください。




3.変わりゆく関係と、変わらない朝

そして月日は流れ、五年──

 

僕らは高校二年生になっていた。

五年前と変わったことは多い。

 

背も伸びた。

考えることも増えた。

周りの関係も、少しずつ形を変えていった。

 

それでも、変わらないものもある。

僕と三玖の仲は、相変わらず良い。

恋人同士として手を繋いだり、腕を組んだりはする。けれど、清く正しくと言うべきか、キス以上のことはまだしていない。

……もっとも、それを見ている一花や二乃、五月からすれば、かなり不満らしい。

 

「三玖だけズルい」

「私にも構いなさいよ」

「和真君、私のことも見てよ……」

 

そんな猛攻を日々かわしているせいで、僕の平穏な時間はかなり削られている気がする。

 

ちなみに、四葉は見事に風太郎と付き合うことになった。

ただ、こちらはこちらで進展は遅い。

風太郎は相変わらず勉強に明け暮れているし、四葉も恋人らしい振る舞いに疎いのか、二人が手を繋いでいるところすら見たことがない。

それでも、二人の距離は確かに近づいている。

昔のようなすれ違いは、もうない。

 

周りの面々も大きくは変わっていなかった。

私立中学へ進学するはずだった真田(さなだ)や竹林も、結局は僕達と同じ公立中学へ進み、今では同じ旭高校の一員だ。

 

真田は、髪がぼさぼさで眼鏡をかけたひょろい男子。

見た目だけなら頼りなさそうに見えるが、勉強に関しては僕に引けを取らない。

どうやら僕を勝手にライバル視しているらしく、私立ではなく僕達が通う学校に進学したらしい。

竹林とは家族ぐるみの付き合いがあるらしく、一時期は付き合っているのではないかと噂されたこともあったが、本人達は揃って否定している。

 

もっとも、竹林の方は時々こちらを見る目が少しだけ違う気がするのだが……まあ、気のせいということにしておこう。

 

僕にも私立の話はあった。

けれど、五つ子の成績を考えると私立は難しいと判断され、僕もそちらに合わせることにした。

その時の零奈さんの申し訳なさそうな顔は、今でも鮮明に覚えている。

けれど、勉強はどこでもできる。

父さんも僕もそう言ったことで、零奈さんはようやく納得してくれたのだった。

 

「ハアッ……ハアッ……ゴール!」

 

朝の空気を裂くように、四葉の声が響く。

 

「ふぅ……四葉はますます速くなってるな。何件か部活を掛け持ちしてただけはあるよ」

 

僕は軽く息を整えながら、隣で膝に手をついている四葉を見た。

中学に進学した頃から、四葉は僕の朝のランニングに付き合うようになった。

勉強面では、風太郎が努力の天才と呼べるほどの成長を見せ、今では試験で満点を取るほどの秀才になっている。

一方で、四葉にはどうやらそちら方面の才能はあまりなかったらしい。

けれど、気晴らしにランニングへ誘ってみたところ、運動面の才能が一気に開花した。

 

「あははは……成績があまりに悪くて、お母さんに怒られちゃったから、今では部活には入らないようになっちゃったんだけどね……」

 

四葉は苦笑しながら頭をかく。

中学時代の四葉は、いくつもの部活で全国レベルと言っていいほどの成績を叩き出していた。

だが、その反面、テストでは赤点だらけ。

結果として、零奈さんと風太郎に揃って怒られ、今では正式な部活所属はせず、助っ人として呼ばれた時だけ参加する形に落ち着いている。

 

「ま、四葉が勉強を頑張る理由は、零奈さんを楽にさせることだったわけだし。今では昔以上に零奈さんも元気になったんだから、いいんじゃないか?」

 

タオルを渡しながら言うと、四葉はぱっと笑った。

 

「ししし……和真君ならそう言ってくれると思ったよ。ありがとう♪」

 

出会った当時とは違い、零奈さんの体調は年々良くなっていった。

今では教師の職を辞め、母さんの秘書としてバリバリに働いている。

その仕事ぶりはかなり厳しいらしく、母さんがたまに僕へ泣きついてくるのはご愛嬌だ。

 

「お疲れ様、カズマ……♡」

 

そこへ、ドリンクを持った三玖が歩いてきた。

 

首元にはいつものヘッドフォン。

五年前より伸びた髪は胸元まで流れ、右目を少し隠す斜めの前髪が、相変わらず三玖らしい控えめな雰囲気を作っている。

 

「ありがとね、三玖」

 

ドリンクを受け取ると、三玖は嬉しそうに目を細めた。

 

「ふふ……はい、四葉も」

「何だか、和真君のついでみたいになってるけど……まあ、いつものことだしいっか!」

 

四葉は苦笑しながらも、渡されたドリンクを受け取ってごくごくと飲み始める。

僕が三玖の頭を軽く撫でると、三玖はさらに機嫌を良くしたように、そっと僕の隣に寄った。

 

「じゃあ、朝食食べて学校に行きますか。風太郎も来るだろうしね」

「四葉の愛しのフータロー……」

「うぅぅ……からかわないでよ!」

 

そんなやり取りをしながら、僕達は大広間へ向かった。

 

・・・・・

 

「はい、和真♡あーーん♡」

「いや、しないから……」

 

大広間に戻ると、すでに朝食は用意されていた。

そして、ここでは毎朝恒例の光景が繰り広げられる。

 

「そうだよね♪カズマ君はお姉さんの方が良いんだもんね。てことで、あーーん♡」

「どっちもやらんわ!」

 

僕の朝食は、毎朝一花と二乃に挟まれるところから始まる。

 

一花は五年前とは違い、肩にも届かないショートヘアになっていた。右側だけ少し長めに残した髪を耳にかける仕草が、どこか大人びて見える。

 

一方の二乃は、腰まで届く長い髪を黒いリボンでまとめている。昔から強気なところは変わっていないが、そのリボンのせいか、ふとした瞬間に妙に女の子らしく見える時がある。

 

そしてもう一人──

 

「そうです。おにいさまは、わたしのごはんをたべさせるのでおいそがしいのです」

 

僕の膝の上にちょこんと座る、小さな女の子。

名前は花音(かのん)。

僕の妹で、今年で五歳になる。

小さな体に不釣り合いなほど大きな瞳は、いつも誰かを探すように揺れている。

背丈はまだ低く、僕の腰あたりに頭がくるくらいだ。

細く柔らかな髪は肩の少し下まで伸びていて、触れれば指に絡みつくような軽さがある。

人懐っこい笑顔を浮かべることも多いが、少しでも不安になるとすぐ表情に出てしまう。

その度に、小さな手でぎゅっと誰かの服を掴むのが癖で──特に僕のそばにいる時は、離れようとしない。

今のように。

 

「おにいさま、あーんです」

 

小さな手でスプーンを持ちながら、花音が当然のように僕の口元へ差し出してくる。

 

「はいはい……あーん」

 

口を開けると、花音は少しだけ得意げな顔でスプーンを運んできた。

 

「えへへ……じょうずです」

 

満足そうに笑う花音。

その様子を見て、二乃が呆れたように肩をすくめる。

 

「……ほんと甘やかすよね和真」

「兄妹なんだから当たり前でしょ」

「いやいや、その距離感は普通じゃないでしょ」

「そうだよねぇ。私たちにはそんな顔見せないのにさ」

 

一花がわざとらしくため息をつく。

 

「別に普通だろ」

「普通じゃないよ」

「普通じゃないね」

「普通じゃないわね」

 

五月、一花、二乃の三方向から即否定された。

 

五月は五年前よりずっと大人びた。

長く波打つ髪は肩から背中へ流れ、顔の両側は星形のピンで留められている。頭頂部にぴんと立つ癖毛は昔から変わらない。

ただ、性格は昔より素直に甘えるようになった気がする。

 

「……」

 

少しだけ言葉に詰まる。

その間にも、花音は僕の服をぎゅっと掴んで離さない。

 

「おにいさまは、やさしいのです」

 

ぽつりと呟いたその一言に、空気がほんの少しだけ変わった。

 

「……そっか」

 

向かいに座る三玖が小さく笑う。

 

「いいな……花音ちゃん」

 

その声は、ほんの少しだけ羨ましそうだった。

 

「……三玖も食べる?」

 

何気なく聞くと、三玖がぱっと顔を上げる。

 

「……いいの?」

「ほら」

 

差し出すと、三玖は少しだけ戸惑いながら──

 

「……あーん」

 

おずおずと口を開けた。

 

「……」

 

その様子を見ていた一花と二乃の目が、明らかに変わる。

 

「あれ?それはいいんだ?」

「へぇ……そういう基準なんだ?」

「……いや、別に深い意味は」

「じゃあ私も」

「私も」

「だからやらんって」

 

即座に拒否する。

 

「差別だ」

「ひどい」

「最低」

「なんでだよ!」

 

朝から騒がしい食卓。

でも──悪くないな。

ふと、そう思う。

 

「ふふ……」

 

視線を上げると、少し離れた席で零奈さんがこちらを見ていた。

優しく、そしてどこか安心したような笑みで。

 

「賑やかで……いいですね」

 

ぽつりと零奈さんが呟く。

 

「そうね」

 

その隣で母さんも頷いた。

 

「こういうの、ずっと続けばいいのにね」

 

何気ない一言。

だけど──

 

「……」

 

零奈さんの表情が、ほんの少しだけ揺れた気がした。

それを見て、僕は少しだけ考える。

……守らなきゃな。

 

この場所も。

この時間も。

この人たちも。

 

──全部。

 

「カズマ?」

 

三玖が覗き込む。

 

「ん?」

「またぼーっとしてる」

「……ちょっとね」

 

そう答えると、三玖は小さく笑った。

 

「……そっか」

 

その距離は、昔よりずっと近い。

でもまだ──恋人になっても、踏み込めていない距離がある。

まあ、いいか。

急ぐ必要はない。

時間は、まだある。

そう思いながら、僕達はいつものように学校へ向かう準備を始めるのだった。

 


 

朝食を終え、いつものように玄関へ向かう。

 

「じゃあ行くか」

 

そう声をかけたところで──

 

「おにいさま!」

 

小さな足音と一緒に、花音が駆け寄ってきた。

 

「いってらっしゃい、するの」

 

そう言って、ぎゅっと僕の服を掴む。

 

「……ああ、行ってくる」

 

軽く頭を撫でると、花音は嬉しそうに笑った。

 

「えへへ……いってらっしゃい」

 

その様子を、少し後ろから母さんと零奈さんが見守っていた。

 

「ほんと、和真は優しいわよねぇ」

「……そうですね」

 

零奈さんが小さく頷く。

 

「昔からああでしたか?」

「ええ。あの子、誰かのために動くのが当たり前みたいな子だから」

「……ふふ」

 

零奈さんが、ほんの少しだけ柔らかく笑った。

 

「だから、和真さんの周りには人が集まるんでしょうね」

「でしょ?自慢の息子なのよ」

 

そんな会話を背中に受けながら、僕は靴を履く。

 

「ほら、あんまりくっついてると遅刻するわよー」

「はいはい」

 

軽く手を振りながら外へ出ると──

 

「おーい!」

 

聞き慣れた声がした。

視線を向けると、門の前に風太郎が立っていた。

 

「迎えに来たぞ、四葉」

「風太郎君!」

 

四葉がぱっと顔を明るくして駆け寄る。

 

五年前と変わらず、頭には大きな緑色のリボン。

運動で鍛えられた体つきと明るい笑顔は、今も四葉らしさそのものだった。

そのまま自然に並ぶ二人。

 

「……ちゃんと来るんだな」

「約束だからな」

 

短いやり取り。

でも──前とは違う。

ちゃんと“向き合っている”のが分かる。

 

「じゃ、行こっかカズマ」

 

三玖が隣に並ぶ。

その瞬間、僕は何も言わずに、そっと三玖の腕を取った。

 

「……え?」

 

そのまま、自然に自分の腕へと絡める。

 

「行くよ」

「……っ」

 

三玖は一瞬だけ驚いた顔をして──すぐに、ふわっと笑った。

 

「……うん」

 

少しだけ頬を染めながら、腕にぎゅっと力がこもる。

その様子を見て、一花が固まった。

 

「……は?」

「ちょっと待ちなさいよ今の」

「今のはズルくない?」

「いや普通にズルいでしょ」

 

一気に空気が変わる。

 

「……何が」

「何がじゃないでしょ!」

「なんでそっちからいくのよ!」

「恋人だからだろ」

 

さらっと言う。

 

「「「はあ!?」」」

 

一斉に声が上がる。

 

その横で、三玖は何も言わずに、ただ少しだけ僕へ寄り添っていた。

 

「はいはいストーップ!」

 

一花が割り込んでくる。

 

「それ、ずるくない?」

「そうよ。なんで三玖だけなのよ」

 

二乃も続く。

 

「……じゃあ私も」

「私も」

「だから増やすなって!」

 

気づけば両腕が埋まっていた。

 

完全に拘束状態だ。

 

「……歩きにくい」

「自業自得でしょ」

「ほんとそれ」

 

その横で、五月がじっとこちらを見ていた。

 

「……五月は?」

 

声をかけると、五月は少しだけ目を逸らす。

 

「……別にいいし」

 

明らかに嘘だ。

 

「ほら」

 

軽く袖を差し出す。

 

「……っ」

 

五月は一瞬だけ迷ってから──

 

「……ありがと」

 

小さく呟いて、ぎゅっと掴んできた。

そのまま、少しだけ体を寄せる。

 

「……離れないでよ?」

 

ぼそっと、小さな声で。

 

「……離れないよ」

 

そう返すと、五月は少しだけ安心したように笑った。

結果──完全包囲での登校が始まった。

 

「……なにこれ」

 

思わず呟くと、四葉が笑う。

 

「ししし、和真君らしいね」

「どこがだよ」

「みんなに好かれてるところ!」

「……勘弁してくれ」

 

そんな会話をしながら、僕達はいつもの通学路を進んでいく。

しばらく歩いたところで、前方から声がかかった。

 

「おー、いたいた」

 

真田と竹林だった。

 

「……なんだその状態」

 

開口一番、真田が呆れる。

 

「いや、これはその……」

 

説明に困る。

 

「……モテすぎでしょ」

 

竹林がぽつりと呟く。

その視線が、一瞬だけ僕に向いた。

 

「違うって」

「どこがよ」

 

即否定された。

 

「てか離れなさいよ、あんた達」

「やだ」

「やだ」

「やだ……」

 

一花、二乃、三玖が即答する。

 

「……」

 

五月だけは、少しだけ間を置いてから──

 

「……やだ」

 

小さく言った。

 

「……統率取れてないな」

「見ての通りだ」

 

ため息をつく。

 

でも──悪くない。

 

関係も、距離も、全部が変わってきている。

そんな空気の中で、風太郎が短く言った。

 

「……行くぞ。遅れる」

 

その一言で、全員が動き出す。

門の方をちらりと見ると、まだそこに母さんと零奈さんの姿があった。

二人とも、静かにこちらを見送っている。

その表情は、どこか安心したようで。

そして、少しだけ誇らしげだった。

 

……守らなきゃな。

 

この場所も。

この関係も。

全部。

 

そう思いながら、僕は前を向いた。

いつもの道。

でも──昨日までとは違う距離で。

そんな登校が、当たり前になりつつあった。

 

 




第3話までお読みいただきありがとうございました。

今回は五年後の世界ということで、それぞれの関係性や立ち位置を整理するような回になっています。

三玖との距離感、他の姉妹たちの想い、そして零奈や家族としての空気感など、“大きくは変わっていないけど確実に変わっている”部分を意識して書いてみました。

個人的には、日常の中にある何気ないやり取りや空気感も、この作品の大事な魅力にしていきたいと考えています。

ここから先は、少しずつ物語としての動きも強くなっていく予定です。
それぞれの想いがどう交差していくのか、引き続き楽しんでいただければ嬉しいです。

もし少しでも「続きが気になる」と思っていただけましたら、評価やお気に入り登録で応援していただけると励みになります。

次回もよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。