※この作品はR-18です。

散弾銃とスモーキング・トーク   作:スナエ

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IF。


これならおまえに好きだと言える

 紆余曲折あって、戦闘員をやめ、開発室で働いている男、貝瀬直。

 

「寺島くん、このトリガーさぁ」

「あーそれ、貝瀬の案を採用した」

「マジ? やったー」

 

 日々、努力して技術者としてやってきた。ボーダーに尽くしているかのように。

 貝瀬直の真の目的は、別のところにあった。

 それは、まず、肌身離さず持っている、ひとつの実験用トリガーを秘密裏に完成させること。

 その日は、案外早くやってきた。

 

「は……はは…………」

 

 これなら。これなら、出来る。

 トリガーの完成は、手段。最終目的は、ひとりの男を手に入れること。

 

「トリガー起動」

 

 貝瀬は、トリオン体へと換装し、諏訪洸太郎を探す。

 彼は、隊室にいた。推理小説を読んでいる。

 

「諏訪さん!」

「ああ?」

「好きです! あたしと付き合ってください!」

 

 諏訪に近付いて来て、いきなり告白してきたのは、見知らぬ女。

 元気溌剌。可愛いとも、美しいとも表現出来る容姿。

 

「いや、待て。誰だ?」

「大砂世界、20歳! エンジニアです!」

 

 大砂世界は、もちろん偽名であり、正体は貝瀬直である。

 

「好きです! あたし、本気です!」

「お、おう。まあ、その、友達からにしとけよ」

「はい! ありがとうございます!」

 

 照れくさそうに笑う諏訪が、可愛いと思った。

 それから、貝瀬は、大砂世界として、諏訪洸太郎と距離を縮めていく。理想の女の体を手にした貝瀬は、なんでも言えた。

「カッコいい!」とか「大好き!」とか「愛してる!」とか。

 無敵の女だった。

 諏訪洸太郎は、段々と彼女を好きになっていく。

 その名は、仮初め。ひとりの男が作り出した虚像。

 だって、おまえは男だから。女じゃないと、恋をしちゃいけないから。ずっと隣にいられないから。

 植え付けられた異性愛規範が、貝瀬を蝕んでいる。

 

「諏訪さーん!」

「世界」

 

 偽りの名前を呼んでくれるようになった頃、ふたりで遊びに行くことが増えた。

 

「これって、デートですよね?」

「まーな」

「嬉しい!」

 

 諏訪の手を握ると、優しく握り返される。

 楽しくて、嬉しくて、繋いだ腕をぶんぶん振った。

 

「はしゃいでんな」

「もちろん!」

 

 満面の笑みで、女は言う。

 その日は、ふたりで大きな書店へ行った。

 

「そういや、世界は小説読むのか?」

「あたし、あんまり字が読めなくて。漫画じゃダメですか?」

「いや、んなことねーけど。意外だな」

「そうですか? 諏訪さんの好きな推理小説とか、全然ダメですよ。難しいから」

 

 また、嘘をつく。本当は、答えを出すものだから、推理小説が苦手なのである。

 どうせ、嘘にまみれた体なのだから、もうどうだってよかった。

 

「エンジニアってのは、何を読むんだ?」

「技術書は読めます。仕事ですから。紙の本ではないですけど」

「世界の本棚が見てーな」

 

 それは無理だ。貝瀬の本棚は、哲学書で埋まっている。

 

「恋愛漫画ばっかりですよー」

「へぇ」

 

 あんまり、この辺を掘り下げないでほしい。

 

「あたし、諏訪さんのオススメなら、推理小説だって読みます! 優しいやつでお願いします!」

「おう。じゃあ、国内の短編集にすっか」

「はい」

 

 一体、オレは、いつまでこの夢の中にいられるんだろう?

 貝瀬は、頭の片隅に常にある考えから、目を逸らし続ける。

 いつか、必ず真実に辿り着くおまえ。おまえは、オレを裁くんだろうか?

 貝瀬直は、少し暗い気持ちになった。

 

◆◆◆

 

 最初は、知らない女だと思ったんだ。

 でも、違う。大砂世界の正体は、貝瀬直だ。

 無意識であろう仕草が、貝瀬と同じだから。

 

「諏訪さん!」

「よう」

 

 だが、真実に辿り着いたことを黙っている。

 こんなに溌剌としたおまえを、俺は初めて見た。おまえが、煙に巻くような喋り方をしてないのを、初めて見た。

 ただ、分からないことが、ひとつ。なんで、男女の恋愛ごっこがしたいんだ?

 

「世界、将来なりてぇもんは?」

「諏訪さんのお嫁さん!」

 

 分からない。嘘だけは言わなかったおまえが、俺に嘘をつくようになったワケが。

 いつか、おまえから、貝瀬直から聞きたい。

 おまえの真実の心は、なんだ?

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