與久田健に悲しい過去……。
「へえーっ……ここがノドカナ村か。ってそのまんまだな!おいっ!」
邪神デザイア改め、タケシは虚空にて一人ツッコミをかます。コミュ障とぼっちを拗らせた彼はイマジナリー相方を作って合いの手を入れさせたり、或いはツッコミを入れさせる事で心の平穏を保っていたのである。
「申しわけありません。そこまで考えが至りませんでした……!」
そんなタケシにカーネイジが深々と土下座を敢行する。流石に普段の踊り子だってもう少し恥じらいのある衣装ではなく白のワンピースに麦わら帽子、という可憐かつ貞淑な深層の令嬢……といった風体だ。
「あっ!違う違う! 今のはカーネイジに怒ったワケじゃないから!」
「なんという慈悲深きデザイア様……♥
今すぐあの村に住まうもの達に下知し、村の名をデザイア村に改名させますわ!」
今やカーネイジはタケシが恐らく何を言おうと不動の忠誠と恋慕を捧げるであろう。
「いや、流石にそれは……」
なにせ『インフィニティ・プリズン』に於いて嘗ては廃課金を越えた廃課金プレイヤーとして一部界隈では有名になってしまったデザイアである。
(あの時カーネイジ達をbot投入してレイドバトルに参加させたのは失敗だったな……)
嘗ての若さ故の過ちを振り返りタケシは反省する。当時はソロプレイでは決して入手できない有限アイテムがあり(後に有償ガシャで解禁されたが)、どうしても入手したかった彼は当時グレーゾーンであったマイアバターキャラにbotを使ってチームを作成し、イベントバトルをクリアした。これがまずかった。
『デザイアは廃課金にあかせて有限アイテムを占有しようとしている!』
『PVPに一切参加しようとしないのは独占したアイテムをRMTに転売しようとしているんだ!(事実無根)』
『今以上にマイアバターキャラの性能ばかり優遇されたら推しが活躍できなくなる!』
『デザイアをゲームから追放しろ!』
アンチスレが立つのは当然として、リアルにおいても彼のアカウント凍結を求める署名活動が起こり、炎上騒ぎまでに至った。当然デザイアの入手アイテムは没収され、マイアバターキャラは期間限定イベント攻略に使用することはできないというルールまで改定される始末に至る。
これはデザイア一人を狙い撃ったもので
プレイヤーの間では『デザイア事変』として用語集に編纂されるまでになる。
当のデザイアは(課金額が人並み外れていたのと運営がマイアバターキャラのメイキングガシャを売りにしたかった目的もあり)アカウント凍結には至らなかったものの、ゴシップ系動画投稿者達のPV稼ぎのためにないことないことを言い立てられて、誹謗中傷やなりすましによる犯罪予告や殺人予告によって人間嫌いに拍車がかかった。
以降はマイアバターキャラの育成と地下迷宮『玩迷弧籠』の開発に心血を注いだ。
(だから俺以外に『インフィニティ・プリズン』のプレイヤーがいたら色々面倒な事になりそうだからな……。迂闊に俺の名を出すのは厳禁だ)
とにかく村に入って村民に挨拶する。
皆鷹揚かつ牧歌的な雰囲気で現実の田舎とは違った静寂ながら解放感に満ちた空気が漂っている。
「こんにちは」
「おぉ、旅のお方ですか? ここはノドカナ村ですじゃ」
(あ、ここは変わらないのか……)
「この辺りでは何が採れます?」
「そうさなあ〜……」
タケシに代わってカーネイジが挨拶がてら話を進めると好々爺といった風情の村人がパイプをふかしながら暫し考え込む。どうやらテンプレの会話を繰り返すNPCではないのか、あるいはカーネイジ達の様に自我に目覚めた存在なのか……。
「まあ、珍しいものは採れんな。麦や大豆、あとは薬草位のもんだね」
(作物の名前とかは変わらないのか。そこは一安心だ。しかし薬草って栽培してたんだな)
「そうですか」
タケシはまるで興味を失ったように話を打ち切ると足早に村の中に入っていった。
「わしゃ、悪い事言ったかなあ……」
村人はタケシが機嫌を損ねてしまったのかと二人の背を見送った。
ー
(まーたやっちまった……。 なにがそうですか。だよ! もうちょっと言い方あっただろ……! え? まさか俺はデザイア様だぞ! お前らが避けて通れってNPCのおじいちゃん相手にイキっちゃったの?
うわっ……!キモッ! 俺……!!キモキモキモッ! 最低じゃん!ゴミすぎる!)
セルフツッコミならぬセルフ反省会がタケシの脳内で開催されていた。
「申しわけありません。デザイア様の機嫌を損じてしまった様ですね」
「いやいやいや! カーネイジは何も悪くないよ!」
「ああ、デザイア様に気遣っていただけるなんて……♥ やはり私の目に狂いはなかったのですわ……」
(ほら見ろ! カーネイジに気を遣わせやがって!! このダメ男! カス! ゴミ! クズ! クビだ!)
情け容赦のないセルフ罵倒がタケシを襲う悪循環の只中、デザイアは歩んでいく。
「ところでデザイア様、先程から村の中を歩いていますが何かお探し物でも……?」
「そういうワケでもないんだけどね……あはは……」
(うわあ……!ダサい!今の俺、めっちゃダサい!)
タケシは今すぐ穴を掘って埋まりたい衝動に駆られる。
「では何故こんなにも熱心に村を見て回られているのでしょうか?」
「んー……まぁ……その……」
カーネイジの問いに答えようとするが言葉が続かない。いったんドツボにはまると抜け出せないコミュ障の哀しさである。
(な、何でもいい! この状況を打破できるような話題はないのか!?)
藁をもつかむ思いでタケシは必死に思考を巡らせる。すると……だ。
「た、大変だべ村長!村の近くにモンスターが現れたっちゅう話だべ!」
(え、なにそれは)
まさか野生のFOEというワケでもないだろうが……。
「な、なんじゃと! ? 今すぐ女子供は家に隠れるように伝えねば!」
「あ、あの……す、すません。少しよろし、ですか?」
「なんだべ?旅人さん」
「あ、いえ、その、えっと……」
(やっぱりコミュ障故ヒーローや勇者の様にはいかないなあ……いや、俺は生まれ変わるっ!!)
「わ、我々がそのモンスターを倒してみせましょー!!」
赤の他人に大声を出すのは久々だったので声が物凄く上ずっていた。
ー
「えーと……ごめんなカーネイジ。せっかくのデートだったのに」
「いいえ、タケシ様……。貴方の覇業を前にして私めは幸せ者です。たとえ世界が滅ぼうとも、私は貴方の傍に寄り添っております」
二人はノドカナ村の門の外にいた。村人達からモンスター討伐の依頼を受けた形となったのだ。
一体何が出てくるのか……。とタケシはディメンションバックを取り出す。
所謂某猫型ロボットの四次元ポケットを彷彿とさせるデザインのそれから武器を取り出す。果たしてそこから取り出したのは……真っ黒な弓矢であった。
(ホントはビームガンの方がいいんだけど……この世界がホントに『インフィニティ・プリズン』の中かどうかもイマイチ分からんからなあ……)
しかし不思議な感覚ではある。自動操縦とはまた違う。熟練者の知識が自然と頭に浮かんでくる様なそんな感じであった。
そして現れたモンスターは……。
(ま、マジかぁ〜!?)
まさかの野良恐竜であった。しかも子どもの頃図書館で貪る様に読んでいた恐竜図鑑に載っていたティラノサウルスに酷似していた。
「ギィヤァオォオオオー!!!」
「へー……恐竜ってこんな風に鳴くんだなー……すごーい」
現実逃避したくなるのも無理はない。
剣と魔法のファンタジー世界で出てくる魔物と言えばゴブリンやオークなどが相場であり、恐竜などは埒外も埒外。ましてやそれが襲ってくるとなれば尚更だ。
「タケシ様、お下がりくださいまし。
『空気遮断』(デス・リバティ・スペース)」
カーネイジは慌てず騒がず手をかざすと無詠唱で魔法を発動させた。
恐竜の周囲の空気が一瞬ぐにゃり、と歪んだかと思うと断末魔もなく絶命する。
空気を操る事にかけて『玩迷弧籠』内においてカーネイジの右に出るものはいない。
濃淡、密疎、速度、範囲、等々、あらゆる条件を設定して空気を操作する事ができる。
(今使ったのはカーネイジ……もといマイアバターキャラの専用魔法だ。『インフィニティ・プリズン』の汎用魔法はともかく高位魔法は問題なく使えるってワケか)
と、なるとパッシブスキルや耐性はどうなっているのか。とタケシは当然の疑問を抱く。
(相変わらずステータスオープンはできないか……ま、それならそれでやりようはあるさ)
「解析(アナリシス)」
タケシ、もといデザイアは☆1スキルを発動させた。文字通り解析用のスキルであるが目に映る文字は文字化けしていて何が何やら解らない。どうやら『インフィニティ・プリズン』内には存在しないモンスターだったようだ。しかし、タケシは焦らない。
(流石にフレンドポイントガチャのスキルはケチりすぎたな。じゃ、こっちだな)
「万理解析(ユーティリティ・アナリシス)」
タケシの瞳が赤から金色に変わる。今度ははっきりと恐竜の死骸から様々な情報が開示されていった。生命力やら状態やらステータスやらスキルやら、有効な技や弱点までわかる。これこそが『デザイア事変』を起こしてしまうハメになるまで彼が求めた魔法である。レアリティはまさかの☆6であるがタケシは廃課金により重ね☆9まで高めている。
(情報は力だ。どんな切り札や奥の手を持っていてもタネが判ればどうってことないモンさ。つまり汎ゆる初見殺しは俺には通用しないってワケだ……。ホント、攻略させる気ないだろってエクストラダンジョンのボスとか酷かったモンな……)
アイテム破壊やレベルドレインやクリティカルは当然、耐性無視割合ダメージやら、大ダメージ無効やら、無限復活、
全属性反射やら、はたまた弱点強制付与やら……。
まあ、それら極悪、理不尽スキルやクソギミックを打ち破りその収奪したスキルをマイアバターキャラに分け与えたからこそ今のカーネイジ達の強さがあるわけだが。
(まあ、そんな話はどうでもいいんだけど。それよりだ。コイツらは湧き出てきたモンスターだって解ったからには原因をどうにかせんといかんよな……。まさか俺達が現れたからなんて事はないよな……何もしてないのに世界の敵コースは困るぞ)
ぽりぽり、と顎をかきながらタケシは思案に暮れる。
「くっくっく……。まさかデスザウルスを一撃で破るものがいたとはな……しかし見慣れぬ衣服だが、帝国の手のものか?」
すると、いかにも悪役然とした顔色の悪い青色の髪を短く纏めた女性とそれに付き従う兵士達が現れた。
年齢は20代の終わり頃に見えるがその目の鋭さとケンのある顔つきは何か鬱屈したものを抱えている様にも見えた。
「貴様、何者だ? この私を知らないとでも言うつもりか」
「ドルクニフ・サベージ。年齢は24歳。シャヨーノ王立魔導学園3位の成績で卒業しそのまま王国魔導軍に入隊。第3次ヘリオス戦役では敵の補給基地を奇襲し第3王子が率いるヨルダン軍に勝利を齎す。しかし、正々堂々(笑)を好む国王や第二王子ヒルベルトの不興を買い辺境に左遷された。
その時に3年付き合っていた彼氏に対し『将来の見込みのないお前なんて火を吐けないリザードマン以下だっての。ゴミ!クズ!カス! 金になるから付き合ってやってただけだってのこの行き遅れ』と浮気を開き直された上にボロクソに言われて振られた……か」
げに恐ろしきは万理解析であったが、タケシはコミュ障であった。故に秘中の秘を看破、いや暴露された人間の抱く憤怒の質も量も見誤っていた。
「キサマアァァァァ!!殺してやるうぅっ!!」
目を真っ赤に血走らせ、魔法陣を虚空に展開させて呪文を唱え始めた。
「で、出たっ!ドルクニフ隊長の4属性同時詠唱!! シャヨーノ王国でもこれが出来る方は3人もいないぞ!」
「ちょっとアンタ! ドルクニフ様に謝んなさいよ!」
見れば部下達は大分若い。この若さで辺境送りと言う事は平民の生まれなのだろう。しかしドルクニフを慕っているのは間違いなさそうだ。 ちょっとした傑物だ。NPCとはいえこのまま始末してはいおしまい、と言うのも惜しい。と感じた。
別にタケシはマイアバターキャラ育成専門というわけではないのだ。廃課金特有の収集癖は彼は人並み以上に持ち合わせていた。ただ、誇示する機会と人物に恵まれなかっただけである。
「『空気遮断』」
(って!カーネイジさん!?)
せっかくの出会いが台無しか……と思った矢先。ニマァ、とドルクニフは悪魔のような笑みを浮かべた。
「かかったなマヌケがっ!! 『魔法反射』(リフレクション)!」
魔法陣が忽ち融合し、光の壁に変化しキラリ、と煌めきを放った。するとタケシの周囲の空気がぐにゃり、と歪む。
「で、デザイア様あっ!!」
カーネイジは自分のヘマのせいでこの世の終わりがやってきてしまったかの様な絶望感に満ちた表情を浮かべて叫ぶ。
「ハハハハハ!!バカめっ!!どんな強力な魔法であろうとタネが判ればどうということはないのだっ!! このドルクニフ隊の栄光はここから始まる!!ハハハハハ!!」
「ドルクニフ様バンザーイ!」
勝利を確信したドルクニフとその部下達は高らかに叫んだ。さぞタケシの持つアイテムが強力なものと見込んだのであろうが……。
「全く同意見だな。気が合うじゃないか俺達」
「な、なんだと!! な、何故生きているっ!?」
対してタケシは余裕綽々である。その様子にドルクニフは驚愕するしかなかった。
「ごめんな、俺に即死(バステ)は効かねンだわ」
「ば、バカな!!そんな事があるものか!! 死の魔法に耐えうるものなどこのインフィニットプリズムの地が創生されて以来どこにもいない……!あるとすれば、魔王……いや神くらいなもの……な……」
「とんでもねえあたしゃ神様だよ」
そこまで言ってドルクニフは言葉を詰まらせた。眼の前のあまり美形とは言えない男の姿が変化していったためだ。
不定形の肉塊からまるで神話に登場する厄災を齎す多頭の魔竜の姿に変化したためだ。
(まあ、これは俺の黒歴史的のアバターキャラなんだけどさ……。竜、悪魔、魔法生物、巨獣……えーとそれから……。まあいいや。自分からわざわざ特効対象のバーゲンセールなんてするんだもんな。控えめに言ってバカだよな〜……。
まあ、そのお陰で超位魔法が使える神性アバターが解放できたんだけどさ……。 大分極悪運営だよな、これ)
しかしその様な発想が出来るものは常識の枠外にあるもの。ドルクニフは才覚のある烈女ではあるが常識の枠内にあるものだ。
(か、かてない……。神だ……!人間はどうあがこうとも神には勝てない!服従するしかないんだ……。ああ……母さん……)
戦おうと思うんじゃなかった。私の間違いだ。蛮勇の熱は冷め、後悔と諦念がドルクニフの心を満たした。
「ドルクニフ様!」
「ドルクニフさま〜!」
隊長の後悔と諦念は部下達にも瞬く間に伝播した。そしてそれはドルクニフへの忠誠心を揺るがす事になった。
「あ、あああ……。もういい……。お前達だけでも逃げろ……」
「そ、そんな……。隊長を置いて逃げるなんて出来ません!」
「そうだぜ……。隊長がいなければ俺達はとっくに死んでいたんだから?」
「そうです!私たちは隊長に命を救われました。今度は私たちが隊長をお救いします!! ファイアボール!」
「フリーズアロー!」
「ライトニングエッジ!」
端から見れば感動的な姿であったがカーネイジはしらけきった顔でドルクニフ達を屠殺の対象物を見るような目で眺めている。
その上ドルクニフの部下達が必死に放つ魔法は2人に毛程の傷も与えてはいない。
「今更後悔しても遅いわ。人類を守護なさらんとしたデザイア様の慈悲に唾を吐きかけた愚か者ども。絶望と後悔の中で死に絶えるがよい!」
そしてカーネイジが制裁の魔法を放とうとした時。
『魔素支配(マジック・ドミネーション)』
デザイアのスキルによりカーネイジの魔法発動それ自体が無効化された。
「デザイア様!?なぜ……!?」
「ドルクニフだったか? お前とお前の部下達、気に入ったぜ」
神にしては酷くぞんざいな口調ではあるが圧倒的強者が行うと気安さよりもお前達などその気になればいつでも殺せる、という余裕ぶりがある種のカリスマすら生み出していた。
「あ、ありがとうございます!!」
「そこで相談があるんだがな? 俺が今から言う事をよく聞けよ」
「はい!なんでもお申し付けください!」
「ん? 今何でもやるって言ったよな?」
「えっ……それは……」
(いやいやいや!急に乙女になるな!つーか24歳で行き遅れってどんだけだよ!そりゃシャヨーノ王国だって落ち目になるわ!!晩婚による少子高齢化の波がファンタジーにも迫っとるんかい!)
ともかく、見込みのありそうな現地人の部課をゲットしたタケシであったが果たしてどうなる事やら……。
空気遮断(デス・リバティー・スペース)
→相手周囲の酸素濃度をゼロにする。生物には効果覿面。
おいおい瞬殺だよ。 アンデッドや植物には効かない。
万理解析(ユーティリティ・アナリシス)
→未知の情報でも解析できる。レベル差があると秘匿される。
☆9の場合は保護、免疫、無効、反射、秘匿を無視する。
但し将来の情報予測や未来観測はできない。
魔素支配(マジック・ドミネーション)
→相手の魔法発動を確率で無効にする。
☆3は4属性30%、☆9は全属性250%