※この作品はR-18です。

五等分の花嫁~五つじゃ足りない想い~   作:吉月和玖

7 / 7
今回は、少し“危うい距離感”のお話です。

熱で弱った零奈。
そして、そんな彼女を放っておけない和真。

静かな夜の中で、
少しずつ変わり始める関係を書いてみました。

もちろん、三玖の甘々成分や、
翌朝のいつもの賑やかな空気もたっぷり入っています。

“熱”を残したまま迎える朝。
その空気感を楽しんでいただけたら嬉しいです。

よろしくお願いします!




7.熱を残したままの朝

どれくらい時間が経ったのだろう。

 

静かな部屋。

時計の針が進む音だけが、小さく響いている。

けれど──

僕は全く眠れていなかった。

理由なんて、考えるまでもない。

 

「……ん……」

 

胸元へ額を預けたまま、零奈さんが小さく身じろぎする。

その度に、柔らかな髪が首元へ触れた。

 

近い。

本当に近い。

 

しかも今の零奈さんは、完全に無防備だった。

 

熱で少し緩んだ表情。

ネグリジェ越しに伝わる体温。

安心しきったように預けられている重み。

 

全部が妙に意識を乱してくる。

 

「……寝れる訳ないだろ」

 

小さく呟く。

すると──

 

「……ふふ」

 

胸元から、小さな笑い声が聞こえた。

 

「っ!?」

 

思わず視線を落とす。

すると零奈さんが、うっすら目を開けてこちらを見上げていた。

 

「起きてたんですか!?」

「……今、起きました」

 

その声はまだ少し眠そうだった。

けれど。

口元だけは、どこか楽しそうに笑っている。

 

「……和真さん」

「はい」

「顔、真っ赤ですよ?」

「っ……!」

 

完全に図星だった。

 

「からかわないでくださいよ……」

「ふふ……ごめんなさい」

 

そう言いながらも、零奈さんはまだ笑っている。

普段なら絶対見せないような、柔らかい笑い方だった。

 

「……でも」

 

零奈さんが、そっと僕を見上げる。

 

「少し安心しました」

「安心?」

「ちゃんと男の子なんだなって」

「…………」

 

今度こそ言葉を失った。

心臓がうるさい。

多分、今までで一番うるさい。

 

「零奈さん、それ分かって言ってます?」

「……熱のせい、かもしれません」

 

困ったように笑う。

でも。

その目は、全然困っているようには見えなかった。

むしろ──

少しだけ、楽しんでいるようにも見える。

 

「……ずるい」

 

思わず漏れた本音に、零奈さんが目を丸くする。

 

「え?」

「零奈さん、普段そんな事言わないじゃないですか」

「……そうですね」

 

小さく頷く。

 

「だからかもしれません」

 

静かな声。

 

「今くらいは……女性として甘えてみたくなるの」

 

その言葉に、息が止まりそうになる。

女性として。

その響きだけで、胸の奥が妙に熱くなった。

 

「……和真さん」

 

零奈さんが、そっと手を握る。

 

「もう少しだけ……このままでもいいですか?」

 

拒絶出来る訳がなかった。

 

「……はい」

 

答えた瞬間。

零奈さんは安心したように、小さく息を吐く。

そして。

 

「……あたたかい」

 

そう呟きながら、ゆっくり目を閉じた。

今度こそ、本当に眠ったのだろう。

呼吸が、少しずつ穏やかになっていく。

 

「……」

 

僕は動けなかった。

動きたくなかった。

胸元へ寄り添う零奈さんの温もりが、やけに心地良かったから。

 

「……困るなぁ」

 

小さく苦笑する。

 

三玖が一番。

その気持ちは変わらない。

変わらない、はずなのに。

──今だけは。

零奈さんの温もりを、手放したくないと思ってしまっている自分がいた。

それが、どこか裏切りみたいに感じて。

胸の奥が、少しだけ痛む。

 

けれど。

弱々しく寄り添ってくるこの人を。

今だけは、離したくなかった。

 

「……ほんと、ずるい人だ」

 

眠る零奈さんへ、小さく呟く。

当然、返事はない。

 

ただ。

安心しきったように僕へ身体を預ける温もりだけが、静かに伝わってくる。

 

静かな夜。

誰も知らない部屋の中で。

少しずつ。

確かに、関係が変わり始めていた。

 


 

翌朝。

 

「…………」

 

朝食の席へ座った瞬間。

全員の視線が、こちらへ集中した。

 

「……何」

 

嫌な予感しかしない。

すると。

 

「へぇ~?」

 

最初に口を開いたのは一花だった。

妙にニヤニヤしている。

 

「昨日、和真君自分の部屋に帰ってないよね?」

「っ……」

 

その瞬間。

隣で味噌汁を飲んでいた零奈さんの肩がぴくっと揺れた。

 

「え?」

 

二乃が反応する。

 

「ちょっと待って」

「まさか」

「いや、違──」

「和真君」

 

五月がじーっとこちらを見る。

 

「昨日、お母さんの部屋にいたの?」

「……看病してただけだって」

 

即答する。

嘘ではない。

本当に看病していただけだ。

……ただ。

 

『……離れたくなくなります』

 

昨夜の零奈さんの声が、不意に頭を過ぎる。

 

「っ……」

 

駄目だ。

思い出した瞬間、顔が熱くなる。

 

「ふぅ~ん?」

 

二乃がニヤニヤしながら覗き込んでくる。

 

「和真、今なんか思い出した?」

「別に」

「嘘下手」

 

即答だった。

 

「しかも顔赤いし」

「カズマ、分かりやすい……」

 

三玖まで小さく呟く。

 

「……カズマ」

 

そして。

三玖が、小さくこちらを見上げた。

 

「……ほんとに、看病だけ?」

「三玖まで!?」

 

しかも微妙にジト目である。

珍しい。

 

「いや、本当にそれだけだから!」

 

慌てて否定する。

すると。

 

「へぇ~……」

 

二乃が、ちらっと零奈さんを見る。

 

「じゃあ何でお母さんそんな顔赤いのかしら?」

「っ……!」

 

一斉に視線が集まる。

 

「ね、熱がまだ少し残っているだけです!」

 

珍しく動揺していた。

耳まで真っ赤だ。

 

「ふーん?」

「怪しいねぇ~♪」

 

一花と二乃が完全に面白がっている。

 

「もしかしてお母さん、昨夜何かあったとか?」

「な、何もありません!」

 

即答だった。

けれど。

明らかにいつもより取り乱している。

そして。

ちらっ、と。

零奈さんの視線がこちらへ向く。

目が合った瞬間──

 

「っ……」

 

ふわっと頬が赤く染まった。

 

「「「「あーーー!!」」」」

 

五つ子達の声が揃う。

 

「絶対何かあったじゃない!」

「和真君!?」

「説明!説明求む!」

「だから看病してただけだって!」

 

必死に否定する。

本当に、それ以上の事はしていない。

……していない、はずなのに。

 

『……あたたかい』

『……安心します』

 

昨夜の零奈さんの声が、頭から離れない。

 

「っ……」

 

思わず視線を逸らす。

すると。

 

「へぇ~?」

 

二乃が、さらにニヤニヤした顔になる。

 

「その反応、ますます怪しいんだけど?」

「違うって!」

「……カズマ」

 

その時。

三玖が、ぽつりと呟いた。

 

「……私も、今度また一緒に寝る」

 

真顔だった。

 

「いや待って三玖!?」

 

この子、“また”って言ったよ!

そうなると──

 

「ちょっと待ちなさいよ!」

 

案の定、二乃が食いついた。

 

「アンタいつの間にそこまで進んでたのよ!?」

「この間……キスもした……いっぱい」

「ぶうぅっ!!」

 

危うく味噌汁を吹き出すところだった。

 

「ちょっ!?三玖!?」

「え?」

 

きょとんとしている。

この子、自覚無しで爆弾を投げてくるタイプだ。

 

「……いっぱい?」

 

一花がぴくっと反応した。

 

「待って待って?三玖もうそんなとこまで進んでるの!?」

「……恋人だから問題ない」

 

三玖は淡々としていた。

けれど。

耳だけは真っ赤だった。

 

「問題大アリよ!!」

 

二乃が机を叩く。

 

「何よそれ!?そんな話聞いてないんだけど!?」

「言ってないから」

「そういう問題じゃなーーい!!」

 

朝から騒がしい。

すると。

 

「キ、キスってそんな何回もするものなの……?」

 

五月が顔を真っ赤にしながら呟いた。

 

「え?五月したことないの?」

「なっ……!?」

 

一花の追撃に、五月の顔がさらに赤くなる。

 

「そ、そういう一花だって無いでしょ!?」

「え~?どうだろうねぇ♪」

「絶対無いでしょ!!」

「ししし……みんな面白い顔してるねぇ♪」

 

四葉だけは平和だった。

そんな騒がしい空気の中──

 

「あらあら♪」

 

楽しそうな声が響く。

視線を向けると、母さんがニコニコしながらこちらを見ていた。

 

「青春してるわねぇ~」

「母さんまで混ざるの!?」

「だって面白いんだもの♪」

 

完全に楽しんでいる。

そして。

母さんはちらっと零奈さんを見ると──

 

「いいわねぇ、零奈」

「え?」

「最近和真に甘やかされてばっかりじゃない?」

「っ……!」

 

零奈さんの顔が一気に赤くなる。

 

「ひ、光莉!?」

「ほんと優しく育っちゃって」

 

母さんはくすくす笑う。

 

「昔は私にべったりだったのにねぇ」

「いや、そんな小さい頃の話されても……」

「ちょっと羨ましいかも♪」

 

さらっととんでもない事を言う。

 

「母さん!?」

「だって零奈、昨日すっごく安心した顔してたもの」

「っ……!」

 

零奈さんが完全に固まった。

その横で──

 

「おにいさま」

 

小さな声。

いつの間にか花音が、僕の服をちょこんと掴んでいた。

 

「どうした?」

「れなさん、きょうずっとえがおなのです」

「っ……!」

 

今度こそ、零奈さんが言葉を失う。

 

「花音ちゃんまで……」

「おにいさま、れなさんとなかよしなのです?」

 

無邪気な瞳だった。

悪意ゼロ。

だからこそ破壊力が高い。

 

「ち、違いますから!?」

 

零奈さんが慌てて否定する。

けれど。

 

「ふーん?」

「怪しいねぇ~♪」

 

一花と二乃は完全に面白がっていた。

そんな中。

 

「……ふふ」

 

三玖だけが、小さく笑った。

 

「カズマ、人気者」

 

その言葉に。

なぜだか、誰より三玖が一番余裕を持っている気がした。

 

……いや。

余裕というより。

ちゃんと、信じてくれているのかもしれない。

そう思った瞬間。

胸の奥が、少しだけ温かくなった。

 

・・・・・

 

「じゃあ行ってきます」

 

騒がしい朝食を終え、玄関で靴を履く。

すると──

 

「……和真さん」

 

後ろから、小さく呼ばれた。

振り返る。

そこには、エプロン姿の零奈さんが立っていた。

 

「はい?」

「その……」

 

少しだけ迷うように視線を揺らしてから。

 

「昨日は、本当にありがとうございました」

 

柔らかな声。

そして。

 

「……ちゃんと、眠れました」

 

小さく微笑む。

その表情を見た瞬間。

昨夜、肩へ預けられた重みが脳裏を過ぎる。

 

『……安心します』

「っ……」

 

また顔が熱くなる。

 

「……なら良かったです」

 

なんとかそれだけ返す。

すると。

 

「へぇ~?」

 

背後から、にやにやした声。

 

「お母さんだけ特別感出てない?」

「二乃うるさい」

「だって怪しいもの~♪」

「怪しくありません!」

 

珍しく、零奈さんが強めに否定する。

けれど。

耳が真っ赤だった。

 

「ふふ……」

 

三玖だけが、小さく笑っている。

そんな中──

 

「おにいさま!」

 

花音がとてとてと駆け寄ってきた。

 

「いってらっしゃい、するの」

 

そう言いながら、ぎゅっと僕の服を掴む。

 

「はいはい」

 

しゃがみ込み、頭を撫でる。

すると花音は嬉しそうに目を細めた。

 

「えへへ……」

 

その様子を見ていた母さんが、くすっと笑う。

 

「ほんと和真って、昔から面倒見良いわよねぇ」

「母さんが色々押し付けてきたからだろ」

「あら、感謝してほしいくらいよ?」

「どの口が……」

 

呆れながら返すと、母さんは楽しそうに笑った。

そして。

ちらっ、と零奈さんを見る。

 

「でも最近は、花音より零奈の方が甘やかされてる気がするわねぇ?」

「っ……!?」

 

零奈さんの肩がびくっと跳ねた。

 

「ひ、光莉!?」

「あら違う?」

「違います!」

 

即答だった。

しかし。

 

「でも昨日、お母さん和真君に抱きついてたよね?」

 

一花がさらっと爆弾を投下した。

 

「なっ……!?」

 

零奈さんが固まる。

 

「え!?」

「抱きついてたの!?」

「和真君!?」

 

一気に空気が変わった。

 

「いや待て待て待て!!違うから!?」

 

慌てて否定する。

 

「零奈さん熱で朦朧としてただけだから!」

「へぇ~?」

 

二乃がニヤニヤする。

 

「でも和真、ちゃんと受け止めてたのよね?」

「そりゃ押し返せないだろ!」

「ふーん♪」

 

完全に面白がられている。

すると。

 

「……ずるい」

 

ぽつり、と。

 

三玖が呟いた。

 

「え?」

「……私も、抱きつく」

 

真顔だった。

 

「いや三玖!?」

 

すると今度は。

 

「じゃあ私も」

「私も~♪」

「私だって!」

 

一花、二乃、五月まで乗ってくる。

 

「増えるな!!」

 

思わず叫ぶ。

そんな僕達を見ながら──

 

「……ふふ」

 

零奈さんが、小さく笑った。

昨夜より、ずっと自然な笑顔だった。

それを見た瞬間。

胸の奥が、少しだけ温かくなる。

すると。

 

「……和真さん」

 

零奈さんが、そっとこちらを見る。

 

「はい?」

「今日、帰ったら少しお話出来ますか?」

 

柔らかな声だった。

けれど。

その瞳は、どこか昨夜より近い。

 

「……別に構いませんけど」

 

そう返した瞬間。

 

「……ありがとうございます」

 

零奈さんが、少しだけ嬉しそうに笑った。

その表情に──

また心臓が跳ねる。

 

「おー?」

 

二乃が即座に反応する。

 

「何その空気?」

「怪しい」

「怪しいねぇ~♪」

「だから違うって!」

 

慌てて否定する僕を見ながら。

母さんだけが、どこか意味深に笑っていた。

 

「……青春ねぇ」

 

ぽつり、と母さんが漏らす。

 

けれどその横顔は。

少しだけ。

本当に少しだけだけど──

どこか羨ましそうにも見えた。

 

「……母さん?」

 

思わず声を掛ける。

すると母さんは、はっとしたようにこちらを見て。

 

「んーん、何でもないわ♪」

 

いつもの調子で笑った。

けれど。

その隣で。

 

「……光莉」

 

零奈さんが、小さく名前を呼ぶ。

二人の視線が、一瞬だけ重なる。

その空気が妙に自然で。

長い付き合いだからこそ分かるものが、そこにはあった。

 

「……?」

 

少しだけ気になったけれど。

その前に──

 

「はいはい注目ー♪」

 

一花がパンっと手を叩いた。

 

「そろそろ学校遅刻するんじゃない?」

「っ、やば」

 

時計を見る。

完全に時間が危なかった。

 

「ほら和真、行くわよ!」

「和真君、急がないと」

「もう騒ぎすぎなのよアンタ達は!」

 

二乃と五月に急かされる。

 

すると。

 

「……カズマ」

 

三玖が、小さく袖を引いた。

 

「ん?」

「……今日」

 

少しだけ視線を逸らす。

 

「腕、組んで歩きたい」

「っ……」

 

不意打ちだった。

しかも本人は、かなり勇気を出して言っているのだろう。

耳がうっすら赤い。

 

「……分かったよ」

 

そう返した瞬間。

 

「……ん」

 

三玖が、少しだけ嬉しそうに目を細める。

そして自然な動きで、そっと腕へ抱きついてきた。

柔らかな感触と体温に、一瞬だけ思考が止まりかける。

 

「ちょっ……近い」

「……恋人だから問題ない」

 

真顔だった。

 

「いや、その理論強すぎるだろ……」

「むぅ~……」

「何だよ二乃」

「なんか三玖だけ距離感ズルくない?」

「……恋人だから」

「さらっと言うなーー!!」

 

朝から響く二乃の叫び声。

その騒がしさに、思わず笑ってしまう。

すると。

 

「……和真さん」

 

また、小さな声。

振り返る。

そこには、エプロン姿の零奈さん。

昨夜とは違う。

ちゃんと“母親”の顔をしている。

……なのに。

目が合った瞬間だけ。

ほんの少しだけ。

昨夜の、弱く甘えた表情が重なって見えた。

 

「……いってらっしゃい」

 

柔らかな声。

 

「……はい。行ってきます」

 

そう返す。

すると零奈さんは、安心したように小さく微笑んだ。

その笑顔を見た瞬間。

また昨夜を思い出しそうになって。

 

「っ……」

 

慌てて視線を逸らす。

 

「和真君?」

「いや、何でも!」

 

絶対顔赤い。

そう思いながら玄関を出ると──

 

「ふふ……」

 

後ろから、小さな笑い声が聞こえた。

 

春の朝の空気は、まだ少し冷たい。

けれど。

 

胸の奥だけは、不思議なくらい熱を持ったままだった。

 




ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!

今回は、

・弱った零奈の“甘え”
・揺れる和真の心
・三玖の恋人としての距離感
・そして朝の大騒動

を中心に描いてみました。

特に今回は、零奈の“母親”ではなく、“一人の女性”としての弱さや安心感をかなり意識しています。

普段しっかりしている人ほど、誰かへ寄りかかれた時に一気に気が緩んでしまう。

そんな空気を書きたかった回でした。

そして和真も、三玖への想いは変わらないまま、それでも零奈の温もりを“手放したくない”と思ってしまう。

この“罪悪感混じりの優しさ”は、今後の関係性にも少しずつ影響していきます。

一方で三玖は、かなり恋人らしく積極的になってきました。
ですが、ただ独占するだけではなく、ちゃんと“信じようとしている”のが今の三玖でもあります。

次回もよろしくお願いします!

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