※この作品はR-18です。

散弾銃とスモーキング・トーク   作:スナエ

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※自死・精神病/同性愛差別

IF。マイ・ブロークン・マリコオマージュ。


ハートブレイカー

 夏の終わり。貝瀬直が死んだ。

 睡眠薬を大量に酒で飲み、死んでしまった。

 意気消沈しているアイツの祖父母に代わり、叔母が諸々手続きをしたらしい。

 葬式はせずに、直葬された。俺は、恋人の死に顔を見られず、唖然とする。

 直の家に行くと、件の叔母が、遺影と骨箱を置いてある部屋に通してくれた。

 

「あなた、直くんの友達なの?」

「はい」

 

 友達であり、仲間であり、恋人だったんだ。

 

「直くんに、友達なんていたのねぇ。ほら、ずーっと、ほとんど引きこもりだったでしょう? それで、最期は自殺だなんて、親不孝者よね。兄さんたちが帰ってきたら、なんて言えばいいのかしら?」

「直は、そんな…………」

 

 親不孝者? あんなに家族を大切に想ってた奴が? 頑張って“外”で生きていた直が?

 

「直くん、友達も恋人もいないだろうから、直葬してもらったのよ。ごめんなさいね」

「……せぇ」

「え?」

「るっせーんだよっ! コイツのこと何にも知らねー癖に!」

「きゃっ!?」

「アンタなんかに弔われたって、直が喜ぶワケねーだろっ!」

 

 気付けば、直の遺骨を抱えて、走り出していた。

 夕暮れ時を駆ける。残暑厳しい中、汗だくになって帰宅した。

 

「はぁっ……はぁっ…………」

 

 諏訪洸太郎と名乗ってしまったから、警察に突き出されているかもしれない。

 

「直、どうして…………」

 

 どうして、俺を置いていった?

 いや、感傷に浸っている場合ではない。

 行かないと。

 

「どこ行きゃいいんだよ? 直……」

 

“遠くの海に行きたいな”

 

 貝瀬直が、いつか言っていた台詞。

 

「……海か。海だな」

 

 出かける準備をする。財布とスマートフォン。あとは、貝瀬直の燃えカスである遺骨。それらを、旅行用の大きなバッグに詰めて、俺は、すぐに家を出た。

 外は、夜が迫っている。

 遺骨を抱え、駅に向かう道すがら、枯れた向日葵が目に付いた。

 

◆◆◆

 

 夜行バスに揺られながら、スマホを触る。

『直』

 メッセージを送ったところで、当然既読はつかない。

 本当に死んじまったんだな。と、今更思う。

 

“洸太郎。おまえに好きな人が出来たら、オレは死ぬから”

 

 今、思い出すことか?

 ああ、でも、そうだ。めんどくせー奴だったよ、おまえは。

 おまえしか好きじゃなかったよ。おまえしか、いなかったよ。

 

“オレ、異常者なんだって。精神疾患持ちや同性愛者はおかしいって、前に叔母さんが言ってた”

 

 直。おまえは、めんどくせー奴で、普通過ぎるくらいまともな奴で、世界に磨り潰されてしまった奴だよ。

 今度こそ、俺が助けてやる。

 

「消灯しまーす」

 

 バスの中が暗くなった。今は、眠ろう。

 遺骨を抱えて寝たら、夢を見た。ガキの頃の夢。

 小学生の頃、貝瀬直は、クラスで浮いていた。ほとんど登校して来ないから。

 そんなおまえの手を引く夢。

 過去は変えられない。第一次近界民侵攻が起きた後でないと、俺はおまえとは深く関わらない。

 目覚めると、体がバキバキだった。痛てぇ。

 荷物を取り、降車する。

 朝飯は、そこらの牛丼チェーン店で済ませることにした。

 牛丼をふたつ頼み、ひとつは直に供える。

 

「いただきます」

 

 割り箸で、飯をかっ込んだ。正直、味がよく分からない。

 丼をふたつ空け、店を後にする。

 漁師町を歩き、煙草屋を見付けた。直が愛煙していたものを買う。安いライターも買った。

 煙草に火を着け、海を目指す。

 ほんのりとバニラの香りがした。直の匂いだ。

 色んな奴から、連絡が来ていたけど、全部無視した。俺は今、休暇中なんだ。

 

“オレ、どうしたら真人間になれんの? ぶっ壊れたとこ、直んの?”

 

 おまえが悪りぃんじゃねーよ。

 

「クソッ…………!」

 

 バカ野郎。

 いつも、そうだ。自罰的で、内省ばかりして。自分は誰も愛せないんだって、悲しそうにしてた。

 潮の香りが近付いてくる。少し、足を早めた。

 

「助けて…………!」

 

 悲鳴が聴こえる。前方で、女子高生がフルフェイスヘルメットの男に追いかけられていた。

 

“助けて…………”

 

「ざっけんな、てめーっ!」

 

 俺は、鞄を投げ捨てて走り、抱えていた骨箱で男を殴りつける。

 そして、そのままバランスを崩し、崖から落ちた。

 

「あっ…………」

 

 落下して、海の中へ入る。

 あ、死んだ。まあ、いいか。直に会えるなら。

 

 目覚めた時、そこは海岸だった。抱えていたはずの直の遺骨がない。

 

“海に散骨してほしいんだよねぇ”

 

 そんなことを言ってたっけか。

 俺は、発見した鞄を持ち、帰ることにした。服と煙草はびしょ濡れ。スマホは、充電切れ。財布は、無事。腹が減った。

 駅で買った弁当は、とても美味くて、おまえに食べさせてやれないのが悔しい。

 三門に戻ると、色んな奴に怒られた。

 でも、警察沙汰は避けられたらしい。

 数日後、俺の家に、貝瀬直の祖父母が訪ねて来た。

 

「諏訪くん。君にこれを渡そうと思ってね」

「あの子の遺品整理をしてたら、出てきたの」

「えっ……?」

 

 それは、ボイスレコーダー。

 直の祖父母が帰った後、俺は、それの再生ボタンを押した。

 愛しいアイツの声が流れ出す。

 

「直……そうだな…………」

 

 俺は、涙をこぼしながら、バニラの香りがする煙草に火を着けた。

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