※この作品はR-18です。

五等分の花嫁~五つじゃ足りない想い~   作:吉月和玖

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今回は三玖メイン回です。

高校二年生になり、少しずつ変わっていく距離感。
一緒にいるのが当たり前になったからこそ生まれる、不安や独占欲。
それでも“平等に愛されること”を嬉しいと思ってしまう三玖らしさを書きたくて、この話を書きました。

派手な展開ではありませんが、二人の空気感や温度を感じてもらえたら嬉しいです。

それでは、
『離れたくない夜と、確かめ合う想い』
どうぞ。




4.離れたくない夜と、確かめ合う想い

いつもの日常というのは、何も家の中だけを指す訳ではない。

 

「おい!吉満ぅぅ~~……」

「何だよあの羨まけしからん登校風景はぁぁーーッ!!」

 

二年五組。

それが、今の僕のクラスだ。

そして朝のホームルーム前。

僕は毎日のように、クラスの男子達から理不尽な追及を受けていた。

 

「知らんって……」

 

机に鞄を置きながら適当に返す。

すると、机を囲んでいる男子の一人が、バンッ!と両手を机に叩きつけた。

 

「知らんで済むか!」

「毎朝毎朝!何なんだよあの美少女ハーレム登校は!」

「リア充にも限度があるだろ!」

 

朝から騒がしい。

けれど、これも最近ではすっかり見慣れた光景だった。

原因は当然、登校中のあれである。

僕を中心に、一花、二乃、五月が当然のように距離を詰めてきて、そこに四葉まで加わる。

しかも今日は、二乃と五月に両腕を取られた状態で登校してしまった。

……男子からしたら、たまったものじゃないだろう。

 

「お前には三玖さんっていう可憐で大人しくて最高に可愛い彼女がいる!違うか!?」

「合ってるな」

 

即答すると、男子達が一斉に頭を抱えた。

 

「だったら何で毎朝ああなるんだよ!」

「中野さん五つ子のうち四人に囲まれるとか意味分かんねぇんだよ!」

「しかも全員レベル高ぇし!!」

「知らん!あいつらが勝手に来るんだ!」

 

思わず声を荒げる。

……いや、本当に知らないのだ。

三玖とは恋人同士だし、腕を組むのも分かる。

でも、一花と二乃と五月まで当然みたいに絡んでくる理由については、僕だって説明を求めたい。

特に二乃。

最近はもう隠す気すらない。

毎朝のように腕を組み、距離を詰め、教室に入る直前まで離れようとしないのだから。

しかも──

 

「だって私は和真の許嫁の一人だもの♡」

 

聞き慣れた声が割って入る。

視線を向けると、上機嫌な笑みを浮かべた二乃が、当然のように僕の席の横へやって来ていた。

 

「腕を組むくらい当然でしょ?」

「当然じゃねぇぇぇ!!」

 

男子達の悲鳴が教室に響く。

 

「おい吉満!否定しろ!」

「そこは違うって言え!」

「許嫁“の一人”って何だよ怖ぇよ!!」

「いや、僕に言われても……」

 

疲れたようにため息を吐く。

すると二乃は、そんな僕の反応すら面白そうに笑いながら、自然な動作で僕の肩に体を寄せてきた。

 

「ねぇ和真♡」

「……何」

「今日のお昼、一緒に食べるでしょ?」

「いや、まだ決めてないけど」

「決定ね♪」

 

勝手に決められた。

 

「ほら見ろぉぉ!!」

「完全に尻に敷かれてんじゃねぇか!!」

「爆発しろ!!」

「何でそうなるんだよ……」

 

頭が痛い。

けれど──

 

……三玖は大丈夫かな

 

ふと、そんな考えが浮かぶ。

三玖とは今年、初めて別のクラスになった。

中学からずっと同じクラスだったのだ。

それが急に別々になると、思っていた以上に違和感がある。

今までは当たり前みたいに隣にいた。

少し視線を向ければ、そこにいた。

なのに今は、それがない。

……妙に落ち着かなかった。

一応、四組には真田と竹林がいる。

特に竹林は面倒見も良いし、三玖とも普通に話せているみたいだから心配はいらないと思う。

思うのだが──

 

「……和真?」

 

不意に、二乃が僕の顔を覗き込んできた。

 

「何ぼーっとしてるの?」

「いや、別に」

「ふーん……」

 

二乃がじっとこちらを見る。

その視線は、妙に鋭かった。

 

「……三玖のこと考えてた?」

「っ……」

 

一瞬だけ言葉に詰まる。

 

「図星なんだ」

「いや、まあ……少しは」

「はぁ~~~……」

 

二乃がわざとらしく大きなため息を吐いた。

 

「同じクラスにこんな可愛い許嫁がいるのに、彼女のこと考えてるとかさぁ」

「自分で可愛いって言うな」

「事実だもの♪」

 

さらっと言い切る辺りが二乃らしい。

男子達も「否定できねぇのが腹立つ……」みたいな顔をしている。

 

「でも安心しなさい?」

 

二乃は、ふわりと笑って。

そのまま僕の耳元へ顔を近づけた。

 

「今年は、いっぱい私を意識させてあげるから♡」

「…………」

 

一瞬、言葉を失う。

近い。

近すぎる。

甘い香りが、不意打ちみたいに鼻をくすぐった。

 

「おおおおおい!!」

「教室でイチャつくな!!」

「先生呼ぶぞ!!」

 

男子達の叫びで我に返る。

 

「だからイチャついてないって!」

 

慌てて二乃を引き離そうとするが──

 

「え~?嫌なんだ?」

「嫌とかじゃなくてだな……!」

 

楽しそうに笑う二乃。

……駄目だ。

完全に遊ばれている。

そんな事を考えていると、教室の扉が開いた。

 

「はいはい席着けー。朝から元気だなお前らー」

 

担任の後藤先生だった。

 

「げっ」

「先生来た」

「解散解散!」

 

一斉に散っていく男子達。

その様子に苦笑しながら、僕も席へ座る。

すると隣で、二乃がくすっと笑った。

 

「ふふっ♪」

「……何」

「楽しいなって思って」

「……それはまあ、否定しない」

 

騒がしくて。

落ち着かなくて。

毎日振り回されて。

それでも──

悪くないと思っている自分がいた。

ただ。

胸の奥には、小さな違和感が残っている。

今まで当たり前に隣にいた三玖が、今はいない。

その事実だけが、妙に心に引っかかっていた。

 


 

その日の夜。

いつものように、三玖が僕の部屋へやって来ていた。

違うのは、高校二年になってから増えた距離感くらいだろうか。

今の三玖は、僕のベッドに背を預けるでもなく、椅子に座るでもなく──当然みたいに僕の膝へ頭を乗せたままゲームをしている。

 

「三玖もすっかりゲーマーだね。そんな体勢で普通にプレイ出来るんだから」

「……シミュレーションゲームだから問題ない」

 

膝の上から、落ち着いた声が返ってくる。

画面の中では、三玖が操作する小さな武将達が着々と領地を広げていた。

ゲームを教えたのは僕だ。

最初は操作も覚束なかったのに、今では完全に立場が逆転している。

気づけば三玖は、自分専用のゲーム機まで買っていた。

 

「しかし、よくそんな弱小勢力で天下統一出来るな」

「ちゃんと育成すれば問題ない」

「ははっ。三玖は現代の竹中半兵衛だな」

「……褒めすぎ」

 

そう言いながらも、三玖の声はどこか嬉しそうだった。

僕は自然と、その頭を撫でる。

柔らかな髪が指の間を抜けていく感覚は、昔から変わらない。

 

「……ん」

 

小さく目を細める三玖。

そのまま、僕の太腿へ少しだけ擦り寄るように頭を預け直した。

静かな時間だった。

ゲーム音だけが、部屋の中に小さく響いている。

けれど──

 

「……ねぇ、カズマ」

 

不意に、三玖が口を開いた。

 

「ん?」

「最近……二乃と仲良いね」

 

その言葉に、思わず視線を落とす。

三玖はゲーム画面を見たままだった。

けれど、さっきまで迷いなく動いていた指が、少しだけ止まっている。

 

「……まあ、同じクラスだし」

「うん……知ってる」

 

静かな返事。

怒っている訳ではない。

責めている訳でもない。

だからこそ、少しだけ困る。

 

「……心配しなくても、三玖が一番だよ」

 

自然と、そんな言葉が口から出ていた。

僕の膝の上で、三玖の肩が小さく揺れる。

 

「……心配は、してない」

 

ぽつりと落ちた声は、思っていたより弱かった。

 

「むしろ……嬉しいくらい」

「嬉しい?」

「……うん」

 

三玖は小さく頷く。

 

「カズマが、みんなをちゃんと大事にしてるの……分かるから」

 

そこで一度、言葉が途切れた。

静かな沈黙。

ゲーム画面の中では、戦の勝利を知らせる音が鳴っているのに、三玖はもう操作をしていなかった。

 

「……でも」

 

小さな声。

 

「モヤモヤする」

「……」

「平等に愛してくれるの、嬉しいのに」

 

三玖の手が、そっと僕の服を掴む。

 

「……苦しい時、ある」

 

その声に、胸の奥が少しだけ締めつけられた。

膝の上の三玖は、いつもよりずっと小さく見える。

僕は少しだけ息を吐いてから、その頬へそっと触れた。

 

「三玖」

「……ん」

「こっち向いて」

 

ゆっくりと、三玖が振り向く。

すぐ近くで目が合った。

薄暗い部屋の中。

互いの呼吸だけが、やけに近く感じる。

 

「……僕は」

 

言葉を探す。

けれど、うまくまとまらない。

そんな僕を見上げながら、三玖は小さく笑った。

 

「……困ってる」

「そりゃ困るだろ」

「……ふふ」

 

少しだけ、空気が和らぐ。

けれど──

三玖の瞳は、まだ揺れていた。

 

「……ねぇ、カズマ」

「ん?」

「今だけ……私だけ見て」

 

その言葉に、息が止まりそうになる。

膝の上。

近すぎる距離。

三玖の指が、僕の服を握る。

離さないように。

逃がさないように。

 

「……三玖」

「……ん」

 

名前を呼ぶと、三玖はゆっくり目を閉じた。

その仕草だけで、全部伝わってしまう。

迷うより先に、手が動いていた。

頬に触れる。

熱い。

指先が触れただけなのに、心臓が妙にうるさい。

そして──

静かに、距離が消えた。

 

「……ん……ちゅっ…♡」

 

触れ合った瞬間、小さな吐息が零れる。

柔らかくて。

甘くて。

なのに、どこか苦しそうだった。

三玖の指が、きゅっと服を掴む。

もっと確かめるみたいに。

離れないようにするみたいに。

 

「……はぁ……」

 

唇が離れた後も、距離だけは近いままだった。

三玖は薄く目を開けて、ぼんやりと僕を見る。

熱を帯びた瞳。

呼吸の乱れた声。

その全部が、妙に理性を削ってくる。

 

「……ずるい」

 

三玖が、小さく呟いた。

 

「こんなの……好きになるしかない」

「今さらだろ」

「……うん」

 

三玖は小さく笑って。

そのまま、僕の胸へ額を押しつけるように抱きついてきた。

 

「……もう少し、このまま」

 

甘えるみたいな声。

僕は答える代わりに、その背中へ腕を回した。

静かな夜だった。

けれど──

互いの鼓動だけは、やけにはっきりと聞こえていた。

夜の静けさが、余計に互いの熱を際立たせていた。

ゲーム画面は既に止まっている。

けれど、誰もそれを気にする余裕はなかった。

僕の胸へ額を預けたまま、三玖は小さく息を吐く。

 

「……落ち着く」

 

掠れるような声。

その言葉だけで、胸の奥が妙に熱くなる。

僕はゆっくりと、その背中へ腕を回した。

細い。

柔らかい。

けれど今は、その体温だけがやけにはっきりと伝わってくる。

 

「……三玖」

「……ん」

 

名前を呼ぶと、三玖が少しだけ顔を上げる。

すぐ近くで視線が重なった。

薄暗い部屋。

静かな呼吸。

近すぎる距離。

その全部が、妙に心臓を落ち着かなくさせる。

 

「……今日は、帰る?」

 

自分でも驚くくらい自然に、そんな言葉が出ていた。

三玖の目が、わずかに揺れる。

 

「……帰った方が、いい?」

 

不安そうな声。

その顔を見た瞬間、答えなんて決まっていた。

 

「いや」

 

僕は小さく首を振る。

 

「一緒にいる?」

「……っ」

 

三玖が、ほんの少しだけ息を呑んだ。

それから。

 

「……うん」

 

消えてしまいそうな声で、静かに頷いた。

その瞬間。

胸の奥に、じわりと熱が広がる。

嬉しいとか、安心とか。

そんな簡単な言葉じゃ足りない何かだった。

 

・・・・・

 

電気を消した後の部屋は、ずっと静かだった。

同じベッドの中。

隣には三玖がいる。

それだけなのに、妙に意識してしまう。

 

「……近い?」

 

暗闇の中、小さな声が聞こえる。

 

「いや……別に」

「……そっか」

 

少しだけ安心したみたいに、三玖が僕の胸へ擦り寄ってくる。

柔らかな髪が、首元をくすぐった。

近い。

触れ合っている場所から、三玖の体温がじわじわと伝わってくる。

そして──

 

「……カズマ」

「ん?」

「こっち向いて」

 

言われるまま視線を向ける。

暗くて表情はよく見えない。

けれど、近づいてくる気配だけは分かった。

唇が、そっと重なる。

 

「……ん……ちゅっ…♡」

 

先程とは違う。

確かめるみたいな。

離れたくないみたいな。

そんなキスだった。

 

「ちゅっ…はぁ…ちゅっ…ちゅっ…ちゅっ…はぁ…♡」

 

離れて。

また触れて。

その度に、呼吸が少しずつ乱れていく。

 

「……好き」

 

唇が触れたまま、三玖が小さく呟く。

 

「……私、多分……思ってたより、ずっとカズマのこと好き」

「……今さらだな」

「……うん」

 

三玖が小さく笑う。

けれど次の瞬間、その腕がぎゅっと僕へ回された。

 

「……だから、不安になる」

「三玖……」

「平等に愛してくれるの、嬉しいよ?」

 

ぽつり、ぽつりと。

三玖は胸の内を零していく。

 

「カズマが、みんなを大事にしてるの分かるから」

「……うん」

「でも……たまに怖い」

 

抱きつく力が、少しだけ強くなる。

 

「……いなくなりそうで」

 

その言葉に、胸が締めつけられた。

僕はそっと三玖の髪へ触れる。

 

「いなくならないよ」

「……ほんと?」

「ああ」

 

迷わず答える。

すると三玖は、少しだけ震える息を吐いて──

 

「……よかった」

 

安心したみたいに、胸へ顔を埋めてきた。

その姿が愛しくて。

守りたいと思ってしまって。

気づけば、もう一度唇を重ねていた。

何度も。

ゆっくりと。

 

「ちゅっ…ちゅっ…ちゅっ…はぁ…♡カズマ…ちゅっ…すきぃ…ちゅっ…はぁ…ちゅっ…ちゅっ…♡」

 

触れるたびに、好きだと伝えるみたいに。

暗闇の中。

互いの熱だけが、静かに溶け合っていく。

言葉は少なかった。

けれど。

抱き締める腕も。

触れる指先も。

重なる唇も。

全部が、確かに“愛している”と伝えていた。

 


 

翌朝。

 

「…………」

 

朝食の席に着いた瞬間、空気が止まった。

原因は明らかだった。

 

「……へぇ~?」

 

一花がニヤニヤとこちらを見る。

 

「昨日、三玖部屋戻って来なかったんだけど?」

「……っ」

 

三玖の肩がびくっと揺れる。

 

「ちょっと待ちなさいよ」

 

二乃がじとっとした目を向けてきた。

 

「まさか本当に一緒に寝た訳?」

「……寝ただけだ」

「その言い方がもう怪しいんだけど!?」

 

机を叩きながら叫ぶ二乃。

その隣では、五月が頬を膨らませていた。

 

「……ずるい」

「五月まで……」

「だって、和真君最近三玖に甘すぎるもん……」

 

ぼそっと漏らす声は、どこか本気で拗ねている。

一方で。

 

「ししし……良かったね、三玖♪」

 

四葉だけは、嬉しそうに笑っていた。

そんな中。

 

「……ふふ」

 

少し離れた席で、零奈さんが静かに笑う。

その視線は、どこか優しかった。

けれど──

ほんの少しだけ。

羨ましそうにも見えた。

誰かに必要とされて。

誰かを安心させられる場所がある。

その温もりを。

僕と三玖は、当たり前みたいに抱き締めている。

 

「……若いって、いいですね」

 

ぽつりと零奈さんが呟く。

その横で、母さんがくすっと笑った。

 

「あら?零奈も混ざる?」

「もう……何を言ってるんですか」

 

困ったように笑う零奈さん。

けれど、その頬はほんの少しだけ赤かった。

そして僕は──

そんな零奈さんの表情を見て、なぜだか少しだけ胸がざわついていた。

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。

今回は、三玖と和真の“距離”を一段進める回でした。

ただ甘いだけではなく、
「平等に愛してくれるのが嬉しい」
それでも「モヤモヤしてしまう」
──そんな三玖の感情を書きたかった回でもあります。

そして、少しずつ動き始める周囲の感情。
二乃達はもちろん、零奈もまた和真達を見て何かを感じ始めています。

高校二年生編は、これまで以上に“恋愛”と“感情”が動いていく予定です。

もし少しでも
「良かった」
「続きが気になる」
と思っていただけたら、感想や評価をいただけると励みになります。

それでは、また次回もよろしくお願いします。
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