「よーし……先ずは先遣隊を頼むぜ、聖騎士様?」
ザンゴはニヤニヤとしながらタケシを先頭にして洞窟の中へと入っていく。いかにも立場を嵩にきた、小物らしい態度だ。
(こういうヤツって何処にでもいるよなあ〜……仕事は目で見て覚えろとかさ〜。 と、いかんいかん)
せめてサビ残にならない様にさっさと切り上げて帰りたい。タケシが先頭に立ち、メガデス、チン、ピラーを四人で脇を固める。
「ほら、コレ持っておけ」
メガデスはともかくチンとピラーはレベルは10にも満たない駆け出しも駆け出し。
念の為ということでギルドハウスへの帰還石を渡しておこうとタケシは無造作にまるで小銭でも投げ渡すかの様に渡した。
「そ、そんなの受け取れないスよ!」
チンとピラーは恐縮しながらそれを突き返そうとする。
それもそうだろう。何せ帰還石はこの世界では希少なアイテム。捨て値で売っても金貨10枚は下らぬ代物だ。
「いいから取っておけ。俺は単なる荷物持ちを雇う気はない。だからいざという時、お前らが助かるかどうかは、お前ら次第だからな。
はっきり言っておくが、俺はあくまで借金返済のためにこのクエストに参加しているだけだ。だからお前らが不手際で死にそうになろうとどうなろうと俺はお前達を助けない。
冒険者がクエスト中に死ぬなんて当たり前の事だからな……。
逆に俺達を無理に助ける必要もない。無理だと思ったらすっぱり見切れ。神に誓って恨むことはしない」
タケシは突き放した様な言い方で言う。しかしそれは冒険者として、もといVRMMORPGプレイヤーとして培った必要な厳しさだ。
安易に優しくすると人間はすぐ怠ける。
思い上がる。つけあがる。
感謝することもしなくなる。
だからこそ敢えて突き放す物言いだ。そしてそのタケシの態度はチンとピラーにはっきりと伝わった。
「わ、分かったス! タケシさん、ありがとうございます!」
「あ、ありがとうございます!」
チンとピラーが帰還石を大事そうに抱えながら頭を下げる。意外と言えば意外だ。
てっきり二人共用で帰還石を使い、もう一個を売り払って雲隠するものと思ったが。
(まあ、小銭を拾うより俺との関係を続ける方が得策と踏んだんだろうな……)
あいも変わらず拗らせたタケシはそう考えるのであった。
「じゃあ、先頭は俺達が」
「俺でいい。後ろは任せた」
任せた、とは言っているがメガデスにはそっと耳打ちしておく。
(あの二人が襲ってきたら返り討ちにしてもいいが、逃げても放っておけよ)
(いいんスか? さっさと殺った方が早いと思うんスよねえ……)
メガデスは肩を竦め、主の人の良さに呆れながらもその命令に従う。しかし彼のそんな所に惹かれているのは言わずもがなだ。
「お前ら、一応ここには来たことあるんだろ? 洞窟の案内頼むわ」
「うっす、まず真っ直ぐ行くと割れ目がありやして……」
「成る程、そこから飛び降りるんだな」
タケシがさも当然の様に言うと二人はあわあわと手を左右に振る。
「い、いや、そんな危ない事しないスよ!
まずは地下2階に行って突き当りの部屋の三本目のレバーを上げながら右端の部屋の一本目のレバーを下げて、奥の発電機を作動させて、階段の近くにあるエレベーターに乗ってですね……」
説明が長いためかメガデスはつまらなさそうに大欠伸をするし、タケシも咎めはしなかった。
「た、タケシの旦那! 真面目に聞いて下さいよ!」
「ん〜……そのギミック、パーティーが5人以上いないと突破できねえんだろ? ザンゴのヤツ、俺に恥をかかせようって腹か?」
「そ、それは俺達に言われましても……」
二人は気まずそうに言いよどむ。 チンとピラーは実際タケシの言う通り、これは明らかに人数が必要な罠であることを分かっている。 彼等は歯牙ないリザード級、向こうは王国随一の冒険者。
逆らえという方が無理というもの。
それよりも、ザンゴの鼻をあかす方が気分が良い。とタケシは二人を責めなかった。
「まあ、いいさ。要はこの割れ目を超えれば近道が出来るって事だろ?」
「はあ、まあ……そうですけど」
「じゃ、やるか……【浮遊】(レビテーション)」
タケシは【インフィニティ・プリズン】の魔法を発動させる。実は上位魔法に当たる【浮遊】であるが、廃課金に廃課金を重ねた彼のアバターならば何の造作もなく使用可能。
ふわり、とほんの数センチ程だがタケシのみならずチン、ピラー、メガデスの身体が浮き上がる。
「わ、わわっ!?」
「ほら、さっさと行くぞ。俺は夕方までに帰らないとアイン……様からまた詰められるんだからな」
「アインって誰スか?」
「あ……そうか。お前にはまだ話していなかったんだっけか……」
すたすたと世間話しをしながら割れ目の上空を歩く二人の後ろをおっかなびっくりと二人がついて行く。
割れ目を越えて歩いていくと何やら扉の様なものが見えた。明らかに人の手が入ったものだ。先程の発電機の話といい、ここは嘗て【インフィニティ・プリズン】と呼ばれていたゲーム世界の名残、言わば古代遺跡の類なのではないだろうか……。
と、物証も成果もなく考察しては時間が経つばかり。情報は金銭には替えられない価値はあるが、それだけでは飯が食えないのもまた事実。タケシは迷わず扉を開ける。鍵もかかっておらず、罠の類も無かった。
中には広大な空間が広がっている。天井からは無数の照明がぶら下がり、それだけ見るとまるでダンスホールの様。しかし地面を埋め尽くしているのは数多のボルトやナットの類。
天井もよく見ると鋼鉄のフレームがむき出しで剥きだしだ。恐らくは機械で埋め尽くされていたであろう場所が爆発か何かによって吹っ飛んでしまったかの様な姿だ。
「なんだ、ココ……」
「排斥場。ま、ゴミ捨て場ってヤツだな。
こういう時は慌てず騒がずダストシュートをな……」
昔取ったソロプレイヤーの杵塚かタケシは慌てることも落胆する事もなく、メガデス共々部屋の中を調べる。
(どうだ、メガデス?)
(んー……アタシは【探検家】(シーカー)や【斥候】(スカウト)のスキルがないスからそれらしいものは見当たらないッス)
(うーん……俺もだ。このままじゃ手詰まりだな)
メガデスは申しわけなさそうに首を振る。
10分程あちらこちらを探しては見るが特に変わった所はない。対策はないでもない。 空間そのものを探知する魔術やマジックアイテムは幾らでもある。
但し現地民の前で無限インベントリを開いてマジックアイテムをアポートさせるワケにもいかない。
タケシの本体であるデザイアの使用できる魔術は実質無尽蔵だがアバターであるタケシではそうもいくまい。
しかし、そんな彼の悩みもすぐに解決した。チンとピラーによってである。
「ありやしたぜ! 旦那の言った通りでさあ!」
「ダストシュートかどうかはわかりやせんが、仰った通りだ!」
二人は嬉々として二人を端に手招きした。
そこは一度調べた筈の場所だが……とタケシは訝しみつつも二人の所へと足を運んだ。確かに二人の言う通りダストシュートらしきものがあるではないか。
先程まで、自分とメガデスには普通の床に見えていたのに……。
「すごいな、どうやったんだ?」
「え? 俺達なんかやっちゃいましたか?」
二人の顔に皮肉や見下すような雰囲気はなく不思議そうな顔だ。
(まさか俺が言われる立場になるなんてなあ……。ちょっと我ながら自惚れが過ぎていた……また調子に乗りやがったなバカタケシ。聖騎士とか言われていい気になっているからこのザマだ。バカ!)
反省から自虐モードに入る中、弁護するワケではないだろうがタケシは一つの仮説に至る。
(いや、メガデスも気が付かなかったって事は、スキルを持っていないと抜け道やギミックはそもそも発動しないんじゃないのか? ここは飽くまで現実の様なゲームの世界……なんだからな)
と、なると今後は探知系、探索系の対策もしていかないと文字通り寝首を掻かれる羽目になる。タケシは自らの奢りを噛み締めた。と同時にチンとピラーが二人の見せた態度は彼らの良心が成した結果だと理解した。彼等は嘘の報告をせず自分たちの役割を果たそうと真摯に行動している。
その事実を前にして彼は自分の卑小さが恥ずかしくなった。
「いや……ありがとな。この通りだ。助かった」
「え!? そ、そんな……頭上げてくださいよ! 俺達なんかただの荷物持ちですから!」
タケシが素直に頭を下げるとチンとピラーはオロオロとあたふたと取り乱す。そんな風に礼を言われたのは初めての事なのだろうか。
「よーいしょっ、と」
ギミックが解れば対処は容易だ。とばかりにメガデスは軽く鋼鉄でできていたダストシュートを隠していた装甲を引っ剥がして、我先にと潜り込んでいってしまう。
(ば、バカッ! メガデス! 不用心に飛び込むヤツがっ!!)
メガデスは階層守護者であって冒険者ではない。或いはNPCの名残なのかリスクや未知への危機感がまるでない。
これも要反省だ。とタケシは思いつつもチンとピラーにチラリと視線を送る。
「旦那! メガデス様になにかあったら一大事ですぜ!」
「すぐに後を追わなきゃ!」
「お前ら……」
タケシの目頭が熱くなった。
殺さないでよかった。と初めて会った時を思い出し自分に喝を入れる側でチンとピラーはメガデスの後を追ってダストシュートへと身を投じた。
「よし! 行こう!」
タケシもまたその三人の後を追って暗闇の中へとダイブした。
ー
すたっ、とタケシが降り立つとそこは死臭の漂う異質な空間であった。
あまりの異臭にチンとピラーは鼻を摘んで咄嗟に対処している。
そして周りにあるのは白骨化したものや、腐食したまま放置されたりしている屍の群れ。
「ひえぇ……」
チンとピラーの二人は抱き合いながら驚愕の声を漏らすがタケシは冷静だった。邪神の肉体に精神が引き寄せられているせいか気味は悪いが嘔吐したり目をそむけたくなる程のショックはなかった。
(酷いことをしやがる……肉片になっているものまであるじゃねえか……。人間がやろうと思って出来る事じゃねえ)
しかし、義憤に駆られることもない。
天秤に重りを載せず、つんとつついた所で揺れはすれども傾く事はない。 カーネイジら階層守護者が重りであるならこの名も知らぬ冒険者の成れの果ては埃程の重さもない様な存在なのだ。
だが、それはタケシが酷薄という証拠にはならない。命は無価値ではないが等価値というものでもないのだから。
すると、奥の方からゴーレムとも自動人形ともつかない鋼鉄の巨人兵士が走ってきた。
「ギーガー! ニンゲン! ミツケタ! コロス! コロス!!」
下半身はキャタピラ。上半身には耳障りな高音を発する回転刃を装備する腕が2つ、マジックハンドが2つ。胸元には刃付のシュレッダーの役目を果たすローラーがぐるぐると回っている。
そしてそのローラーの上には髑髏のような頭部が鎮座していた。
更に両肩にはガトリングまで装備。
狂気と悪趣味がワゴンセールばりに山盛りの存在だがタケシにはその姿には見覚えがある。
「ガチタン・ミンチメーカー改二か。 こりゃまた懐かしいな」
「知り合いスか?」
「いや、この世界では初対面だ」
所謂エリアボスの一体にしてダンジョン内に落ちているアイテムの奪取、破壊、果ては死体を損壊しロスト状態にさせるというプレイヤー泣かせの存在。
更に逃走・離脱禁止のおまけつき。
「よしよし、お前らは下がってろ」
タケシはチンとピラーに下がらせるとミンチメーカーが吐き出した火炎を紙一重の所で躱す。彼には相手の行動パターンは手に取るように分かっていた。
「ギーガー! ギガガガー!!」
ミンチメーカーは回転刃の腕を振り回して突進してくる。キャタピラ付きのくせに
その速度は軍馬や駿馬さながらだ。しかも金属床を削りながら疾駆する様は酷く禍々しいものだ。
メガデスはチンを、タケシは小脇にピラーを抱え飛び退くことで突進を避けた。
まさに猪突猛進。急停止、まして曲がる事も出来ないミンチメーカーは勢いよく壁に突っ込んでいく。
ず、ズンと轟音と共に部屋全体が揺らぐ中、鮮やかに着地チンとピラーは安堵のため息をもらす。
「やった!」
(ばっ、バカ!! フラグを立てる奴がっ!?)
タケシは顔には出さなかったが内心焦る。ミンチメーカーが壁に突っ込んだままただの置物になるものならタケシとて手こずる事はない。沈黙していたのはほんの数秒壁に埋まったまま背中のキャタピラを全力で回転させると壁に亀裂が入り、耳を塞ぎたくなる様な轟音、更に金属が焼けるきな臭さを発して火花が床から飛び散る。
視覚、嗅覚、聴覚全てを攻撃してくるその悪辣さにチンとピラーは恐怖のあまりへたり込みそうになった。
「コロス! コロス!!」
きゅるるるる、と忌まわしい正気を削り取っていく様な高速音を発してガトリングが回転し始めた。
確かあの攻撃は【インフィニティ・プリズン】の世界では全体攻撃だった筈。
タケシとメガデスならばともかく後ろの二人はまず間違いなくミンチメーカーが本領を発揮。 生みの親であろうと見分けがつかない挽き肉と化してしまうだろう。
(庇うには範囲が足りねえな……)
助けない、とは何だったのか。
タケシはディメンションボックスから自身の全身よりも大きい棺にも似た金属の箱をアポートさせると二人を有無を言わさずに押し込んだ。
ミンチメーカーに限らず【インフィニティ・プリズン】の世界にはプレイヤーの妨害や虐殺を行う存在やダンジョンがある。
PKやPKKも奨励されていたがあくまで復活魔法が簡単に入手と使用ができ、喪失したとして有料ながらも復元魔法やマジックアイテムも購入、使用ができた環境であればの話だ。
この世界に於いてモーブタ達の反応を見る限りに於いてそうした存在は稀有である。
チンとピラー、二人はタケシの人間性を繋ぎ止める重りから錨になりおおせたのか、なり損ねたのか……。
ともかくも、彼は二人を救う事に決めた。それが二人がタケシを信頼し、彼に報いた結果であるならば。
轟音と共に吹き荒れるのは銃弾の暴風雨。
まともな手段では回避も防御も不可能なそれだが、タケシは魔術によって防ぐ事にした。
「【極位・対投射結界】(マキシマイズ・シューターガード)」
ほぼ全ての投射属性の攻撃を無効にする結界式。用途は限定されるもののアインの結界術より高性能なそれはガトリングから発射された銃弾を全て呑み込み消失させた。
しかし味方の投射属性の攻撃も無効化してしまうのは痛し痒しだが、今のタケシの側にはメガデスがいる。
「やれ! メガデス!」
「勿論ッスよ! シャラララァッ!!」
掛け声が響き渡るやメガデスの二の腕と太腿が盛り上がり、筋張り、隆起すると同時に高速移動してミンチメーカーへと飛び掛かった。
その速さは投射結界の対象にならないのが不思議な程の速度だ。
そして大鎌を振り回し、マジックハンドを打ち砕いた。しかしミンチメーカーは機械であるため痛覚など存在しない。
ゆえに怯む事もなく刃物で武装した腕を振り回してメガデスを引き裂こうとする。
しかしメガデスはそれを身軽に避けると頭上を取る。そしてそのまま両手で大鎌を振り下ろしミンチメーカーの頭部を跳ね飛ばすがそれのみには終わらない。
「あーらよっと!!」
小気味良い掛け声と共にPKを決めるストライカーばりにローラー部へと蹴り込んだ。
ローラーは己自身の頭部をも巻き込み高速回転。火花が飛び散り、背中からスクラップと化した電子回路の成れの果ての火花が飛び散り、ぷしゅん、ぷしゅんと断末魔にしては気の抜ける空気の漏れ音を発するそれはもはやミンチメーカーの原型をとどめていない。完全に動かなくなるとメガデスは大鎌の刃先をめりこませ、ペンチ代わりにしてローラーからコアを取り出す。
彼女の持つ大鎌斧槍の効果による急速腐食によって赤錆を含んだオイルは静脈血の色彩を帯び、メガデスの肢体を返り血さながらに染めていった。
「しかしまあ、今回は流石に楽勝だったよ。お前がいてくれてよかった。メガデス」
「えへへへ……アタシもタケシ様に褒めて貰えて嬉しいっスよ♪」
メガデスは頬を赤らめながらタケシに寄り添って頭頂部をすっとタケシに向ける。
まさか撫でてくれ、とでも言うのか?
と、タケシは気恥ずかしく思ったが無碍にもできない。
頭を撫でてやると猫の様に目を細めてメガデスは嬉しそうにしていた。
戦いの後の勝利の余韾を味わう二人だが後方より二人の声が響く。
メガデスと二人の世界を過ごすことに集中しすぎていたせいかタケシは二人を隔離してそのままの状態で放置していた。
すぐに二人を閉じ込めた金属箱を開けると憔悴しきった表情でのそのそと這い出てきた。
「あー……悪かったな。無事か?」
「無事ですけど無茶苦茶怖かったんですからね!」
「まあまあ、二人共無事なんだからいいじゃないスかー」
「ああ……酷い目にあった……」
と嘆きながらも二人はミンチメーカーの残骸を調べ始めていた。駆け出しとはいえそこは冒険者、好奇心が勝ったらしい。
ともかくザンゴの鼻を明かせたかどうかはわからないが一旦調査は保留。今回はミンチメーカーの残骸を報酬代わりとして持ち帰る事にした。