恋人として隣に立つ事を隠さなくなった三玖。
そして、そんな三玖を見て少しずつ焦り始める姉妹達。
今回はかなりラブコメ強め回になりました。
食堂で騒がしい五つ子達を楽しんでもらえたら嬉しいです!
昼休み。
「和真、食堂行きましょ♪」
「だね」
二乃の言葉に同意するように立ち上がると、当然のように二乃が僕の右腕へ自分の腕を絡めてきた。
「いや、何これ……」
「あら、いいじゃない♪ 食堂までエスコートお願いね♡」
「あのねぇ~……」
何を言っても無駄だと分かっているので、そのまま教室を出ようとする。
もちろん──
「リア充爆発しろーー!!」
「毎日毎日イチャつきやがって!!」
「吉満ぅぅぅ!!」
男子達の罵声付きである。
「だから何で僕が悪いんだよ……」
軽くため息を吐いた、その時だった。
「……カズマ」
不意に、小さな声で呼ばれる。
見ると、隣のクラスの扉から三玖がこちらへ歩いてきていた。
そして──
ぎゅっ……
「っ!?」
真正面から、いきなり抱き締められる。
「ちょっ……! 三玖!?」
突然の事に思わず固まる。
すると。
「ちょっ……! 三玖! 何してんのよアンタ!?」
二乃が即座に反応した。
……いや、アンタが言わないでほしい。
「私はカズマの彼女……だから抱きしめた……」
三玖は真顔でそう返す。
「ぐっ……」
二乃が一瞬言葉に詰まった。
完全に正論だった。
しかも最近の三玖は、以前よりずっと素直だ。
好きなら甘える。
触れたいなら触れる。
恋人なんだから当然。
そんな風に、自分の気持ちを隠さなくなってきている。
「……カズマ」
抱きついたまま、三玖がこちらを見上げる。
「食堂、一緒に行く」
「いや、今見ての通り色々と塞がってるんだけど」
右腕には二乃。
正面には三玖。
完全に身動きが取れない。
「離しなさいよ三玖!」
「二乃こそ離して」
「私は許嫁候補なの!」
「私は恋人」
「ぐっ……!」
二乃がまた詰まった。
強い。
最近の三玖、妙に強い。
すると周囲の生徒達が、ざわざわとこちらを見始める。
「また吉満だ……」
「昼休みまで修羅場してる……」
「羨ましすぎるだろ……」
完全に見世物状態だった。
「……なぁ、僕帰っていい?」
「駄目…」
「逃がさない♡」
左右から即答される。
「人権は!?」
思わず叫ぶと──
「……ふふ」
胸元から、小さな笑い声が聞こえた。
見ると、三玖が少しだけ嬉しそうに笑っている。
その表情が妙に柔らかくて。
……今朝。
『腕組んで歩きたい』と勇気を出して言ってきた時の顔を、少しだけ思い出した。
「……カズマ?」
三玖が不思議そうに見上げてくる。
「いや、別に」
慌てて視線を逸らす。
すると。
「へぇ~?」
今度は二乃がじーっとこちらを見ていた。
「何その顔」
「何って?」
「今、三玖見てちょっと優しい顔してた」
「は?」
「ほらやっぱり!」
二乃がむっと頬を膨らませる。
「最近ほんと三玖に甘くない!?」
「恋人なんだから普通だろ」
「うっ……!」
今度は二乃が言葉に詰まった。
すると三玖が、小さくこちらの制服を掴む。
「……カズマ」
「ん?」
「今日、隣座る」
「食堂混んでたら無理かもな」
「……むぅ」
ほんの少しだけ不満そうな顔。
その反応が可愛くて、思わず笑ってしまう。
「空いてたらな」
「……ん」
途端に機嫌が直る。
分かりやすすぎる。
「何なのその空間……甘すぎるんだけど……」
二乃が呆れたように呟く。
けれど──
その横顔は、少しだけ寂しそうにも見えた。
最近の三玖は変わった。
前よりずっと素直で。
前よりずっと積極的で。
そして──
ちゃんと、“恋人”として隣に立とうとしている。
だからこそ。
二乃も。
一花も。
五月も。
少しずつ、焦り始めているのかもしれなかった。
「ほら、行くぞ」
そう言うと、三玖はこくりと頷く。
二乃はまだ不満そうだったけれど、それでも腕は離さない。
結局。
右に二乃。
左に三玖。
そんな状態のまま、僕達は食堂へ向かう事になった。
「吉満ぅぅぅ!!」
「羨まけしからんぞぉぉ!!」
背後から男子達の悲鳴が飛ぶ。
……もう慣れたけど。
やっぱり、少しだけ胃が痛かった。
「……三玖?」
後ろから声が聞こえる。
振り向くと、竹林と真田が立っていた。
「あ、コマツ…」
「やっぱりここだった」
竹林が苦笑する。
一方で真田は、三玖が抱きついている腕を見て──
「……なるほど」
妙に真面目な顔で頷いた。
今更だが、真田の下の名前は
僕は普段から名字で読んでるが、五つ子は下の名前で呼んでいる子もいる。三玖がそれである。
「何がなるほどなのよ」
「最近の中野の成績変動理由」
「は?」
二乃が怪訝そうな顔をする。
すると真田は、真顔のまま続けた。
「以前より集中力が安定してる。授業中にぼーっとする回数も減った。あと表情が柔らかい」
「……」
「つまり精神状態が安定した結果、学習効率が向上してる可能性が高い。結論。原因は吉満」
「いや分析するなよ!?」
思わずツッコむ。
すると真田は不思議そうに首を傾げた。
「事実だろ」
「真田君、そういう問題じゃないの!」
竹林が吹き出した。
「ふふっ……真田ってほんとブレないよね」
「恋愛はよく分からん」
「分からんでその分析してるの怖いわよ……」
二乃が若干引いている。
すると。
「……でも」
真田が、ちらっと三玖を見る。
「前の中野より今の方が自然だと思う」
「っ……」
三玖が少しだけ目を丸くする。
「前は、周囲を気にしすぎてた。今はちゃんと自分で選んで動いてる感じがする」
淡々とした口調。
でも。 だからこそ、その言葉は変に真っ直ぐだった。
「……そう、かな」
「少なくとも今の方が見てて分かりやすい」
「何その感想……」
竹林が苦笑する。
すると真田は、少しだけ考えるようにしてから。
「あと吉満」
「ん?」
「リア充爆発しろ」
「結局それ言うのかよ!?」
僕の心の叫びが廊下に木霊するのだった。
「これはいったい……?」
食堂の一角。
僕達が座るテーブルを見ながら、一花が引きつった笑みを浮かべていた。
「どういう状況?」
「はい、カズマ……あーん……♡」
「和真♡ 次は私よ。はい、あーん……♡」
「んぐっ……!」
二乃と三玖が、完全に左右から僕を挟み込んでいた。
しかも距離が近い。
近すぎる。
二乃は腕が触れるくらい密着しているし、三玖に至っては当然みたいに肩へ寄り掛かってきている。
向かい側では、竹林が頭を抱えていた。
「何なのこれ……」
「僕が聞きたいよ……」
一方で。
「important……重要な」
「efficient……効率的な」
真田だけは、いつも通り単語帳を捲りながら昼食を食べていた。
「真田、よくその状況で勉強出来るな……」
「慣れた」
「慣れるなよ……」
すると──
「ずるい!二人ばっかり和真君に食べさせるなんて不公平!」
そう言いながら、五月は竹林の隣へ座る。
そして。
「はい、和真君♡あーん……♡」
少し照れながらも、一生懸命箸を伸ばしてきた。
「……ん」
僕はそのまま口を開ける。
「あっ……」
五月が少しだけ目を丸くした。
多分、断られると思っていたのだろう。
「……美味しい?」
「普通に美味しいよ」
「っ……!」
途端に五月の顔が赤くなる。
「えへへ……♪」
分かりやすすぎる。
すると──
「ぐぬぬ……」
二乃が面白くなさそうに頬を膨らませた。
「何よ五月まで……」
「べ、別にいいでしょ!?」
「完全に乗せられてるじゃない」
「うっ……」
図星らしい。
そんなやり取りの横で。
「……カズマ」
三玖が、こてんと肩へ頭を預けてくる。
「ん?」
「次、私」
そう言いながら、三玖が自分の弁当から卵焼きを摘まむ。
「あーん」
「いや、食べるペース早くない?」
「冷める前が美味しい」
「絶対違うだろ」
苦笑しながら口を開けると、三玖は少し満足そうに目を細めた。
「……ふふ」
その笑顔が妙に柔らかくて。
最近、本当に表情が増えたと思う。
「……何かさぁ」
すると、一花がじーっとこちらを見ながら呟いた。
「三玖、最近すごい彼女感出してくるよね」
「……恋人だから」
「うわ強い」
一花が苦笑する。
すると竹林も、小さく頷いた。
「確かに最近の三玖、前より素直になったわよね」
「……そう?」
「うん」
竹林が優しく笑う。
「前はもっと遠慮してた感じだったし。今はちゃんと甘えてる感じする」
その言葉に、三玖が少しだけ目を瞬かせる。
「……甘えてる」
「自覚なかったの?」
「……少しはある」
ぽつり、と呟く。
そして。
「……でも」
三玖はそっと僕の袖を掴んだ。
「カズマが、ちゃんと受け止めてくれるから」
「っ……」
不意打ちだった。
「ぐはっ……」
「竹林?」
「今のは普通に破壊力高い……」
竹林が机へ突っ伏す。
すると。
「中野」
真田が、単語帳を見たまま口を開いた。
「最近かなり精神状態安定してるよな」
「急に分析始めるな」
「以前より表情筋の動きも柔らかい」
「お前ほんと何見てんの?」
僕が呆れると、真田は淡々と続ける。
「あと吉満といる時だけ声のトーン違う」
「っ……!」
三玖の肩がぴくっと揺れた。
「……ほんと、よく見てるよね真田」
「観察は勉強の基本」
真顔だった。
「恋愛興味無いくせに何でそこだけ鋭いんだよ……」
「人間観察は嫌いじゃない」
そう言いながら、真田はまた単語帳へ視線を戻す。
すると──
「むぅ……」
二乃が、むすっと頬を膨らませた。
「何か三玖ばっかりズルくない?」
「え?」
「だって最近のアンタ、和真に甘え放題じゃない!」
「……恋人だから」
「またそれぇぇ!!」
二乃が机を叩く。
その様子に、一花が吹き出した。
「ふふっ……二乃、完全に押されてるじゃん」
「うるさいわね!」
「でも実際、焦ってるでしょ?」
「っ……!」
一瞬だけ、二乃が言葉に詰まる。
図星だったのだろう。
すると。
「……二乃も」
三玖が、小さく口を開いた。
「和真に甘えればいい」
「……は?」
二乃が目を丸くする。
「別に、我慢しなくていいと思う」
「三玖……」
その言葉は、本気だった。
勝ち誇る訳でもなく。
牽制する訳でもなく。
ただ自然に、“好きなら甘えればいい”と言っている。
だからこそ。
二乃は一瞬だけ、返す言葉を失っていた。
「……ほんとアンタ変わったわね」
ぽつり、と二乃が呟く。
すると三玖は、少しだけ考えるようにしてから。
「……カズマが変えてくれたから」
静かに、そう答えた。
その瞬間。
「おい吉満」
「何だよ真田」
「爆発しろ」
「結局それ言うのかよ!!」
食堂中へ、僕のツッコミが響いた。
すると。
「ふふっ♪」
楽しそうに笑いながら、一花が頬杖をつく。
その隣では、二乃がまだ不満そうにむすっとしていた。
「でもさぁ?」
一花が、くるっと視線を向ける。
その先には──
五月の隣で昼食を食べている風太郎と四葉の姿があった。
そして。
「target……目標」
「efficient……効率的な」
風太郎は、真田と同じように単語帳を片手に昼食を取っている。
「上杉君まで何で勉強してるの……」
五月が呆れたように言うと、風太郎は視線を上げないまま返した。
「昼休みも貴重だからな」
「うわぁ……勉強人間」
「お前らがサボりすぎなんだ」
真顔だった。
すると、一花がにやっと笑う。
「ねぇ四葉?」
「ふぇっ!?」
突然名前を呼ばれ、四葉の肩がびくっと跳ねた。
「四葉達はしないの?」
「な、何を!?」
一花はちらっとこちらを見る。
「“あーん”とか♡」
「ぶふっ!?」
四葉が盛大にむせた。
「い、一花ぁぁぁ!?」
「え~?だって恋人同士なんだから普通じゃない?」
楽しそうに笑う一花。
「四葉もフータロー君へ“あーん”したかったり?」
「し、しないよそんなのぉ!!」
顔が真っ赤だった。
すると。
「別にしたけりゃすればいいだろ」
風太郎が、単語帳を見たまま淡々と言った。
「ふぇっ!?」
今度は四葉が完全に固まる。
「ふ、風太郎君!?」
「何だよ」
「そ、その反応ズルいよぉぉ……!」
四葉が頭を抱える。
その様子に、二乃が吹き出した。
「何よ四葉、分かりやすすぎでしょ」
「だ、だってぇ……!」
耳まで真っ赤である。
すると五月が、ぽつりと呟いた。
「上杉君、最近こういう空気に慣れてるね?」
「慣れないとやってられん」
即答だった。
「ししし……風太郎君も大変だねぇ♪」
四葉が笑う。 けれど、その顔はまだ赤いままだった。
そんな中。
「……カズマ」
三玖が、こてんとこちらの肩へ寄り掛かる。
「ん?」
「……私達も、あーんする?」
「いや何で対抗しようとするの!?」
「恋人だから」
「便利だなその言葉!?」
思わずツッコむと、食堂中へ笑い声が広がった。
すると。
「……でも」
竹林が、ふっと笑う。
「何かこういうの、前より自然になったよね」
「自然?」
「うん」
竹林は、五つ子達を順番に見渡した。
「前はもっと遠慮してたり、気遣いすぎたりしてたじゃない?」
「……」
「でも最近は、ちゃんと自分の気持ち出してる感じする」
その言葉に。
「……そうかも」
ぽつり、と五月が呟く。
「前より、みんな素直になってる気はする」
「五月……」
すると一花が、にこっと笑った。
「だってさぁ?」
そして。
「好きな人がいるなら、遠慮してる場合じゃないもんね?」
その一言で。
一瞬だけ。
食堂の空気が、少し変わった。
「……」
二乃が黙る。
五月も。 そして三玖も。
それぞれ違う表情で、こちらを見ていた。
けれど──
「まぁ、私は遠慮する気ないけどね♪」
次の瞬間、一花がいつもの調子で笑う。
「空気変えんなよ!?」
「だって重くなりそうだったし?」
「一花らしいわね……」
二乃が呆れたように笑う。
すると。
「……カズマ」
三玖が、そっとこちらの袖を引いた。
「ん?」
「……負けない」
小さな声。
でも。
その瞳だけは、真っ直ぐだった。
「いや、何の勝負なの……」
そう呟きながら。
僕は小さく息を吐く。
……けれど。
誰より楽しそうに笑っている五つ子達を見ていると。
悪くないな、なんて思ってしまう自分もいた。
ご読了ありがとうございました!
今回は、
・彼女力が高すぎる三玖
・押され気味な二乃
・テンパる四葉
・勉強人間すぎる風太郎&真田
など、かなり賑やかな回になりました。
最近の三玖は「恋人だから」が強すぎますね……。
そして、少しずつ変わり始めているのは三玖だけではありません。
和真を中心に、五つ子達の距離感も少しずつ変化していきます。
もちろん、零奈との関係も──
次回も楽しんで頂けたら嬉しいです!
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