※この作品はR-18です。

五等分の花嫁~五つじゃ足りない想い~   作:吉月和玖

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今回は、少し甘めなお話です。

最近どんどん距離感がおかしくなっていく三玖。 そして、そんな空気に振り回される和真。

……だけで終わるはずもなく。

夏休みの課題問題から始まる、五つ子達の大騒動。 さらに、零奈にも少しずつ変化が──?

賑やかで、でもどこか温かい。 そんな“家族の時間”を書きたくて描いた回になります。

よろしくお願いします!




5.添い寝を賭けた勉強会!?

あれから三玖は少し変わった。

前より甘えるようになったし、時と場所さえ許せば、当然みたいに僕の隣へ来る。

そして──

 

「……カズマ」

 

昼休み。 人気のない空き教室。

静かな室内で、三玖が僕の制服をそっと掴む。

 

「ん?」

「……キス、したい」

 

少しだけ頬を赤くしながら、それでも真っ直ぐ見上げてくる。

以前の三玖なら、こんなふうに自分から求めたりしなかった。

けれど今は違う。

不安も。 好きも。 独占欲も。

全部隠さなくなってきている。

 

「……最近、積極的だね」

 

そう言うと、三玖は少しだけ恥ずかしそうに目を伏せた。

 

「……だって、好きだから」

 

小さな声。

けれど、その一言だけで十分だった。

静かに距離が縮まる。

触れた唇は短いはずなのに、妙に熱が残る。

 

「……んッ……ちゅっ……ちゅっ……カズマぁ…好きいぃ…ちゅっ……」

 

離れた後も、三玖は僕の服を離さない。

 

「……もう少し」

 

甘えるような声。

そんな顔をされて、断れる訳がなかった。

──結局。

チャイムが鳴る直前まで、僕達は二人だけの時間を過ごしていた。

 

・・・・・

 

チャイムが鳴るギリギリで教室へ戻る。

 

「……ふぅ」

 

席へ座ると同時に、隣からじーっと視線を感じた。

 

「……何」

 

見ると、二乃が頬杖をつきながらこちらを見ていた。

 

「別に?」

 

そう言いながらも、明らかに何か言いたそうな顔をしている。

 

「……なんだよ」

「いやぁ?」

 

二乃はニヤッと笑った。

 

「随分満たされた顔してるな~って思って♡」

「は?」

 

意味が分からない。

すると周囲の男子達まで会話へ食いついてきた。

 

「分かる!!」

「今日の吉満なんか柔らかい!」

「リア充オーラが腹立つ!」

「知らんって……」

 

思わずため息を吐く。

すると二乃は、そんな僕を見ながらさらに口元を緩めた。

 

「しかもさ」

 

二乃が、ふっと視線を廊下へ向ける。

つられるようにそちらを見ると──

 

「……」

 

廊下を歩いていく三玖の姿が見えた。

その横顔は、どこか嬉しそうで。

柔らかくて。

……妙に満たされた顔をしていた。

 

「三玖もすっごい幸せそうだったし?」

「っ……」

 

思わず言葉に詰まる。

 

「おーい吉満ぅ?」

「何赤くなってんだよぉ?」

「まさかお前ら昼休み……!」

 

男子達が一気に騒ぎ始める。

 

「うるさい!!」

 

慌てて否定するが、完全に遅かった。

その様子を見ながら、二乃は小さく笑う。

 

「ふふっ♡」

 

でも──

その笑顔の奥に。

ほんの少しだけ、寂しそうな色が混じっている事に。

その時の僕は、まだ気づいていなかった。

 

・・・・・

 

「このままでは駄目です」

 

広間に響く、静かな声。

けれど、その声音には逆らえない圧があった。

目の前では、零奈さんが腕を組みながら五つ子達を見下ろしている。

その前には、綺麗に正座させられた五人。

 

「何故、自信満々に“終わってます”と言えたのでしょうか」

『…………』

 

誰も目を合わせない。

 

ちなみに父さんは出張中。

つまり今この家には、零奈さんを止められる人間が存在しない。

 

「……何があったの?」

 

一応母さんに聞いてみる。

すると、少し離れた場所で苦笑していた母さんが肩をすくめた。

 

「学校から連絡来たのよ」

「連絡?」

「夏休みの課題、ほとんど手つかずだったんだって」

「はぁぁぁぁ!?」

 

思わず声が裏返った。

 

「いやいやいや!あれだけ大丈夫なのか聞いてたよな!?」

「だって大丈夫って言ってたもん……」

「誰が?」

「私達……」

 

一花が小さく答える。

 

「大丈夫じゃなかったじゃねぇか!」

 

思わずツッコミを入れる。

すると──

 

「和真さん?」

 

零奈さんが、にこりと微笑んだ。

……駄目だ。

完全に怒っている時の笑顔だ。

僕の後ろでは、花音が僕の服をぎゅっと掴んで隠れていた。

 

「おにいさま……れなさん、こわいのです……」

「今日は静かにしてような……」

 

小声で返す。

 

「この夏休み」

 

零奈さんが静かに続ける。

 

「和真さんはもちろん、風太郎さんにも勉強を見てもらっていたはずです」

『ひぅっ……』

 

五人の肩が同時に跳ねた。

 

「にも関わらず、提出出来ていない理由を説明してください」

 

沈黙。

重い。

非常に重い。

すると──

 

「でもさぁ?」

 

そんな空気を壊したのは母さんだった。

 

「ただ怒るだけじゃ、この子達またサボるんじゃない?」

「光莉」

「だってそうでしょ?」

 

母さんは楽しそうに笑いながら、五つ子達を見る。

 

「この子達、分かりやすいご褒美あった方が頑張るタイプだと思うのよねぇ」

「ご褒美……ですか?」

 

零奈さんが少し考えるように首を傾げる。

その瞬間。

母さんの口元が、にやぁっと笑った。

……嫌な予感しかしない。

 

「例えば~……」

 

嫌な間。

そして。

 

「課題をちゃんと終わらせた子は、和真と添い寝出来るとか♪」

『!!!!』

 

空気が止まった。

 

「は?」

 

今なんて?

 

「ひ、光莉!?」

「冗談よ冗談♪」

 

そう言いながら、母さんは明らかに楽しんでいた。

だが──

 

「……それ、本当に?」

 

最初に食いついたのは二乃だった。

 

「え?」

「やる」

 

二乃の目が、本気だった。

 

「待って」

 

今度は一花。

 

「それ、何時まで?」

「いや何で乗る前提なの!?」

「……負けない」

 

ぼそっと呟いたのは三玖。

 

「三玖まで!?」

「……頑張る」

 

五月が真顔で頷く。

 

「え!?添い寝ってそんなに良いの!?」

 

四葉だけ若干ズレていた。

 

「いや待て待て待て!僕の意思は!?」

『却下』

 

五人同時だった。

 

「理不尽!?」

「ふふっ♪」

 

母さんが楽しそうに笑う。

一方で。

 

「……もう」

 

零奈さんは困ったように額へ手を当てていた。

けれど。

その頬は、ほんの少しだけ赤い。

 

「ですが……」

 

零奈さんが咳払いをする。

 

「課題を終わらせる理由になるのであれば、今回は特別です」

『やったぁぁぁ!!』

 

五つ子達のテンションが一気に上がる。

 

「いや、認めるんですか!?」

「和真さん」

 

零奈さんがこちらを見る。

 

「しばらく、ご協力お願いしますね?」

「……はい」

 

逆らえる空気じゃなかった。

 

・・・・・

 

その夜。

広間では、早速勉強会が始まっていた。

 

「うぅぅ……英語嫌い……」

「五月、そこ違う」

「え?あ、本当だ……」

「四葉、途中式書いて」

「はーい!」

 

騒がしい。

けれど、どこか楽しそうだった。

 

「……ふふ」

 

不意に、小さな笑い声が聞こえた。

見ると、少し離れた場所で零奈さんがその光景を見つめていた。

柔らかな笑顔。

昔より、本当に表情が増えたと思う。

 

「……嬉しそうですね」

 

声をかけると、零奈さんは少し驚いたようにこちらを見た。

 

「ええ。なんだか……懐かしくて」

「懐かしい?」

「こうやって、みんなで何かを頑張るの」

 

そう言って笑う。

けれど。

その目は、どこか少しだけ寂しそうだった。

 

「……零奈さん」

「はい?」

「無理してません?」

 

その瞬間。

零奈さんの目が、わずかに揺れる。

 

「最近、仕事も忙しいですよね」

「……大丈夫ですよ」

「でも、少し顔色悪い」

 

自然と、そんな言葉が出ていた。

すると零奈さんは、一瞬だけ困ったように笑って。

 

「本当に、よく見ていますね」

 

小さく呟いた。

 

「心配になるだけですよ」

 

そう返すと、零奈さんは静かに目を伏せる。

 

「……ありがとうございます」

 

その声は、昼間よりずっと柔らかかった。

そして。

そんな僕達を。

少し離れた場所から、三玖が静かに見つめていた。

 

・・・・・

 

「結局、今日中に終わる子は無しですか……」

「まさか、こんなに残してたとはねぇ……」

 

夜の十一時。

広間には、疲労と絶望が漂っていた。

流石に一日で終わる量ではなかったらしい。

学校の課題に加えて、零奈さんが出した追加課題。

さらに見直しまで入るせいで、五つ子達の集中力は既に限界へ近づいていた。

 

「うぅぅ……もう数字見たくない……」

 

机へ突っ伏したのは五月だった。

 

「五月、まだ英語残ってる」

「三玖……今その現実を突きつけないで……」

 

半泣きである。

 

「ていうかさぁ……」

 

今度は一花が大きく伸びをした。

 

「普通、夏休みの課題ってこんなにある?」

「あるに決まってるでしょ」

 

二乃が呆れたように返す。

 

「アンタ達が後回しにした結果よ」

「二乃も人の事言えないでしょ……」

「うっ……」

 

図星だったらしい。

 

「うぅぅ……あとちょっとなのにぃ……」

 

四葉はノートへ突っ伏したまま唸っていた。

 

流石に運動神経だけでは乗り越えられないらしい。

 

「……ほら」

 

僕は立ち上がると、人数分のコーヒー牛乳を用意してテーブルへ置いた。

 

「少し休憩しな」

「……和真くぅ~ん」

 

五月が完全に瀕死の顔をしている。

 

「染みるぅ……」

「大袈裟だな」

 

苦笑しながら席へ戻る。

すると──

 

「……ありがと」

 

隣から、小さな声。

三玖だった。

眠そうに目を細めながら、それでも嬉しそうにコップを持っている。

 

「三玖も眠いなら今日はもうやめれば?」

「……やる」

 

即答だった。

 

「だって……添い寝、したい」

 

ぼそっと呟かれた言葉に、一瞬固まる。

 

「っ……!」

 

その瞬間。

 

「待ちなさい三玖」

「抜け駆け禁止」

「今のズルくない!?」

 

一花、二乃、五月が一斉に反応した。

 

「……事実だから問題ない」

 

三玖は淡々としていた。

けれど。

その耳はほんのり赤い。

 

「ぐぬぬぬ……」

 

二乃が悔しそうに唸る。

 

「でもさぁ」

 

一花が、ちらっと僕を見る。

 

「和真君って、こういうの絶対弱いよね」

「……否定はしない」

「ほらぁ!」

「えぇぇぇ!?」

 

騒がしくなる広間。

その様子を見ながら、零奈さんは小さくため息を吐いた。

 

「本当に賑やかですね……」

 

そう言いながらも、その目はどこか優しい。

すると、その隣で。

 

「……零奈?」

 

母さんが小さく首を傾げた。

 

「顔色悪くない?」

「え……?」

 

零奈さんが少しだけ目を瞬かせる。

 

「そうですか?」

「ちょっと青いわよ?」

 

言われてみれば、確かに少し顔色が悪い。

 

「……零奈さん」

 

声をかけると、零奈さんは大丈夫だと言うように笑った。

 

「少し疲れているだけですよ」

「でも──」

 

立ち上がろうとした、その時だった。

 

ふらっ──

 

「っ……!」

 

零奈さんの身体が、小さく揺れた。

 

「零奈さん!」

 

咄嗟に抱き支える。

倒れかけた身体は驚くほど軽く、腕の中へ簡単に収まってしまった。

 

「……すみません」

 

零奈さんは苦笑していた。

けれど、その呼吸は少し熱い。

 

「母さん、熱ある」

「えっ!?」

 

空気が一気に変わる。

 

「零奈!?大丈夫!?」

 

母さんが慌てて駆け寄ってくる。

 

「だ、大丈夫ですから……」

「大丈夫な人は倒れかけません!」

 

珍しく零奈さんが押されていた。

 

「ほら見なさい!仕事も家の事も抱え込みすぎなのよ!」

「ですが……」

「ですがじゃありません!」

 

母さんが完全にお説教モードである。

 

「……とりあえず、今日はもう休んだ方がいい」

 

そう言うと、零奈さんは少しだけ困ったように笑った。

 

「でも、課題の確認が……」

「そんなの明日でいいです」

「そうだよお母さん」

「今日は休も?」

「顔色悪いよ……」

 

五つ子達も心配そうに声をかける。

流石にこの状態では反抗する気にもなれないのだろう。

 

「……分かりました」

 

小さく頷く零奈さん。

その瞬間、広間全体から安堵の空気が漏れた。

 

・・・・・

 

「……すみません」

 

部屋まで送る途中。

零奈さんは申し訳なさそうに呟いた。

 

「騒がせてしまって」

「別に誰も気にしてませんよ」

 

零奈さんを抱き抱えたまま廊下を進む。

廊下は静かだった。

さっきまでの賑やかさが嘘みたいに、夜の空気だけがゆっくり流れている。

 

「でも……」

 

零奈さんが、小さく笑う。

 

「少し情けないですね」

「何がです?」

「母親なのに、娘達へ心配をかけてしまうのは」

 

その声は、どこか寂しそうだった。

 

「……別にいいじゃないですか」

 

自然と、言葉が出る。

 

「え?」

「頼られるだけが家族じゃないでしょ」

 

零奈さんの身体が、ほんの少しだけ止まった気がした。

 

「心配したり、支えたりするのも家族です」

「……」

「それに、零奈さんだって頑張ってるの知ってますから」

 

教師を辞めてからも、母さんの秘書として働きながら五つ子を育てている。

どれだけ大変かなんて、想像するまでもない。

 

「だから、たまには甘えてください」

 

そう言うと──

 

「……ふふ」

 

零奈さんが、小さく笑った。

 

「本当に、優しいですね」

 

柔らかな声だった。

でも。

その表情はどこか少しだけ危うく見えて、妙に胸が落ち着かなかった。

 

部屋へ入ると、零奈さんをベッドへ寝かせた。

 

「今日は早めに休んでください」

「そうですね……」

 

そう返しながらも、零奈さんはどこかぼんやりしている。

 

「薬、持ってきます」

「ありがとうございます」

 

部屋を出ようとした、その時だった。

 

「……和真さん」

 

呼び止められる。

振り向くと。

零奈さんが、少しだけ不安そうな顔でこちらを見ていた。

 

「……少しだけ」

 

小さな声。

 

「もう少し、ここにいてもらってもいいですか?」

「……っ」

 

一瞬だけ、言葉に詰まる。

その表情は、いつもの“母親”の顔じゃなかった。

 

疲れていて。

弱っていて。

 

……どこか、寂しそうだった。

 

「……分かりました」

 

そう返すと、零奈さんは少しだけ安心したように目を細めた。

僕はベッドの横へ椅子を引き寄せて座る。

部屋の中には、静かな沈黙だけが流れていた。

 

「……懐かしいですね」

 

不意に、零奈さんが呟く。

 

「昔も、こうやって娘たちが熱を出す度に隣にいたんです」

「零奈さんが?」

「ええ」

 

小さく笑う。

 

「だからでしょうか。今、自分がこうされる側になるのって……少し不思議です」

 

そう言って、ゆっくり目を閉じる。

けれど。

その手は、そっとシーツを握っていた。

まるで。

何かを我慢しているみたいに。

 

「……零奈さん?」

 

声をかけると、ゆっくり目が開く。

そして。

 

「……今日は」

 

零奈さんが、小さく笑った。

 

「少しだけ、甘えてもいいですか?」

 

その声は、とても静かだった。

でも。

熱を持った頬と、揺れる瞳のせいで。

その一言が、やけに胸へ残った。

静かな夜だった。

けれど。

その部屋だけは、どこか落ち着かない熱を帯び始めていた。

 

 




ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!

今回は、
・三玖の積極化
・添い寝を巡る五つ子達
・勉強会地獄
・そして零奈の“弱さ”
この辺りを中心に描いてみました。

特に零奈は、“母親”として頑張り続けてきたからこそ、 誰かへ甘える事に慣れていない人物として書いています。

だからこそ、和真へ少しずつ弱さを見せ始める関係性は、 作者的にもかなり好きな空気感だったりします。

一方で、三玖も恋人としてどんどん距離を縮め始めました。 今後、二乃や一花、五月達がどう動くのかも含め、 関係性の変化を楽しんでもらえたら嬉しいです!

次回もよろしくお願いします!
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