※この作品はR-18です。

散弾銃とスモーキング・トーク   作:スナエ

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幼馴染みIF。


約束事、その23

 小学生の頃、ふたりは名探偵だった。

 貝瀬直の親友の諏訪洸太郎が、推理小説が好きだから、探偵団を結成し、様々な事件を解決した。と言っても、迷子探しとか逃げた猫探しとか落とし物探しとかばかりだが。

 でも、どれもが煌めく思い出である。

 そんなふたりは、大人になっても仲良くしていた。同じ大学だし、同じボーダーの仲間だし。

 貝瀬と諏訪は、今日もなんだかんだと一緒に過ごしている。

 貝瀬の部屋のベランダに並び、ふたりで煙草を燻らせた。

 

「洸太郎」

「なんだ?」

「覚えてる? 昔した、約束」

「どれだよ」

 

 約束なんて、腐るほどしている。「絶対にオレを置いてかないで」とか「オレのこと見捨てないで」とか。貝瀬がいちいちうるさいから。

 貝瀬直は、諏訪洸太郎に依存している。それは、貝瀬の交友関係の広がりと共に、年々薄れてきていると感じた。

 人見知りな貝瀬直は、いつも諏訪洸太郎の背中に隠れている子供だったけれど。今は、そんなことはない。

 

「覚えてねぇなら、いいよ」

「なんだよ。拗ねんな」

「洸太郎、彼女と結婚すんの?」

「あ? あー。まだ考えてねーな」

「そう」

 

 諏訪は、一月前から、同じ大学の女子と付き合っている。貝瀬は、中学生の頃に一度だけ女子と付き合ったことがあるが、彼曰く「フラれた」らしい。

 諏訪は、見た目がヤンキーだから敬遠されがちだが、その人の好さは、折り紙付きである。

 

「彼女、いい人だよね。しっかりしてるし」

「ああ」

「……オレが女だったらさ」

「ああ?」

 

 貝瀬は俯き、煙を吐いた。

 

「おまえと付き合ってたかな?」

「……さぁな」

「…………」

 

 どうでもいいことを言ったと、後悔する貝瀬。いや、本当は、どうでもよくなんてない。

 たったひとつの願い事。みんなには、くだらないこと。

 

“おとなになったら、けっこんしてね”

“うん”

“やくそくだよ”

“わかった”

 

 子供の頃の約束。貝瀬の我が儘。いつまで経っても忘れられない記憶。

 もう無効なのかな?

 貝瀬直は、遠くを見つめて、ほんのりバニラの香りのする煙草を吸った。

 

◆◆◆

 

「諏訪くん?」

「ん?」

 

 大学の講義の合間に、ベンチに並ぶ恋人たち。

 

「そのライターさ、いつから持ってるの?」

 

 恋人が、諏訪のライターを指差す。黒い炎が描かれたライター。

 

「元カノからもらったものだったり?」

「まさか。直だよ」

「貝瀬くんかぁ。ほんとに仲良しだよね」

「まぁな。二十歳の誕生日にもらったんだ」

 

「妬けるねぇ」と、彼女は笑った。

 貝瀬が、彼女を恨んでいることなど、露知らず。精神的に余裕のある者の笑みを浮かべる。

 

「私も、幼馴染みだったらよかったのにな」

「腐れ縁だよ、アイツとは」

「私と貝瀬くんが溺れてたらさ、貝瀬くんを助けてあげなよ」

「はぁ? なんでだよ?」

 

 どっちも助けちゃダメなのかよ?

 諏訪は、反論しようとした。

 

「私はね、ひとりで立ってられる人間なの。でも、貝瀬くんは違うと思う」

「…………」

「貝瀬くんって、鳴かぬ蛍が身を焦がすって感じ? 諏訪くんも気付いてるでしょ?」

「直は、ただ依存気味なだけだろ……」

「違うよ。貝瀬くんの想いは、それだけじゃないよ。きっと、今も自分の炎に焼かれてる」

 

 貝瀬は、「助けて」を言わない。歳を重ねるに連れて、言えなくなっている。

 

「だから、お別れ。ちゃんと、ふたりで話し合いなよ?」

 

 手を振り、彼女は去って行く。

 諏訪は、スマートフォンを取り出し、貝瀬にメッセージを送る。

 

『フラれた』

『マジ?』

『マジ』

『今どこ?』

 

 貝瀬直は、諏訪洸太郎の元に飛んで来た。

 

「大丈夫か?」

「おう」

「なんでフラれた?」

「俺が、おまえを好きだから」

「はい?」

 

 貝瀬は、呆気にとられている。それは、そうだろう。

 

「直、約束覚えてるか?」

「ど、どの?」

「大人になったら、結婚するってやつ」

「それ、は……覚えて、る…………」

 

 諏訪は、「結婚しよう」と、貝瀬の手を握って言った。

 

「オレ、ずっと……覚えてた…………」

 

 貝瀬は、はらはらと涙をこぼす。

 

「オレだけ覚えてると思ってた。おまえは月明かりみたいに優しい奴だから、たくさんの人に好かれてるから。オレなんて選ばないって、思って……」

「おまえも、俺にとっては明かりなんだよ。直は、炎みたいな奴だ」

 

 貝瀬直は、諏訪洸太郎の手を、両手で掴んだ。

 

「大人になったから、結婚してね」

「ああ」

 

 左手で、貝瀬の頭を撫でながら、諏訪は笑う。

 

「ムカつく」

「なんでだよ」

「なんで、オレだけ泣いてんだよぉ!」

「うるせー、泣き虫」

「ムカつく~!」

 

 かつて、泣き虫だった子供は、大きくなってからも、心の中では泣いていた。

 こんな人間、置いてけ。置いてかないで。

 こんな人間、捨てろ。見捨てないで。

 相反する心。継ぎ接ぎの精神。ガラス細工の世界。

 おまえがいなきゃ、見付けられない色がある。

 

「直、愛してるから、心配すんな」

「愛してるけど、心配はする……」

「バカ」

「バカでもなんでもいい。世界で一番にしてくれなきゃ、嫌だ」

「とっくの昔に約束したろ、それ」

 

 それは、数ある約束のうちの、ひとつ。

 

“せかいでいちばん、とくべつにして!”

“せかいでいちばん、とくべつだ”

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