「うーん……」
その日、工房で合成の準備をしていたヒルダは、机の上に並べた素材を前に青い瞳を瞬かせた。
ヒルダは魔女だ。魔法を使ったり、怪しげな薬を作ったりするのが仕事である。
「……やはり材料が足りないわね」
作る予定の薬の材料が足りない。持ち上げた瓶の中には緑色の液体が満たされているが、その量は少なく、底に少し残るばかりだ。
「組成変異薬なんてあまり使わないから油断したわね。取りに行きますか」
ヒルダはエプロンを脱ぐと、下着同然のインナーにウィッチドレスを纏う。
黒と紫がベースのドレス。肩と背中は大胆に露出する一方で、腕と足はスカートやフリルで隠されている。敵対者は彼女の白い肌に目を奪われ、手元と足の動きを見落とし、色香に迷っている間に意識を断たれる。大胆にして不適な彼女の戦装束だ。
紫鼠(むらさきねず)色の髪に櫛を通し、魔女の象徴である三角帽子をかぶると、杖を手にヒルダは屋敷を後にした。
◆◆
向かったのは、街の外れにある遺跡跡。
地上部分は崩落しているが、地下部分は今現在も健在だ。水が染み出し、じめじめとしたこの場所には、丘蛸が多数生息している。
この丘蛸の脚から取れる髄液が、不足している素材だ。
「さっさと終わらせて頂戴ね」
地下通路に降り立つと、柱の影からウネウネと触手をくねらせながら丘蛸が姿を現す。
丘蛸は、名前の通り蛸と瓜二つの姿をしている。大きな違いは体色が黒で固定されており変色しない事と、緑色の体液を持っている事だ。性質は大人しく、攻撃的ではない。それでも迂闊に組みあえば人間以上の怪力を誇るため、危険な魔物ではあるのだが、ヒルダには関係ない。
風の魔法を放つヒルダ。人間をも真っ二つにできるエーテルの刃が、蛸達の脚を切り裂いた。
ヒューヒュー悲鳴を上げて闇の奥へと逃げていく蛸達。何十回も何百回も聞き飽きたそれを聞き流し、ヒルダは切断されてもなお蠢いている蛸の脚を拾い上げると、瓶の上でその精髄を掻きだした。手慣れた仕草でどろり、とした緑色の液体を瓶に貯めていく。
「こんなもんかしら」
瓶の蓋をして周囲を見渡す。他に丘蛸の姿はない。
駆逐してしまうのは容易いが、そうすると遠くまで丘蛸の営巣地を探して出歩く必要になってしまう。ここを見つけてから以降、ヒルダは生かさず殺さず、蛸達の脚を奪い続けていた。
「また足りなくなったら来るわね」
残酷な予告を残して、ヒルダが立ち去ろうとした、その時の事だ。
突然、頭上から何か黒っぽい液体が、ヒルダに向かって吹きかけられた。
「?!」
驚愕するヒルダ。
自慢のドレスが黒い液体で汚れてしまったのに舌打ちしつつ、天井を見上げる。
居た。遺跡の天井の片隅で、何かが蠢いている。それは見ている前で浮かび上がるようにその姿を露にする。
見た目は、大きな丘蛸そのものだ。だが、脚がやたらと多い。数は不明だが、明らかに8つ以上ある。それに今、それは確かに体色を変化させて風景に溶け込んでいた。そうでなければ、いくら油断していたとはいえヒルダが不意打ちを許すはずがない。
「丘蛸の変異体……!?」
舌打ちしつつ、ヒルダは丘蛸を排除するべく杖を構えた。大人しくしていれば無事で済んだのに、と変異体へと魔術を放とうとする。
が、それは実行に移されることはなかった。
「あ、あれ……」
手足が思うように動かない。力が入らない。
滑り落ちた杖が床に転がって、カランと音を立てる。立っていられず、ヒルダはその場に座り込んだ。
「ま……ひ……?」
呆然と呟く。丘蛸の墨にそんな効果があるなんて聞いたことが無い。
それだけではない。解呪しようとしても、魔力が回らない。どうやら、魔術師の魔力を妨害する効果もあるらしい。
つまり、今のヒルダは、見た目以上に貧弱な、ただの女になり下がったという事である。
変異体が、天井から床に落ちる。そのまま床をはいずって、ヒルダへと近づいてくる。
人とは違う冷たい触手の先が、ヒルダの脚にきゅっと絡みついた。糸のように細いのに、肌に食い込むかと思うほど強い力だった。
「い……いやっ、はな、はなして……っ!」
絡みついてくる触手に抵抗するも、麻痺している上に貧弱な女の体ではどうしようもない。
あっさりと彼女は蛸に捕縛され、そのまま闇の向こうへと引きずり込まれていった。
後には、彼女の使っていた杖だけが残された。
◆◆
「(何、何、何……?! 私をどうするつもりなの……?!)」
触手に口をふさがれ、手足を拘束されたままヒルダは真っ暗な闇の中に引きずり込まれた。鼻を突く異臭にむせ返るが、口をふさぐ拘束は緩まない。
丘蛸が人を襲わない、という訳ではない。数少ないが被害報告もある。その内容を思い出し、ヒルダは顔を真っ青にした。
「(私を……食べるつもりなの……っ!?)」
基本的に蛸は肉食性だ。その嘴、カラストンビと呼ばれるそれは貝の貝殻も嚙み砕くという。何件かある丘蛸の獣害事件では、被害者は骨すらも齧られて殆ど遺体も残らなかったという。自分もそうなるのか、とヒルダはもう手遅れと理解しながらも油断した自分を罵った。
唯一の救いは、蛸は嘴に強い毒を持ち、獲物が逃げられないように麻痺させるという。生きたまま噛み砕かれる痛みを感じずに済むのが、救いといえるのならば、だが。
蛸の動きが止まる。どうやら、住処にたどり着いたらしい。口元が解放され、息を吸ったヒルダは、鼻腔に押し寄せる黴臭さに思わず咳き込んだ。
遠くから、水の滴る音がする。地下遺跡を満たす水の出どころだろうか。空気はひんやりしていて、その中にしゅるしゅる、ぬちぬちと蛸の蠢く音が響いている。
状況を観察する時間は無かった。無数の触手が、ヒルダの体に絡みついてくる。服の内側にもぐりこんでくるぬるぬるとした触手の感触と、ひたひた吸い付いてくる吸盤の感触にヒルダは竦みあがった。それらは明らかに人肌より冷たく、異物感を強調する。
「ひっ……!」
上げかけた悲鳴を飲み込んで、できるだけ身動きしないように耐えるヒルダ。そうすれば、“その時”が少しでも訪れるのが遅れるのだと信じるように。
触手が腕に絡みつき、袖を引きはがしていく。胸元にもぐりこんだそれが、ドレスをずり提げる。ヒールの高い靴も、そっと外され、その下のストッキングが引き抜かれた。それらの拍子に粘液に覆われた触手が、彼女の敏感な場所をかすめていき、反射的に彼女の背がひくり、と跳ねた。
それらにじっと耐えていたヒルダだが、やがて何かがおかしい事に気が付く。
一向に、鋭い牙が彼女の肌に突き立てられる様子がない。衣服を脱がすのは肉を食べるのに邪魔だからだと分かるが、すでに半裸に剥いておきながら、いまだに触手が柔肌を探るように、胸を揉むように這いまわっているのは何故だ。粘液を塗りたくるように動く触手は形を確かめるようにヒルダの肌をなぞり、くすぐったさに声がでる。ぴとぴとと気まぐれに吸い付く吸盤が離れた後には、ちりちりと痒みにも似た疼きが走った。
蛸の体がずしりとヒルダの腹の上にのしかかってくる。闇の中に、金色の瞳が輝いて、じっとヒルダを見つめている。その視線には、どこか覚えがある。
街中を歩く時、道行く男達がヒルダに向けるそれ。襲ってきた山賊が、魔術で弾け飛ぶ寸前にヒルダのむき出しの肩に向けているそれ。
手足にぬるぬると触手を絡め始めたときに、ようやくヒルダは相手の狙いを理解した。
「こ、こいつ……まさか……」
聞いたことがある。
世に蔓延る亜人達。その始まりは、魔物に孕まされた女が生んだ子だと。
この蛸は。
ヒルダをその相手にするつもりだ。
「~~~~~~~っ!!!」
命の危機とは違う貞操の危機を感じて、ヒルダは蛸を振り払おうと全力で足掻いた。だが麻痺墨によって力の入らない体はただ微かにじたばたするだけで、蛸はまるで聞き分けの無い子供をあやすように、触手を巻き付けて吸盤で吸い付いた。ゆっくりと、しかし有無を言わせない力強さで彼女の両腕を頭の上で拘束し、汗の滲む太ももを押し開くと、鼠径部を細い触手の先でつぅ、となぞった。
明らかに性を意識させるその動きに、ヒルダの喉が引き攣る。
「ひ……っ!?」
ヒルダはまだ男を知らない。村娘のように甘いひと時を夢見る事はなかったが、それでも初めての相手が人間ですらない、獲物にすぎなかった丘蛸とか御免被る。
なんとか抜けだそうともがくが、とっくに状況はそんな段階を過ぎている。現実を受け入れられずに嫌々と駄々を捏ねるヒルダを宥めるように、触手が拘束された彼女の指先に絡みついてきた。恋人繋ぎのように指の一つ一つを確かめるように触手が絡みつき、キスのように手の甲に吸盤の跡を残す。
それだけではない。首筋に、乳房に、足先に、一斉に触手が絡みついてくる。ねばついた粘液は最初冷たさに違和感があったものの、ヒルダの体温になじんでやがて気にならなくなる。ぬるりとした粘液の中、一つとして同じ動きをしない触手が肌に絡みついてくるのに、気持ち悪さを感じなくなってきているのに怖気が走った。
「や……やめ……あっ」
触手が下着の上からなぞるように陰唇をなぞる。粘液で張り付いた下着に浮かび上がる白い線を、何度も何度も触手が往復すると、やがて蛸の帯びる粘液以外の液体で下着が黒く滲んだ。気が付けばヒルダの息は荒く乱れ、触手が擦り上げる乳首は硬くとがり始めていた。
「ひ、あ……あぁっ!?」
全身を同時に何か所も愛撫されて、喉の奥からこらえきれない嬌声が零れだし、ほかならぬヒルダ本人が目を白黒とさせた。
「お……かし……いっ! なんで……なんでこんな……っ」
なんで、こんなに気持ちいいの。思わず出かけた歓喜を飲み干して、ヒルダは努めて冷静に自分の体を制御しようとした。だが、すでに体は熱く火照り、心臓は耳鳴りするほど脈動し、汗が額を伝った。熱を持つ体に蛸の冷たい体はむしろ心地よく、すぐに両者の体温がまじりあって境界線が分からなくなる。
「なに……これっ。まさか……媚毒……っ!?」
ありえない、とヒルダは首を振った。媚薬と呼ばれるものはあるが、それはあくまでただの興奮剤だ。こんな、女の嫌悪感を完全に無視して体を発情させるなんていう薬、御伽噺の中にしか存在しない。しかしどれだけ否定しても、自分でも覚えがないほど体が熱を持っているのも、肌を這いまわる触手の動きがたまらなく心地よくなってきているのも否定できない事実だった。
「なんなのコイツ……どうして、こんなのがこんなところに……ぁあっ!? う、ウソ、はいって、くるぅ……っ」
金色に光る瞳を、気持ちだけは負けないと睨み返すヒルダ。だが、その決意はあっけなくへし折れた。下着をくぐって、秘所へと潜りこんでくる細い触手。吸盤を備え、粘液でぬるぬるとしながらもごつごつとした形状のそれが、熱く蕩けた女陰へ侵入してくる。
それは処女膜を傷つけることなく通過し、未だ未通の、固く縮こまった膣の奥へと侵入した。硬い肉を解すように、粘液を刷り込むように触手の先端がうねり、回転し、ヒルダの奥を広げていく。
「ひっ!? あぁっ!? そ、そんな奥まで……ぇっ、や、やだぁ!? 私の体、玩具にしないで……あっ!!」
指を入れたことすらない最奥をまさぐられる感触に声が跳ねる。その間にも触手はぐにぐにとヒルダの胸を餅のように捏ね、太ももに絡みついた触手はぐるぐると巻き付きながら吸盤で吸い付いて赤いキスマークを残していく。全身を愛撫されながら口づけを落とされるような、人間相手では絶対にあり得ない蛸の攻めに耐えきれなくなったヒルダの体が不規則に跳ねるも、触手の戒めは外れない。混乱のあまり幼児退行気味の悲鳴を上げるヒルダの瞳に、涙が浮かんだ。
つぅ、と頬を伝うヒルダの涙。それを、蛸は優しく触手の先で拭い去り、金色の瞳で彼女の青い瞳をのぞき込んだ。
感情の感じられないはずの、蛸の長方形の瞳孔。それが、今は強い執着と興奮に歪んでいるように見える。間違いなく、この蛸はヒルダを辱める事に興奮を覚えていた。
それを見て、ヒルダの脳裏にある考えが過った。
変色しない丘蛸に慣れ切った襲撃者の不意を突くための体色変化、麻痺だけでなく魔力をも封じる墨、抵抗を封じて巣まで運び込むための増えた触手。いずれも、まるでヒルダを襲撃するためだけに備えたような都合のいい能力。それが偶然ではないとしたら?
「……まさか……あなた……あっ」
ヒルダは長年、この狩場で蛸を素材として食い物にしてきた。その淘汰圧で、いわば対魔術師に特化した個体が生まれたのではないか。それが、この個体。
そうならば、この個体の目的はこれまで蛸を食い物にしてきた代償を、その身をもって払わせようとしているのだろうか。
「ご……ごめんなさい! 悪かった、あやまるからぁ! 誓います、もう二度と、ここで蛸を襲ったりなんかしません。だから……ひぃああっ!? ああ゛っ!?」
許しを願うヒルダの懇願に、しかし帰ってきた答えはさらに秘所へともぐりこむ複数の触手だった。
太さも長さも違う数本の触手が、同期しない動きで膣の中をかき回す。最初は細い触手で狭く硬い中を解し、そして次の動きは明らかに性感の開発を狙っていた。媚毒の粘液を塗りたくり、吸盤で探るように膣壁へと吸い付く。ある触手は最奥までもぐりこんで子宮口の周りでとぐろを巻き、ある触手はぐるりと膣壁に螺旋に張り付いた。
「ひぃっ!? あ゛っ! だ、ダメっ!? あぁああ゛……い゛っ!?」
膣内の間隔に翻弄されるヒルダの声が跳ね上がる。いつの間にか硬くとがった陰核に、細い触手が巻き付いている。それは粘液をからませて優しく皮を剥くと、むき出しになった肉のルビーに、ちゅ、と1mmにも満たない小さな吸盤でキスを落とした。その僅かな衝撃が、耐えがたい刺激になってヒルダの腰を貫く。がくん、と跳ねた腰へと、束縛するように二本の触手が巻き付いて痛みを感じる一歩手前の強さで締め上げた。それはちょうど子宮の上で、その圧力が膣内で暴れるいくつもの触手を強く意識させる。
そうする間にも他の触手は、ヒルダの全身の性感帯を翻弄し続けている。粘液を塗りたくり、からみついて締め上げ、吸盤でキスをし、先端でひっかく。何十人もの手練れの女衒に一斉に体を弄ばれているような愛撫に、自慰ぐらいしか経験のないヒルダはひたすら振り回されるばかりだ。今時分がどういう姿勢をしているのか、どういう顔をしているのか、どれだけ愛液を吹き出しているかも理解できない。
「ひっ、ああぁあ゛っ!? あ゛っ、や、やあっ! 気持ちいいのやだぁっ!! あ゛ぁあーーーっ!?」
腰を振って悶えるヒルダだが、その痴態に興奮したかのように蛸の責めは激しくなるばかりだ。
やがてついに、ヒルダはその時を迎えてしまう。
「あっ、あっ、あ……あっ! あぁああああああーーーーーーーーーーっ!!!」
絶頂。
びくんびくんと体が跳ね、秘所からぷしっ、と愛液がしぶく。背が弓なりにしなり、仰け反って舌を突きだすようにしながら、ヒルダは絶頂に達した。
エクスタシーに達した彼女の体を、少しトーンを落として蛸は愛撫を続ける。少しでも快楽が長続きするように、頂きを極めた後落ちてくトーンにあわせて少しずつ弱くしながら、膣奥を擦り、胸を揉み、脚の指をくすぐった。やがて絶頂が完全に過ぎ去ると、ヒルダはぐったりと完全に脱力して触手の海へと沈んだ。ごつごつした地面に彼女の肌が触れないように、蛸は優しくその体を受け止める。
愛撫は一旦停止し、ヒルダは今も脳をバチバチと焼く快楽の火花に意識を朦朧としながら激しく胸を上下させている。その白い肌にはびっしりと汗が浮かび、肌は興奮に赤く色づいている。
自慰でも達したことのない快楽の頂きを垣間見て、ヒルダは呆然と闇に閉ざされた天井を見上げていた。
と。
何かが、ヒルダの指に押し付けられてきた。
太い。それは、ごつごつとしていて、表面に無数の吸盤があるようだった。ヒルダが指先でその形を確かめていくと、それは不意に離れていった。まるでヒルダに形を確かめさせるのが目的だったように。
と、腹を縛っていた触手がほどかれた。代わりに、さきほど手に触れてきた触手の束が、ぷにっとしたヒルダのお腹に押し付けられる。
薄闇の中、闇に慣れた目が至近距離でそれを目撃した。
「え……」
それは、どうやら複数の触手を束ねたもののようだった。ヒルダの見ている前でそれは一度開いて、何か白い莢のようなものをむき出しにする。それは一瞬の事で、再び触手が束ねられると、それはキノコのような形になった。秘所から、へその下まで届くような長さの、傘をもったそれ。
その形状に、ヒルダは覚えがあった。
男根だ。
あれは、触手を束ねて作った疑似男根だ。そしてその中に、精莢を包んでいる。聞いたことがある、蛸はペニスがなく、精子を収めたカプセルを雌に渡して受精させると。それを内包した男根とは、つまり。
「あ……ああ……っ」
恐怖に喉が引き攣る。が、麻痺と絶頂の倦怠感に苛まれた体はピクリとも動かない。
そして、ヒルダの見ている前で。
疑似男根は、粘液と愛液でどろどろになった秘所へとぐ、と切っ先を潜り込ませた。先端が触れたと思ったのもつかの間、次の瞬間にはそれはヒルダの胎奥へとずるり、ともぐりこんでいた。
処女を失った痛みは殆どない。
代わりに、疼く微肉を満たされた喜びが、ヒルダの喉から迸った。
「ぁぁぁああああああ゛っ!? うそっ、あ゛っ!? ぁああ゛いっ、んあぁあっ!? ああああーーーっ!?」
喜びに満ちた悲鳴が上がる。闇の中で身を捩る裸体といい、誰がどう見ても今しがた処女を奪われたばかりの女の反応ではなかった。
痛みが全くない訳ではない。だが、それは微かな擦り傷のようなもので、ぐずぐずに蕩けた微肉をごつごつとした逸物で掘削される喜びを飾り立てるスパイスのようなものだった。
螺旋状に絡み合った疑似男根が、どちゅん、どちゅん、と一定のリズムでヒルダの体を刺し貫く。深く最後まで貫いたのは最初の一回だけで、あとは中ほどまでと入り口近くを、ゆっくりと前後させるだけ。ある程度前後させると一度引き抜く寸前まで男根を引き、他の触手でかき集めた粘液をローションのように塗りたくる。十分に逸物が潤うと、再びヒルダの体の中へと送り込まれていく。
体をゆするような激しい抽挿ではない、むしろその逆。処女を失ったばかりの女体を気遣うような優しい抽挿だったが、にも関わらず、ヒルダは頭の奥で弾ける白い火花に目の前が真っ白になりそうだった。
「ひっ、あ゛っ! や、やめ、ぇああっ! あ゛っあ、あぁあっ! んぅぅっ! あぁああっ!?」
ごちゅ、ごちゅ、と逸物が疼く肉をすりあげる度に、こらえきれない嬌声が胸の奥から吐き出される。触手に拘束されて身動きできない中、必死に首を振って快楽を堪えようとするヒルダ。振り乱された髪が、汗で濡れる頬に張り付く。その様を、蛸は金色の瞳でじっと見つめている。
そこには興奮と色欲。それに加えて、実験対象の反応を観察する科学者のような冷徹な色があった。
ぐ、ぐっ、と逸物が角度を変えながらヒルダの中を往復する。逸物はただごつごつとした吸盤で膣肉を押し広げ、張った傘で愛液を掻きだすだけではない。表面にずらりと並んだ吸盤はひくひくと縮小しながら、気まぐれに膣の中へと吸い付いた。ヒルダの膣の形に合わせて生み出された専用の男根でかき回されるだけでも辛いのに、発情した微肉に無数のキス跡を残されるのは、例えどんな凄腕の男娼を相手にしたとしても得られない体験だろう。
「ひっ!? あぁあ゛っ、ダメぇっ!? 出し入れ、しながら、あっ!? ちゅう、ちゅうするの……あぁああ゛っ!? ひぃっ! んあああっ!?」
そんな攻めに、初心なヒルダが耐えられるはずもない。息も絶え絶えに、舌を突きだすようにして悶絶する。
悶える白い裸体を、蛸の黄金の瞳がじっと見つめている。異種である少女の体に魅入るように。
“良い”角度を見出した蛸が、触手をもう一本、ヒルダの腰へと巻き付けた。二本の触手がぐるぐると巻き付き、そうなったら女としても非力なヒルダは文字通り僅かな身じろぎすらできない。そうして角度を調整すると、今度は太ももを擦り上げていた触手を引っ張り、脚を大きく開かせる。快感に翻弄されていたヒルダは、不意に訪れた嵐の小休憩に息を整えるのに精いっぱいで、蛸が何をしようとしているのか気が付いていない。
「ひぃ……はぁ……はぁ……お、おわった……?」
そんなはずがない。
にゅるり、と三本の細い触手が、逸物を加えこんだままの秘唇に伸びる。腰が開いて余裕が出来た女陰へと、糸のように細い触手がぬぷり、ともぐりこんだ。押し出された愛液が、雫になって滴った。
「っ、え、何……何をしてるの……あぁあっ!?」
流石にヒルダが違和感に気が付くが、それを誤魔化すように抽挿が再開される。さきほどまでと違って、女陰の入り口にある性感帯や、クリトリスの裏側にあるGスポットを吸盤で擦り上げるような特徴的な動き。それに加えて、何度も変えながら調べた“良い”角度……ヒルダの膣と逸物の角度がちょうどそろって、満遍なく膣内を刺激できる。止まっていた抽挿にクールダウンしていた快楽が、たちまち煮えたぎるように沸騰した。
「ひ、あ゛っ!? んんあっ、い゛っ! あひぁっ、んんっ、あぁあああっ!!」
激しい抽挿に悶えるヒルダ。拒絶の言葉を叫ぼうにも、激しい火花が頭の奥で弾けて言葉が見つからない。
さきほどから、抽挿しながら逸物は膣内に吸い付いてきている。それも、特にGスポットを狙って集中的に。それは弱い所を探し出して攻めているというより、ヒルダに女の弱点を逆に教えているかのような動きだった。スポットするような吸盤の吸い付き跡は若干の痛みを残し、そのチリチリとした感触は、快楽に慣れようとする彼女の意識をかき乱す。
教えられた自分自身の性感帯。口づけの跡に意識を向けると、曖昧だった体の部位がはっきりとしてくる。
途端、カチリとヒルダの頭の中でパズルのピースがはまるように、快楽がより鮮明なものとなった。性感帯と、そうではない所。大と小、低音と高音。それまで混ざり合ってともすれば雑音を生じていた快楽のオーケストラが、綺麗にリズムを合わせ始めたような感覚。
女の喜びが、一段上へと差し掛かる。
間違いなく、それはヒルダにとって望むものではなかったが。
「ん……ひぃっ!? あぁあっ!? や、やぁあっ!? 違う、ちが……ぁあ゛っ!? しら、知らない、こんなのっ、あぁああっ!? 許して、ごめんなさいお願いします、これ以上、私を、んぃっ、変にしないでぇえ……っ!? あぁっ!?」
待ち受ける破滅の足音に、恥も外聞もなく凌辱者に許しを希うヒルダ。魔女の心は完全に折れていた。
だが、蛸は全くそれに頓着する事なく、彼女の体を責め立てる。彼からすれば、これからが美味しい所なのだ。
膣に限らず、クリトリスや乳首、首筋や指先を責め立てる蛸だが、それらは全てヒルダの意識を逸らすためでもある。本命は、先ほど膣内にもぐりこませた細い触手。それは今や、彼女の膣奥へとたっぷりと粘液を注ぎ込んでいた。先ほどから奥を責めなかったのはそのためだ。ヒルダの膣のサイズに合わせた疑似男根と、きゅうきゅう吸い付いてくる彼女の膣が隙間なく絡み合い蓋のようになった奥で、あふれかえるほど注ぎ込まれた粘液が抽挿の衝撃にちゃぷん、どちゃぷん、と揺れている。その波が、女体のもっとも奥深く守られるべきもの、固く閉じた子宮口へと押し寄せた。
ヒルダは、一つ勘違いしている。
この粘液に含まれているのは媚毒ではない。もっと悍ましいものだ。
丘蛸と共生する、変異誘発ウィルス。組成変異薬にも用いられるそれは、変異体の蛸のものはさらに強力なものになっている。興奮させるとか、気持ちよくするとか、そういうレベルではなく、このウィルスで直接女体を蛸との交合に適したものに遺伝子レベルで作り変えてしまうのがこの粘液の真の効果であった。
それが、大量に膣奥へ、子宮口へと注ぎ込まれている。
今、ヒルダの体の奥深くで、有り得ない変異が今まさに起きているのだ。
「クプッ」
下準備は整った。一声鳴くと金色の瞳を満足そうに細め、蛸は疑似男根を、満を持してヒルダの最奥へと侵攻させた。
ずるる、と逸物がヒルダの膣を満たす。最奥まで肉棒が押し寄せて、行き場を失った粘液がさながら注射器の中身のように子宮口へと圧力をかける。
そしてとちゅん、と最奥を逸物が叩く。それと同時に、押し出された粘液が子宮口を通り抜け、その内部に一滴、流れ込んだ。
それは、致命的な一滴だった。
感覚が無いはずの子宮が、熱く焼けるような感覚をヒルダが覚えた、次の瞬間。
「……んぎぃぃいいいあああっ!? あぁあっ!?」
一瞬遅れて押し寄せる絶頂の渦に、ヒルダの嬌声が裏返った。ごつごつとした吸盤の塊が、ぐりぐりとすりこぎのように最奥を擦り上げる。たっぷりと粘液を刷り込むように動いたそれがずずず、と中ほどまで引き下がり、再び勢いをつけて最奥を打った。衝撃に、粘液のしみ込んだ子宮が跳ねて揺れる。
「い、ぎぃっ!? あ゛ぃあっ、んぃい゛っ!?」
目を白黒させて、濁った嬌声を上げるヒルダ。体は絶頂に達しているのに、快楽の淵が降りてこない。いきっぱなしになってる状態で、さらに快楽のボルテージが増していく。子宮を揺さぶられる間隔は気持ちいいというより、電流を流されるようだった。脳が、絶頂の形に強制的に切り替えられるような。
加速度的に正気が削れていく。
理性が飛び、ただ生物の本能だけが猛りを上げる。子宮の役目、機能。
孕みたい、子を産みたい。強い雄の子を産みたい。
締め付ける触手が、ぎゅう、と腹の奥にある卵巣を締め上げた。その内部で急速に細胞分裂が進み、ぷつり、と卵子が送り出される。
それが分かった訳ではないが、女としての本能でヒルダは理解した。
自分は、ここで蛸に孕まされる。
微かに残った知性が、恐怖と絶望に悲鳴を上げた。
「……ぃやあああっ!? あぁああ゛っ!? ぁあああーー、や、やだっ! 生みたく、んぁあ゛ぁあ゛っ!? 生みたくない、蛸の赤ちゃ……んぃあ゛ぁあっ!? やだぁああっ!? んぎぃっ! あぁあ゛ああーーーーっ!?」
快楽と恐怖の絶叫を上げてじたばたと藻掻くヒルダ。だが、全身を触手に絡めとられた彼女に出来る事は、ひたすら涙を流して泣き叫ぶだけだ。その叫びも、絶頂に震える悦びの声に他ならない。
心をへし折り、体を支配し。時が来たと見た蛸は、ヒルダにトドメを刺すべくハイペースで抽挿を繰り返した。激しく前後する逸物の動きに、掻きだされた粘液と愛液の混合物が秘所から飛び散る。
「んひぃっ!? あぁあ゛っ!? んぃぃいっ!? あぁ、あっ! あああっ!? 来る、来ちゃ……ぁああああああっ!?」
「イくぅうううううっ!!! ぁああああああああーーーーーーっ!?」
言葉の無い蛸に命じられた訳でもないのに、ヒルダは絶頂を卑猥な言葉で叫び、身を捩らせた。魔女としての誇りも、女としての尊厳も全て破壊され、蛸の孕み壺へとなり下がった事を、誰に言われずとも理解していた為に。
びくびくん! と白い女体が痙攣し、膣がこれまでで最大の締まりを見せる。それに対し子宮口は綻び、奥の子宮はゆるく膨らんだ。喜悦の果てを極めた女体の生理的な動き。最奥へと吐き出されるはずの精液を受け止めようという本能に刻まれた反応。
だが、そこに齎されるのは、同族の命の水ではない。
異種の、蛸の、命を宿した白い莢。花開くように疑似男根の先端が開き、中に保持されていたそれが顔を出す。
それを狙いすまして子宮口へと差し込んでいく。子宮口は狭く、本来であれば激痛を伴う挿入であったが、粘液によってヒルダの子宮口は性感帯へと改造されており、さらに激しく深い絶頂の極みにあった彼女には、例え痛みでも得難い快楽としか認識できないだろう。
事実、つるりとした白い莢が子宮口を滑り抜ける感覚は、ヒルダの腰を激しい雷鳴のような快楽として打ち、彼女の視界を真っ白に染めた。物理的な快楽だけに留まらない、“孕まされる”という、恐怖と喜びの入り混じったエクスタシーが魔女の脳を焼き尽くす。
「あっ!? んぃぃいいいいあああああっ!? あああああーーーっ!?」
恐怖が過ったのは、しかしほんの一瞬。人間的な、魔女としての最後の矜持は、激しすぎる悦びによって瞬く間に砕かれた。蠕動する子宮口が、ちゅるん、と精莢を飲み込み、子宮内に蓄える。
腹の奥に感じる、僅かな異物感。それを最後に、ヒルダの意識は白い闇へと落ちていった。
閉じていく瞼の向こう。ヒルダをのぞき込んで、蛸の瞳が満足そうに微笑んでいた。
◆◆
闇の中で、ちゃぷん、と水の滴る音がする。
ところどころで緑色に光る蛸の蛍光色の体液が照らす薄闇の中で、大きな丘蛸に抱きかかえられた少女がいた。
紫鼠色の髪をした、青い瞳の少女。しかしその裸体は、以前の彼女から大きく変わっていた。
かつては少女然とした、悪く言えば成熟していない何処か硬さの残る細い体をしていた彼女。しかし今やその肢体はふっくらと柔らかみを帯び、ほのかに赤く色づいている。平均程度だった乳房は一回り大きく膨らみ、その先端の乳首には白い母乳が滲んで滴っていた。そしてなによりも、その腹部。貞淑に服の下に隠された、やわらかく薄い腹は今やはち切れんばかりに膨らみ、その表面に妊娠線を走らせていた。
「あ……ん……あ……」
背後から少女を抱きかかえる蛸が、触手で優しくねぎらうようにその腹を撫でる。他にも無数の触手が、少女の体を戒めつつも、ゆるゆると触れ合い優しい愛撫を繰り返していた。ぴく、と少女の肩が震え、熱に白くくすんだ息が吐きだされる。
……魔物の中には、人間の雌を都合の良い“保温瓶”として扱う者が居る。一見すると、少女は蛸の卵を植え付けられたように見えるだろう。
だがそうではない。
少女は何度も何度も蛸と交わり、いくつもの精莢を子宮の中へと詰め込まれた。その数は5つから先は覚えていないが、その間一度として蛸が少女の体を他の蛸に許したことはない。そして少女を絡めとる蛸は雄であり、卵など産みようがない。
つまり、今少女の腹を膨らませているのは、正真正銘、少女と蛸の間の子である。少女の卵子と、蛸の精子が結合して生まれた、新しい命。一人で生きて、一人で死ぬつもりだった彼女に生まれた家族のつながりがこれというのは、どうにも質の悪いジョークのようでもある。
諦めと絶望と、それ以外の何かに染まった穏やかな視線を、少女が膨らんだ腹に、その中で育まれている命へと向ける。
母となった彼女には分かる。今、自分の血を受けて育ちつつある、異種の子供たち。腹の中でどくんどくんと幾重にも響く心臓の音。この後に及んで、生まれてくる子供が人間の姿をしている等という事は、ありえなかった。
なんで、こんな事になったんだっけ。
少女の脳裏を微かな後悔が過るが、結局自分のせいとしか言えなかった。
自らの行いで生み出された怪物に孕まされる。因果応報といえば、それはそう。
「ん……あ……」
慰めるように体を撫でまわす蛸の触手に声が漏れる。身重の彼女に負担をかけないよう、ゆるゆると快楽を与えてくる触手はひどく優しくて、ともすればそこに愛情を見出してしまいそうだった。しばらく手入れをされていない紫鼠色の髪を、蛸の触手がくるくると弄んでいる。その様子を見て、少女は昔読んだ恋愛小説を思い出す。
小説の中で愛を伝え、一夜を共にした恋人達。男性は恋人を腕の中に抱きながら、その長い髪を指先で弄ぶ……シチュエーションは同じなのに、意味合いが違いすぎて少女はいっそ笑えてしまいそうだった。
闇の中には他にない。背後から少女を抱きしめる、無数の冷たい触手の感触の他には。少女を孕ませた事で満足しているのか、蛸の戒めはとても緩やかだ。しかし今の少女は、それを振り払う気にはなれない。振り払って、どうするのか。蛸の子を孕んだ体で、どこに逃げるというのか。
現実からは、逃げ出せない。
とくん、と膨らんだ腹が蠢く。
その時は近い。
いつか必ず訪れるその瞬間から目を背けるように、少女は目を閉じた。