クルシュが記憶を失い、一年が経過した。
王選開幕からクルシュ陣営は不運に襲われたが、今では下馬評どおり、他者の追随を許さない権勢を誇る。
——故に、彼女が姦計に堕ちているなどと、思い至る者は誰もいない。
カペラと亜獣は屋敷から去り、事件の詳細はメッカートにすら伏せられ、内々に処理された。
以後も『クルシュ』の活動は変わらず、各所に耳心地のいい言葉を触れ回った。それで一定の成果を上げたが、この半年で陣営の勢いに拍車をかけた人物がいる。
大旦那。
『クルシュ』の弱みを握り、調教を指示した張本人である。
ポンプ、生石灰、クランク、ベアリング、タービン。彼は希代の発想を元に智者たちを巻き込み、莫大な利益を生んだ。
そんな大旦那を公爵家が支援したことで、急速に国内の商人からの支持を稼いだのである。
加えて、彼の助言は的確に陣営の利を生み続けた。
陣営内での発言力も日に日に増し、補充された別邸の使用人も、大半は彼の紹介によるもの。無論、『クルシュ』も承知の上だ。
彼女に大旦那への不信感は既になく、むしろ
気づけば表面上、公爵家は平穏を取り戻し、盤石そのもの。
その間にフェリスは、主の歪みを修正しようと励んでいた。成果は芳しくはないが。
それでも少しずつ、フェリスは『クルシュ』と絆を結び直せている実感を得ていた。
彼女の内心と、少しずつすれ違っているとも知らずに。
♦
水の刻・水門都市プリステラ『水の羽衣亭』
「さあ、フェリス。お口を開けてください」
「うーん、まさかの展開。それじゃあお言葉に甘えまして、あーん♬」
女物の浴衣を着た『クルシュ』が、同様に
その光景は主従というより、仲睦まじい恋仲のようで。
「なるほど。エミリー、ちょっとわたくしにも食べさせてもらえますかしら?」
「あら、アンネったら。なんでも真似したくなるお年頃なのね」
『クルシュ』達と卓を囲むのは、まずは子供の成長を慈しむように微笑むエミリアと、それを逆手に下心を働かせるアンネローゼ・ミロード。
「エミリア様。でしたら僕が承ります」
「そう? じゃあ、おまかせしちゃおうかしら」
「どうしてそうなりますの! 空気を読みなさいなラインハルト…!」
主の雑事を率先して引き受ける『剣聖』に、少女は不満顔。
エミリアに過度な親愛を向けるアンネローゼにとって、主に負けず劣らずの天然ぶりを発揮するラインハルトは、彼女の目の上のたんこぶとして君臨していた。
「……ふむ。心配していた、などと上から物を言うつもりはないが。健勝そうで安心したよ、ラインハルト」
「ありがとう。主の信を得られなかった不甲斐ない身上にもかかわらず、エミリア様たちには厚く遇して頂いているよ」
『最優の騎士』ユリウス・ユークリウスは友の言葉に滲む懊悩を読み取る。それでも、彼の変わらぬ壮健な姿に、ひとまず安堵した。
ラインハルトの元主君、王選候補者・フェルト。
彼女はアストレア家から逃走し、最初の脱落者となった。
その後、辺境伯とエミリアによる幾度もの説得の結果、今の『剣聖』はエミリアに剣を捧げていた。
「ホンマ、みんな元気そうで何よりやわぁ。……元気過ぎて、ウチの支持層にもなんや手ぇ広げ始めてるみたいやし?」
各陣営をこの水門都市に招待した張本人であり、ユリウスの主。アナスタシア・ホーシンが両候補に向けて軽く踏み込む。
「たまたま良い縁に恵まれまして。エミリア様にもご協力頂き、感謝しております」
そのジャブを涼しい顔で躱し、『クルシュ』が矛先を逸らす。
「便利なものが広まれば、みんなすごーく喜ぶもの。協力するのは当然のことだわ」
善行を為せたと、エミリアが素直に喜ぶ。
「そういうトコは相変わらずやねぇ」
邪気のない返答に、アナスタシアは毒気を抜かれる。
新参ゆえに販路の乏しかった大旦那の商品だが、辺境伯領での積極的な誘致を取っ掛かりに、国内の販路を拡大していた。
エミリア陣営にも王国随一の有力者との友好のアピールと、地元の商人筋の顔つなぎという利点がある。取引は彼女のイメージ払拭の一助となっていた。
「エミリーの可愛さは、まだ市井には知れ渡っておりませんもの。そこを解決しないことには、王選の勝利など夢のまた夢ですわ」
「偏見に曇った世間の目では、エミリア様の愛らしい魂の輝きを理解するには至らぬのです。憐憫」
「目の曇った大人の一人が言うと説得力がありますわね」
エミリアとアンネローゼの後ろに控える片目をモノクルで覆った男。アンネローゼの執事・クリンドが主人から辛辣な言葉を返される。
エミリアには、邪悪な振る舞いを辞さない、世界を恐怖に包んだ魔女の再来、という風聞が付きまとう。
焼け石に水にも思えるが、彼らは一人でも多くに本来のエミリアの姿を届けようと活動をしているようだ。
そうして『クルシュ』・エミリア・アナスタシア三陣営の主と従者。各々が歓待の席に着いたところで、
「さっそくなんだけど、——フェルトちゃんの行方が分かったって、本当なの?」
エミリアが本題へと切り込む。
自らの騎士の心中に、トゲとなって突き刺さる存在。この優しき少女は、彼の為に商人の誘いに乗ったのだ。
「正確には手掛かり程度、やね。あの子の保護者さんの足跡がつかめたんよ」
「……ロム殿のことですね」
乳飲み子だったフェルトを育てた、禿頭の巨老。彼がカララギで確認されたとの事だ。
フェルトのたった一人の家族である彼がいるのであれば、あるいは。
「良かったわね、ラインハルト。早速会いに行かなきゃ」
エミリアが気色ばんで再会を促すが、
「——いいえ。フェルト様が屋敷からお逃げになられた時は、私はあの方を追いかけないと約束しました。それを反故にする訳には参りません」
騎士の中の騎士が、元主と交わした誓いを持ち出して固辞する。
「……ラインハルトは、それでいいのかな?」
フェリスが、同僚に疑問を投げかける。
まるで、自身に燻る問いの答えを求めるかのように。
「あの方の無事が分かれば、あとは何も望まないさ。それに、元よりフェルト様は、僕という理不尽を嫌っておられたからね」
「もしまたあの子らのことで、何か分かれば教えたるさかい。ま、今度はタダとはいかへんけどね」
「かまわないわ。お願いします」
エミリア主従が、揃って頭を下げる。
彼女にとって、己の騎士の内なる願いはそれほどに重要なのだ。たとえ、本人がそれを否定したとしても。
「では、今度はこちらの番ですね。——大罪司教『暴食』の件について。伺ってもよろしいでしょうか」
もはや魔的ともいえる、一層磨きのかかった容貌でアナスタシアを見据える『クルシュ』。
その切れ長の瞳にかつての雰囲気が見え隠れし、フェリスは心臓を掴まれる思いを抱いた。
♢
冥日地の刻・和室
「どうしましたか、フェリス?」
「あの~、『クルシュ』様? そうあからさまに隙を見せられたら、すぐメロメロにニャっちゃうので。ちょーっとおぐしを整えて頂けると、ありがたいかなって…」
浴衣の前をほどき、フェリスの目下に座り込む『クルシュ』。昼間はサラシで抑えていた母乳体質Lカップが、着衣の
「では、直して頂けますか?」
「ええっと、それはちょっとぉ……」
フレデリカにも付いてきてもらえば良かったと、フェリスは後悔する。
以前なら即座に着崩れを直したが、二人の距離感は前とは違う。彼はもう、雄にしかなれないのだ。
「ふふ、ちょっと意地悪でしたね。この格好、わざとだって言ったら……どうします?」
「……っ!」
蠱惑的な微笑みが、雄をゆさぶる。
「好きな男の子には、積極的に長所を誇示すべきなのでしょう?私も常日頃から学んでいるのですよ」
自身ありげに、『クルシュ』が淑女としてあるまじきアピール法を誇る。当のフェリスには相当効いているため、あながち間違いとは言えないが。
(好きな男……ネ)
従者の胸が、チクリとした痛む。
フェリスも大好きだった、殿下への罪悪感が募る。
「『クルシュ』さまは、私のどんニャ所を…好いてくれていますか?」
フェリスの問いかけに、彼女はかわいらしく口元に指を当て、恥ずかしそうにはにかむ。
「そうですね…いつも明るく私を勇気づけてくれる所、男の人に適切でないかもしれませんが…かわいい所、献身的に私を支えくれつつも、私にはない視点や気づきをくれる所、その他には…」
「あれまあ。私の事、大好きじゃニャいですかあ」
「分かってくれましたか?……至らない私を、常に想ってくれる。あなたの存在は、私の人生で最も尊い宝なのですよ」
「——!」
大量の好意をぶつけられ、思わず胸が高鳴る。しかし、
「なにより……私にとって、『初めての男の子』ですから。特別です♡」
その言葉に、フェリスは戦慄した。
そういった基準で、男女の仲を判断するのが悪いとは言わない。でも少なくとも、クルシュ様は、そうではなかった。
「では、フェリスはどうなのですか?」
『クルシュ』が谷間を見せびらかしながら、肌が触れ合う距離まで詰め寄る。令嬢が彼の手に、そっと指を絡め取っていく。
——鼻先から向けられる、雌の視線。
抱き心地抜群、感度抜群、男の自尊心を際限なく高めてくれる柔らかい体。乳白色の甘露を垂らすぷっくり乳首。異常な量のフェロモンを含んだ、ピンク色の汗を流す汗腺。
傍にいるだけで、理性が飛びかける。
そのピンクの汗は勝手に周囲を発情させる為、水魔法で体臭の元の物質を分解しなければ、まともな外出も適わないほど。
そんな無自覚な全身凶器が、遠慮なくフェリスを誘惑してきている。一度囚われれば、魔法を練る余裕など保てない。後は絡め取られるのみ。
「あ…♡ この子はもう、その気になってくれたみたいですね♡」
「ま、待って『クルシュ』さま…もぅ…」
————捕まった。
浴衣を押し上げる男性器を指で撫でられ、腰をヘコヘコ打ち付けたい欲求が止まらなくなる。フェリスのオスの部分はもう、彼が女の子のフリをすることなど許しはしない。
「ああ…相変わらず、すごい匂い♡♡」
「は、恥ずかしいんですから…言わニャいでくださいよお」
フェリスが毎日念入りに洗い、内外の物質を分解しても、改造男根はすぐに醜悪な香りを醸す。もはや切り落として根本的に弄らないと駄目なのでは、と本気で悩んでいた。
「いいではないですか、臭くて男らしいチンポ。フェリスのチンポだとすぐ分かって、私は嬉しいです♡」
敬愛する主の言葉とはいえ、さすがにそんな所で褒められても嬉しくはない。
衣擦れの音が響き、ケダモノが人のフリを辞める。こうなってはもう、いつもの流れであった。
♢
「目を、閉じていただけますか?」
『クルシュ』がフェリスの肩を抱き、唇を重ねる。
誰かに強制されたからではない。己の意思で、愛を確認する。
カペラがいなくなっても体の疼きは止まず、ふたりは一日一回は情交に勤しんだ。そんな毎日が、二人の間に新しい絆を育んだ。
「む…ん…ぢゅるっ♡」
「ふんふゅふぁ…んんっ♡」
寝具の上で横向きに抱き合い、令嬢の舌が騎士の口腔を這い踊る。
名うての娼婦もかくやという絶技。別離の間に仕込まれた手管が戸惑う雄を襲う。
「ぷはっ……♡」
二人の距離がゼロになる。触れ合う鼻。あの日と変わらぬ澄んだ瞳。フェリスの理性が愛に解され、チンポが最大まで肥え太っていく。
ムクムクムク…チュク♡
伸びた男根が、対面の令嬢の膣穴に先っちょをかける。
「ん……♡ フェリス、来てください……♡んぅ…ふぅぅ……♡」
「んもっ!?」
結合直前のフェリスを追い立てるように、『クルシュ』がフェリスの上の口に吸いつき、酸素を肺腑から根こそぎ奪っていく。
口内の所有権を占領され、フェリスの思考から余裕が消える。
彼にできるのは、主の意のままに、興奮した愚息で雌の花弁を押し開いていくことのみ。
——仕方ない。これは、『クルシュ』様の為なんだから。
浮かれた頭で言い訳したフェリスは、主人が広げた片脚を抱える。
口づけを交わしたまま、開いた蜜壺の奥に逸物を挿し込んでいき、
とぷん♡♡♡♡
フェリスの魔改造ペニスが、開拓済みの女性器にみちみちと埋まる。
ぱちゅっ♡ ぱちゅっ♡ ぱちゅっ♡ ぱちゅっ♡
お互い全身をぴったり重ね、杭打ちが始まる。
下の口は待ちわびたかのように肉棒を抱き締め、上の口は大量生産された唾液をフェリスの口内へ次々と流し込む。
「んく…んく……♡ ん゛っ!♡♡♡」
「~っ!んんっ……!」
『クルシュ』が息荒く、ビクビクと震える。
密着セックスで即イキした膣内が、雄の興奮を更に駆り立てる。上下の吸い付きはなおも止まず、フェリスは彼女に喰われているかのような錯覚を得る。
こちゅ♡ こちゅ♡ ごちゅっ♡♡♡
「ちゅ♡ むぅ…♡ あふ……♡ あ゛ぶっ♡♡♡」
主の分泌物に犯されながらも、負けじと煽り合うように子宮を叩く。
膣奥を叩き上げると、『クルシュ』がくぐもった声を上げる。
ガクガクッ!♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ!♡
酸素を奪われ続けたせいで意識が明滅し、小刻みに腰が震える。
「ん゛むうう゛う゛ぅう゛♡♡♡♡」
酸欠間近でもかまわず、『クルシュ』はびっしり詰まったひだ肉を扱い、しっかりチンポを追い詰める。
ビクッ…♡ ビクッ…♡♡
抵抗すらできず、フェリスの脳が快感に焼ける。やはり、彼は彼女には勝てない。
挿入からまもなく、あっさり決壊させられてしまった。
どぶりゅりゅ♡♡ びゅりゅびゅりゅびゅりゅ♡♡ びゅぐううっ♡♡♡♡
「~~っ♡ っ~~~♡♡」
飲まされた汁が、丸ごと精液として出ていくようだ。
従者のカラダの支配権が、どんどん主人の汁液に代わられていく。
(最高に、気持ちいい……♡)
「あっ♡ はっ……♡ はぁああ……♡」
心臓の鼓動が重なり、相手の存在をより身近に感じる。
頭を占める幸福感の前に、フェリスもまた溺れていった。
〇大旦那
本作でのモットーは「いのちだいじに」。なお自分が救った命を弄ぶことには躊躇しない。商人としての邁進の影には公爵と辺境伯、ついでにケティ・ムッタートら行商人の助力があったというのが、王都商業組合および秘密機構「六枚舌」の調べ。クルシュ・エミリア両陣営に協力的であり、彼らの王選戦略との見方が強い。
クルシュの調教は途中からオメガ任せ。童貞には荷が重い。彼女を利用して王戦の動向を操作する。エミリア第一は揺るがないが、自分と関わりある者には多少の情はある。
『怠惰』討伐の張本人だが、大罪司教会議にも顔を出す。「自分はアイツらとは違う」というメンタリティは参加資格としては十分。