「と、言うわけでだ。ドルクニフには王都に一旦返り咲いてもらおうと思うんだよ」
階層守護者達を集めてデザイアはいきなり本題から切り出した。ぼっちを拗らせたコミュ障故か雑談というものを彼はあまり好まないタイプであった。
とはいえそれは彼自身に関してのみのもので階層守護者達に強制するつもりは毛頭なかった。
「え〜」
いの一番に気だるそうに反応したのはバクシーシである。ガシャの集金キャラにして所謂外様も外様である彼女ならば反対意見も出しやすいのかもしれない。
「手柄もなく返り咲くだなんてムリムリカタツムリですよ。デスザウルスでしたっけか?高々新たに沸いたモンスター一匹倒して村を救った位で栄転だなんて、考えが甘いんじゃないですかねえ?」
(そ、そういうものかあ〜……)
デザイア、もとい生前の與久田は働いてはいたが管理職や事業主の経験はない。
そのせいかトップが最も恐れるのは下剋上ということを理解していなかった。
「じゃあ、どの位の功績をあげさせりゃいいかなー。魔王倒すとか?」
「この世界に魔王なんていませんけど?」
バカかお前、と言いたげな視線でバクシーシはジト目でデザイアを見やった。彼女は階層守護者と違って色々と厳しい。しかしこうした自分へ懐疑的な目線こそが俺をフラットな目線にしてくれるのだ、とデザイアは考えている。
「聞いてないぞそんなの!?」
「言ってませんからね」
「おい、バクシーシとやら」
そんなやり取りの中、シュラが明らかに主に対する不敬とも取れる態度で接するバクシーシへと口を挟む。
声色も口調も険しく怒気に満ちていた。
「さっきから黙って聞いていればデザイア様に対する不敬の数々。何のつもりだ」
しゃらん、と6本の手首につけた飾りが鳴る。彼が念ずればその飾りは即座に月輪となり敵を切り裂く刃に転ずる。
「おお、怖い怖い」
「待て待てシュラ。バクシーシは私にすれば貴重な幕僚だ。幕僚の意見に耳を傾けるのは王として当然のことだよ」
「デザイア様……」
主の言葉を受けシュラは素直に引き下がる。その表情は明らかに感銘を受けている様子であった。
「で、話を戻すがバクシーシよ。何か案はあるか?」
「そうですねえ……。追放系でよくあるのは村を発展させたら戻ってこいとか掌を返して来るのが相場っちゃ相場ですねえ」
(追放系ってお前……シュラだけじゃなくて他のメンツもきょとんとしてるだろ!)
心の中で突っ込みを入れつつも表情に出さず平静を保つ。
(と、なると近くのノドカナ村を発展させるのがいいって事か……。しかし発展と言っても何をどうすりゃいいのか見当もつかんな。この世界の住人の趣味や嗜好など全くわからんからなあ。もう少し調査してみるか)
しかしぼっちのコミュ障にして色々と拗らせているタケシ、もといデザイアである。
一人で行くのは大分気が重い。
「じゃあ、俺、またノドカナ村に行ってくるよ。ファトゥム、護衛頼むな」
「はい」
今回はファトゥムを護衛に連れていく事にした。デザイアなりに理由はある。
が……。
(このままのカッコで連れていったら流石にマズいよなあ……痴女同然のカッコだし。いや、だって【インフィニティ・プリズン】はエロソシャゲだったワケだし……)
一体誰に弁護しているのか、デザイアは
己の罪を正当化し始めていた。
ともかくもバクシーシより追加の衣装を魔晶石ではなく金貨で購入する事にした。
ー
「おー、この間の旅人さんじゃあないか。
村長さんから話は聞いたよお」
「へ、ヘヘ、ドモドモ……」
ノドカナ村に入るとニコニコと愛想の良い老婆がデザイア、もといタケシに話しかけてきた。タケシは引きつった愛想笑いを浮かべながら軽く会釈をする。
「旅人さん。元気がないねえ。野菜をしっかり食べないとダメさあ。アタシをごらんよ。この村に50年も住んでいるから大きい病気一つもしたことがないのさ。あっははは」
「そ、ソッスカ……アハハ……」
(か、帰りてえ〜……)
あまりにもぎこちないタケシのリアクションであった。この様に色々と拗らせた男なのである。ともかくも老婆は大木の年輪の様な皺だらけの顔に笑みをたたえて言う。
「それにしてもこんな辺ぴな村によく来てくれたね。旅は疲れたろう?ゆっくりしていきなさいな」
「あ、はい……」
何故か労いの言葉を貰った。しかもなにやら普通に歓迎されている様である。
「ファトゥム。その服はどうだ?」
「はい」
ファトゥムは返事をするがアイマスクは装着したままであるからどういう目つきをしているのかは解らない。今の姿は普段の乳暖簾ビスチェとガーダーベルトを組み合わせた破廉恥極まるものではなく、一般的な修道服に着替えているのだ。しかし金にあかせて作り込んだ肉体のボディラインは隠しきれてはおらず、村の若者がついチラチラと視線を送ってしまうような背徳的な色気を醸し出していた。
(はい、じゃわかんねえ〜……! 俺のバカ!アホ!マヌケ!こうなること位予期しておけ!)
ファトゥムは【デザイア事変】の頃に作成したマイアバターキャラであり、当時のデザイア、もとい與久田健は色々と荒んでいた。そのため「はい」か「いいえ」しか喋らないキャラにしてしまったのである。
『人間なんてどうせウソしかつかないウソつきばっかりだ。だったら言葉なんて初めから要らねえよ。俺を褒める言葉だってどうせ口先だけのプログラムだ』
当時の彼は本気でそう信じていた。そして、その様な存在を作り上げたことである種の満足感を得ていた。
その報いがこれである。若さ故の過ちにデザイアは鞭を打たれる様な罪悪感を覚えた。
(いや、まだ間に合う!俺はカーネイジに変わるんだって表明しただろ!逃げんじゃねえよ!!)
セルフツッコミで何とか心を奮い立たせてファトゥムに向き直る。
「ファトゥムって、凄くスタイルも良くて美人だよなあ」
「いいえ」
首を横に振ってデザイアの言葉に否定するファトゥム。怒っているのか呆れているのかその判断はつきかねる。
「そ、そんな事ないって!俺が他人なら絶対お近づきになりたいな〜って口説くもん!自分に自信持ちなって!!な!な!!」
「いいえ」
きっぱりとファトゥムは答えた。
心の壁どころか金城鉄壁。嘗ての自分を映す鏡を見ている気分になる。
(あああ……どうすりゃいいんだよ……。そうだ!)
デザイアはポンと手を打った。
バクシーシに曰く「古来より女性は贈り物に弱いものですよ。だからほら、この宝石のティアラ、今から魔晶石100個でご奉仕です」と言っていたのを思い出し、一縷の望みをかけたのだ。
「ファトゥム!何か困ってる事とかないか!?何でもいいから言ってみな!」
「いいえ」
「えっと、じゃあ、何か欲しい物とか!あ、でも金はあんまり持ってないけどな」
「いいえ」
「うぐっ……な、なんかごめんな……」
「いいえ」
(あ、そこは「はい」じゃないんだ……。
俺に対して「この毒親が。今更いい人ぶってんじゃねーよ。この恨み絶対晴らしてやる」……って意趣を持っているワケじゃないんだ。ってそれにホッとしてどうするんだよ情けねえな俺……)
タケシの気分は乱高下を繰り返していた。ファトゥムという美女が本当に何がしたいのか全く理解できない。コミュニケーションを拒否したツケが回ってきた形だ。
(何がなんでも絶対に俺の手で幸せにしてみせるぜ)
デザイアは決意を新たにした。
「なあ、ファトゥム。俺さ、この村を発展させようと思うんだけど、何かアイディアとかあるかな?」
「はい」
「そっか……。じゃあ、俺がこの村をもっと発展させる為にやるべきこととかあったら教えてくれないか……ってあるの!?」
「はい」
ファトゥムは頷くとさらさら、と達筆で何やらアイデアを記し始めそれを読む事にした。
「へえー……これ、いいじゃないかあ!!」
タケシは本心からファトゥムのアイデアを褒めた。まるで父親が娘にプレゼントを贈り喜ぶ姿の様である。
「……いいえ」
表情は見えないが声の調子からタケシを拒むのではなく謙遜して照れている事が解った。
「いや、これは素晴らしいよ。流石はファトゥムだなあ」
「……いいえ」
「よし!じゃあ、早速取り掛かるぞ!」
タケシは意気揚々とノドカナ村の発展に着手する事にした。
ー
「先ずはこの荒れ地だな」
「はい」
「あ、あの……これから一体何をするんですかね?」
村外れの荒れ地に案内する様に言われた村長は恐る恐ると言った様子で2人に質問した。
なにせ、風采は上がらないがかのデスザウルスとかいう凶悪なモンスターを瞬殺した魔法使いを連れていた男である。村長は不安でしょうがなかった。
「えーと、ま、その、ちょっとですね」
なにがちょっとなのか。実力の割におどおどしているというか対人恐怖症の気があるタケシであった。
「この荒れ地は開拓団も見放した瘴気に満ちた場所ですからして……なんでも地下に悪魔だかなんだかか封じられた場所があるとかないとか……」
ハンカチで汗を拭いながら村長は説明する。一方のタケシも冷や汗がダラダラと流れていた。
(ええ〜……まさかウチが原因ってワケじゃないよなあ? 【玩迷孤籠】に毒を垂れ流す設備なんてなかった筈だけど……まさかマサクゥルのヤツが産業廃棄物を垂れ流しているなんて事はやってないよな?
今の御時世、それホント、コンプラだからな!!)
あとで問い質しておかねばならないと決意しながらファトゥムに質問することにした。
「あの……ファトゥムさん?まさかウチに在籍するメンツが原因なんてことは……ないですよね?」
「……いいえ」
「あ〜……よかった」
マイアバターキャラに敬語を使うのも妙な話だがファトゥムは瘴気を払う聖女として連れてきたという事にしたので一応は問題はない。ともかくファトゥムの返答にタケシは胸を撫で下ろす。
(で……なんとかできそう?)
(はい)
ファトゥムが持ち歩いている鳥籠の入り口を開くとそこから飛び出したのは数多くの火の鳥である。それは荒れ地を焼き尽くす炎となり瞬く間に枯れ果てた大地を蘇らせた。
「おお……こ、こんなことが……!」
村長は奇跡を目の当たりにして感動に打ち震えていた。そして神の奇跡を目の当たりにし、同時に畏怖の念を抱いた。この様な力があればこの村は間違いなく繁栄していくだろう。
「誰じゃい!! ワシが昼寝をしている間に土地をメチャクチャにしおってからに!このワシをグレートナーガと知っての狼藉か!!」
「は、はわわわ……」
そして大地を割り開いて地割れより現れたのは青黒い鱗を持つ1頭龍。蛇の身体でありながらその巨体は天を貫く巨塔の様でもあった。その迫力と威容に村長は腰を抜かして尻もちをついていた。
(なんだ、コイツが原因かよ! ウチが悪いのかな〜と思っていらん気を回しただろうが!!)
一方タケシはというと何故か怒りすら覚えていた。しっかりと万理解析を使ってグレートナーガとやらの正体を解析はしていくが。
「ほおー、虫けらにしては柔らかそうな女を連れ回しておるではないか。その女を捧げるというのならば命は助けてやるぞ?」
カーネイジやシュラ辺りが聞いたら言い切る前に殺しているであろう暴言。
ソレに対してタケシ、もといデザイアはと言うと……。
「バカかお前。宝っていうのは価値が解る相手に見せて初めて意味があるんだ。
どうやら炎に耐性があるからってイキリ散らしているみてーだけどなクソミミズ。
ドラゴンでもねえくせになにがグレートナーガだよ。学歴詐称ならぬ種族詐称かよおめでてーな。 重くないか?その種族名?」
VRMMORPG暮らしが長かったためかスラスラと罵倒の言葉は出てくるようだ。
「ほざいたな脆弱な下等生物(ニンゲン)が!! 再生もかなわぬ様に我が毒のブレスでその身を腐らせ蠅も集らぬ糞山にしてくれ
ボンッ
大砲が徹甲弾を発射した様な音が村全体に轟くと共にグレートナーガとやらの半身は世界から消滅していた。
タケシの放った黒い弓矢から放たれた矢によるものは明白であった。
ず……ズン……!と地響きを起こしつつ残る半身は地上に倒れたがすぐにファトゥムの召喚した火の禿鷹の群れがその身を啄み消失させていく。
「悪い。聞くに堪えなかったわ。
俺とやり合いてえなら最低でも全属性反射程度身につけてから口を開けクソミミズ」
手慣れた様子で弦を解除し、残心の構えを取りながらタケシは言った。
「お、おお!ありがとうございます!
ありがとうございますだ!! 貴方は村の守り神でございますだ!!」
「あ、ま、いや、その……」
タケシの足に縋り付く様にして感涙に咽ぶ村長に対して困惑気味にタケシは村長の手をゆっくりと剥がす。
(や、やっちまったあ〜!これじゃドルクニフとファトゥムをカリスマにして王都に潜伏させよう作戦が台無しだあ〜!!)
本人が潜入しろと言われればそれまでだがぼっちかつコミュ障のタケシがそんな事をすれば自我が崩壊してしまう。
「ち、違うんですよ。これはその……。
ふ、ファトゥム様の加護の力によってレベル3程度のクソザコ冒険者()でもこの位できる様になれるんだぞってアレで……わ、ワハハ」
「いいえ」
なんとか誤魔化そうとするもきっぱりと本人が否定してきた。
(そこは【はい】って言ってくれよぉ〜!!)
タケシは泣きたくなったがアバターにそんな機能はなかった。ロボットだから。マシーンだから。
ヴァジュラブラスト
タケシの装備していた弓矢。なんでヴァジュラなのにブラストやねんな。知らん。そんな事は俺の管轄外だ。光属性の矢を放つ。当然の様に☆9なので貫通+効果命中&クリティカル発生率アップ、スキルクールタイム短縮がある。