今日も今日とて、海を汚す者と、守る者の戦いが繰り広げられている。
「我が領域を汚す者よ、覚悟せよ!」
光に包まれて、海の精霊が宣言する。
ポニーテールにした長く美しい金の髪、エメラルドのような碧眼、人形のように整った顔。
少女のように細く柔らかい肢体を、レオタードのような薄い衣装で申し訳程度に隠し、その上から羽衣を纏った精霊が右手を掲げると、その背後から海の波濤が押し寄せた。
それは津波の勢いと深海の圧力を以って、邪悪な魔女の生み出した汚泥の怪物を粉砕する。
白い飛沫があがり、怪物の毒をも浄化する。
一瞬後には渦巻く海流の中に怪物の残滓は粉々に砕けて散らされ、痕跡一つ残さず消し去っていた。
だが、海の精霊はさも不愉快そうに顔をしかめた。
「……逃しましたか」
『ひぃっひぃっひぃっ。流石は海の精霊。一筋縄ではいかないねえ』
どこからかしわがれた老婆の声が響く。
「卑怯者。怪物を捨てて逃げましたか」
『卑怯じゃないよ、戦略さあ。それにこれで目的は果たせたしね』
「何?」
海の精霊が眉を顰める。長年戦っている相手だ、負け惜しみかそうでないかは判別できる。
不意に胸に苦痛を感じ、海の精霊は胸元を押さえた。衣装をめくって確認すると、控えめな乳房の間に得体の知れない黒い刻印が浮かび上がっていた。
「これは……」
『基本的な呪術さあ。自分を害したものに呪いをかける。まあ、直接的な呪殺とかはアンタには効かないからねぇ、今回はもっと遠回しなものさぁ』
精霊を嘲笑うように魔女が説明を続ける。
『中身は簡単。一目惚れの呪いさぁ。あんたがこれから最初に目にした生き物に、心の底から恋に落ちる。以降、あんたはそいつの為に心から尽くし、永遠を共にするのさ。それが、どれだけ醜悪なヘドロの化け物であっても、どれだけ狂暴な海賊であってもねえ』
「貴様……っ」
『解呪は私でも無理だよ、シンプルだからこそ強力なのさあ。はてさて、別嬪の海の精霊様は、どんな奴を伴侶にするのかねぇ?』
ひっひっひっ、と笑い声を残し、魔女の声は途絶えた。
海の精霊は苦悶に顔を歪め、憎々しげにつぶやいた。
「魔女め……っ!」
◆◆
海の精霊様が引きこもった。
その噂は、瞬く間に海の生き物たちの間に広まった。
生き物たちは心配して海の社に集まるが、精霊は顔を出さず扉の向こうから「命に別状はない」「私に関わるな」の一点張り。
皆は心配して、地上の言い伝えにあやかって扉の前で宴会をしたり、ダンスパーティーを開いたりしたけど、精霊様は一歩も外に出てこない。
そのうち皆催し物に飽きてしまって、いつしか海は平常運転。
気まぐれな海の生き物たちは、いつしか精霊様を見ない事も気にしなくなっていった。
ただ一匹。
皆から気持ち悪がられて独りぼっちの蛸を除いては。
◆◆
「くぅ……はぁ……」
自らの部屋に閉じこもった精霊は、ベッドの上で呻いていた。肌は赤く染まり、瞳は劣情に潤み、誰もが今の彼女を見ればその妖艶さに目を奪われる事だろう。
「おのれ、魔女め……」
彼女が苦しんでいるのは、呪いの副作用のようなものだ。
物理的に誰とも会わなければ呪いは発動しない。そう思って引きこもった彼女だったが、そうすると呪いはそんな彼女を咎めるように、その体を発情させた。とにかく人恋しくてたまらない、自分以外の誰かに、冷たい体で触れてこの熱を冷ましてほしい、そんな考えばかりが頭に浮かぶ。
その渇望を精神力だけで抑え込む。
「おのれ……私が呪いの発動を恐れて人に合わずにいたから、発情させて強引に誰かと会うようにしているのか? そうそう思い通りになってたまるものですか……」
幸いというべきか、あれだけ騒いでいた海の生き物たちが早々に飽きてこなくなったのは薄情ではあるが都合がよかった。今、あのように賑やかにどんちゃん騒ぎをすれば思わず表に出て行ってしまいそうだ。
いや、それでよかったのかもしれない。
海の精霊を心配して集まったというならそれは悪い連中ではないはず。そういう連中相手なら、永遠を添い遂げるとしてもそう問題は……。
「っ! いいや、いいや。そんな事はない……くそっ、思考まで浸食されている」
呪いに都合がいいように考えている事に気が付き、首を振って考えを振り払う。
ずきずきと子宮が疼く。こういう時は、自分が人の姿をしている事が酷く煩わしい。機能までそれに似通わなくてもよかったのに。
「くそ、先代のせいだ。人間との間に私を生むから……だからといって、肉体的にほぼ100%人間のそれでなくてもよかろうに!」
精神を摩耗しているせいか、精霊の口から出てくるのは不満ばかりだ。
「海の連中も連中だ、結局人の不幸を騒ぐ口実にしただけだろう、全く。……いや、一匹、違うのが居たか」
と。
こんこん、と扉をノックする音がする。
彼女の言う、違う奴が、今日もやってきたのだ。
『精霊様。本日のお供えを持ってきました。ここに置いていきますね』
「ああ……有難う」
気持ちを宥めて礼を言うと、扉の向こうからでも弾んだ気持ちの気配が漂ってくる。
「いつも済まないな、タコ助」
『いいえとんでもない。精霊様のお役に立てて、幸いですぅ』
呑気な返事に、精霊も思わず頬が緩む。
扉の向こうには、あのぬめぬめとした粘液に覆われた、八本の脚をもった異形の怪物が、見た目に似合わぬ温和な瞳で扉に向けてぺこぺこ頭を提げているのだろう。
タコ助は、この近隣に住まう大蛸だ。普通、蛸の寿命は数年だが、彼は土地神か何かと化しており、何十年も生きている。そのため、クジラにも匹敵する巨躯を誇っていた。
普通ならそれだけ強大な存在なら人間達からあがめられたり、海の生き物からの敬意を経てそれなりのポジションにつくのだが、その見た目が好意よりも嫌悪を呼ぶため、誰にも敬われず、今も一人、海の底の暗い洞窟で過ごしている。
そんな自分と、社に閉じこもった精霊を重ねているのか、彼は律儀に毎日、社の前に精霊力が宿った宝石などの供え物をもってやってくるのだ。
「しかし、お前も物好きだな。引きこもって出てこない精霊など無視しておけばいいだろうに」
『いえいえ。精霊様のお役に立てているのが、私の喜びなのです。精霊様は、私を見た目で差別しないでくださりました。それがどれだけ、嬉しかったか。その喜びの万分の一でもお返しできているなら、幸いですぅ』
「そ、そうか」
純粋な好意の籠った返事に、思わず精霊の頬が赤くなる。ずく、と胎の奥が疼いた。
『最近はお返事くださるようになって、なんていうか役得ですぅ。精霊様の声を毎日お聞き出来て、私は幸せ者ですぅ』
「ははは、大げさだな。……時に、番は居ないのか? お前ほどの力があれば、同じ蛸でなくても、人間にでも相手は向こうから見繕ってくるだろう?」
軽い気持ちで聞いてみる。断じて、牽制だとか、探りを入れているわけではない。
だが、返ってきたのは沈んだ口調の言葉だった。
『……先日、海で難破していた船を助けたのですぅ』
「おお、それは善行を重ねたな? 人間どもが、君に何か捧げものをしてきたのではないか?」
『ええ。……泣きそうな顔の乙女を、生贄として岬に吊るされました』
あちゃあ。海の精霊はその様がありありと思い浮かび、思わず顔を押さえた。
『その子は、少し離れた港町に連れて行きました。……最後まで泣きそうなのを我慢してて、とても申し訳なかったですぅ』
「そ、そうか……」
悲し気な声に胸が痛む精霊。離れた港町まで連れて行ったのは、生贄として差し出された彼女が故郷に戻ってもロクな事にならないと考えた故の心遣いだろう。そういう繊細な心をもった彼への扱いに、胸が痛む。
私なら、そんな思いはさせないのに……。
精霊はかぶりをふって考えを振り払った。
不味い。大分頭が煮え立っている。ああ、だが。タコ助との会話は、とても楽しい。
「それは残念だったな。お前の事を理解してくれる相手が、現れればいいのにな」
『ありがとうございます。でも本当に、辛くはないんですよ。精霊様が私の事を嫌ってくださらないだけで、私は救われているのですぅ』
「そ、そうか……な、なあ、タコ助」
やめろ、と理性が悲鳴を上げる。だが同時に、どうしてそれがいけない? と問う声がする。
それが呪いによるものなのか、それとも寂しさに耐えかねた自分自身の声なのか、精霊にはもう区別がつかなかった。
「少しだけ。少しだけ、触手に触れさせてくれないか?」
『え、でも精霊様』
「外に出るつもりはないし、お前を目にするつもりもない。ただ、お前の手で直接、捧げものを受け取りたい。……ダメか?」
呪いの詳細は海の生き物には伝えてない。それでも、徹底した引きこもりぶりに何かを察する事は可能だろう。
戸惑うようなタコ助だったが、当の精霊に懇願されては仕方ない。
精霊が玄関の鍵を開けると、少しだけ開いた隙間から、紫色の蛸の触手が入ってくる。その先端には、小さな宝石が大切そうに吸盤で保持されている。
「……っ」
綺麗な宝石だった。タコ助自身が精霊力を込めたのだろう、サイズとは不相応に強い力を秘めている。
だが、精霊の意識は宝石には微塵も向けられていなかった。それを握る、ぬめぬめとした触手の軟体に、碧眼が吸い寄せられてはなれない。
長い間閉じこもっていたせいで、部屋の海水は少し淀んでいる。そこに外から新鮮な海水が流れ込み、その拍子に蛸の匂いも乗って流れ込んでくる。鼻をつく、生臭い蛸の体臭。そこに、他の雌の匂いは微塵も混じっていない。
ずきん! と胎の奥が疼く。頭の奥がカーッとなった。
このまま彼を帰らせて良いのか、と語り掛けてくる声がする。
今は出会いに恵まれていないだけで、タコ助が良いやつなのは疑う余地はない。こうして引きこもっている間に、もしかしたら彼は良い相手を見つけてしまうかもしれない。そうしたら、きっと彼はそのうちここに来なくなる。律儀な彼の事だ、最初はここに通っていても、だからこそ自分の番の事を思って、自ら手を引いていくだろう。精霊が引きこもっている間に、彼は他の誰かのモノになり、そしてここには来なくなる。
そしたら、精霊はひとりぼっちだ。
永遠に。
『……? 精霊様?』
気が付けば、海の精霊は蛸の触手を両手でしっかりと掴んでいた。息が荒い、心臓がドクドクと鳴っている。
『ちょ、精霊様?!』
そしてそのまま、彼女は全力でタコ助を自分の社に引きずり込んだ。柔らかい蛸の体が吸い込まれるように小さな扉に消えていき、パタン、と扉が閉じるとガチャリと鍵がかかる。
その様子をたまたま目撃している者はおらず。
ただ、誰も認識しないままに、引きこもりが一人、増える事となったのだ。
◆◆
『せ、精霊様!? 何を!?』
「う、うるさい、黙って大人しくしていなさい……」
タコ助を引きずりこんだ後、精霊は蛸の頭の上に陣取って、触手を両手で抱き寄せていた。その匂いをスンスンと嗅ぐと、ひくひく痙攣する吸盤にそっと顔を寄せる。そして、その絹のような肌を押し付けてほおずりを始めた。
「はぁ……冷たい。気持ちいい……」
『ほぅわあああ!? えっ、熱っ、すべすべ気持ちいいっ!? いや、ちょ、精霊様!?』
全身の体色をビビッドカラーのモザイクに変色させながら、困惑をタコ助が露にする。しかしそんな彼の困惑を無視して、精霊は触手を跨ぐようにしてのしかかると、そのレオタードに覆われた秘所をこすりつけた。
薄いテカテカした生地ごしに、ぬるぬるとした粘液とぶにぶにした皮膚、そして吸盤のごつごつとした感触を感じる。それが秘所を擦れる感覚に、精霊の喉から堪えがたい喜悦が零れだした。
「あぁ……っ! いい、いいです……ぁあ……っ」
『せ、精霊、様?』
自らの触手を使って体を慰める精霊の痴態に、タコ助が目を白黒させる。
なんだ、自分は夢を見ているのか? 夢にしてもちょっと都合がよすぎる。
タコ助の困惑をよそに、精霊は全身を触手にこすりつけるようにして自らを慰めている。その胸の谷間で刻印がつよく輝き、虚ろに開かれた碧眼はどろりと濁っていた。
「ぁあ……素敵な触手ぅ……あっ、いいです……とても気持ちいい……っ」
『あ、ああ……せ、精霊様、そ、そんな淫らな……っ』
とろりとした視線が、呆然とするタコ助を見つめる。完全に呪いによる情愛の虜となった海の精霊は、熱い吐息を零しながら触手にしなだりかかった。
「ねえ……今、タコ助には番が居ないのですよね? それだったら、私がそれに立候補しても、いいですよね?」
『せ、精霊様……?』
「私を……タコ助の、お嫁さんにして? ねえ、どうかしら、タコ助……ううん、旦那様……。私の体を、好きにして? それとも、人間と同じ私の体は、お好きじゃないかしら……?」
普段の凛々しく、時に冷たい振舞からは想像もできないほど、情熱的かつ淫らに迫ってくる海の精霊を前に、タコ助の四角い瞳孔が動揺に揺れる。
あきらかに海の精霊は正気ではない。その程度の事はタコ助にも分かる。
だが……。
だとしても、これはタコ助にとっても千載一遇のチャンスだった。
『せ、精霊様……っ』
タコ助とて、聖人君子ではない。海の精霊の元に通い詰めたのも、僅かな欲がなかったといえばうそになる。皆が精霊の事を忘れてしまう中で、それでも通い続ければ、精霊様が自分だけを見てくれるのではないかと。ある意味でそれが形になった現実に、困惑しながらもタコ助は歓喜した。
細かい理屈はどうでもいい。もしかすると後で正気に戻った精霊様に八つ裂きにされるかもしれないが、今ひと時、この美しい少女のカタチを自分だけのものにできるなら、それは命と引き換えにしても惜しくはない。
しゅるしゅる、と触手が控えめに少女の肢体に絡みついていく。少女の体は熱く火照っており、信じられないほど肌は艶やかで柔らかかった。
「あ゛、はっ……あっ……」
『あ、す、すいません、強かったですか?』
「ううん……いいです。ちょっと強いぐらいでも……貴方が私に欲情しているのが伝わります。嬉しい……」
うっとりと精霊が目を細め、絡みつく触手を愛おし気に見つめる。さらに彼女は、身を申し訳程度に守るレオタードに指をかけると、見せつけるようにそれをずらした。ぽろん、と控えめだが形の良い乳房が露になる。
「ああ……はぁ……どう、ですか? 私の体……旦那様の好みでしょうか?」
『ふっ、ふぅっ、せ、精霊様……っ!!』
間近で見る精霊の艶姿に、タコ助の目が血走る。
彼とて、雄である。美しい精霊を夢想の中で汚し、自らを慰めた事は幾度とある。その白い手足に触手を絡めて自由を奪い、乳房を、秘所を弄び、想像の中で絶頂を極めるその艶姿に、思いを馳せた夜もある。
それが今、現実となっている。触手の先で、吸盤で感じる、精霊の存在。滲む汗、脈動する肉体、発情した女の匂い。それが全て現実として感じられる。
『は、はぁ……っ、精霊様……もう、もう俺は……っ!』
「あ゛ぁっ……」
絡みついた触手が、レオタードを引き千切る。露になった少女の裸体に、容赦なく触手が絡みつく。手足を完全に戒めて、触手の先端がその乳房に、秘所へと伸びていく。お椀のような形のよい乳首を、根本から締め上げ、あるいは全体に絡みついて揉みしだく。同時に秘所に潜り込んだ触手の先端は、そのとろけるような暑さに驚愕した。海水の中でも感じ取れるほど濃厚なねばついた雌の愛液が秘所からは次から次へと溢れだし、その上の陰核は尖り切って痛そうにすら見える。
しゅるり、と一本の触手が精霊の細い首へと巻き付き、吸盤を吸いつけた。細い首は、ほんの少し力を入れればへし折れてしまいそうだ。うっ、と精霊が苦し気に息をする。
「は、ぁあ……素敵……旦那様、私の体にこんなに欲情してくださっているの? 嬉しい……私、女として幸せですわ……」
気が付けば、精霊は媚びるように甘えるような言葉を口にしていた。
頭のすみで情けない、海の精霊ともあろうものが、と冷酷な彼女が自らを嘲るが、卑屈な態度をとる事自体が今の彼女にとっては悦びだった。
『はぁ……はぁ……っ! 悪い人だ、そんなに雄を挑発して……っ! そんな事言ってたら、今に酷い目にあいますよ』
「はい……どうか、私を酷い目に合わせてください、旦那様ぁ……っ。旦那様の事しか考えられないようにして……っ」
ぶつり、とタコ助の理性の堪忍袋の緒がそれで完全に切れた。
彼は絡めとった海の精霊を自分の体の下に引き込むと、腕間膜で包み込んだ。もう、精霊の悲鳴も嬌声も、誰にもどこにも届かない。
そしてそのまま、激しい凌辱が始まったのだった。
◆◆
「そういえば、最近、タコ助みないね」
「言われてみたら。まあでも、いつも海の底に引きこもってて、いるもいないもいっしょよね」
「そうだねー。ははは」
◆◆
「あ゛ぁあっ!? んああ、あっ。ああぁ~~」
タコ助の体の下。
腕間膜でくるまれた闇の中で、精霊はひたすら触手に弄ばれていた。
手足と首は触手に包み込まれてぴくりとも動かせない。その状態で、ひたすら発情した体を触手が撫でまわし、絡みつき、吸盤で時に吸い付き跡をつけていく。
その一方で、胸へと絡みついた触手が柔らかな乳房を揉みしだき、蕩けたそれを絞るように締め上げる。尖り切った乳首を、時折思い出したように触手の先端が引っかき、巻き付いて引っ張った。
「んひぃ、あぁっ! ひい……あっ!」
『気持ちよさそうだね、精霊様』
「はい……旦那様、あっ、とてもお上手です……っ、気持ちいい、自分で慰めるよりずっと……っ!」
陶酔したようにうっとりと精霊がタコ助を称える。
事実、彼の愛撫は繊細かつ大胆で、精霊の未開発の性感をすさまじい勢いで発達させていた。興奮する体を慰めるためにがむしゃらに胸や秘所をまさぐっていたのとはまるで比べ物にならない。少しだけ、どうしてこんなに上手なのかが気になったが、気持ちいいに越したことはないと彼女はその疑問を棚上げにしていた。
その心はすでに完全にタコ助に依存しきっていた。始まりが呪いであった事は認識しているが、それはもう、どうでもいい事だ。
あろうことか、この状況を招いた魔女に感謝する気持ちまで彼女には芽生えていた。
もはや、呪いの影響は取返しがつかなく、彼女の魂に深く深く刻まれたそれから、精霊が解放される事は二度とないだろう。
しかし、それもやはり、どうでもいい事だ。
「はぁ……はぁ……あぁ、旦那様。もっと、もっと私を気持ちよくしてくださいぃ……」
『勿論。精霊様も、全部受け入れてね……』
「……あぁあ゛っ、入って、入って……んぅぅううっ!」
舐るように秘唇をいじっていた触手が、膣へともぐりこんでくる。細い触手の先だけが彼女の中へともぐりこみ、まさぐるように、かき混ぜるように蠢いた。分泌される濃い愛液が掻き混ぜられて泡だち、海水へと溶けていく。
『ねえ、知ってる? 精霊様。人間の女の子の場合、性感帯が二つあるんだって。膣の中頃と、奥のほう。精霊様は、どっちが感じるかな?』
「ひぅ、あぁあっ! あひぃっ! あぁあ~~~」
もぐりこんだ触手が優しく、彼女の中をひっかく。そしてそれらしき場所を見つけると、ごつごつとした吸盤で撫でさすった。その優しくも、こりこりとした感触に敏感な部分を嬲られて、精霊は甘い叫びを零した。
それに呼応して、乳首がより尖り、それを触手の先端が押しつぶしていく。全身で奏でられる快感に、精霊はいやいやと首を振って悶えた。
「あ、ひぃあっ、すご、すごいぃいっ、旦那さま、すごいのぉ……っ!?」
『ふふふ。どっちも感じるのかな。精霊様って、すっごくエッチなんだね。人間の女の子でも、そんなに感じる人はいないらしいよ?』
「そ、そうなんですか……? あ、あぅあっ」
饒舌に語りながら体をまさぐる触手の動きに、精霊は全身で悶えた。
だが、ここにきて少し、心の片隅をチクリ、と差す疑問が、そろそろ無視できなくなってきてもいた。
「あ、あの……旦那様……」
『うん?』
「その、こういう事を聞くのはどうかと思うのですが……ずいぶんと上手でいらっしゃるというか……もしかして、私の他に経験はあるのですか……?」
問いかける精霊は、半ば涙目だった。
タコ助が気持ちよくしてくれるのは嬉しい。だが、その技術が自分以外で磨かれたものだと面白くない。いや、むしろ精霊の前だから遠慮していただけで、本当はとっくに良い仲の女が他に居るのではないか? それは今の精霊にとっては、恐怖すら感じる疑問だった。
ぎち、とタコ助の動きが固まる。
『そ、それは……』
「……そ、その、差し出がましい事を。申し訳ありません……旦那様のような素晴らしい方に、お相手が居ないはずはないですものね……申し訳ありません。でもどうか、愛妾としてでもいい、どうか私の事も気にかけてくださいませんか……?」
最後の方は完全に涙声で、精霊が哀願を請う。一方、タコ助はガチガチに固まりつつも、ヤバイ方向に話が流れそうになっているのを察知し、なんとか男気を見せた。
『ち、違うっ、精霊様、勘違いですっ。私は、精霊様以外の女なんて……じょ、上手だったとしたら、それは妄想の結果というか……っ』
「え……?」
『お、俺も、妄想の中で何度も精霊様を抱いていて……こんな風に胸を揉んだりしたいなって、毎晩のように……っ。女の子の体の知識も、沈んだ船の中にあった人間の書物からの受け入りで、け、経験なんか、全く……っ!』
必死に弁解するタコ助。
腐っても上位の精霊である、精霊にはそこにウソが含まれていない事はすぐにわかった。
きょとん、とした彼女の涙目が、たちまち喜色に染まっていく。
「あ……ああ……! 嬉しい、疑ってすいませんでした、旦那様ぁ。旦那様の初めての相手ができて、私、光栄です……っ!」
触手に手足を束縛されながらも、精霊は自分を包み込む腕間膜に頬を摺り寄せた。
疑いは晴れ、彼女の心は完全に開かれていた。
「ねえ、旦那様。私の真名を呼んでくださらないでしょうか?」
『え、精霊様?』
「だって、その精霊様、って言葉。他人行儀ですもの。ねえ、いいでしょう?」
強請るように言う精霊に、タコ助は困惑を隠せない。
真名は、ただの名前ではない。魂の名だ。呪術に通じた物であれば、それさえあればその魂さえも縛り、隷属させる事が出来る。
特に、精霊のような存在の場合、名前を呼ばれるだけで呼んだ相手に屈服せざるを得ない。
それを、教えるというのだ。ごくり、とタコ助は唾を飲みこんだ。
『……あ、ああ。いいとも。君の真名を教えてくれるかい?』
「はい。……私の真名は、ミィア、といいます。旦那様……」
『ミィア。いい名前だね、ミィア。そうか、君はミィア、というんだね。じゃあこれから海の精霊様は……俺の、ミィアだ』
「あああああ…………っ!」
本来かくすべき真の名。それを連呼されて、海の精霊……ミィアは、体を震わせた。
呟かれるたびに、自分の魂を掌握されていく感じがする。
愛しい相手に、正真正銘魂まで捧げた悦びに打ち震える。
だが、まだだ。まだ、肉体を捧げ切っていない。
「はい、旦那様ぁ……。どうか、ミィアの全てを、支配してください……私を、気持ちよくして……?」
言葉はない。その代わりに、触手がいっそう力強く絡みついてくる。
その日から、二人は海の底、社の奥で、尽きることなく互いをむさぼり合った。
◆◆
「最近、ちょっと海が淀んできたねぇ」
「精霊様が引きこもってるからねえ。また皆で集まる?」
「えー? 声をかけて回るの面倒くさいよー。そういうのはタコ助にやらしとけばいいんだよ」
◆◆
「あ゛ぁああ゛っ! 気持ちいいっ! 旦那様、気持ちいいですぅっ!!」
触手に戒められたまま、ミィアは快楽に泣き叫んだ。
あれから一月以上、ミィアはタコ助の体の下で辱められ続けていた。精霊に体力の底はなく、タコ助も巨大な蛸の化け物あってスタミナは底なしだった。人間の女であれば精魂尽き果てて命を落としていたかもしれないが、二人にはまだまだ余裕があった。
とはいえそれでも限度というものがある。ミィアの感じる快楽は増す一方で、快楽に慣れるという事は全くなかった。もしかすると呪いの影響があるのかもしれない。
「ひぃっ、あっ! イきます、旦那さまっ、イく、イくぅううっ!!」
きゅうう、と乳首とクリトリスを吸引され、Gスポットをごりごりと触手でかき回され、ミィアは仰け反るようにして絶頂を迎えた。びくん、びくん、とその体が戒めの下で跳ね、きゅううう、と膣が触手をきつく締め上げる。
数秒ほどその状態が続いて、ぐったりとミィアは全身を弛緩させていた。
「……ひぃ、あっ……ふぅ……」
『イくのが上手になったね?』
「はい……旦那様のおかげでございますぅ……」
息も絶え絶えにミィアが微笑む。長い長い凌辱で、彼女の体の性感帯という性感帯は開発されつくしていた。今では水の流れにすら、快楽を覚える。これでは、もう往来を素面で通る事はできないだろう。とても女として人前に出れない体にされながらも、ミィアの心を占めるのは愛しい雄に全てを捧げた悦びだけだった。
「ミィアは幸せですぅ。旦那様に、全てを捧げる事ができました」
『俺も嬉しいよ、ミィア。でもまだ、一つ、君が捧げてないものがあるよね?』
「え?」
思わぬことを言われて困惑するミィア。だが、それは伸びてきた触手がすりすりと彼女の腹、発情しきった子宮を外からさすさすと撫でさすった事で、納得と喜悦へと変わった。
『わかる? 子宮が凄く熱くなって膨らんでる。子供を孕みたい、孕みたいって訴えてるんだ。俺が何を求めてるか、わかる……?』
「は……はい!! ああ、旦那様、ミィアは三界一の幸せものでございます! 嬉しい、嬉しいですぅ!」
醜悪な蛸の怪物に、俺の子を孕めと要求される。
素面であったならば、いかな海の精霊でも難色を示す要求に、今のミィアは心から狂気歓喜した。
その一方で、心のどこかに残っている理性が、己の変貌を嘆く声もする。
最初は一目惚れの呪いだったものが、それに抗った事でミィアの精神を崩そうと発情効果を持ち合わせるようになった。抵抗した結果、状況が悪くなったともいえるが、しかし今のミィアにとっては、それこそどうでもいい事だ。
僅かな自省は、彼女の悦びを高めるスパイスでしかない。
何より、例え呪いが切欠であっても、タコ助を愛する気持ちは本物だ。
「はぁ、はぁ……っ! 赤ちゃん、旦那様の赤ちゃん……っ! 欲しい、欲しいですぅ、旦那様ぁ……っ! 早く、早くミィアを孕ませてくださいませっ」
『ははは、わかったからそんなに暴れない』
身を捩って孕ませを懇願するミィアの様子に、タコ助の自尊心が果てしなく満たされる。あの、美しい海の精霊が、今や完全にタコ助に心身ともに依存しきり、妊娠を心から喜んで望んでくる。雄として、これ以上の名誉はあるのだろうか? いや、無いに決まっている。
『慌てなくても、今からたっぷり、ミィアの子宮を膨らませてあげる。途中で怖くなっても、やめないからね』
言いながら、タコ助は漏斗から精莢を取り出した。これまでのミィアの痴態により、大量の精莢が精製されている。ミィアの小指ほどのサイズのそれを交接腕で掴むと、腕間膜に捉えた彼女の元へと送り込んだ。
目の前で小さな白い莢をちらつかされて、ミィアがうっとりとそれに魅入る。
「それが、旦那様の子種ですか……?」
『ああ、この中にミィアを孕ませる種がいっぱい詰まっている。これを、今からミィアのお腹に入れるけど、その前にちょっと慣らさないとね?』
勿論、ミィアの体を気遣っての発言でもあるが、何割かはタコ助の欲望によるものである。
ミィアは、全てを捧げつくしたと思っているが、それは甘い考え、性の果てを知らない精霊の考えだ。人間由来の書物で、非常識な、アブノーマルな性癖まで網羅しているタコ助からすれば、まだまだ彼女の体には開発する余地が残っている。
それを教えてあげようと、タコ助は触手を彼女の女性器へと伸ばした。細い触手が彼女のとろとろの膣へともぐりこむ。半ば液体と化しているのではないか、と思われるほど開発されつくした膣肉をかき分けて、触手の先が子宮口へと到達。先端でそれを優しくなであげた。
「ん、んぅっ、あっ。奥、奥が触れられてるの、わかりますぅ……っ」
『ふふ。ミィア、知ってると思うけど、触手や吸盤には味覚を感じたりする機能があるんだよ。わかる、今、ミィアの奥を味わってるんだ。ちょっとすっぱいね』
「ひ……んっ」
意地悪なタコ助の言葉に、羞恥と、マゾヒスティックな悦びにミィアの体が震える。
恥ずかしいという感覚はまだ彼女には残っている。が、それは表面的なもので、今の彼女はタコ助によって行われるあらゆる行為が快楽そのものだ。もし彼に、このまま表に出て二人が交わっている様子を皆に見せようよ、と言われたら、彼女は表面的に激しい拒絶を見せながらも、全て受け入れるだろう。
もっとも、ミィアを自分一人だけのモノにしておきたいタコ助が、そのような事を言いだす事はあり得ないが。
『ふふ、それでね、ここをこう……っと』
「ん、んっ……あっ!? だ、旦那様……そ、それぇっ、あっ!? う、ウソっ、うそですっ、入ってくるぅぅうっ!!」
『ふんふん、ちゃんと分かるんだね。それに気持ちよさそう……へぇ、そういう事か』
目を細めながら、触手の先端でミィアの膣口を味わうタコ助。彼の触手は、子宮口を通り抜けて、子宮頚管へともぐりこんでいた。
普通であれば、快楽どころか痛みしか感じないであろうその場所。だが、ミィアはそこをいじられる事に、間違いなく大きな快楽を覚えていた。
ミィアを何かの呪いが蝕んでいる、という事はここまでくればタコ助も理解している。それが、ミィアの全身を性感帯のようにしている事も。これまでのまぐわいで、それとなく子宮口を刺激し続けたかいがあったという事か。
その気になれば、なんという事はない肌の表面すら、快楽を教え込めばクリトリスのように敏感になってしまうのかもしれない。全身が性感帯となり、ただ存在するだけで悦びに悶えるミィアの未来を想像して、タコ助は漏斗を膨らませた。
その拍子に、ぽこぽこと新たな精莢が吐き出される。
『ふふ、そしてこれをごしごし、と』
「んぃいいぃいっ!? あ、あ゛ぁあ゛っ!?」
子宮頚管を、男性器で膣を前後するように、触手の先端を抽挿する。子宮の最奥、自分でも触れる事のできない奥の奥を直接侵されてるような刺激に、ミィアが悲鳴と嬌声の入り混じった声を上げた。
「お、おくぅっ!? だめな、とこぉ……ごりごり、されてりゅぅう……っ!? あ゛っ、ぁあっ!? ひぃっ、ああぁっ!?」
『凄いね、ミィア。子宮口で感じちゃうんだ? そんなエッチな女の子、世界を探しても他にはきっと居ないよ?』
「んひぃっ! あぁああっ! だ、旦那様のっ……旦那様の、おかげですぅっ!? 旦那様のおかげで、ミィアは、エッチで、幸せな女の子に……んぅうっ!?」
ぐりゅ、と捻った触手が、ミィアの子宮頚管をえぐる。舌を突きだすようにして仰け反り、声も出せず絶頂に達するミィアの全てを触手越しに感じ取りながら、タコ助は言い含めるように語り掛けた。
『違うよ、ミィア。ミィアはこれから女の子じゃなくて、お母さんになるんだ。世界一エッチで幸せな、ママになるのさ』
「っ! っ!!!」
全身を絶頂に痙攣させ言葉も出ないミィアだが、その視線は間違いなく歓喜によって見開かれていた。
ずぷ、と触手が引き抜かれる。海水の中でも容易く溶けないほどの、ほとんどゼリーのような高濃度の粘液が糸を引いて千切れ、代わりに精莢を持った交接腕がミィアの秘所へと近づいていく。普通はスプーンのように平たい形状をしている交接腕だが、この腕はミィアを孕ませる事に特化しているのか、先端が紅葉のようにいくつにも枝分かれして、円筒型の精莢をしっかりととらえる台座のように働いていた。
「あ……あひぃあ……あっ!?」
それが、ひくひくと震える秘唇を押しのけるようにして、ミィアの体内へと潜り込んでいく。
つるつるとした精莢は蕩け切った膣圧にも壊れる事無く最奥までたどり着くと、ほじられてほころんだ子宮口のくぼみに、すぽりとはめ込まれた。
そして。
ぐ、と内部に精莢が押し込まれた。
「ん……んぐぅうううう!!」
小さな精莢といえど、さきほどまで最奥をほじり返していた触手よりは太い。ずるずると胎内へと送り込まれる精莢の異物感の大きさと、それが子宮頚管を潜り抜ける電流のような刺激に、ミィアの体が激しく痙攣する。だがその手足だけでなく腰にも触手が巻き付いて、暴れる彼女の体を力づくで抑え込む。四肢をみしみしと軋ませるタコ助の暴力的な束縛に、ぞくぞくぞく、とミィアの背が震えあがった。ぴゅ、ぴゅ、と膣から濃い愛液が噴き出す。
そしてついに、精莢が子宮内へと送り込まれた。
完全に子宮に精莢が収まったのを確認して、交接腕がずぷ、と引き抜かれる。
息も絶え絶えで、胸を上下させるミィア。疲労のあまり目は虚ろで、青い瞳は今は深海のように光もなく、濁り切っている。
「ひぃ……はぁ……あ゛っ!?」
『こら、まだ眠るのは早いよ?』
そんな彼女のクリトリスを、咎めるようにきゅっとタコ助が押しつぶした。頭に弾けた白いスパークに、弾かれたようにミィアが身を起こす。
『まだまだたくさん、精莢はあるんだからね。これを全部、ミィアのお腹に入れるまで、終わらないよ?』
「あ……」
すでに次の精莢が、交接腕に保持されてるのを見て、ミィアは恐怖を覚えるより、歓喜で蕩けたように笑った。
『ミィアがエッチな姿をたくさん見せてくれたからね。たくさん精莢が出来たよ』
「嬉しい……私でそんなに、興奮してくれたんですね……うふふ……あははは」
虚ろに笑い、手足を縛られたまま、ミィアが子宮を差し出すように腰を突きだす。足を開いた事で、くぱあ、と秘唇が自ら受け入れるように口を開いた。その奥には、どろどろの愛液に満たされた、赤黒い膣が覗いている。連日の休みなく続く凌辱によって、ミィアの女性器は少女らしい硬さや初初しさを完全に失い、女の妖艶さを象徴するようなグロテスクなそれに完全に変貌していた。
「たくさん……たくさんください……旦那様の、赤ちゃんの元……」
『言われなくとも。たっぷり、詰め込んであげる』
◆◆
「最近、魔女がまた暴れてるらしいね」
「困ったもんだね。海は移ろいゆくものとはいえ、外の存在に我が物顔で暴れられるのも困るね」
「海の精霊様は何もしないのかな?」
「まあ、別にいいさ。ここが住みづらくなったら、別の所に移るだけさ」
◆◆
「ひぃっ、はぁ、あ゛あ゛あ……」
幾度となく繰り返される愛の宴で、密室となったミィナの部屋は、溶けだした粘液と愛液によって、どろりとした濁った海水に満たされていた。
その中で、タコ助の腕間膜から解放されたミィナが、顔を真っ赤にしながらタコ助の触手に抱かれている。
かつての理知的かつ生気に満ちた瞳は、今は快楽と幸福に耽溺するあまりに黒く濁り、焦点も合わず彷徨っている。その首には、無骨な鉄の首枷がはめ込まれ、そこから伸びた鎖はタコ助の触手に握りしめられていた。
そしてその腹部は、ぼこぼこと膨れ上がり、無惨な形へと成り果てていた。
まだ、妊娠している訳ではない。時間をかけて、何十個もの精莢を詰め込まれた結果だ。彼女の体内では、殻に包まれた精子が、解放の時を待ちわびて元気に動き回っている。
そんな彼女の膣には交接腕が差し込まれ、最後の精莢を送り込んでいるところだ。
それが完全に子宮の中にぐいぐい、と強引に押し込まれると、ぴく、とミィアの腰が反射的に跳ね上がった。
「ひ、あ……」
『はい、これで最後。よく頑張ったね……』
「はひ……」
ぐぐ、と鎖を引っ張って合図すると、ミィアは惚けるように笑った。ねぎらうように触手が絡みつき、膨らんだ腹を、肩を撫でまわす。ミィアも口元に寄せられた触手の先端に顔をよせ、くちゅくちゅとその先端を口で含んで舌で弄んだ。
「ん……っ」
『じゃあ、最後の仕上げだ。いくよ、ちょっと我慢してね』
「あ……」
交接腕の先端を子宮口に差し込んだまま、タコ助は触手をミィアの膨らんだ腹に巻き付けた。そして、ぎゅう、と強めに締め上げた。
「はっ……あ゛ぅぅううっ!?」
苦しみと喜びのまじった悲鳴を上げるミィア。
その胎内で、無数の精莢が押しつぶされて、中の精子を弾けさせた。圧力で子宮口から飛び出しそうになるのを、差し込まれた交接腕が押しとどめる。これは、いうなれば精が漏れないようにするための栓だ。
そして全ての精莢が弾けたのを確認すると、子宮頚管から膣の入り口までを触手で埋めたまま、秘所の入り口で腕を切り離す。
『お疲れ様。これで全部終わりだよ。孕んでいるといいね』
「はい……だんなさま……おつかれさまです……」
『ふふ。でももし孕んでなくても、気にしなくていいからね。何度でも、何度でも。ミィアが妊娠するまで、これを繰り返すから』
ある意味恐ろしい宣言に、しかしミィアはうっとりと微笑んだ。
常軌を逸した激しい交合に、彼女はすっかり魅入られてしまっていた。女を憔悴しきるまで追い込んでも衰える事のない雄の精力に、むしろ誇らしささえ覚える。それだけ立派な雄を夢中にさせているという事実が、彼女の悦びであった。
だが、恐らくは、大丈夫だろう。
ミィアは、そっと自分のお腹を撫でる。
彼女には分かる。卵巣から今、一つの卵子が子宮に送り込まれている。やってきた卵子に、雄の屈強な精子が一斉に群がり、卵膜を容易く突き破り、その内部に結合していくのが、手に取るように感じられる。
「いえ、旦那様。きっと、元気な子が、生まれますよ……」
一つの命の誕生を感じ取りながら、ミィアは幸福の中にあった。
「これでいい。これで、良いのです……」
◆◆
「ひぃっひぃっひぃっ、こうもうまくいくとはねえ」
海の精霊がかつて守っていた海。
それを我が物顔で侵略する魔女の姿があった。彼女は海底の汚泥から生み出したヘドロの怪物の上にのり、青い海を黒く染めながら、自分の領域を拡大していた。
「呪いがああも効果てきめんだとはねえ。しかし、まさか蛸の怪物を番に選ぶとは……。ああ見えて、意外と趣味が悪い女だったねえ、ひぃっひぃっひぃっ」
策略がずばりとはまり、最大の敵を無力化できた事にほくそえむ魔女。
「まあ、一目惚れの効果がいくら強力でも、あくまで惚れるだけ。好いただけでは関係が続くはずもなし……あれはあれで、楽しくやってるんだろうねえ、ひぃっひぃっひぃっ。むしろ、私に感謝してほしいものだねえ」
「ええ。全く。その点では、貴方に感謝せざるを得ないのでしょうね」
独り言のつもりの独白に帰ってきた涼やかな声に、魔女は顔色を変えた。
「なにぃっ!?」
突如として、魔女の進行方向の海面が渦を巻いた。それによって生じた流れでヘドロ獣の脚が止まり、汚染された海水が洗い流される。
そして、その渦の中からゆっくりと浮上してくる一人の少女。
ポニーテールの金髪、人形のように整った細い顔や肢体。控えめな胸に、レオタードのような薄い衣服。
嫌という程見覚えがある姿に、魔女が目をむく。
「ば、馬鹿な、海の精霊っ!? 貴様は今頃、巣の中で番と睦あっているはず……ん?」
驚愕した魔女は、しかし、僅かな違和感を覚えてじっと相手を観察した。
気のせいか、少し……一回り、全体的に小さい気がする。
それに髪の毛。よく見ると、人間の頭髪ではない。一見すると違和感がないが、よく見ると、それはそういう形の触手のようなものであり、裏に吸盤のようなものがある。
伝説に語られるメデューサのようだ。あれは髪の毛が蛇だったというが、目の前の少女は代わりに蛸の脚のような髪の毛を持っている。
蛸……。魔女の脳裏に閃きが走った。
「ま、まさか、お前は!?」
「ええ。私はお父様とお母さまの娘。いうなれば、蛸の精霊、といったところでしょうか?」
少女……蛸の精霊は驚愕する魔女に誇るように胸を張り、ついでその白魚のような右手を突き付けた。
「そういう訳で、お父様とお母さまを結び付けてくれた事には感謝しますが、それはそれ。この海の守護者代行として、貴方を排除します」
少女の言葉と共に、周囲の海水が一斉に吹き上がった。それらは蛸の触手のようにヘドロ獣に絡みつき、深海の圧力でもって容易くそれを破砕する。泡立つ海水が、ヘドロを分解して浄化していき、魔女も成すすべなくその渦に巻き込まれた。
抵抗は叶わない。魔女の呪いの影響で生まれたからか、蛸の精霊に魔女の魔力はまるで通じなかった。
「お、おのれええ!!?」
「それでは、さようなら」
そして、深海まで続く大渦が、全てを飲み込んでいく。
ひと悶着が片付いた後、海面には魔女の侵攻の痕跡は、何一つ残されてはいなかった。
「お父様、お母さま。これで私の初仕事、完了でございます。また、妹たちが増えたら、挨拶にうかがいますね」
少女は背後へ振り返り、深海の奥深く、今も仲睦まじく絡み合っているであろう両親へと、初仕事の完了を告げた。
それでも魔女は諦めない。
もはやこの海の侵略が叶わないなら、と外海に進出する彼女だったが、魔女は知らなかった。
自らの呪いによって、精霊が果てしない淫獄の虜となった事を。
今もなお、海の底で愛する相手と睦合う海の精霊。その胎が、休まることはなく。
生まれてきた何十人の娘達、彼女達はやがて、現地の生き物に請われ、外海の守護者として留まるようになる。
自らを蛸の精霊と名乗る彼女達は、魔女の侵略と未来永劫、戦い続けることになる。