TSメンヘラ強化人間戦記 作:可哀想は可愛い
シャア・アズナブルに私は惚れたらしい。この胸の高鳴りはそうとしか考えられない。でも、どうすれば良いのだろうか。シャアと恋人になりたいとか、結婚したいとか、そういうことは思っていない。勿論、セックスすることも考えていない。
でも、傍にいて抱きしめて欲しい。安心して私の存在を担保して欲しい。私がここにいて良いのだと言ってほしい。
自分勝手だ。けど、そんなことでウジウジ悩んでいる暇はない。好きに生きても良いだろう。
「大佐、私、大佐の武器になりたいんです。私を使ってください。対価として、私を抱きしめてください」
「……分かった。君がそう言うのなら、私は君の意志を尊重する」
すごく恥ずかしいことを言っている。おかしくなっているのが自覚できた。シャアの横顔をチラっと見る。仮面のせいで表情は分からない。
分からないことが、すごくもどかしかった。なんで、こんなふうに思ってしまうのだろう。私は、恋人でもなんでもないのに……
「よう。嬢ちゃん。アンタの機体は、大佐のゲルググだよ。ガキンチョにMSの操縦なんて本当に出来るのかねぇ?」
「エンリケ伍長、貴方こそなんでここに居るんですか?」
「そりゃあ、俺がMS乗りだからだよ」
目の前の男がMS乗り? 正直、そんなふうには見えない。歩兵崩れだろうと思っていた。
「おいおい、アンタ俺が歩兵だと思ってたか?」
「MSパイロットの癖に、私の見張りなんてやってたの?」
「鬱っぽくてな、外されてたんだよ」
伍長は、シミュレーターを軽く叩いた。そして、自信に溢れた顔で、ニッと笑った。
「ガキに負けるほど衰えちゃいねぇ。稽古を付けてやるよ」
「大人気ないおじさん……」
「言ってろ。叩きのめしてやる」
ゲルググのシミュレーターに、パイロットスーツを身に着け座る。私のパイロットスーツは、フラナガン機関の生き残りが提供したようだ。
「よし、席に着いたな。じゃあ始めるぜ」
エンリケ伍長の合図でシミュレーターが起動する。2機のゲルググが、相対する。
「貰った!」
先手を取ったのは私では無かった。伍長だ。コイツ、長距離狙撃用の機体を使ってやがる……
「卑怯じゃ有りませんか!?」
「ゲルググキャノンを使うなとは言われてないぜ。俺は狙撃手だからな」
「クソぉ」
重力戦線でもスナイパーだったのだろう。動きが手慣れている。足を止めることなくデブリを盾にし、宇宙空間を逃げ回っている。
「推力はこっちの方が上! 近付いて仕留めるだけ!」
「甘いぜ。そんなこと百も承知だからな」
モノアイが一瞬だけ何かを捉えた。機雷だ。伍長、相当性格が悪い。
「逃げるのだけは得意だったんだ。俺との距離は縮まらないぜ」
「この!! 落ちろ!!」
ビームライフルを乱射するが全く当たらない。ひょっとして、私は射撃が下手くそなのではないか……?
「下手くそだな。それじゃあ、フィナーレと行こう!」
「そんな弾が当たるかぁ!!」
伍長の撃ったスナップショットを、最小限の動きで躱す。機雷なんて怖くない。ゲルググの推力なら、当たらないはずだ。
「おい!! なんで爆発しねぇ!? インチキだろ! あぁ! クソ!」
伍長が、何やら喚いている。私は強化人間だ。そのスペックを発揮しただけである。大口を叩くだけあって、伍長はそれなりの腕前だった。私の方が上だった。それだけである。
「どうですか? 負けた感想は?」
「おかしいだろ。ニュータイプって奴は化物かよ……」
「私の腕前は、分かりました?」
「ああ。存分に分かったよ」
「じゃあ、私とペアを組みましょう」
伍長は、ポカンと鳩が豆鉄砲で撃たれたような表情を浮かべた。口が開いている。
「……お前、前線に出るつもりか?」
「はい。そのつもりです」
私が言い切ると、エンリケ伍長は、こめかみを抑えた。頭が痛そうだ。
「お前みたいなガキが、前線に出るな。大佐の命令か? 俺は絶対に反対だからな!」
「いえ、私の意思です。大佐の役に立って、いっぱい抱きしめて貰うんです」
「……俺で良かったら幾らでも抱きしめてやるぞ?」
「嫌ですよ。なんで無精髭の中年男性に抱き締められなきゃいけないんですか??」
エンリケ伍長は、渋面を浮かべていた。「そんなにイケメンが良いのか…? ロリコンめ」などと呟いている。
「リィナ・ファレンス伍長。シャア大佐から、調整の依頼を受けています。こちらへ」
「大佐から? 調整設備なんてここに有るの?」
「ええ。ア・バオア・クーにも、フラナガン機関の研究所は有りますから。大佐のゲルググも、ここで作られています」
「そう。じゃあ、分かった。痛くしないでね」
フラナガン機関に所属しているという女を見る。褐色の肌に銀縁の眼鏡。髪は石炭のように黒い。痩身で、見るものに冷徹な印象を与えるだろう。
「あなたの名前は?」
「名前? 私の名前ですか?」
「そう」
「私は、アミラ。アミラ・ラミアです」
アミラが覗かせた舌は、二股に分かれている。スプリット・タンというものだろう。ピアスが舌に挿れられており、淫靡とも思える妖艶さが、彼女には有った。