※この作品はR-18です。

散弾銃とスモーキング・トーク   作:スナエ

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番外編。


言えなかった言葉

 貝瀬家は、5人家族である。

 庭の手入れが好きな祖父母と、料理が趣味の両親と、寡黙な一人息子。

 息子は、貝瀬直という。高校二年生で、大抵は保健室登校をしている。

 彼の父母は、教育者だ。哲学科教授の父と、音楽教師の母。

 ふたりは、今日も仲良く、朝から凝った料理を作っている。

「料理は哲学」という主張の父と、「料理は音楽」という主張の母。ふたりとも議論好きで、楽しげに会話をしながら、順調に調理を進めていった。

 

「直、ご飯出来たわよ」

「今日も、最高に美味しいぞ」

 

 ふたりに呼ばれ、直は自分の席に着く。

 先に座っていた祖父母に「おはよう」を言い、「いただきます」をした。

 たくさんの種類の野菜が使われたサラダと、エッグベネディクト風オープンサンドと、さつまいもヨーグルトケーキと、ホットミルク。

 どれもが綺麗で、美味しい。食べると幸せに包まれるようだ。

 

「ご馳走さま」

「美味しかった?」

「うん」

 

 母にそう答え、直は、登校の準備をする。

 しかし。急に学校へ行くという意識がしぼんでしまった。

 

「今日、学校行けない……」

 

 俯き、両親に告げる。

 

「そう。まあ、そういう日もあるわよね」

「仕方ない。家で、好きなことを学べばいい」

「うん」

 

 父の書いた哲学書を読もう。直は、そう決めた。

 そして、祖父母と一緒に両親を送り出す。

 

「いってらっしゃい」

「いってきます」

「いってきます。何か食べたいものがあったら、連絡するんだぞ、直」

「うん」

 

 軽く手を振り、ふたりを見送った。

 天気予報は雨だったので、父母は傘を持って、それぞれの学舎へ向かう。

 それから。その日、恐ろしいことが起きた。後に、第一次近界民侵攻と呼ばれるもの。

 直は、両親の無事を祈った。だが、ふたりは帰って来ない。

 お願いだから、「お帰り」を言わせて。

 そんな願いも虚しく、彼の父母は行方不明者リストに名前が載った。

 雨が止んでも、ふたりは戻らない。

 生死不明の父と母。ふたりを想うと、ろくに食事が喉を通らず、夜も眠れない。

 神様、父さんと母さんを返してください。

 直は、必死に祈った。

 しかし、ふたり分の空席は埋まらない。

 絶望した。やがて涙も枯れて、虚無感が襲う。

 その後、この世を恨んだ。残酷な世界を呪った。

 呪詛を吐きそうになるのを抑えつけて、直は欠けた日常を生きる。

 そして、ボーダーが隊員を募集し始めたので、何かしないと潰れそうだった彼は、それに飛び付いた。

 そこが、運命の分かれ道。直が彼と出会うための、大切な道だった。

 今はまだ何も知らずに、笑顔の仮面を身に付けて、貝瀬直は人の中に紛れている。

 いつか、「お帰り」を言える日まで。

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