※この作品はR-18です。

散弾銃とスモーキング・トーク   作:スナエ

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番外編。


おまけ
Everydaydream


 毎日が、夢のようだった。

 好きな人に愛されるって、幸せなことだよ。

 貝瀬直は、回顧する。ほんのりバニラの香りのする煙草を吸いながら。

 でも、彼は、その日々をこれから手放すことになる。

 記憶封印措置。ボーダーに関する記憶をなくしたら、おまえとの思い出だって消えてしまう。

 おまえは、優しい奴だから、きっと傷付く。おまえは、強い奴だから、きっと大丈夫。

 相反する考え。久し振りの思考の迷宮。貝瀬は、ベランダで朝の光を睨みながら、深く沈み込む。

 昨日、愛してると嘘をついた。これは、最後の呪い。最後まで、薄暗い想いを押し付けた。

 もう、さよならも言えない。

 

「本当に、好きだったよ…………」

 

◆◆◆

 

 今までの日々の全てが、白昼夢だったかのように消え失せた。

 諏訪洸太郎は、回顧する。自宅で煙草を燻らせながら。

 恋人の貝瀬直は、三門市を去ってしまった。記憶を封印され、思い出をなくし、いなくなったのだ。

 大切な者が欠けるとは、こういうことか。ほんの少し、貝瀬の抱いていた喪失を理解出来た気がする。

 結局、俺におまえは救えなかった。

 諏訪の存在は、貝瀬にとっては、月明かりだったのだが、彼は知らない。貝瀬が歩いて来れたのは、諏訪のおかげだということを。

 冬の星空を眺めて、貝瀬を思い出す。闇の中でも、懸命に前に進んでいた男。

 

「本当に、愛してたよ…………」

 

◆◆◆

 

 ひとり欠けたメンツで麻雀をしていると、太刀川慶に話を振られた。

 

「貝瀬さんのこと、辛くないですか?」

「辛い……かどうかも、よく分かんねーな…………」

 

 そう言う太刀川も、貝瀬の友人だったのだが。

 

「それ、結構重傷ですよ。貝瀬さん、前に言ってました。辛過ぎると、防御本能で感情が鈍るって」

「おまえは、平気なのか?」

「寂しいですね。貝瀬さんって、賑やかな人だったし。最近は、喋り過ぎってこともなくて、普通に楽しい人だったから」

 

 よく分かってんじゃねーか。

 諏訪は、牌を切りながら思った。

 

「いつも、なんやかんやで世話焼いてくれてたなぁ」

 

 貝瀬は、嫌がりながらも、最後の最後には、いつも太刀川のレポートの面倒を見ていたから。

 

「貝瀬さん、ポケットから餅を出してきたりするんですよ。面白過ぎでしょ。戦闘は、ああだし」

 

 思い出話を聞いていると、貝瀬直が過去のものになっていくようで、気分が沈む。しかし、諏訪には、どうしようもない。

 

「直は、元気になった。きっと、それでいいんだろう」

 

 ただ、隣にいてほしかった。でも、この場所にいるのが苦しいのも、知っていた。

 その苦しさを取り除くのが、自分の役目だと思っていたけれど、違ったのかもしれない。

 貝瀬直の夢のような日々は、終わり。

 諏訪洸太郎の日常は、白昼夢のように終わり。

 大切なものを失った世界には、たったひとつだけ、色が足りない。

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