「志保、今度店を大きくできるぞ」
あの日の夫の笑顔が、今もまぶたに焼き付いている。その声は希望に満ちていて、私たち夫婦の未来が輝かしく思えた。でも、たった三ヶ月で、すべてが崩れ去った。
業者の倒産、出店計画の頓挫、そして残された多額の借金。
現実は無情にも、私たちの夢を粉々に打ち砕いた。
夫と二人で必死に駆けずり回った。夜も眠らずに働き、貯金を切り崩し、友人知人に頭を下げた。
でも、集まったお金は焼け石に水。建設会社の香川社長に支払いの延期を懇願した時の、あの冷たい視線が今も忘れられない。
「私たちの関知するところではありませんな。支払うべきものは、きちんと払ってもらわねば」
夫の肩が落ちた。その姿を見ているだけで、私の胸が締め付けられるようだった。
「そこをなんとか……店がきちんと立ち上がりさえすれば、お支払いできるんです」
「社長さん、お願いします!」
声を振り絞って頼んだのに、香川社長の目は氷のように冷たかった。
「奥さん、今の状況で、どうやって立ち上げるんですか」
その言葉に、私は言葉を失った。夫の夢、私たちの未来が、この男の前にひれ伏している。
「残念ですが、期限は今月末ですよ」
夫が力なく席を立つ姿を見ながら、私は涙をこらえた。追いかけようとしたその時、背後から低く、しかし明確な声が聞こえた。
「まぁ、奥さん……貴女次第では考えなおしてもいいんだよ……」
振り返ると、香川社長が険しい皺深い顔をにやっと歪めていた。
その視線は、私の肌を這うように感じられ、鳥肌が立った。
「し・失礼しますっ」
私は思わず身を縮めた。
「せいぜいあがいてみなさい。私はいつでも待ってますよ」
その言葉が、私の耳から離れなかった。夜ごとに、夫の苦悩の表情を見るたびに、その言葉が蘇る。彼の夢を叶えるために、私に何ができるのか。その答えが、私を追い詰めていった。
「だめだっ。明後日までに……なんとかしないと……くそっ!」
「……あなた……」
「くそっ!あの建設費用さえ……なんとかなれば……」
夫の苦渋の表情を見ながら、私もまた深く悩んでいた。そして、ついに決意した。
「………私……うん……ちょっと行ってくる」
「志保?」
「そういえばもう1件あてがあったの、思い出したの」
夫を安心させようと、私は笑顔を作った。でも、心の中は嵐のようだった。白いシャツとジーンズに履き替え、家を出た。駅に向かう足取りは、鉛のように重かった。
(……私が……私が頑張らなくちゃ……こうするしかない……)
手にしたスマホで、香川社長に電話をかける。指が小刻みに震える。コール音が鳴るたびに、心臓が口から飛び出さんばかりだ。六度目のコール音が終わろうとした時、香川の野太い声が聞こえた。
「そうか……連絡をくれると思っていたよ……」
その声に、私はさらに緊張した。
「奥さん、貴女は賢明な選択をしたんだよ。これで彼も救われる」
その言葉が、私の心をさらに重くした。
夫を救うためとはいえ、私が選んだ道は、あまりに心苦しい。
指定された料亭に到着し、女将に導かれて奥座敷へ。去り際の女将の視線が、私をさらに不安にさせた。香川社長と向き合って座る私。緊張で身体が強張り、料理の味もわからない。お酒を勧められるままに飲み、頭がぼうっとしてくる。
(夫のために……私にできることはこれだけ……)
罪悪感が胸を締め付ける。でも、夫の笑顔を取り戻すためなら、と自分に言い聞かせる。
「あ……あの……今月末の……お支払いなんですが」
震える声で尋ねると、香川はゆっくりと頷いた。
「あぁ……わかっておるよ……私は約束は守るよ」
そして、香川はふすまを開けた。そこには、一組の布団が敷かれていた。
「……さぁ、奥さん……はじめようか」
私の身体が強張る。後悔が胸をよぎるが、もう引き返せない。
(夫のために……)
「これで彼は店を開くことができる……貴女は一晩、身を委ねるだけ」
香川の言葉が、私の心をさらに追い詰める。私は立ち上がり、香川をきっと睨んだ。でも、彼の貫禄ある視線に、目を背けるしかなかった。
(夫のために……私ができることはこれだけ……)
白いシャツのボタンを一つずつ外すたびに、私の心は鉛のように重くなっていった。
夫のために、店のために、そして何より家族の未来のために。でも、この選択が正しかったのか、今さらながらに疑いが湧き上がる。香川の視線が私の肌を這うように感じ、全身が強張り、鳥肌が立つ。
志保が白いシャツのボタンを一つずつ外す様子を、香川は静かな目で見つめていた。彼女の指先が震えているのがわかる。その震えは、彼女の内なる葛藤と覚悟を物語っていた。
「さぁ、奥さん。脱ぎなさい。」
その声は優しいが、どこか冷たく、私を縛り付ける。私は彼を睨みつけるが、彼の貫禄ある視線に圧倒され、目を背けるしかなかった。白いブラが露わになると、自分の胸が小刻みに震えているのがわかる。夫以外の男にこんな姿を見られるなんて、想像もしていなかった。
(私は、夫のためにここにいる……これ以上、彼に苦しませたくない……)
涙がこぼれそうになるのを必死にこらえた。夫の笑顔を思い浮かべ、私は自分に言い聞かせる。
(今夜が終われば……夫は救われる……)
目を閉じ、深く息を吸う。私の心は、夫への愛と、自分自身への罪悪感で引き裂かれそうだった。でも、その愛が、私を前に進ませる力となっていた。
(あなた……どうか、許して……)
涙が、静かに頬を伝った。私の白いシャツが、月光に照らされて淡く輝いていた。
その光景は、どこか儚く、そして美しかった。
香川が近づいてくるのがわかる。私は目を閉じたまま、彼の視線を感じていた。
(夫のために……)
その一言が、私の心を支えていた。でも、私の心は、すでに千々に乱れていた。
――――私は、夫のために、ここにいる。
香川の腕に抱き寄せられ、私は目を閉じた。夫の声、笑顔、そして夢が頭をよぎる。涙がこぼれるのを感じながら、私は自分に言い聞かせた。
(ごめんね、あなた。でも、これしか方法がなかったの。)
彼の手が私の肌に触れるたびに、心が引き裂かれるようだった。でも、もう後戻りはできない。夫のために、私は今夜を耐えなければならない。
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志保が白いシャツのボタンを一つずつ外す様子を、香川は静かな目で見つめていた。
彼女の指先が震えているのがわかる。その震えは、彼女の内なる葛藤と覚悟を物語っていた。彼は彼女の気丈さに感心しつつも、どこか冷めた視線を向けていた。これはあくまで取引であり、感情の入り込む余地はない。
(ふふ…気丈な女だ。しかし、今夜が終われば、彼女はもう今の彼女ではなくなる。)
そして、ソファに腰掛け、志保の動きをじっと見守った。彼女の目にはまだ夫への愛と決意が宿っていたが、それも時間の問題だろう。不貞の快楽が彼女の心を侵食するのを、楽しむかのように待っていた。
彼女の芯の強さに敬意を抱きつつも、今宵の終わりには彼女が変わることを確信していた。