※この作品はR-18です。

Meine Ehre heißt Treue ~遠坂家の使用人~   作:彼処舐ノ助嗅過

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第5話「愛しているからこそ ~教会での絶望~」

その日の夜、僕は奥様とお酒を飲んでいた。

前回一緒に飲んだ時と違い、今日は2人とも静かで俯いていた。

時臣様の件もあって、僕も奥様もお互いなにか思案しながら、時々グラスに口を着けるのを繰り返していた。

「私はあの人の決めたことに従ってきた……。私は魔術師のことには口出しできないから……。でも……今回だけは、止めるべきだった? ……あの人のあんな顔を見たのは初めて……」

奥様はグラスに視線を向けたまま、独り言のように呟く。僕は彼女と向かい合いながら黙って聞いていた。奥様が僕に問いかけているのか、それとも独り言なのかはわからなかったけど……。不安で仕方がないことだけは伝わって来る。

今日、時臣様に会えば奥様の心も少しは落ち着くかもしれない、と思った。

だけどそうはならなかった。時臣様の様子を見た奥様は、夫が死を覚悟していることを知って、余計に不安を募らせてしまったのだろう。

いつも完璧で、それでいて家族に優しかった時臣様の、これまで見たことのない表情……。

僕が覚えている限りでも、奥様の前ではいつも余裕を持ち、穏やかな表情を浮かべていたような気がする。

 

「スヴェンくん」

しばらく黙っていた僕を見て、不安そうな表情の奥様が僕の名を呼んだ。

「……はい、なんでしょう?」

僕はグラスに入った赤い液体を眺めながら答えた。

「あの人は……帰ってくるわよね?」

「もちろんです。時臣様は必ず帰ってきますよ」

僕は力強く答える。その答えを聞いて安心したのか、奥様の表情が少しだけ和らぐのがわかった。

だけどその次の瞬間には、奥様の瞳から涙が零れていく。

そして肩を震わせ、嗚咽をこぼして泣いてしまう。

僕はその姿を見ていられなくなり、思わず奥様の肩に手を回し抱き寄せる。

 

「大丈夫……大丈夫ですよ……」

僕はそう言いながら、奥様の髪を撫でた。

奥様の柔らかで滑らかな髪が指の隙間をすり抜けていく。なんだかその髪の手触りも、繊細で切なく感じられた。

僕の胸に顔を埋める奥様は、そのまましばらく泣き続けた。僕は涙を堪えて彼女を介抱し続けた。

凛様には弱い姿を見せたくないのだろう。だからこそ、僕が押しつぶされそうな奥様の受け皿にならなければいけない、と僕は思った。

 

奥様が落ち着いたのは、それから1時間ほど経った頃だった。

「奥様……大丈夫ですか?」

僕の胸に顔を埋めていた奥様はゆっくりと顔を上げる。そして僕を上目遣いに見つめながら、言った。

「スヴェンくん……お願いがあるの……。私の部屋に来て……今夜は、一緒にいて……」

奥様は僕のシャツをギュッと掴みながら、消え入りそうな声で言ったのだった。

「……わかりました。今夜はお供させていただきます……」

僕は泣きはらして真っ赤になった奥様の目をしっかりと見つめ、そう答えた。

「ありがとう……スヴェンくん」

奥様は弱々しく微笑むと、僕を自室へと連れていった。

 

「スヴェンくん……こっちへ」

奥様はベッドの端に腰を掛け、自分の横を軽く叩いている。僕が隣に座ると、彼女はそのまま僕にもたれかかり、頭を肩に預けてきた。そしてゆっくりと手を重ねてくる。その手は冷たく震えていたが、次第に熱を帯びていくのを感じた。僕はその手をしっかりと握り、もう片方の手で奥様の髪を優しく撫でる。

「スヴェンくん……私を抱きしめて……」

僕は頷くと、彼女を引き寄せ強く抱きしめる。すると彼女は僕の首に腕を回してきた。その腕は弱々しくも僕を求めていたが、同時に何かに怯えているようにも感じられた。

「ねぇ……スヴェンくん……私を……抱いて……」

「え……?」

突然のことに思わず聞き返してしまう僕。

 

「お願い……今夜だけでいいから……私のそばにいて……抱きしめて……不安なの……このままだと……」

「……で、でも……奥様……」

僕の言葉を遮るように、彼女は首を振る。

「違うの……スヴェンくんだから頼みたいの……お願いスヴェンくん……私と一緒に寝て……今だけは、不安なこと全部忘れさせてほしいの」

僕は彼女の目を見る。その目は潤み、熱を帯びていた。

その瞳の奥には、不安と恐怖が入り混じっていた。きっと時臣様を失ったら自分はどうなってしまうのかという恐怖に押しつぶされそうになっているのかもしれない。

そんな状態だからこそ、彼女は僕を求めてくれているのだろう。

 

「……奥様は、僕のことどう思っているんですか? 僕は、奥様にとって時臣様の代わりですか? それとも……僕自身のことを?」

僕は思わず聞いてしまった。

それはきっと彼女の口から「スヴェンくんが好き」という答えが聞きたかったのかもしれないし、「愛しているのはあの人だけ」という答えに安堵したかったのかもしれない。……つまりどちらにしても僕は聞きたかったのだろう。

 

彼女は再び首を横に振る。

「あなたのことが好きよ……でもあの人のことが好きなのも本当……。欲張りで最低だと、自分でも思ってるわ。でも……今の私には2人がいないとダメ……。だからお願い……今夜だけは、全て忘れさせて……」

僕は彼女の目を見たあと、彼女を抱きしめる。

「奥様……。僕は、あなたのことが好きです。そしてそれは、1人の女性として見た場合でも同じです。正直に言うと、ずっと前から奥様に対して恋慕していました。だから今こうして奥様の気持ちを知ることができて、僕は本当に嬉しいです。僕はあなたを心から愛しています……」

そう言ってさらに強く奥様を抱きしめる僕。そして身体を離すと、奥様の肩に手を置く。

 

「スヴェンくん……」

奥様が僕を見つめる。目を閉じて顔を近づけようとする奥様を、僕は優しく押し返す。

「愛しているからこそ……今宵奥様を抱くことはできません。僕にとって、奥様は最愛の女性です。ですが、時臣様の大切な奥方であり、凛様のお母上です……。奥様の不安を利用して関係を持つことは、僕を救ってくれた遠坂家に対しての裏切りです。ですから、申し訳ありません……」

「そんな……スヴェンくん……」

奥様が悲しげに僕を見つめる。その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

「……ですが奥様の言葉通り、今夜は奥様が眠るまで抱きしめさせてください」

「え……?」

「そういった行為は無しにしても、奥様が眠りにつくまで抱きしめていてあげますから」

そう言って奥様を抱きしめると、ゆっくりと彼女をベッドに横たわらせる。

 

「安心して眠ってください、奥様。僕が傍にいますから……」

奥様の瞳から涙が流れるが、安心したように彼女は微笑む。

「……うん。私、不安でどうかしていたわ……。スヴェンくん……私もスヴェンくんが大好き。だからこそ、不安を解消するために関係を持つのは間違ってる……。踏みとどまらせてくれてありがとう。……そして、甘えてしまってごめんなさい……」

奥様は僕の胸で涙を流し、僕は奥様を安心させるように抱きしめ、髪を撫でる。

しばらくそうしていると奥様は眠ることができたようだった。

僕は奥様の髪を撫でながら、その美しい寝顔を見つめる。

この美しい唇に触れたいと何度思ったことだろう。この着物の下を見てみたいと、何度思ったことだろう。今だって手を伸ばせば、すぐに触れられる。

 

……でも、今の僕にとって一番大切なことは、時臣様が帰ってくるまで遠坂家を守ること。

僕にとって何よりも大切なこの家庭を守り抜くことこそが、僕の願いだ。

奥様の心労は限界だ。無理もない。禅城家も魔術師の家系とはいえ、奥様の数代前に滅びていて奥様は一般の女性だ。

時臣様に見初められ遠坂家に嫁いだものの、魔術師同士の殺し合いなんて、とてもじゃないけど普通の人が耐えられるものじゃない。

それも愛する夫が参加していて、自分はただ待つより他ないとなればなおのことだ。

僕は目の前の愛おしい女性の頬にキスをすると、起こさないようにして奥様の部屋を出るのだった。

 

 

(こうしている間にも、時臣様は命がけで戦っているのだろう)

「時臣様……奥様のためにも、絶対に帰ってきてください……」

僕は自室のバルコニーから、空を見上げて白い息を吐きながら呟く。風がいやに冷たく感じた。

 

「スヴェン」

突然背後から声をかけられ、振り向くとそこには凛様がいた。僕はすぐに姿勢を正す。

「あ、凛様……。まだ真夜中ですよ?」

「わかってるわ……。でも、たまにはいいでしょ?」

そう言うと、凛様は僕の横に立って空を見上げた。僕もつられて空を見上げる。

今日の夜空は雲一つなく澄んでいた。そんな美しい空が、不安で押しつぶされそうな僕らをあざ笑っているように感じられた。

 

「……スヴェン……。お母様のそばにいてくれてありがとう」

凛様の言葉に彼女の方を見ると、こちらを見て微笑んでいた。

「いえ……奥様のあんな様子を見てしまったら、放っておくことなんてできません」

僕は苦笑しながら答える。

「お母様にとってあなたは特別なのよ。だから支えになって欲しいの」

凛様はため息混じりに呟くと、僕のほうを見る。その目はどこか悲しげだった。

そして彼女はゆっくりと僕に近づいて来ると、そのまま僕に抱きつき、胸に顔を埋めたのだった。

 

「凛様?」

凛様は顔を上げると涙目になりながらも力強い視線を僕に向ける。

「お父様はきっと帰って来る! だから、私とスヴェンでお母様を支えるの!お父様が帰ってきたときに、笑顔でお母様を抱きしめてもらえるように! いい!?」

「はい!」

僕は力強く頷くと、凛様を抱きしめたのだった。そしてそのまま2人でしばらく夜空を眺めていたのだった。

(凛様……強くなられたな……)

 

 

翌朝。いつもと変わらない朝。

奥様も昨夜のことがありつつも、少し落ち着いたのか、いつもどおりに優しい笑顔を向けてくれた。

よかった。あとは時臣様が帰って来るまで、この笑顔を守るんだ。

 

だけどその日の夜中、言峰さんから連絡があった。奥様あてにだった。

なんでも時臣様が緊急の要件があるから、今すぐに冬木教会にいる時臣様に会いに来て欲しい、とのことだった。

凛様を1人残すのは危険だから、と僕はこの屋敷に残るようにとの指示もあった。

奥様は急いで支度をする。そして寝ている凛様を起こさないようにしながら、僕に言う。

「それじゃあ行ってくるから、凛をお願いね。……あの人に何かあったのじゃなければいいんだけど……」

不安そうにする奥様をそっと抱きしめる。少しして元に戻ってから僕は奥様に言う。

「大丈夫です、きっと時臣様は無事です……。……それよりもこんな真夜中に、奥様1人で聖杯戦争中の冬木に行くのは危険な気がします。やはり僕も行った方がよいのでは……?」

僕の提案に奥様は首を振る。

「あなたまでここを離れて、凛に何かあったらどうするの? 私は大丈夫だから」

「でも……」

「大丈夫……。すぐに帰って来るから……。行ってくるわね」

「……わかりました。お気をつけて」

僕がうなずくと、奥様は軽く微笑みそのまま出発していったのだった。

 

奥様が出発されてから数十分程度が過ぎた……。

なんだろう……この胸騒ぎは……。なんだか嫌な予感がする……。僕は屋敷の結界を確認する。

「大丈夫だ。少なくとも並の魔術師では突破できないし、それ以上の魔術師でも音を立てずに突破するのは不可能だ。不可視のトラップに、侵入者に反応して出現するゾルダート100体と魔術戦車10両……。各扉には精神に作用する呪いをかけてある……。屋敷の警護に抜かりはない……凛様は安全だ」

僕は屋敷の守りが安全であることを確認すると、出掛ける準備をする。

この胸騒ぎは無視できない。今すぐにでも奥様を追いかけなければ。

 

屋敷の外に出た僕はタクシーを探す。

こんな時間ではすでに電車もバスも動いていない。

車は奥様が持って行ってしまったし、そもそも僕はまだ免許を持っていない。ここで魔術を使うわけにもいかない……。

数分歩くとようやくタクシーを捕まえることができた。

冬木市まで、と伝えると車は走り出す。しかし、途中で交通事故の規制による渋滞に引っかかり、僕は不安から苛立ちを隠せない。

(くそっ……こんなときに……!)

時は一刻を争うかもしれないのに……!

こうなっては魔術の使用もやむを得ない。

 

僕は途中でタクシーを降り、周りに人目が無いのを確認すると、魔術の詠唱をする。

「Schallgeschwindigkeit(音速)」

詠唱を終えた僕は、超高速移動で冬木教会を目指す。

魔術の痕跡も強く残るし、僕自身の魔力消費も凄まじいがなりふり構ってなどいられない。

地面を蹴り、建物を飛び跳ね、数分間走り続けてようやく教会付近にたどり着いた。

保管庫から回収した礼装のおかげで魔力消費を抑えられたため、ここまで一気に来ることができた。僕は気配遮断の外套を纏い、息を殺す。近くに戦闘中のマスターやサーヴァントがいるかもしれない。ほんの少しであっても安全は確保しておきたい。

 

教会に近付いた時だった。

中から1つの人影が現れる。奥様か、と思ったが違った。

間桐雁夜だった。

彼はわめき声やうめき声のようなものを発しながら、片目から涙を流している。何か知っているのかと話しかけようとも思ったが、そのただならぬ様子に話しかけるのが躊躇われた。

(な、なんなんだ……?)

嫌な予感は一層強くなる。

 

恐る恐る協会に足を踏み入れた。

奥に人が2人倒れている。

(嘘だ……)

近付いていくと、それが誰なのか嫌でもはっきりとしてくる。

「奥様!! 時臣様!!」

僕は倒れている2人の元へと駆け寄る。

2人とも目を見開いて、倒れていた。

僕の頭は真っ白になっていた。2人と共に過ごした日々を思い出し、それが一気に崩れ去ったような気がして……。絶望で何も考えることができない。

どうしてこんなことに……。

僕は絶望しながらも、奥様と時臣様の状態を確認する。

時臣様はすでに息を引き取っていたが、奥様はまだ生きているようだった。

気を失い呼吸も止まっているようだったが、まだ助かるかもしれない!

 

僕は奥様の頭の位置を直して、人口呼吸を行う。

「奥様……どうか息をしてください……!」

僕は必死に心臓マッサージと人工呼吸を繰り返す。すると微かにだが、呼吸が戻った。

「奥様! しっかりしてください!」

しかし、僕の声には反応せず、ただ呼吸だけを繰り返すだけだった。

呼吸が戻ったのなら、魔術で回復が可能だ。もちろん僕は治癒師ではないから応急処置程度のものになるだろうけど、やらないよりはマシだ。

僕は奥様の胸に手を置いて魔力を送り込む。すると呼吸は少しずつ正常に戻っていく。

「……よかった」

ひとまずこれで一安心だ。

あとは病院に連れて行けばいい。僕が救急車を呼ぼうとした時だった。

 

「スヴェン! 遅かったか……。約束の時間になっても、時臣氏が戻られないためおかしいと思って駆け付けたのだが……。師と奥様にいったい何が……」

言峰さんが教会の外から息を切らしてやって来る。

「い、いえ……僕も胸騒ぎがして、今来たばかりでして……。と、とにかく救急車を呼びましょう!」

僕は言峰さんに状況を説明し、すぐに救急車を呼んだ。

病院に搬送された奥様は一命を取り留めたが、いつ意識が戻るかわからないほどの重体だった。

時臣様はすでに亡くなられていた。

どうして……。

もう少し早く到着していたら、奥様のように助けることができただろうか?

 

病院から禅城の家に送ってもらっている車の中。

「スヴェン……すまない。私がついていながら、一瞬の隙がこんなことに……。師は、間桐雁夜と話をするだけだから大丈夫だと仰っていたが……」

言峰さんは僕に向かって謝罪する。

「間桐……雁夜……そういえば……」

僕は先ほど教会から出て来た間桐雁夜の姿を思い出していた。

まさか……あの男が時臣様と奥様を? 雁夜は僕と同じで奥様に想いを寄せていたし、時臣様に恨みを持っていた。

でも、雁夜に時臣様が負けるだろうか?

いや、もしかすると不意打ちや卑怯な手段を使ったのかもしれない。そしてそこに駆け付けた奥様が、雁夜ともみ合いになって奥様は首を絞められた?

 

「スヴェン?」

言峰さんは黙り込んだ僕を見る。

「僕が到着したとき、教会から出てくる間桐雁夜を見ました。彼は泣き喚いていてその様子は尋常じゃなかった……。そして中に入ったら2人が倒れていました……状況的に見れば……」

「ああ、それに動機も十分だ。お2人に危害を加えたのは……間桐雁夜だろう」

「……」

僕は沈黙した。その沈黙は肯定に近い。だって、それ以外に考えられないからだ。

でも……それだけじゃないような気がする。

何か……もっと恐ろしい事が起きたような……そんな気がする。

だけど今はもう考える余裕もない。

凛様になんと伝えるべきか……。

「スヴェン……。私も少し寄っていく。凛には私の口から伝えよう」

「言峰さん……。ありがとうございます」

 

 

禅城の家から戻って来た言峰綺礼。

英雄王ギルガメッシュが具現化して出迎える。

「戻ったか綺礼。それで、あのスヴェンとかいうお前の弟弟子はどんな様子だ?」

「……ふん、どうやら私の見込み違いだったらしい。やつはあの年齢にしては精神的に大人びているが、所詮はただの善良な市民だったよ」

そう言って綺礼は、ギルガメッシュから手渡された酒を一口飲む。

「本来であれば私が事前に殺しておいた遠坂時臣の死体を彼らに発見させた後、間桐雁夜とスヴェンを鉢合わせて遠坂葵を巡る殺し合いをさせるつもりだった……。タイミングが僅かにずれて叶わなかったが……」

綺礼の企みを聞いたギルガメッシュは思わず吹き出す。

「フッ、フハハハハハ! 実現していれば、あの劇ももう少し面白くなっていたであろうに。綺礼よ、お前の目算では間桐雁夜とスヴェンが殺し合った場合、どちらが勝っていたと予想するのだ?」

ギルガメッシュの問いに、綺礼は少し思案する。

 

「魔術師としての才能も実力も、圧倒的にスヴェンだろう。だがサーヴァントを所有している以上、総力戦となれば雁夜が有利か……。それにスヴェンと雁夜では、覚悟が違う。雁夜は何としても聖杯を手に入れようとしている。だが、スヴェンはただの使用人に甘んじている……この差は大きい。……いや、スヴェンは私も知らぬ力を隠し持っているはずだ……。結局は状況次第、といったところか……」

綺礼は説明を途中で区切るが、少しして再び口を開く。

「私はスヴェンには、以前から愉悦を期待していた。彼ならば、この期に愛している遠坂葵を自分のものにするだろう、と。だが今はそんな期待も失せた」

綺礼はワインをギルガメッシュのグラスに注ぐ。

「ほう? ならば何故やつを生かしたのだ?」

ギルガメッシュの問いに綺礼は口元を少し歪める。

「彼が生きていた方が、いろいろと都合がいい。凛の面倒を見る必要も無くなる。それに……今はまだ私や凛の目を気にしているのかもしれないが、近いうちに彼の欲望が再び暴走するかもしれない。そうなることに僅かにだが期待している」

 

ギルガメッシュは綺礼の狂気を感じ取りつつも、愉快そうにワイングラスを揺らす。

「フッ……フフフ……! その歪んだ願いこそ我を愉しませる! だが綺礼よ……。もしスヴェンがいつまで経っても、お前が望むような結果にならなかった時はどうする?」

「そうだな……。その時は……」

綺礼は僅かに間を置くと口を開く。

「そうなるように、もっと直接的に誘導するさ」

「フハハ! やはりお前は面白い奴だ、綺礼よ!」

ギルガメッシュの高らかな笑い声が、屋敷の中に響き渡るのだった。

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