※この作品はR-18です。

絶対支配者のコレクション ~弄ばれる女神たち~   作:カイト__

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愛玩人形の涙 ~檻の中の目覚めと偽りの歌~

【序章:繰り返される夜伽、虚無の旋律】

 

プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルの私室。そこは、プラントの最高権力者たる彼が、公務の喧騒から離れて束の間の休息を得るための、極めてプライベートな領域であると同時に、ミーア・キャンベルにとっては、自身のアイデンティティと尊厳が夜ごと、少しずつ、しかし確実に踏みにじられ、快楽という名の甘美な毒によって精神が蝕まれていく、美しくも残酷な檻となっていた。壁一面を覆う書棚には難解な専門書が整然と並び、最新鋭の音響設備からは静かにクラシック音楽が流れ、磨き上げられたマホガニーのデスクが重厚な存在感を放つ。しかし、その知的な空間には不釣り合いなほど大きなキングサイズのベッドが置かれ、壁には、プラント国民が崇拝する歌姫、ラクス・クラインの慈愛に満ちた微笑みを浮かべた肖像画が飾られている――それは、皮肉にも、今ここにいるミーア自身の姿を模したものでもあった。豪華な調度品も、静謐な音楽も、そしてあの肖像画さえも、この部屋で密やかに行われる倒錯的な行為の、冷たく無関心な傍観者のように、ただそこに存在していた。窓はなく、外界からの光は一切入らない。完璧な防音設備が、ここでの出来事を完全に外部から遮断している。まるで、彼女の絶望を閉じ込めるかのように。

 

今夜もまた、ミーアは、いつから始まったのかも定かではない、まるで決められた精密な儀式のように、デュランダルの前に裸のまま跪き、彼の気まぐれな要求に、ただ従順に応えていた。部屋の隅に置かれた間接照明だけが、柔らかな、しかしどこか陰鬱な光を投げかけ、彼女の若々しくも、意図的に作り上げられた豊満な肢体を、まるで舞台上のオブジェのように官能的に照らし出している。公称98cmと発表されている、スレンダーな体には明らかに不釣り合いなほど豊かに膨らんだバストは、先ほどまでの彼の執拗な愛撫によって、既に鬱血したかのように赤く腫れ上がり、その先端は硬く尖って、更なる刺激、快感の訪れを待ち望むかのように、微かに、しかし絶えず震えている。コルセットで常に締め上げられている(今は外されているが)55cmの驚異的なくびれは、彼の大きな、しかし体温を感じさせない手に掴まれ、揉まれ、弄ばれ、まるで所有権を主張するかのように強く握られることもある。そして、87cmの丸みを帯びたヒップは、これから訪れるであろう、避けられない結合の予感を、あるいは既に体に刻み込まれた記憶からくる条件反射によって、無意識のうちに微かに震えていた。

 

彼女の体は、繰り返され、洗練されてきたデュランダルの「教育」――それは時に優しい言葉と甘い褒美であり、時に肉体的な苦痛と屈辱、そしてそれを上回る強制的な快楽を伴う調教だった――によって、彼の指の動き一つ、声の微妙なトーンの変化、視線のわずかな動きだけで、過剰なまでに敏感に、そして彼女自身の意思とは裏腹に、驚くほど正直に反応するように、完璧に作り替えられてしまっていた。もはや抵抗らしい抵抗を見せることはない。それは無意味であり、より激しい罰を招くだけだと、彼女は骨身に染みて理解していたからだ。それどころか、時には自ら彼の快楽を求めるかのような、媚びるような仕草さえ見せてしまうことすらあった。それは、彼に依存し、彼の機嫌を損ねることを極度に恐れる、歪んだ心理の現れだったのかもしれない。

 

しかし、その従順な行為の最中も、彼女の大きく、潤んで見える瞳には、深い、どこまでも深い、底なしの虚無感が、まるで暗い湖の底のように静かに漂っていた。感情というものが、完全に抜け落ちてしまったかのように。まるで、魂だけがこの汚れた肉体から遊離し、部屋の天井近くのどこか遠い場所から、今まさにデュランダルの手によって弄ばれ、喘ぎ声を上げている自分自身の醜態を、冷ややかに、他人事のように眺めているかのようだ。(ああ、また始まった。いつ終わるのだろう。早く、早く終わってしまえばいいのに…)そんな思考だけが、麻痺した意識の中を、ゆらゆらと漂っていた。

 

デュランダルの長く冷たい指が、粘度の高いローションで滑りを良くされながら、彼女の熱く湿った秘部を探り、その内部を、まるで精密機械の部品を点検するかのように、執拗に、そして的確に掻き回す。彼は、彼女の体のどこが最も敏感で、どのように刺激すれば最も効果的に快楽を引き出せるかを、知り尽くしていた。

「んっ……ぁ……はぁ……んぅ……」

ミーアの唇からは、まるでプログラムされた音声のように、自動的に、甘く、蕩けたような喘ぎ声が漏れ出す。体は、彼の指の動きに合わせて、意思とは無関係に自然と腰をくねらせ、快感を示すかのように蜜をさらに溢れさせる。その反応に、デュランダルは口元に満足げな、しかしどこか冷たい笑みを浮かべながらも、心の奥底では、ある種の物足りなさを感じているようだった。完全に支配し、快楽の奴隷にしたはずのこの人形が、絶頂の瞬間にさえ、時折見せる、この感情の欠落した虚無の表情。それが、彼の完全なる征服欲を僅かに刺激し、同時に、彼の支配がまだ完璧ではないのではないかという、微かな苛立ちをもたらしてもいた。彼は、彼女の体だけでなく、その魂までも完全に所有したかったのだ。

 

「どうした、ミーア? 声に心がこもっていないではないか」デュランダルは、指を動かしながら、静かに、しかし鋭く指摘した。「もっと感じているように、もっと私に溺れているように鳴いてみせろ。お前は、私の意のままに美しい声で鳴く、籠の中の小鳥なのだからな。その鳴き声で、私を楽しませるのが、お前の役目だろう?」

 

その命令に、ミーアはびくりと体を震わせた。そして、まるで操り人形の糸を引かれたかのように、より甲高く、より切なげで、より淫らな響きを持つ喘ぎ声を上げようと、必死に努める。しかし、どれだけ巧みに演じようとしても、その声はどこか空虚で、感情の伴わない、張りぼての旋律のようにしか響かなかった。魂の抜けた歌声のように。それでもデュランダルは、それ以上追求することなく、あるいはその空虚ささえも愉しむかのように、構わず彼女の体を貪り続けた。やがて、自身の昂りが最高潮に達すると、彼はミーアをベッドに押し倒し、その従順な(あるいは抵抗を諦めた)体の中に、自身の硬く熱いものを押し込んだ。激しい、しかしどこか機械的な結合。繰り返される、しかし魂の伴わない絶頂。そして、最後には必ず訪れる、白濁した精液による、屈辱的な汚染。全てが、いつものように、決められた手順通りに、しかしどこか色褪せた虚しい劇のように繰り返されていく。行為が終わると、彼は満足したのか、あるいはこの虚しい劇に飽いたのか、白濁と体液で汚れたミーアの体を一瞥もすることなく、無言で立ち上がり、隣接するシャワールームへと向かった。その背中には、何の感情も読み取れなかった。

 

【第一幕:冷酷な言葉、砕け散る幻想】

 

一人、静寂と薄暗闇の中に残された部屋。ミーアは、デュランダルの白濁した精液と、自身から溢れ出した愛液や潮、そして流した汗でぐっしょりと汚れた体を抱きしめるように、巨大なベッドの上で小さく蹲っていた。体の奥深くには、まだ彼の残した熱と、行為の後の鈍い疼きが残っている。しかし、それとは対照的に、心はまるで極北の氷原のように、どこまでも冷え切っていた。感情というものが、凍り付いてしまったかのようだ。

 

いつからだろうか。彼に抱かれることが、喜びや興奮ではなく、ただの「義務」や、こなさなければならない「行為」、あるいは「仕事」の一部としか感じられなくなったのは。かつては――彼に拾われ、「ラクス・クライン」という光を与えられたばかりの頃は――彼に求められることに、戸惑いながらも、確かに喜びを感じていたはずだった。彼に触れられるたびに、自分が特別な存在になったかのように感じ、本物のラクス・クラインに少しでも近づけるような、甘美な錯覚さえ覚えていたはずなのに。あの頃の、微かな高揚感や、彼への純粋に近い(と信じていた)愛情は、今ではもう、遠い昔の夢のように、跡形もなく消え去っていた。繰り返される夜伽の中で、何かが決定的に摩耗し、壊れてしまったのだ。

 

(私は、ただの道具なの…? 彼が望む時に、望むように体を差し出すだけの…?)

 

そんな疑問が、答えを求めて、冷え切った心の中をぐるぐると巡る。しかし、その答えを彼に問う勇気は、彼女にはなかった。真実を知るのが、怖かったのかもしれない。

 

その時、シャワーを終えたデュランダルが、上質なバスローブを無造作に羽織った姿で、部屋に戻ってきた。彼は、手に持った厚手のタオルで濡れた銀髪を乱暴に拭きながら、ベッドの上で蹲るミーアに、まるで床に落ちているゴミでも見るかのような、冷たい視線を向けた。

 

「…まだそんな汚れた格好でいるのか、ミーア。いつまで感傷に浸っているつもりだ? 早く後始末をして、次の“仕事”の準備をしろ。明日は重要な会議がある。お前には、私の隣で完璧な『ラクス・クライン』として微笑んでもらわねばならんのだからな。お前は、私の役に立つために、私の計画を成功させるために、ここにいるのだからな」

 

その言葉は、何の感情も抑揚も込められていない、完全に事務的な響きだった。まるで、性能の落ちた機械に対して、メンテナンスを指示するかのように。その非人間的な響きが、ミーアの心の奥底に眠っていた、最後の小さな何かを、不意に突き動かした。

 

「……閣下」

ミーアは、自分でも驚くほどか細い、しかし震えてはいない声で、彼を呼びかけた。デュランダルは、わずかに眉を上げたが、黙って彼女の次の言葉を待っている。

「わたくしは…閣下にとって、いったい、何なのですか…?」

 

それは、ずっと、ずっと心の奥底で燻り続け、しかし決して口に出すことのできなかった疑問だった。ラクス・クラインの代用品? 計画のための駒? 愛情の対象…などとは、もう思っていなかったけれど。それとも、ただの性の捌け口? 彼女は、答えを知るのが怖かったはずなのに、なぜか今、それを聞かずにはいられなかった。もしかしたら、心のどこかで、まだ僅かな期待を抱いていたのかもしれない。彼が、何か違う言葉を、ほんの少しでも人間らしい言葉を返してくれるのではないかと。

 

デュランダルは、一瞬、その問いに虚を突かれたかのように、意外そうな表情を浮かべた。しかし、それはほんの一瞬のことだった。すぐに、彼の唇には、冷たく、そして残酷なまでの冷笑が浮かんだ。

「何、だと? ミーア。そんな分かりきったことを、今更聞くのかね?」

彼は、嘲るような口調で答えた。

「決まっているだろう。お前は、私の手によって見出され、磨き上げられた、最高の“作品”であり、私の理想を実現するための、最も“便利な道具”だ。プラントの民衆を導き、私の計画への支持を集めるための、美しいスピーカーであり、広告塔でもある」

そこまで言って、彼は言葉を切り、ゆっくりとベッドに近づいてきた。そして、ミーアの目の前に立ち、彼女の顔を覗き込むようにして、さらに言葉を続けた。その声は、先ほどよりもさらに冷たく、突き放すような響きを帯びていた。

「そして、個人的なレベルで言えば…そうだな、飽きればいつでも捨てられる、ただの“愛玩人形”だよ、ミーア・キャンベル。君自身の名前を、忘れてはいまい?」

 

愛玩人形――その言葉が、まるで氷の刃のように、ミーアの心臓を深々と貫いた。ぐさり、と音を立てて、何かが砕け散る感覚。分かっていたはずだった。心の奥底の、最も見たくない場所では、ずっと以前から気づいていたはずだった。自分が彼にとって、都合の良い存在でしかないことを。彼が愛しているのは「ラクス・クライン」という偶像であり、ミーア・キャンベルという個人ではないことを。本物のラクス・クラインの代わりには、決して、未来永劫なれないことを。しかし、彼の口から直接、これほどまでに明確に、これほどまでに冷酷な言葉で告げられたのは、初めてだった。これまで、彼に認められたい一心で、彼に愛されたいという淡い希望にしがみついて、必死に築き上げてきた、脆く儚い幻想の城が、今、音を立てて、ガラガラと崩れ落ちていく。

 

「そんな……ひどい……あんまりです……閣下……」

熱い涙が、堰を切ったように、止めどなく溢れ出す。嗚咽が漏れ、体が震える。

「ひどい? 何がだね? 事実を言ったまでだ」デュランダルは、彼女の涙にも全く動じる様子なく、嘲るように続けた。「それとも、お前は本気で、この私が、この偽物の、どこを探しても本物には遠く及ばない、出来の悪い模造品(イミテーション)であるお前自身を、人間として、あるいは女性として、愛しているとでも思っていたのかね? 甘いな、ミーア。実に、愚かで甘い」

彼の言葉は、容赦なく、ミーアの心を抉り続ける。

「お前の価値は、あくまでラクス・クラインの“声”と“姿”だけだ。それ以外のお前自身――ミーア・キャンベルという空っぽの存在には、私にとって、何の意味もない。まあ、その淫らで、私の好みに合わせて作り変えた体は、暇つぶしの慰み者としては、そこそこ役に立つがね。それだけのことだ」

 

彼は、まるで自分の言葉を証明するかのように、汚れたベッドに片膝をつき、泣きじゃくるミーアの、白濁した精液で汚れたままの豊かな胸を、まるで市場で肉の品質でも確かめるかのように、無造作に、そして強く鷲掴みにした。

「ひっ……!」

ミーアは、彼の冷たい手触りと、言葉の暴力、そして身体的な暴力によって、身も心も完全に凍りつき、息もできないほどの衝撃を受けた。

「勘違いするなよ、ミーア。決してお前自身が魅力的だからではない。ただ、お前が『ラクス・クライン』の姿をしているから、私の所有物だから、こうして慰み者にしているに過ぎん」彼は、掴んだ胸を弄びながら、冷たく言い放った。「お前は、私の意のままに動き、私の望む歌を歌い、そして私の望む時に体を差し出す、ただの人形だ。それ以上でも、それ以下でもない。そのことを、その空っぽの頭蓋に、よく叩き込んでおくがいい」

 

そう言い放つと、デュランダルは、もはや何の興味も失せたかのように、ゴミでも捨てるかのように、ミーアの胸から手を離した。そして、立ち上がり、汚れたものから距離を取るかのように、部屋を出て行った。彼の足音が遠ざかり、扉が静かに閉まる音が、やけに大きく響いた。後に残されたのは、彼の言葉によって心の全てを完全に打ち砕かれ、希望という名の最後の光さえも奪われ、深い、底なしの絶望の淵に突き落とされたミーア・キャンベル、ただ一人だけだった。

 

【第二幕:鏡の中の真実、醜い人形】

 

デュランダルが去った後も、ミーアはしばらくの間、ベッドの上で蹲ったまま、動くことさえできなかった。涙は既に枯れ果て、代わりに、心の奥底から這い上がってくるような、激しい嗚咽だけが、静かな部屋に虚しく響き渡っていた。それは、単なる悲しみの涙ではなかった。自己の存在価値そのものを、敬愛していた(あるいは愛していた)人物から、完膚なきまでに否定されたことへの、魂からの慟哭だった。

 

どれほどの時間が経っただろうか。嗚咽もやがて収まり、後に残ったのは、心が空っぽになったかのような、完全な虚脱感だけだった。まるで、感情という機能そのものが、壊れてしまったかのようだ。彼女は、ゆっくりと、まるで自分の体ではないかのように重く感じる体を起こした。そして、焦点の合わない、虚ろな瞳で部屋を見回し、まるで何かに引き寄せられるかのように、ふらふらとした足取りで、部屋の壁際に置かれた、アンティーク調の装飾が施された大きな姿見の前に立った。無意識のうちに、真実の姿を、己の惨めさを確認しようとしていたのかもしれない。

 

そこに映っていたのは、見るも無残な、言葉を失うほどに醜悪な姿だった。プラチナブロンドの美しい髪は、汗と体液で乱れ、顔にはりついている。施されていたはずの完璧な化粧は、涙と、そして彼が顔に浴びせた精液によって完全に崩れ落ち、マスカラやアイラインが黒い筋となって頬を伝い、ピエロのように滑稽で、そして痛々しい。顔全体が泣き腫らし、目は赤く充血している。そして、その裸体は――。かつて自分が(そして多くの人々が)美しいと信じていたはずの体は、今、デュランダルの白濁した精液と、自分自身から溢れ出した愛液や潮、そして流した汗や涙といった、あらゆる体液によって、まだらに、そして粘つくように汚れていた。特に胸元や腹部は、何度も注がれた白い液体が、一部は乾いてカピカピとした薄い膜になり、一部はまだ生々しく濡れて粘り気を持ち、それが混在して、まるで不潔な落書きをされたかのように、ひどく醜悪だった。公称98-55-87という、作られた抜群のプロポーションも、今はただ、その汚され、蹂躙された痕跡を、より一層際立たせるための、忌まわしいキャンバスでしかないように思えた。

 

「……これが…私……? 本当の、私……?」

 

鏡の中の、汚物にまみれた自分自身を見つめながら、ミーアはか細く、掠れた声で呟いた。そこに映っているのは、華やかなステージで、スポットライトを浴びて歌う「ラクス・クライン」ではない。プラントの希望の象徴でも、平和の女神でもない。そして、デュランダル議長に愛され、彼に尽くすことを喜びとしていた(と必死に信じ込もうとしていた)健気な少女でもない。ただ、彼の欲望のままに弄ばれ、飽きられれば捨てられるだけの、醜く汚れた「愛玩人形」。それが、身も蓋もない、紛れもない自分の真実の姿なのだと、彼女はこの瞬間、骨の髄まで、魂の最も深い部分で理解してしまった。デュランダルの言葉は、残酷なまでに真実だったのだ。

 

激しい、むせ返るような自己嫌悪と、どうしようもない無力感が、津波のように彼女の心を完全に支配する。何をしても、どこへ行っても、自分はこの美しくも息の詰まる檻から逃れることはできない。デュランダルの、あの冷たい手のひらの中から、決して逃れることはできないのだ。絶望が、冷たく、重く、巨大な鉛の塊のように、彼女の全身にのしかかり、呼吸さえも困難にさせる。目の前が暗くなり、立っていることさえ辛くなった。

 

【第三幕:絶望の淵、微かな歌声】

 

もういっそ、このまま消えてしまいたい。死んでしまいたい――。

そんな暗く、甘美な誘惑にも似た考えが、ミーアの疲弊しきった頭をよぎった。この苦しみから解放される唯一の方法は、それしかないのではないか。しかし、次の瞬間、彼女は自嘲的な笑みを浮かべた。死ぬことさえ、きっとデュランダルは許してはくれないだろう。彼にとって、自分はまだ「利用価値」のある、便利な道具なのだから。彼が飽きるまで、あるいは壊れて使い物にならなくなるまで、彼は決して自分を手放しはしないだろう。死ぬ自由さえ、自分には与えられていないのだ。

 

その認識は、彼女をさらなる絶望の淵へと突き落とした。生きることも地獄、死ぬことさえ許されない。完全に、八方塞がりだった。

絶望の重みに耐えきれず、ミーアは冷たい床の上に、ずるずると崩れ落ちた。そして、声を殺し、体を丸めて、ただひたすらに泣き続けた。それは、もはや悲しみの涙ではなかった。魂が砕け散る音、存在そのものが否定される痛み、未来への完全な絶望が生み出す、乾いた慟哭だった。

 

どれほどの時間が、そのようにして過ぎ去ったのだろうか。涙も枯れ果て、ただ虚ろな時間が流れる中、ふと、彼女の脳裏に、遠い、遠い日の記憶の断片が、まるで陽炎のように揺らめきながら蘇った。まだ、自分がただのミーア・キャンベルで、プラントの片隅で、有名歌手になることを漠然と夢見ていた、貧しくも平凡だった頃の記憶。小さなライブハウスのステージで、数少ない観客の前で、自分の歌で誰かを笑顔にしたい、心を震わせたいと、純粋に、ただひたむきに願っていた頃の記憶。そして、初めてテレビで見た、本物のラクス・クラインの姿と、その透き通るような歌声を聞いた時の、雷に打たれたような衝撃と、焦がれるような強い憧れ。

 

(あの頃は…本当に、ただ、歌が好きだった…。ただ、歌いたかっただけなのに…。ラクス様みたいに、綺麗に、人の心に届くように歌えるようになりたかった…それだけだったはずなのに……)

 

その純粋だったはずの想いは、いつしかデュランダルへの歪んだ思慕と依存、そして「ラクス・クライン」という偶像そのものへの、身分不相応な執着へと、ねじ曲がり、変貌してしまった。彼に認められたい、彼に愛されたい、ラクス・クラインになりたい。その欲望が、自分自身を見失わせ、そしてその結果が、今の、この汚物にまみれた、惨めで、醜い自分自身の姿なのだ。後悔するには、あまりにも遅すぎた。

 

(でも……それでも……私には、歌しか……)

 

絶望の底で、ほとんど無意識のうちに、ミーアは、震える声で、小さく、本当に小さく、歌い始めた。それは、彼女がこれまでステージで歌ってきた、ラクス・クラインの、美しく完成された歌ではなかった。ましてや、デュランダルが好むような、甘く官能的な歌でもない。それは、自分がまだ何者でもなかった頃、誰に聞かせるでもなく、ただ遊びで、自分の心に浮かんだままに口ずさんでいた、オリジナルの、拙く、不完全なメロディーだった。歌詞もない、ただのハミングのような、祈りのような歌声。

 

「♪~~~ふ、ふん、ふ~~~ん……♪」

 

声は掠れ、涙で途切れがちだった。音程も不安定で、お世辞にも上手いとは言えない。しかし、それは紛れもなく、彼女自身の心の奥底から、絞り出すようにして生まれた、小さな、小さな、けれど真実の歌声だった。それは、この完全な絶望と暗闇の中で、かろうじて見つけ出した、最後の自己存在の証明のようなものだったのかもしれない。あるいは、この息の詰まる檻から、どうにかして抜け出すための、か細い、しかし確かな意思を持った糸を手繰り寄せようとする、魂の無意識の「もがき」だったのかもしれない。

 

ほんの数小節の、短いメロディー。歌い終えると、不思議なことに、彼女の心に、ほんの僅かだが、何かがポッと灯ったような、温かい感覚が広がった。それは希望と呼ぶにはあまりにも頼りなく、あまりにも脆く、すぐにでも吹き消されてしまいそうな、小さな蝋燭の炎のような光だった。だが、完全な闇の中では、その僅かな光でさえも、確かな輝きを放ち、進むべき方向を、たとえ朧げにでも示しているように感じられた。

 

【第四幕:抵抗か、演技か? 最後の奉仕?】

 

それから、どれほどの時間が経過したのか。数時間後、メイドによって半ば強制的に体を清められ、新しい簡素な部屋着に着替えさせられたミーアは、再びデュランダルに呼び出された。今度は、彼の執務室だった。彼は、先ほどの出来事などまるで何もなかったかのように、既に気持ちを切り替え、膨大な量の書類が積まれたデスクに向かい、冷静に仕事をこなしていた。その横顔は、冷徹で、知的で、そして人を寄せ付けないオーラを放っていた。

 

「来たか、ミーア」彼は、書類から目を離さずに言った。「ちょうどいい。少し根を詰めすぎて、肩が凝ってね。私の“疲れ”を癒してもらおうか」

 

彼は、椅子に深く腰掛けたまま、自分の股間を、顎でくいと指し示した。いつもの命令。いつもの役割。以前のミーアならば、ただ黙って、あるいは僅かな媚びを含んだ表情で、その命令に従っていただろう。しかし、今日のミーアは、ほんの少しだけ、違っていた。彼女は、ゆっくりと彼の前に進み出たが、その足取りには、以前のような怯えや従順さだけではない、何か別の、静かな決意のようなものが感じられた。瞳の奥に宿る色も、完全な虚無ではなかった。そこには、怒りか、悲しみか、諦観か、あるいは…その全てが混ざり合った、複雑で、底知れない光が宿っているように見えた。

 

彼女は、黙ってデュランダルの前に跪くと、彼のズボンのファスナーを手際よく下ろし、既に硬く昂り始めていたものを露わにした。そして、それをためらうことなく口に含み、舌で舐め上げ、吸い付き、扱くという、いつもの奉仕を始めた。しかし、その一連の動きは、以前のような、ただ快楽を求めるだけの、あるいは完全に感情を殺した、機械的なものではなかった。どこか、意識的な、計算されたような響きがあった。舌の動きはより大胆で、挑発的で、彼の最も敏感な場所を的確に刺激しながらも、時にはわざとらしく焦らすように動きを止めたり、あるいは逆に、彼が思わず息を呑むほど巧みな、熟練した娼婦のような技術を見せつけたりした。それは、単なる奉仕ではなく、ある種の駆け引き、あるいは彼に対する探りのようにも見えた。

 

「ん……? どうした、ミーア?」デュランダルは、さすがにその変化に気づき、書類から顔を上げ、訝しげに眉をひそめた。「今日の君は、少し様子が違うな。まるで、別人格のようだ」

 

彼の鋭い視線が、ミーアの顔に注がれる。ミーアは、ゆっくりと彼のものを口から離すと、濡れた唇を舌で舐め、僅かに唇の端を上げて、挑戦的とも言える、妖しい微笑みを浮かべてみせた。その表情は、これまでの彼女には全く見られなかった、どこか小悪魔的で、蠱惑的で、そして同時に、底知れない危険な魅力さえ感じさせた。

 

「ふふ…そうでございますか? 閣下のお好みが、少し変わったのかと、わたくしなりに考えてみたのですが…? それとも、わたくしも、閣下の“教育”の賜物で、少しは“成長”したということでしょうかしら?」

 

その言葉には、明らかな皮肉と、自嘲と、そして彼の反応を探るような、複雑な響きがあった。それは、もはや単なる人形の言葉ではなかった。

 

デュランダルは、しばし黙って、彼女のその変化した表情を、興味深そうに、あるいは警戒するように見つめていた。彼の頭脳は、この予期せぬ変化の意味を高速で分析していた。反抗の兆しか? それとも、精神が壊れたことによる異常行動か? あるいは、彼をさらに喜ばせるための、新たな演技か?

 

やがて、彼は、ふっと息を吐き出すと、不敵な、そしてどこか楽しげな笑みを浮かべた。

「面白い。実に面白いぞ、ミーア。どうやら、ただのおとなしい人形では飽き足らなくなったようだな。その虚無の目に、僅かながらも意志の光が宿るとは、予想外だったが…悪くない」彼の瞳が、再び支配者のそれに変わる。「良いだろう。ならば、君のその“成長”ぶり、その生意気な抵抗の意志(あるいは演技かもしれんが)が、どれほどのものか、これからたっぷりと、この体で確かめさせてもらおうではないか!」

 

彼は、まるで獲物に飛びかかる猛禽のように、椅子から立ち上がると、ミーアの細い腕を掴んで無理やり床から引き上げ、そのまま近くにあった重厚な執務デスクの上に、乱暴に押し倒した。背中に硬いデスクの感触が伝わる。そして、彼は、彼女の部屋着を再び引き裂くように剥ぎ取り、その露わになった体を、以前にも増して激しく、そして執拗に貪り始めた。それは、単なる性欲の発散ではなかった。彼女の中に生まれたかもしれない、僅かな変化の兆し、反抗の芽を、根こそぎ摘み取り、その体を、心を、再び完全な、絶対的な支配下に置こうとする、明確な意志の現れだった。彼は、彼女の「成長」を認めつつも、それを決して許容するつもりはなかったのだ。

 

ミーアは、硬いデスクの上で、激しい快楽と苦痛の中で、喘ぎ、涙を流し、何度も何度も、意識が飛びそうになるほどの絶頂を迎えた。体は、再び彼の白濁した精液で、徹底的に、そして屈辱的に汚されていく。しかし、その狂乱のような行為の中でも、彼女の意識の片隅では、あの小さな、拙い歌声が、か細く、しかし決して消えることなく、確かに響き続けていた。それは、彼女の最後の砦であり、唯一のアイデンティティの証だった。

 

【終章:希望の欠片、泥濘の中の歌】

 

行為が終わり、嵐が過ぎ去った後のように、執務室には再び静寂が訪れた。ミーアは、デスクの上にぐったりと横たわり、体は極限まで汚され、心は深い疲弊感に包まれていた。デュランダルは、自身の欲望を満たし、そして彼女の「生意気さ」に対する十分な「再教育」を施したことに満足したのか、再び冷静さを取り戻し、身なりを整え、何事もなかったかのようにデスクワークに戻ろうとしていた。

 

しかし、ミーアの中には、以前とは違う何かが、確かに残っていた。それは、絶望の淵で、自らの手で掴み取った、ほんの小さな希望の欠片。あるいは、自分自身を取り戻すための、長く、そして困難な戦いの始まりを告げる、か細い、しかし確かなファンファーレ。完全な虚無ではなくなっていた。

 

デュランダルが背を向けた、ほんのわずかな隙。ミーアは、震える手で、部屋着の破れたポケットの奥深くに、いつの間にか忍ばせていた小さな手のひらサイズのメモ帳と、短い鉛筆の芯を取り出した。(いつ、どうやってこれを手に入れたのか、彼女自身にもはっきりとは分からなかった。メイドの一人がこっそり渡してくれたのか、あるいは、彼女自身の無意識の生存本能が、どこかから見つけ出して隠していたのかもしれない。)そして、そこに、先ほど絶望の中で口ずさんだ、拙いメロディーの断片と、心に浮かんだいくつかの言葉を、震える文字で、しかし確かな意志を持って書き留め始めた。それは、誰に聞かせるでもない、誰に見せるでもない、彼女だけの秘密の歌。

 

『檻の中 小鳥は歌う 偽りの羽根だとしても 空を夢見て…』

 

ほんの数行。書き終えると、彼女は素早く、そして細心の注意を払ってメモ帳を再びポケットの奥深くに隠した。デュランダルに気づかれてはならない。これは、彼女だけの、ささやかな抵抗の証なのだから。

 

彼の絶対的な支配は続くだろう。ラクス・クラインとしての「仕事」、そして夜ごとの性的搾取も、精神的な支配も、おそらくすぐには終わることはないだろう。しかし、彼女の中には、もう、ただの「愛玩人形」として全てを諦め、絶望に沈むだけではない、別の自分が芽生え始めていた。それは、まだあまりにも小さく、脆く、不確かなものだったが、それでも、彼女自身の意志の光だった。

 

この「もがき」が、この小さな「歌」が、彼女を最終的にどこへ導くのか。それは誰にも分からない。更なる苦痛と破滅が待っているのかもしれない。あるいは、想像もできなかったような、救済の道が拓けるのかもしれない。確かなことは何もない。ただ、一つだけ言えることがある。プラントの泥濘の中で、偽りの歌姫は、自分自身の真実の歌を、密やかに、しかし力強く、歌い始めたのだ。白濁と体液と涙にまみれた体で、それでもなお、心の奥底に灯った、消えることのない、小さな光を信じて。その歌声が、いつか檻を破り、本当の空へと届く日を、今はまだ、ただ夢見ながら。

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