※この作品はR-18です。

散弾銃とスモーキング・トーク   作:スナエ

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番外編。


雨の日、傘になって見守ろう

 雨が降り始めた。

 大学の一角で、貝瀬直は立ち尽くす。

 彼は、雨が嫌いである。頭が痛くなるから。それに、“あの日”も雨が降っていた。

 

「直、なにしてんだよ?」

「洸太郎…………」

 

 諏訪洸太郎が、自分の傘の中に貝瀬を入れてやる。

 

「あの日も、こんな雨が降ってたなって考えてた」

 

 両親が帰って来なくなった日。日常が壊された日。

 

「大丈夫か?」

 

 貝瀬の手を取り、諏訪は尋ねた。

 

「……あんまり大丈夫じゃない」

 

 貝瀬は、雨が止んだら、ふたりが帰って来ると、自分に言い聞かせていたけれど、そうはならなかったから。貝瀬家からは、傘が二本なくなったまま。欠けてしまった日々。

 

「止まない雨はないって言うけど、止むまでオレが無事とは限らないんだよな」

「俺が、おまえに傘を貸す。いつでも」

「ありがとう。いつも。ほんとに感謝してる」

 

 貝瀬は、ようやく諏訪の目を見て話した。弱々しく笑いながら。

 

「無理すんなよ?」

「うん」

 

 外の世界は、なんて眩しくて容赦がないのだろうと思っていた。だから、暗闇に逃げ込んだ。しかし、そこでも貝瀬は途方に暮れる。一体どこへ進めばいい? そんな時に、諏訪が現れた。月明かりみたいに優しい人。雨の日に、傘を差してくれる人。大好きな親友で、仲間で、恋人。

 もしも、おまえを失ったら、オレは立ってられない。

 貝瀬は、そう思った。

 

「直、行くぞ」

「ああ」

 

 ふたりで、講義へ向かう。“いつも通り”に、とても安心する。

 新しい日常は、ふたりの日々は、過ぎていく。

 帰る頃には、雨は止んでいた。

 

「直、おまえんとこ寄っていいか?」

「いいよ」

 

 気を遣われている。出来るだけ一緒にいようとしてくれている。それが、本当に嬉しい。

 ふたりは、貝瀬宅へと歩みを進めた。

 

「あ、虹!」

「お、すげーな」

 

 くっきりとした綺麗な虹が、空にかかっている。

 おまえが隣にいると、美しいものを美しいとだけ思えるよ。自分を惨めに思わなくて済むよ。

 オレの想いは、美しくないけど、いつかは綺麗になれるかな? その時は、「愛してる」って言えるかな。

 父さんと母さんに、自分を誇れるようになりたい。ふたりに、おまえのことを話したい。

 きっと、両親は喜んでくれる。

 貝瀬は、父と母のことを想った。

 雨が降ると、思い出す。“あの日”のことを。そして、これからは、傘を持つおまえのことも。

 どうしようもない喪失を抱えながらも、貝瀬直は懸命に生きていく。隣にいる大切な人と一緒に。

 

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