蛸に敗れた女侍を待ち受ける運命は……?
◆◆
「居ないな……」
女侍が海にでて三日。一向に帰ってこない彼女を心配して、数人の男が船を出した。
彼らは大蛸の影に怯えながら小島にたどり着き、そこで彼女に貸し出された小舟を見つけた。
周辺を散策し、そしてついに彼らは、黒々とした血で汚れた岩場と、切り落とされた蛸の肢、そして突き立つように残された脇差を目にした。
「侍様……!」
彼らは必至になって周辺をさらに散策したが、大蛸の姿も女侍の姿も見つける事はなく、代わりに見つかったのは一振りの太刀。
黒い粘液が張り付いた立派な拵えのそれを恭しく手に取り、彼らは一路、村へと引き返すのだった。
◆◆
「ん……んぅ……」
闇の中。女侍は、変わらず手足を押さえつけられたまま、顔に張り付いた子蛸と舌を絡めていた。互いに粘膜を擦り合わせて手慰むと、それを合図にどろりとした粘液が注ぎ込まれてくる。それを、彼女は喉を鳴らして飲み込んだ。
たちまち、体がかぁっと熱くなる。それが滋養強壮だけでなく、淫靡な意味合いも持つ事を今の彼女は嫌というほど思い知ったあとだが、それでも背に腹には替えられぬ。
人は食わねば死ぬ。それが悍ましい蛸の体液であっても、それをすすらねば生きられないというなら、甘んじて屈辱に応じるまで。
生きていれば。生きていれば、必ず機会は訪れる。それだけが彼女の縋り付く全てだった。
「……っ」
子蛸が、給餌を終えて離れていく。
それを見送って、彼女は屈辱に歯噛みしながら、己の体を見下ろした。
長い間いれば、この暗闇でも多少は目が見えてくる。闇の中、皮肉な事に彼女の白い肌はぼんやりと浮かび上がって見えるようだった。
重ねられる凌辱に、しかし彼女の女はすっかり悦びを教え込まれてしまった。かつては硬さが目立つ乳房は今は柔らかく蕩け、一回り大きく育ち、乳首は少し黒ずんでつんと立っている。クリトリスは大きく成長し、今や皮に収まらないほど。秘唇はぼってりと膨れ上がり、その奥の穢れを知らないピンクの媚肉は、今や黒ずんでどろりと粘ついている。
だが、何よりの変化は、そのみっともなく膨らんだ胎だろう。ぶくりと水ぶくれのように膨らんだ胎、それが得体の知れない蛸の汁による奇病だと、女侍は願ってやまない。だが、ぱんぱんに膨らんだ腹部に過る一筋の妊娠線、その内部で蠢く自分以外の心音が、それが悲しい妄想であるという現実を彼女に突き付ける。
女侍は妊娠していた。
卵を産み付けられたとかでは、ない。正真正銘、蛸と女侍の混血児を、だ。
あまりの現実に、気が狂いそうだった。
「ふぅ……ふぅ……っ! まだ、まだだ。諦めるな……生きてさえいれば、機会はきっとくる。きっと……」
何度も何度も、自分に言い聞かせるように呟き続ける女侍。その呟きは、念仏にも似ていた。
と、そこで、ざばあ、と波が立つ音がした。大蛸が帰ってきたのだ。
闇の中に浮かび上がるように金色の瞳が現れる。それを見上げて、女侍は今日も悪夢のような、甘美な凌辱が始まるのかと息を飲んだ。
だが、大蛸に動く様子はない。じっと見ているだけ……そして変化は、女侍の方に顕れた。
「……っ、うっ、い、痛い……お、お腹が……あぁっ!?」
ぴく、と震える胎。その奥から響く疼痛が、やがて激痛に変わっていく。己の意志とは関係なく収縮を繰り返し始めた胎の動きに、汗を浮かべて女侍が眉を顰めた。
同時に、理解する。ついにその時が来てしまったのだ。
これは、出産だ。
「い……いや、いやぁ!? いやああああ!? 生みたくない、やだ、蛸の子供なんて……痛いよ、痛いよぉ!? 父さま、かあさま、助け、助けて……ぁああ!?」
嫌々と首を振って、初めての出産を前に怯える女侍。頼れる者もおらず、助けはなく、怪物の巣の奥底で一人、臨月の激痛に苛まれる。ましてや、胎の中で蠢いているのは、悍ましい怪物の子なのである。
破水がはじまり、彼女の股間を愛液でも尿でもない液体が濡らす。嗅いだことのない独特な臭気が立ち込めた。
反射的に足を閉じようとするのを、絡みついた子蛸が戒めた。太ももへと触手が回され、強引に大きく広げられる。開かれた股の奥、黒ずんた膣口が、呼吸するようにぱくぱくと痙攣を繰り返していた。
「やだ、やだぁ……誰か、誰か助け……っ!?」
泣き叫ぶ声が、裏返るように掻き消える。腹の奥、蠢く異形の子が、ついに産道へと進み始めたのだ。
狭い狭い産道へ、柔らかい何かが無理やり体をねじ込むように潜り込んでいく。小さな道を強引に開かれ、子宮に裂けるような激痛が入り、股の奥を無理やり押し広げられるような虚ろな間隔に、声にならない苦悶の悲鳴が喉から迸った。
しかし実の所、彼女の味わっている苦痛は、人の子を産むそれとは比較にならないほど小さかった。
初産故産道が狭く今でこそ拡張される激痛を味わっているが、今、彼女の腹に蠢いている異形は、人間の赤子より小さく、柔らかく、そして柔軟で器用だった。それは己の骨が通れぬと悟ると、触手を産道の奥へと伸ばし、収縮する膣肉へと吸盤を吸い付かせた。そして、自らを引きずり出すようにして、産道を進んでいく。
「んぎぃいいぃっ!? あぁああああっ!?」
子をひりだすのではなく、その子が自ら這い出そうとしている言葉で例えがたい感覚に、女侍はひたすら声を張り上げて泣き叫んだ。そしてついに、ずるり、と子の頭が、彼女の股の間から顔を出した。
産道を小さな骨が通り抜けると、あとは早かった。いっそ気持ちがいいほどに、にゅぽん、とその全身が産道を通り抜ける。
「んひぃいっ!?」
苦痛と快感のまじりあった奇妙な悲鳴が上がる。そして、その勢いのままに、子は膣から押し出され、べちゃりと粘液質の音を立てて地面へと落ちた。
……蛸である。
今も、女侍を戒める子蛸と全く同じ見た目の、しかし僅かに肌色がかった色合いの皮膚を持つ、蛸。母親の女侍の要素は何一つなく、しかし金の瞳は父親譲りのそれ。
凌辱され、孕まされた子を女侍が愛する事は難しいだろうが、しかし、子に何の面影も無いというのもそれはそれで、無常である。子を産まされておきながら、遺伝子の欠片も引き継ぐ事を許さないのは、ある意味壮絶なまでの支配と搾取の構図であった。
さらに、子は一匹では終わらない。女侍の胎はまだ膨らんだままで、その奥で何匹もの子が蠢いている。そしてさっそく、次の子が産道へと触手を伸ばした。
「んひぃいっ、ひぃいいっ!? あああ、許して、ああ゛っ!? 許してくださいまし、んぃひぃいいああっ!?」
泣き叫ぶ女侍。もはや何に許しをこうしているのかも分からないまま、顔をぐちゃぐちゃにして泣き叫ぶ。だが無常にも、彼女の腹で蠢くものは産道へと潜り込み、痛みと僅かな快感に彼女の声が甲高く濁った。
にゅぽん。
にゅぽん、にゅぽん。
……にゅぽん。
そうして、五匹もの子を産み落とし、ようやく彼女の腹はぺしゃんと潰れた。
「ひぃ……はぁ……ひっ……」
初産の疲労に、肩で息をする女侍。目は虚ろで、だらりと舌がはみ出している。
と、大蛸がそこで動いた。彼は産み落とされた赤子を優しく抱き上げると、女侍の胸へと運んだ。乳房に運ばれた子蛸達はもぞもぞと動き出し、乳首に取り付くと、体を細かく震わせて母乳を催促した。振動で乳輪に母乳が染み出し、それをぺろりぺろりとなめとっていく子蛸。
目の前で繰り広げられる異形の子による授乳。それを見下ろす女侍は、不可思議な気持ちに晒されていた。嫌悪と恐怖は間違いなくある。だが一心不乱に乳を飲む子蛸達に、言葉にならない感慨を感じるのもまた事実であった。
と、大蛸が触手を伸ばし、女侍の頭を優しく撫でた。快楽を齎すものではない、ただ労うだけのささやかな動き。
「あ……」
思わず、といった体で女侍の口から安堵の声が漏れ、彼女はそれを恥じるように唇を嚙み締めた。
しかし大蛸はそれには構わず、ひとしきり頭を撫で終わると女侍の股の間へとにじり寄った。巨体を覆いかぶさるように持ち上げると、その下にある狂暴な口が露になる。無数の牙が並んだような、大蛸の口。そこから、太い舌がぬるりと伸びてくると、羊水と小便と血と粘液で汚れた女侍の秘所を、べろりと舐め上げた。
「あっ、ひんっ」
掠れた声を上げる女侍に構わず、大蛸は舌を膣の奥へと差し込んで、丁寧に舐めまわした。こびり付いた血や粘液、千切れた子蛸の触手などを丹念に拭い去り、彼女の体を清めていく。そこには情欲のようなものはなく、ただひたすら真摯さのようなものすらあった。一方、お産を終えたばかりの膣を舐めまわされる女侍は、ビクビクと体を震わせて、小さく達した。
「ん……っ、あ……っ」
ぎゅぅ、と出産で開ききった膣が締まるのを、太く肉の詰まった舌が押し返す。歓喜に震える女体からは、押し出されるように母乳が溢れだし、子蛸達は喜んでそれをすすっていく。
大蛸が舌を、にゅぽ、と膣から引き抜く。黄金の瞳が、白く息を吐きだす女侍の霞む瞳を、じっと見つめて、酷薄に細められた。
◆◆
女侍が消息を絶って三か月の時が流れた。
その間、大蛸は姿を現す事はなく、漁獲量も徐々に回復しつつあった。
漁村の村人は、女侍が大蛸を相打ちで仕留めたのだと語り合い、彼女の残した脇差と大太刀を、村の社に祭り上げた。
年に一度、女侍を称える祭りが行われるようになり、母親たちは寝床で子供たちに彼女の戦いを夢想して語った。
ある少年は、祭られた刀の怜悧な輝きに、かつて見た女侍の美しく凛とした佇まいを思い出し、それが海に消えた事に涙を流した。
誰もかれもが、彼女の名前を知らないままに。
◆◆
「あっ……んぁ……あぁあ゛っ。んぅ……あぁ……あ……っ」
ジメジメとした黴臭い暗闇の中で、とろりとした女侍の……女の嬌声が響く。
一人の女が、大蛸の触手に抱きかかえられ、その肢体を弄ばれている。黒く艶やかな髪は粘液でべたつき、かつては強い意志を秘めていた瞳はどろりと曖昧に濁り、色濃い隈が目元に浮かぶ。それでいてその白い肌は活力に満ち、触手が絡みつく肌は咥えられる圧力に弾けるような弾力を返していた。
一体、この暗闇の中でどれほどの間、弄ばれ続けているのか。女はもう、時間の感覚が曖昧になってきている。
ただはっきりしているのは、途切れる事なく与えられ続けるこの快楽だけだ。
「はぁ……ん……ぅ、あぁ……あ゛……」
太い触手が女の腰に巻き付き、手足には伸びた細い触手が絡みついて自由を奪いつつ、女の体を空中に持ち上げている。そして不安定な裸体に、多数の触手が群がって、口内を、乳房を、秘所を、膣内をゆるゆると弄んでいる。激しさはなく、女にゆるゆると快楽を与え続けるのが目的のようなそれは、攻めというより愛撫そのものだった。
「んちゅ……ん……」
口の中に入り込んでくる触手に、女は朦朧とした表情で舌を絡める。最初、子蛸に翻弄されていたのがウソのような艶めかしい舌使い。
どぷ、と触手の先端、吸盤から黒い粘液が溢れだす。子蛸のそれよりも濃く、甘苦く生臭いそれを、女はコクコクと音を立てて飲み干した。
「……ぁああ゛っ」
ぶるり、と女が体を震わせる。たちまちその息が乱れ、吐息に熱が困る。冷えていた躰に熱が籠り、肌が赤く色づいた。
女の準備が整ったのを見て、大蛸の責めが激しさを増す。もにゅもにゅと容赦なくやわらかな乳房を揉みしだき、クリトリスに絡みつく。嬌声を上げて女は仰け反るように藻掻くが、胴に絡みつく太い触手はびくともしない。
足に絡みついた触手が、強引に女の股を開く。そこに、一本の触手がぬるりと近づく。普通の触手と違い、表裏両方に吸盤が生えた特別仕様のそれ。女を蹂躙するために変異したそれが、女の膣へと潜り込んでいく。愛液が滴る女性器に、吸盤でボコボコとした触手が媚肉をほじくり返しながら、奥へ奥へと収まっていく。
「あ……っ、んぁ、ああぁ……っ!」
深くもぐりこむ触手の動きに合わせて、長い嬌声が吐息のように零れる。一しきり最奥まで女を満たすと、触手はゆっくりと、しかし力強く前後を始めた。ずぷ、ずぷっ、と女の中を掻きだし、どろりと粘ついた愛液が吸盤でじゅぷっ、じゅぷっ、と掻きだされて、闇の中に雫がキラキラと輝いた。
「あ……っ、お、奥ぅ……ぁあっ! あぁっ、あ……あっ!? んぅううう、あっ、うぃっ、あ゛ぁあ、……んんぅっ!」
いやいやと首を振りながら、女が感極まった声を上げる。きゅぅうう、と膣は触手に強く吸い付き、それによって帰ってくる快楽は増すばかり。未だ女の心は折れ切ってはいないものの、体は完全に大蛸を自分の支配者として認めてしまっていた。
このまま、完全に全てを諦めてしまえば、ただ気持ちよくなれるのでは……一瞬脳裏に過った考えを、必死に否定する女。
今はまだ、蛸は女を弄ぶ事に執着している。だが、それがいつまでも続くはずがない。その時が来るまで、耐えれば。正気でいられれば……。
女はその一心で、体に響く快楽に耐えようとする。
そう考える時点で、すでに気持ちで負けているという事に、今の女は気が付かない。
「あ……んぅ……ふぁ……んぁ……あぁっ!? んんぅ、んぁっ、ああぅあ゛っ、あぁああーーーっ!?」
ゆっくりした動きから一転、大蛸の抽挿が勢いを増す。吸盤が良い所に吸い付き、激しくかき回されながら吸い上げられ、嬌声が一段跳ね上がった。引き抜かれる直前まで戻された触手が、再び同じ勢いで最奥へと押し込まれていく。激しく愛液が撹拌され、白く泡立った本気汁がごぽごぽと下品な音を立てる。
「ひぅ、んぅぅうっ!? あ゛ぁっ、ああ、んぁああっ、あ゛ぁああっ!? あぁーーーーっ!」
びくんびくん、と女の体が絶頂に達した。しょろろろ、と秘所から吹き出した潮が、きらきら輝きながら地に落ちる。その失禁ではなく、その液体はアンモニア臭はなく、透明でさらさらとしていた。一部は触手を伝って、大蛸の元へと流れた。潤んだような大蛸の黄金の瞳が、じっとその様子を観察している。
満足そうに眼が細められると、大蛸は漏斗に触手を差し込んで、精莢を取り出した。
それは、以前のそれと比べると、太さは少しだけ、長さは大きく伸びていた。表面の形状も少し変わっており、以前は螺旋状の凹凸が幾重にも鰓が重なったような形状だったが、今度はそれに加えて表面に無数の、小さなトゲのような突起がびっしりと生えている。まるで大蛸の凶悪な性欲が形になったような形状だった。
これをバイブとしてみると、普通の女では膣に入れても激痛を感じるばかりに違いない。だが、昼夜を問わず蛸達に弄ばれ、どろどろの赤黒い媚肉に堕した女の膣は、この凶悪な形状を受け入れるだろう。大蛸は取り出した精莢を触手で保持すると、忘我している女に近づけていく。
「は……んぁ……あ……っ」
ぬぷぷ、と触手がゆっくりと引き抜かれる。白濁した愛液は硬く糸を引いて、長く伸びた。
それと入れ替わりに、凶悪な形状をした精莢が、ぐちゅり、と押し込まれた。
「……んひぃいいいいっ!?」
微睡んでいたところに凶悪極まりないブツを挿入されて、女が跳ね上がるような悲鳴を上げる。過剰なまでに愛液を分泌し、溶けるように惚けた膣内に、ごりゅごりゅと精莢がねじ込まれていく。
それを、女の膣が、子宮口は受け入れている。一度子蛸を孕み、産み落とした膣は、それよりも細い精莢を容易く受け入れていた。愛液を掻きだし媚肉に食らいつくエラも、媚肉をひっかく無数のトゲも、今の女には快楽を齎すばかり。
ついに精莢が子宮口にめり込み、少しずつその中へと押し入っていく。無数のトゲが子宮頚管の中を刺激し、出産とは逆に異物が体に侵入してくる、その悍ましくも激しい快楽に、女の喉から獣のような悲鳴が迸った。
「ぁあ、ぉおおおぁあ!? あ゛っ、あ゛ぁおおおおっ!? ぁあぁあ゛ぁあああああっ!? ぁああーーーっ!?」
声にならない悲鳴を上げて、嫌々と髪を振り乱して藻掻く女。必死に抗う手足は、しかし触手に絡めとられてびくともしない。
やがて半ばまで精莢を押し込むと、大蛸は一度触手を引き、先の特別性の触手を伸ばすと、精莢の一番後ろを、ぐっ、と押した。ずぶぶぶ、と子宮口が精莢を飲み込んでいき、先端が中から子宮を押し広げた。そしてついに、最後まで子宮まで精莢を挿入すると、子宮口はくちゅり、と硬くその入り口を閉じた。
満足そうに大蛸が頷き、女を床に下ろす。
女は、精莢を子宮に詰め込まれる最中で気を失っていた。涙と涎を垂らしたまま、虚ろに開かれた瞳は虚空を見たまま光を失っている。その腹部は、無理やりねじ込まれた精莢で、歪に膨らんでいた。だがそれも、やがて元に戻っていく。子宮の圧力で精莢が壊れ、その内部の活発な精子が満ちていく。それはすぐに、送られてくる卵子に殺到すると、確実に受精させる事だろう。
大蛸は女に覆いかぶさるようにすると、丹念に舌で彼女の体を拭い、身を清め始めた。
◆◆
町では、流行り病が猛威を振るっていた。
毎日のように死体が外に運び出され、焼却される。そこに区別はなく、女子供も、侍も町人も等しく積み上げて燃やされる。感染を広げないためとはいえ、無常な物である。
今日も今日とて死体を運び出していた運び手は、今運んだ死体に見覚えがあり、同僚へと声をかけた。
「なあ、今の侍……」
「ああ。そこらで問題起こしてた、腕自慢の奴だな。どこぞの高名な侍を切ったとか吹かしていたが、病には勝てなかったか」
「ちらっと見えたけど、ずいぶんいい刀を提げてたな。あれだけ貰えないかな」
「やめとけやめとけ、病がうつるぞ。まあ、あんな良い刀をぶら下げてたなら、吹かしも本当だったのかもな。いや、しかし、名前はなんだったか……?」
悪名も、武名も、轟くことはなく。
一人の悪漢の夢は、灰となって天に昇った。
その男を追い求めて旅に出た女が居ることなど、誰も知ることはなく。
◆◆
「は……あ……っ」
女が大蛸の情愛を受けるようになって、どのぐらいが立ったのだろう。
彼女は、それを数える事にもはや意義を見いだせなくなりつつあった。
「ふ……ぅ……。ふふ……元気な、子……」
闇の中、見通せない視界よりもはっきりと伝わる、胎の中で蠢く命。女はどこか惚けた笑顔で、膨らんだ己の腹を優しく撫でる。
そんな彼女の傍らで、大蛸は無言で佇み、彼女の背を触手で支えている。濡れた黄金の瞳、その視線が、彼女の腹へと一心に送られていた。
そう、女は再び大蛸の子を孕んでいた。
あれから、大蛸は毎日のように女を弄び、蕩けた女体に精莢を押し込み続けた。最初こそ違和感と苦痛が混じっていたものの、やがて体はその恐ろしい行為に適合し、大蛸の精莢を多大な快楽をもって受け入れるようになった。本来子を送り出すための子宮頚管を、トゲトゲとした精莢が外から押し入ってくる瞬間を、女はいつしか心待ちにするようになっていた。
恐らく、否、ほぼ間違いなく、自分はおかしくなってしまったのだと、女は笑う。
しかし、その事を恥じて命を絶とうとは思わない。
「だって……仕方ないですもの……」
大蛸に味あわされた、人知を逸した快楽の嵐。あれに耐えられる女が、あれに平気でいられる女が、この世のどこに居るだろう。きっといない。
かつて初心な生娘だった女は、人が乳房で、臍で、秘所で、膣で、尻穴で、ありとあらゆる場所で快楽を覚えられる事を知ってしまった。
せめて、もっと物のように乱暴に扱ってくれれば良かったのに、しかし大蛸は乱暴に女を蹂躙しながらも時に優しく、いっそ献身的な時すらあった。出産後の労わるような接触、汚れた体を清める舌の感触、それを教え込まれた女の心には、支配者に対する情愛のようなものさえ生まれ始めていた。
少なくとも、支配している限り、この支配者が自分に快楽を与えてくれるという、歪んだ信頼。
それを自覚してなお、女はそれを愚かと切り捨てる事が、出来なくなっていた。
「…………ごめんなさい、父さま」
かつて必ず仇を討つと決意した父の面影は、すでに朧気だ。弱い娘でごめんなさい、淫らな娘でごめんなさい。
しかしその罪悪感すら、いまの女には優先される事ではなかった。
「あ……動いた……ぁあ……」
腹の中でぴく、と子達が動いているのを感じ取り、女は嬉しそうに呟く。
ずき、と覚えのある疼痛が腹部に走り、その時の到来を彼女に伝えた。
「は、あ……生まれる……生まれそうです……ん、んぅっ」
息を荒くして、女はぎゅ、と大蛸の触手を掴んだ。大蛸も抱きしめるように、安心させるように女へ触手を絡みつける。
やがて荒い息は獣のような唸り声となり、風船のように膨らんだ彼女の腹はぼこぼこと蠢き始めた。成長した子達が、子宮の外へと出ようとしているのだ。
「ひぃ、ふぅ……ふぅ……あぁあ゛っ」
どこかで聞いたリズムで呼吸を繰り返すなか、不意に艶めかしい喘ぎが混じる。
初産の時。小さな子宮の出口に殺到する子蛸は、例え人間の赤子と比べて小さく柔らかいとしても大きな苦痛を彼女に強いた。だが、一度出産すれば、産道は広がり二人目以降の出産難度は大幅に下がるという。ましてや、嘴さえ通るならどんな小さい場所でも通れるという軟体の蛸、使用済みの子宮口を通るのはそう苦痛を与えないだろう。
女はそれを、すぐに事実として思い知る事になった。
胎の奥で、ぐにゅりと軟体が蠢く。それがひくひくと蠢く子宮口に体を押し付け、ずるり、と入り込んでいく。
「ひぃ……あぁっ、んぃぃいい?! あぁあああーーーっ!?」
初めて出産した時、何体がにゅぽん、と膣を通り抜けて外に出る時に感じた気持ちよさ。それを何十倍にも増幅したような快楽が、女の芯から響く。
悶える女を、大蛸の触手がぎゅっと抱きしめる。仰け反った彼女は、自分をじっと見つめる黄金の瞳が、喜ばし気に細められているのを見て、その思惑をくみ取った。
最初の子を産んでから繰り返された、子宮への精莢の挿入。あれは、子宮口を異物に慣れさせて、出産で快楽を覚えるように調教する行為だったのだ。そしてそれは結実し、今、女はその成果を子宮で味わっている。
「ひぃ、んぁ、んうぅ、あ、ああ、あぁあああーーーーーっ!!!」
にゅぷり、と子が膣からひりだされる。その瞬間に、女は絶頂を迎えた。
本来ならば、出産は命を落とすことすらあり得る過酷な行為であり、そこにあるのは激痛のみ。その出産で絶頂に達したという事実が、女の心に激しい負荷をかけた。恐怖に艶やかな悲鳴が漏れる。
だが恐れている時間は女には与えられなかった。孕んだ子は、一匹ではない。
「う、うそ、やだ、私、私、赤ちゃん生んで……んぃっ、あぁああっ!? 赤ちゃん生んで、気持ちよくなってるぅ、あぁああっ!? やだ、やだぁ、またイクっ、イクゥウウウウッ!?」
歓喜と恐怖の悲鳴に答えるように、一匹、また一匹と子蛸が胎から産み落とされる。
そして、最後の一匹を産み落とし、合計七匹の子蛸が股の間に積み重なる頃には、女はもう声も出ず、ただ息を荒げて虚空を見つめていた。その脳裏には、出産絶頂の快楽が、繰り返し雷鳴のように響き続けている。
「……は……あはは……」
零れる、虚ろな笑い声。人間として、女として、越えてはいけない一線を越えてしまった自覚がある。この期に及んで、まだ堕ちる先が残されていたとは、思いもしなかった。
空になった子宮が疼く。次の仔を孕みたいと、ずくずくと。
「私……もう……人間なんて、思えない……。……人間、じゃ……」
完全に心の芯が折れた彼女の乳房に、母乳を求めて子蛸達が群がる。そして大蛸は、優しく女と、自らの子をその大きな触手で抱きしめた。
その触手に、すがるように女は腕を回す。
自分をこの地獄に引き込んだのがその触手であっても、今はもう、女が縋れるものは、大蛸しかいないのだから。
「……お願い、します……どうか、私を……こんな私を、捨てないで……お願い……」
◆◆
そして。女と蛸の交合は、終わる事無く延々と続いた。
女は、否、今や蛸の孕み袋へと落ちた雌は、何度も何度も、歓喜と共に異種の仔を孕み、産み落とした。
◆◆
夏の日。
墓参りの為に祖父の住む港町へ向かう少年が、炎天下の中、海沿いの道路を歩いていた。
道中で、道路の横に設置された看板が目に入る。
その看板には、このあたりで伝わる昔話が、イラスト付きで語られている。
『女侍の蛸退治』
少年もよく知っている話だ。
「……もし。そこの人」
「?!」
急に声をかけられた少年はびっくりして振り返り、そこでまた吃驚した。
そこにいたのは、見た事のないほどの美女だった。
真っ白な髪に、透き通るような白い肌。だけど瞳は黒く、顔の作りは日本人のそれだ。藍色の和服を纏った、少年より少しばかり年上に見える少女は、小首をかしげるようにして、視線を看板に向けた。
「この、看板に書いてある話は……?」
「え、ええと……」
少し気恥ずかしさを感じながらも、少年は少女に昔話を語った。
怪蛸によって脅かされる村に、旅の女侍がやってくる。彼女は村長の願いを受けて、蛸を討伐すべく一人海に向かう。
そして蛸の潜む小島にたどり着いた彼女は、激闘の果てに蛸を仕留めるも、返ってくることはなかった。
一揃いの、太刀と脇差を残して。
昔話らしく、その末路にはいくつもパターンがある。蛸へと刀を突きさして共に海に没したとも、危うい所を海の神に助けられてその妻となったとも、蛸を倒して凱旋し、その魂を慰める為に刀を残したというものもある。
あくまで昔話だ。だが、街の博物館には、当時から伝わるという刀が、錆一つない状態でずっと飾られているのだ。
「そう、ですか」
話を聞いた少女は、納得したようにうなずき、そして僅かに唇を歪ませた。
その、ぞっとするような艶やかな笑みに、少年の鼓動が俄かに高鳴る。理由も分からず、顔が火照った。
「なるほど。ありがとうございました。お時間を取らせて申し訳ありません。……貴方は、何か用事があったのでは?」
「あっ」
そうであった。
少年は祖父の家に向かっている最中である。あまり遅くなると、祖父が心配するだろう。
慌てて頭を提げて一礼し、道を急ぐ少年。
そんな彼を、少女はたおやかに手を振って見送ると、看板に目を向けた。
「蛸の女侍、ね。……ふふ」
少しだけおかしそうに笑い、少女もまた踵を返し、少年とは反対側に歩き去っていく。
一筋の風が吹き、彼女の着物の袖がめくれ上がる。
その下に覗く白い肌には、くっきりと吸盤の吸い付いた後が残されていた。
~完~
<ちなみに、港町の特産品は蛸だそうです。>
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