※この作品はR-18です。

ツギハグクルシュとアヤマツ六連星   作:クラムP

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20『オレンジ色の一等星』(なし)

帝都ルプガナ

 

 

 ルグニカ王国より南、ヴォラキア帝国にて勃発した、帝国正規軍と反乱軍との国を分ける内乱。その衝突を、死者の軍勢が横からかっ攫った。桃色髪の少女の屍人『魔女』スピンクスは彼らを引き連れ、即座に帝都を占拠した。

 

 祖国に密入国し、内乱に参じたプリシラ・バーリエルは母であるヨルナ・ミシグレと共に、かつての乳姉妹『九神将』アラキアと交戦していた。

 その後、突如湧いて出た屍兵(かばねへい)の群れと接敵。あわや囚われの身となるかと思われたが——

 

「ああまったく、予定が狂いっぱなしだ。覚えていろよあの劣等!」

 

 美女たちと不死人の間に割って入った、闖入者の首輪がカチャリと鳴る。

 

「疾く足を動かせ下郎。その首繋がっていられるは、貴様の働き次第じゃと理解せぬか」

 

「オレの背にしがみくだけの能無しが吠えやがる。振り落とすぞ?」

 

 巨大な獅子の図体を持った獣人、ヘイデン・ガロがプリシラたちを連れ去る。『雷光』不在の地上において最大の移動力を持つ獅子は、瞬く間に屍兵を置き去りにせしめた。

 

 

 

 

♢

 

 『魔女』の造物目的、——概ね達成。

 

 大精霊・『石塊(いしくれ)』ムスペルの定着地に敷いた魔法陣により、莫大なマナを供給。『不死王の秘蹟』と復元魔法の混成術式によって屍人を生み出し、それらの魂の在り方を学び、『強欲の魔女』の再現にほぼ成功。

 

 『魔女』の宿願、——未達。

 

 ヴォラキアの大地を支え、生命に豊穣を与える『石塊』を亡き者にし、ヴォラキア帝国の繁栄を終わらせる手筈を整えた。魔晶砲、魔核の暴走、水晶宮のマナを用いた大魔法。反抗する者たちを葬る手段も揃えた。

 しかし、宿敵プリシラ・バーリエルに、故国の滅びを見せつけねば。

 

「——要・反省です。これでは意味がありません」

 

「そうそう! 人生を豊かにするに食卓に必要なのは愛! 執念! 達成感! 長々と延々と溜め込んで溜め込んで、ぐっつぐつ煮込んで煮えたぎってなくちゃァ意味がない!」

 

 三十人に並列再現した『魔女』スピンクスたち。彼女らの前に薄い胸の少年と、スピンクスが使役しているはずの屍兵たちが乱入する。

 

「ウん百年煮詰め続けた『強欲の魔女』の失敗作! こんなにも美味そうなら、きっとルイの機嫌も治るに決まってる!」

 

「ワタシの素性を知っているのですか。ですが、あなたの説述に付き合うつもりはありません。——要・排除です」

 

「いいね、いいよ、いいさ、いいとも、いいから、いいじゃない、いいだろうさ、いいだろうとも、いいだろうからこそッ! 暴飲ッ! 暴食ッ!」

 

 王国よりはるか離れた帝都にて、『魔女』と大罪司教『暴食』ライ・バテンカイトスが激突する。

 

 

 

 

 

♢

 

 

「——領域展開、思考実験開始」

 

 世界に対する宣戦布告。

 

「——領域展開、マトリクス再定義」

 

 彼女を中心に、世界を回すために。

 

「——思考実験再動、領域再定義」

 

 道化は回す。何度も。何度でも。

 

 『巨眼』イズメイル。『怪腕』ロンダンド。『白雲公』ガオラン・ペイシット。『腑分け』ヴィヴァ。『毒姫』ラミア・ゴドウィン。

 

 やり直し、やり直し、その全てを振り切り、彼女を探して荒廃していく帝都をひた走る。

 白く美しい顔(かんばせ)――橙色の髪に紅の瞳、血のように赤いドレスを纏った美貌の持ち主。道化ことアルデバランの主、プリシラ・バーリエルを。

 

 その時、アルの前に陽光が瞬く。道化を焦がす太陽は、いつ何時も輝きを放ち、

 

 

 ——今まさに道化の前で、獅子を一刀のもとに斬り伏せていた。

 

 

「はあっ!?」

 

 プリシラが虚空から抜いた真紅の宝剣が、ヘイデンをみるみる炭化させてゆく。

 

「害虫、風情が…。助けた恩すら、覚えられない、とはな…」

 

「ぬかせ。貴様は今、妾が手ずから屠ると決めた。大人しく燃え尽きよ」

 

「おおう、この傍若無人っぷり。まさしくオレの姫さん」

 

 業火が獅子人の毛皮を焦がし尽くし、奴隷の首輪が溶けて落ちる。

 

「誰が貴様のものか、たわけ」

 

 自分を咎めるプリシラの声に、アルは安堵を浮かべる。

 

「そうそう、これこれ。…ってかそのライオンステーキどうしたよ。ウェルダン通り越してカリッカリの炭になっちまったけど」

 

「わっちらを担いで、あの血色の悪い帝国兵らの元から逃してくれたのでありんす。それをこの子が、急に無体な真似をしんした」

 

「説明あざっす。それだけ聞くとそいつはメッチャ親切な奴で、姫さんが恩知らずの極悪人っぽくなんだけど、そこんとこどーなん?」

 

「なにが親切なものか。あやつの目が。表情が。態度が。全てが妾を奸計に嵌めようと喧しく囀っておったであろうが。妾を浅ましい企てに巻き込もうなど、片腹痛いわ」

 

 聡明なプリシラの判断。それだけでアルは、それが真実なのだと断定する。違っていたとしても、死人に口なし。真なる事実など、アルデバランにとってはさして重要ではない。

 

「何はともあれ、無事でよかったぜ。まあ、姫さんの心配をオレがするなんざ、千年早いかもしれねぇが」

 

 プリシラとも合流し、あとはこの魔境から逃げるのみ。

 

 

「無事じゃと? ——馬鹿を申すな」

 

 

 一。

 

「っ! ドーナ!」

 

 プリシラの前に飛び出した石柱が、差し込む瞬光によって脆くも崩れ去る。

 

「何も終わってなどおらぬ」

 

 数キロ先の認知外から標的を撃ち抜く、バルロイ・テメグリフの『魔弾』の光。加えて、

 

「うおあああああ!!」

 

 上空から齎される息吹が、帝都の建築物をバラバラに、ない交ぜに吹き飛ばす。解体された家々による質量弾が、プリシラたちに迫る。

 

 二。

 

 アラキアを背負うヨルナの『魂婚術』は、愛するモノへ力を分け与える。それは愛する対象と認めたプリシラに加え、彼女たちを守るべしと、自身の背中を押すことでヨルナ自身にも尋常ならざる力をもたらす。よって、この状況でまず残骸に飲まれるは——

 

 四十七。

 

「ほっ、はっ、ぃよっとぉ!」

 

 アルが破壊された建築物の残骸を足場に、羽でも生えたかの如く飛び跳ね、乗り越える。上空を支配する巨影からの脅威に遭おうと、未だ欠員なし。

 

「あの竜人の娘に……テメグリフ一将でありんすか!?」

 

「大方彼奴の狙いは、妾たちをあの者らの視界へ誘い込むことであったろうな。」

 

 『雲龍』メゾレイアと『魔弾の射手』。新旧『九神将』の遠距離攻撃の使い手たちが、一行を追い立てる。

 

「まずいぜ姫さん! 帝都にいた奴等はゾンビ共以外撤退を始めてる! 俺たちもさっさととんずらしねぇと、このまま狙い撃ちされちまう!」

 

「もう遅い」

 

 プリシラの足元から這い出でた屍兵。蘇ったヘイデン・ガロが、彼女の喉元へ喰らいかかる。

 

五十二。

 

 それもアルの土魔法がすんでの所で獅子の牙を阻害し、プリシラの陽剣が再び斬り捨てる。あえなく、獅子人の屍が土へと還る。

 

 

——そ(・)し(・)て(・)、(・)盤(・)面(・)は(・)完(・)結(・)す(・)る(・)。

 

 

「は?」

 

 空の彼方から降り注ぐ、白い光を知覚した頃にはもう遅い。それはまるで嘲笑うかの如く、プリシラ主従を飲みこんでいった。

 

 

 

 

 

 

♢

 

 

 

 おそらく未来で起きた結果を観測する、『死に戻り』に似た能力を持つ男。プリシラの騎士・アルデバラン。

 

「誰を当ててもアイツを殺しきれねぇんだから、クソゲーすぎて初めは絶望したもんだぜ」

 

 だが、この乱戦の中でついに見極めた。奴(アル)は、そう長い時をやり直せる訳ではない。少なくとも、シュバルツの権能で上限を捉え得る範囲だ。

 

「なら、最後にどんな手を打とうが、どうにもならねぇ状況に追い込めば良い。まるで将棋だな、ってか。……いや、あれはちょい違うな」

 

 幸いあの男には、無視できない存在(プリシラ)がいる。

 

「どれだけ世界があの女に都合の良いようにできてようが、隙が無いワケじゃねえ。自分の親兄弟を捨てられずに捕まるくらいだからな。ある意味安心したぜ」

 

 『陽剣』ヴォラキアを持つプリシラを、屍どもは逃さない。

 

「屍兵に捕まった時点で、プリシラはい(・)ず(・)れ(・)死(・)ぬ(・)。どういう頭してんのかは知らねぇが、目聡いあの女は嫌でもヘイデンの助け舟に乗る」

 

 ヘイデンがどの位置で見限られようと、『魔弾の射手』の狙撃と『雲龍』メゾレイアの破壊の息吹と熱線は、『陽剣』の主を即座に釘付けにする。シュバルツがそう仕向けた。

 

「そんな可哀そうなご主人様を、アルデバランは救おうとする。プリシラを見捨てる選択肢を、あいつは選ばない」

 

 水晶宮に設置された国土防衛の切り札たる対軍兵器・魔晶砲。スピンクスが『暴食』に釘付けの今、この兵器はアルデバランを追い込む最後の一手として、シュバルツらが拝借している。

 砲撃の照準は、マーカーである屍人ヘイデン・ガロ。彼がプリシラに纏わりつく限り、極光は必ず彼女を滅する。

 

 その破滅を、アルデバランは見過ごせない。

 

 

「——っ、次、だ」

 

 六十。

 

 あの極光は陽剣でも焼き斬れず、『魂婚術』による身代わりも全て貫く。帝国が誇る秘奥ですら太刀打ちできない脅威に、アルデバランの拙い手札が敵う訳もない。マーカーを陽剣で斬ろうと、既に砲撃の準備は終えた後だ。

 

 百三十四。

 

 着弾地点と思しき獅子人の屍人を遠ざけるも、それでは間に合わない。

 アラキアを死ぬ気で叩き起こすも、彼女の行動を『針』が阻害して間に合わない。アラキアを守れば、彼女以外が『魔弾』と息吹によって散る。

 

 四千五百八十一。

 

 逃走ルートを『針』の弾幕と風の斬撃が阻む。アルデバランと相性の悪い、超遠距離からの攻撃が複数枚。全て対処しようと、砲撃の回避に間に合わない。

 

 二万千七百六十三。

 

 迎撃、不可能。回避、不可能。絶対に、誰かが犠牲になる。

 

 十万。

 

 『魔弾の射手』と『雲龍』に降伏を嘆願するも、届かない。

 

 百万。

 

 

 千万。

 

 

 

 

 

 ————詰み。

 

 最悪の可能性が、現実のものとなって突き刺さる。それでもアルデバランは、億に一つの可能性を手繰る。己が擦り切れるまで、彼は諦めない。

 

「アル、もうよい」

 

「…うるせぇ! 良くねぇっ! やめる、理由がねぇ!」

 

 兜の中からの怒号。アルがなおも運命を変えようと足を動かす。

 

 彼の望みは、彼女の華々しい舞台を囃す狂言回し。弱く、間抜けで、時に主役の先回りをし、死なない。主役の為の都合の良い端役。

 傲岸不遜を絵に描いた、天球にふんぞり返る太陽のようなこの女の為なら、アルデバランは何だって出来る。

 

「あまり駄々を捏ねるな、アルデバラン。そうまでして妾の気を惹きたいか?」

 

「——ああ、そうだとも。姫さんのハートをつかむ為なら、どんな対価だって払ってやる…!」

 

 また獅子人が斃れる。致命の白光が降り注ぐまで、もう幾何か。

 

 プリシラは、彼の変化を理解した。詳細を知らずとも、アルが途方も無い奮闘に身を捧げていることを。自分の道化が、最(・)後(・)に(・)自(・)分(・)を(・)生(・)か(・)そ(・)う(・)と(・)し(・)て(・)い(・)る(・)ことを。

 

「あいにく、妾は貴様の思い通りになぞならぬ。全ては妾の望むまま。故に、妾はここにおる」

 

「ああ、そうさ。それが姫さんだ。だからオレは、そんな姫さんについていく。今までも……これからもだ」

 

  荒げた気が収まり、口ぶりと黒兜からは感情が読み取れない。…彼女を除いては。

 

「妾を前にまた戯言を吐くとは。努々、貴様という奴は不遜であるな」

 

「悪ぃな姫さん。でも、オレってやっぱ、男の子なんだわ」

 

「——————」

 

 アルは気の抜けた声でそう言い終えると、兜を上に向け押し黙る。

 

 

「——大儀である」

 

 そこからは、もう何も言うことはなかった。

 プリシラが堂々たる歩みでヨルナたちの前に立つ。己を見据える灼熱を秘めた紅の瞳から、道化は目を離せない。

 

 その眩しさに誰もが目を焼かれ、存在を意識せざるを得ない『太陽姫』。

 

「——————オル・シャマク」

 

 術者以外の対象を隔離するため、亜空間が彼女らを包み込んでいく。遺された男が最後に見た光は、億を超えるほど垣間見た白光などより、遥かに美しく煌めいていた。

 

 

 

 

 

 

♢

 

 

 

 

 黒いガラス玉に、亀裂が入る。『陽剣』が異空間を切り裂き、世界に太陽が再臨する。

 

 アルが展開した禁忌の牢獄は、魔女因子を持たぬ者には本来の拘束力を発揮しない。その不完全な拘束を、『陽剣』は主の意のままに切り裂いたのだ。

 

 帝都を両断した魔晶砲が通り過ぎた跡地には、プリシラと、気絶したアラキアを抱くヨルナだけが存在している。

 黒兜の道化が立っていた位置には、もう何もありはしない。

 

 …一瞬だけ。

 …一瞬だけ、プリシラの紅の瞳が揺らめく。

 

 我が身を犠牲にして彼女を守った従者の功績に、短く息を吐く。

 

 

 ————それが、彼女の最期であった。

 

 

「プリスカ・ベネディクト」

 

 

 彼女の背後に転移してきたナニカが、彼女の玉体に触れる。

 

 ——プリシラ・バーリエルには、己以外の弱点が多い。

 

 彼女の敗因は、己を守り塵と消えた道化に、数瞬でも心を砕いたこと。彼女がもし愛を知らぬただの暴君でさえあれば、彼女に待つのは永遠に勝利だけだった。

 

「イタダキマァス」

 

 世界から愛され、それ以上に世界を愛した。燃えるような愛を宿した彼女だからこそ、

 

 プリシラ・バーリエルは、ここで敗北したのだ。

 

 




『茨の呪い』の描写は省略しました。雷光の晴れ舞台は用意されず。タンザの願いも叶わなかった。
◯ヘイデン・ガロ
獅子人の半獣族。自尊心が高く、稀血を持つ自分以外の人種・亜人種を劣等種と見下す。自らを王と自称し、己の王国を築く野望を抱き工業都市コスツールで騒動を起こした。しかし計画は失敗、シュバルツの奴隷となる。彼に殺意を向けつつも、フレデリカという報酬をぶら下げられ彼の指示に従う。帝国での作戦に参加した時点で、彼に捨て駒以外の道はなかった。
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