異聞帯『受胎都市トウキョウ』 混沌王・人修羅の罠 作:緑茶わいん
別の時代、別の場所へ降り立つ感覚。
何度も経験したおかげで、藤丸立香はそれに慣れていた。
着いた先はたいてい部外者に優しくない。
襲われるのは日常茶飯事、サバイバルを強いられたこともある。
だから当然、あらゆる状況を想定しているつもりだった。
今回は特に負けられない。
しかし、気負いと焦りが逆に思考を鈍らせたのか。
到着した自分たちが既に『囲まれている』ことに、少年は気づけなかった。
「下がれマスター、死にたいのか!?」
「───っ!?」
ランサー・スカサハの警告にはっとする。
「転送直後に、敵襲!?」
身構えた時にはもう、無数の異形が群がり始めていて。
厳選を重ね、限界まで連れてきた英霊(サーヴァント)たちが迎撃に入る。
待ち伏せ? まさか?
「くそっ、早くマシュを助けないといけないのに!」
人理継続保障機関カルデアのマスター・藤丸立香は、パートナーのマシュ・キリエライトと共に幾多の戦いを潜り抜けてきた。
今回の異聞帯もその過程で見つかったもの。
A.C.2010前後の日本主要都市に似ているものの、どこか異質な世界。
順調だった探索は次第に難航。
敵の強さと数に翻弄された立香は、異形によるマシュの誘拐という失態を演じた。
本当ならすぐにでも取り返しに行きたかったのに。
態勢を立て直すために一度、退却を余儀なくされて。
一秒でも早くと訪れた先で待っていたのは、これまでで最大規模の歓迎。
「本当に、なんなんだよこの数!」
神話存在に似たものもいるが、どこか異質な敵たち。
一体ごとに特殊能力を持つ上に数が多く、攻撃パターンが独特でやりづらい。
一騎当千のサーヴァントたちでさえ楽な相手ではなく、
陣形を整えるより先に襲いかかられたのもあり──戦線は徐々に崩壊した。
乱戦。
視界が分断されれば指揮効率は大幅に落ちる。
味方を巻き込んでしまうため、切り札たる『宝具』は封じざるをえず。
地道な各個撃破を続ける中で味方同士の距離が離れていき。
立香は、眼前に到達した一体の異形に『死』を意識した。
普段、彼を守ってくれているマシュの姿は今はない。
彼女の優しい笑顔を脳裏に思い描いたところで、間一髪、スカサハの槍が敵を排除。
「敵の掃討は諦めるしかない! 各自、自身の生存を最優先!」
魔術で強引に作られた間隙に、立香は突き飛ばされた。
押された勢いのまま走り、ようやく振り返れば──複数の宝具の輝きに視界が埋め尽くされる。
立香たちは、敵地にて散り散りになった。
そして……。
◆ ◆ ◆
「……はあ。着いて早々分断なんてついてない」
とある大きな建物を見上げながら、少女は一人呟いた。
日本神話の趣を感じさせる衣装と、一振りの槍。
短めの髪に、一房分の赤いエクステ。
名は、宇津見エリセ。
正確には純粋なサーヴァントではなく準サーヴァントという扱いだが、クラスとしてはランサーになる。
立香と共にこの異聞帯を訪れた彼女は、まるで異形たちに追い立てられるようにしてここへたどり着いていた。
周囲に味方の気配はなし。
同時に敵が襲撃してくる様子もない。
むしろ、どこか遠巻きに──エリセの離脱を抑止するような意思を感じる。
誘導された、か。
直後の襲撃といい、相手のいいように動かされている。
好きにさせるのは癪だけれど、包囲を強引に突破するのは自殺行為に近い。
となれば、
「鬼が出るか蛇が出るか、行ってみますか」
閉鎖空間のほうが一度に相手にする数が減って戦いやすい。
それに、一か八か、相手のボスを倒すことができればすべて解決するかもしれない。
「ここが本拠地なら、マシュさんがいるかもだし」
中に侵入してもやはり、敵は襲って来なかった。
それどころかあからさまに特定ルートだけ警戒が薄い。
何度か別ルートを模索してみたものの無謀と判断、エリセは素直に「誘い」に乗った。
誘導されたのは、地下。
降りるほど、地上の荒廃した様子とはかけ離れていく。
瓦礫のない整然とした階段で一番下まで降りればそこはもう、ビルの下層と言うより『城の奥』という雰囲気だった。
靴音を響かせながらさらに進めば──そこに、
「ふうん。ひょっとして、キミがここの『王』?」
一見すると「変なタトゥーをした若い人間の男」。
けれど、彼からはここの異形達と同じ「何か」を感じる。
そして彼の放つ威圧感は一山いくらの雑魚とは明らかに桁が違う。
本来ならばサーヴァントが連携して、立香のサポートつきで戦う相手。
──彼の傍には、一人の女がいた。
いや、『一体の異形』と言うべきか。
似たような敵とはここに来るまでに戦っている。
薄紫色の髪をした美女。
目は特徴的な眼帯に隠され、豊満な肢体は最低限をベルトのようなもので覆っているだけ。
さらに、背には一対の翼。
露出に関して人のことは言えないが、さすがのエリセもあそこまでじゃない。
思わず眉をひそめるも、気配からして彼女もまた相当な難敵だ。
『王』の側近か、愛人か、それともその両方か。
と。
「ようこそ、エリセさん。我が主、人修羅様の玉座の間へ」
「え……?」
一歩、女が足を踏み出した。
悠然ととした態度。
告げられた言葉に、エリセは一瞬呆けてしまった。
──どうしてこちらの名前を。
待て。そもそも彼女の『薄紫色』の髪は、
「マシュ、さん……!?」
くすくす。
平時の服装とも、シールダーとしての装束とも違う。
異質な衣装を纏ったマシュが、艶のある笑みでそれに答えた。
人修羅様、というのは『王』の名前か。
何故そんな姿を、そして何故、敵の首魁を様付けで呼ぶのか。
「今のわたしはマシュ・キリエライトではありません。わたしは、人修羅様に『悪魔合体』を施されて生まれ変わった存在、マシュ・エンジェル」
エリセは、マシュ──マシュ・エンジェルの言葉からおおよそを理解した。
あの異形たちこそが「悪魔」であり、マシュはそれと合体させられてしまったらしい。
けれど、記憶は残っている。
洗脳されているようだが、何も覚えていないのでなければ。
唇を噛み、ぎゅっ、と槍を握り直す。
「待ってて、マシュさん。そいつを倒して元に戻してあげる」
「いいえ、不可能です」
くすり。
再び笑ったマシュは淡々と告げると、数歩後退した。
まるで、自分の出る幕はないと言うように。
『王』が、無防備に。
「馬鹿にして……っ!」
吠えると、エリセは一息に駆けた。
相手が油断している今が好機。
出し惜しみすることなく全力で『王』──人修羅を葬りにかかって、
「ああ、だから言ったではありませんか。不可能です、と」
ランサー・宇津見エリセはあっさりと敗北した。
◇ ◇ ◇
彼女の攻撃は何一つ──宝具『天遡鉾』でさえも人修羅には通用せず。
何事もなかったように立つ敵の姿に呆然としたまま、たったの一撃で戦う力を全て砕かれた。
何をされたのかすら正確にはわからない。
サーヴァントさえも超越したその力は確かに、英霊をよく知るマシュをして不可能と言わしめるだけのもので。
「……私を、どうするつもりなの?」
半有機的な枷で両手足を拘束されたエリセは、眼前にある『大きなベッド』に向けて尋ねた。
そこでは、人修羅に複数の女が侍っている。
エンジェルと合体したマシュ、ティターニアと名乗った女悪魔、そして──ランサー・スカサハ。
こちらの手の内がバレバレなはずだ。
内通者がいた上にマシュまで裏切っていたのだから。
すると、当のスカサハは悪びれもせず、笑みを浮かべて言ってくる。
「これからお前を人修羅様の雌として調教する」
「調……っ!?」
「そのルーンは特別製でな。こういう時に有効なのだ」
下着に剥かれたエリセの下腹部にはぼんやりと輝くルーン。
「人修羅様とまぐわう我々の感覚がお前に共有される。お前はそこで、我らが愛されるのを眺めながら──それがどれほど心地いいかを味わうがいい」
「……ちょっと、悪趣味にも程があるんじゃない?」
枷は無機物と違い変に柔軟性があり、容易には外せない。
ルーンには力を封じる効果もあるのか、たとえ回復してもフルパワーは発揮できない。
その上で疑似的な辱めを受けるなんて寒気が走る。
「ふふっ。わたしの見せていただいた『夢』も素敵でしたが、エリセさんの調教もとてもいやらしいです。少し羨ましいくらい♡♡」
「なにを……っ!?」
「ほら、こうしてわたしたちが人修羅様と交わると……っ♡♡」
「あっ……!?♡」
マシュの肌が撫でられたかと思うと、同じ箇所に蕩けるような痺れが生まれた。
息が詰まり、唇から甘い声が漏れる。
「いい声♡ これなら短期間で処女のまま、人修羅様の雌に生まれ変われるでしょう」
「ふざけないで。こんなもので私は……あ、んっ♡」
今度はスカサハの乳首がつままれた。
戦いの際は見惚れるほどの技の冴えを見せていた美女は人修羅の愛撫に表情を崩し、ほう、と息を漏らして。
「抵抗は無意味だ。お前は必ずこの方のものになる。……私や、マシュがそうだったようにな」
そうして、エリセの前で本格的な行為が始まった。
目は閉じられるが、拘束のせいで耳は塞げない。
三人の嬌声は嫌でも耳に入ってきて──身体には甘い刺激。
人並みに自慰経験はあるエリセだが、マシュたちの身体は比較にならないくらい淫乱らしい。
硬さのある男の指に撫でられるたび、感じたことのない快感が走る。
声が抑えられない。
呼吸は自然と荒くなり、一切触られていないのに身体は興奮。
下着に湿った感触が生まれるのも時間の問題だった。
けれど、行為は止まるどころかエスカレート。
「人修羅様♡♡」
「人修羅様♡♡」」
「人修羅様ぁ♡♡」
甘い声に理性がかき乱される。
寵姫たちが身をすり寄せるだけでエリセは快感に責め立てられて。
舌が男の唇を求め、乳首へ奉仕し、口内に差し込まれた指をしゃぶる。
疑似的な感覚が自分のことのようにそれを感じさせて。
マシュの豊かな胸は雄々しいペニスを挟みこみ、擦り付けるようにしながら扱き上げる。
スカサハは主人の顔の上に腰を下ろすと秘所を舌でかき回され。
ティターニアは自らを指で慰めながらマシュの秘所を同時に責めた。
──快感が同時に、三人分。
耐えられるわけがない。
頭が痺れてなにも考えられないまま、ただ、快感に翻弄される。
疼きは、時を経るほどに強くなる一方。
間接的に性感を引き出され、解された秘所はとろとろと愛液を分泌。
クリトリスは完全に勃起し、処女の割れ目は肉棒を求めるようにひくひくと自己主張を続ける。
気持ちよすぎて辛いのに、自分で慰めることもできないまま。
許容量を超えた快感をただただ流し込まれて、
身体の熱が、いっこうに収まらない。
こんな状態でもし、挿れられてしまったら?
想像はすぐに現実になった。
「挿入れてください……っ!!♡♡」
三人の美女が両手をつき、尻を高く突き上げて挿入を強請る。
最初に選ばれたのは真ん中のマシュ。
彼女は、尻に触れる手の感触に「あぁ……っ♡♡」と歓喜を表して。
次いで亀頭が入り口に触れると、エリセの身体はぞくぞくっ♡♡ と震えた。
だめ。
だめ、なのに。
「ぃっ!?♡♡」
ティターニア、スカサハの秘所に人修羅の指が潜り込み。
膣内をかきまわされる二重の快感。
抵抗する気力を吹き飛ばされたと思えば、
「待、やっ、あ、あああああああぁぁぁぁぁっっ!?!?♡♡♡♡」
並外れたサイズの槍が、一息にマシュを貫いた。
快感。
身体全体が性器に変わってしまったような、存在そのものを人修羅に掌握されたような、圧倒的な悦びが全身を駆けた。
──秘所が潮を噴き、痙攣が収まらなくなる。
口を半開きにしたまま必死に息を吸い、やり過ごそうとするも、
少女の努力などおかまいなしに「あっ、んんんっ♡♡」ピストンが開始される。
貫かれる感覚をそのままに、好き放題にかき回されて。
一突きごとに絶頂に等しい快感を流し込まれ、これが本当の幸せなのだと教えられる。
──サーヴァントだとか、そんなことは関係ない。
女であれば、雌であれば、この快感には逆らえない。
いや。
並の人間ならば快感に耐えきれずおかしくなってしまうかもしれない。
身も心も、常人より強くできている準サーヴァントだからこそ、逃げられない。
マシュの膣内は別の生き物のように人修羅の竿に絡みつく。
調教された雌の反応をトレースするようにエリセの膣も動き、本当に、まるで自分が犯されているような錯覚に陥った。
後ろから突かれるマシュの表情は、残念ながら半分隠れてしまっているものの──口元の様子だけでもわかるほどに蕩けていて。
かき回されるたびに愛液がこぼれ、シーツにいやらしい染みを作る。
慣れているマシュでさえ前後不覚に陥るような快感に、初めてのエリセが耐えられるはずがない。
下着と床を濡らしながら、何度も何度も高みへ押し上げられて
解放されたマシュが口を半開きにしたままベッドに転がると、一瞬の解放感。
眠りに落ちるそれに近い感覚に身を任せようとしたところで──再び、ずん、と秘所を貫かれた。
鍛え抜かれたスカサハの膣が、抱きしめるように竿を包み込んで。
エリセは、本当にもうなにも考えられなくなった。
目の焦点も合わなくなり、それからなにが起こったのかも朧げにしか覚えていない。
ただ、三人が交互に男を求め、抱かれ続けたことだけは確かで。
終わった後、信じられない数の絶頂を繰り返したエリセは気絶寸前、座っていることさえできなくなって床に転がった状態だったらしい。
愛液と潮で水分を消費しつくした彼女に水と果物が与えられて──。
気づいた時には、人修羅の部屋ではない別の部屋のベッドに軟禁されていた。
◇ ◇ ◇
淫蕩に満ちた調教の日々が幕を開けた。
食事と睡眠、入浴はきちんと与えられたものの、仲間たちと連絡を取る手段はなく。
下腹部に輝くルーンはそのまま。
何度もあの寝室に連れて行かれ、マシュたちと人修羅との交わりを見せつけられた。
美姫たちは三人一緒に抱かれることもあれば一人ずつのこともあった。
時間は朝でも夜でもお構いなし。
玉座や廊下で行為が始まることも珍しくない。
『王』である人修羅にとってその程度は大した問題ではないのかもしれない。
おかげでエリセは不定期に性交の快楽を与えられ続けることに。
また、直接の観戦ではなく、マシュたちの誰かを教師とした授業も並行して行われた。
淫語や雄の喜ばせ方を雌たちの実体験を元にレクチャーされる。
人修羅の身体に見立ててエリセ自身の身体を弄られることもあり──。
結果、疼きが四六時中収まらなくなった。
起きていても寝ていても秘所が濡れっぱなし。
いつでも気持ちよくなれるように、いつ抱かれてもいいように。
経験豊富な娼婦がそうであるかのように、身体は常に甘い気怠さを抱えるようになって。
「ふふっ。エリセさんが満足しきれないのは、ルーンのせいでもあるんですよ♡♡」
ある時、マシュがそう教えてくれた。
「エリセさんは今、ルーンの効果で『絶頂できない』状態にあります」
「絶頂……できない? でも、あんなに」
あんなに気持ちよかったのに。
三人の誰かが抱かれるたび、快感が跳ねあがって心と身体が上に引き上げられて。
簡単には戻ってこられないほど気持ちいいのに。
あれはまだ、絶頂ではない?
くすくす。
「もちろん、イけなくても普通のセックスの何倍も気持ちいいんですけど。……でも、女の身体はイかないと、本当の意味で満足することはできません♡♡」
「っ♡♡」
彼女たちが何を期待しているか、ここまで来れば簡単にわかった。
懇願。
エリセが自分から堕ちて人修羅を求めるのを待っているのだ。
実際──身体はもうぐずぐずに堕とされて快感に抗えなくなっているのだから、特別おかしな話ではない。
もちろん、だからといって心まで堕ちる気はなかったが。
──イけない。
教えられ、自覚してしまうと、その事実は重くのしかかった。
本当に満足しきることができないまま、一日に何度もとろとろにさせられる。
自分ではない誰かの喜びを追体験させられて。
エリセの身体は間接的に開発され、とっくに淫乱になっているのに処女のまま。
ルーンの与える快感だけで十分すぎると思っていたのに。
何日も寸止めされ、我慢できなくなったエリセはとうとう、自分から秘所に手をのばしてしまった。
「あっ、んっ♡♡」
どうせこれも監視されているのだろう。
恥ずかしいのに、それさえも興奮を助ける材料になって。
夢中で乳首を弄り、秘所とクリトリスを愛撫して。
「っ、イけない、イけない……っ!?♡♡」
自慰でも、絶頂に至ることはできなかった。
意識して判別すれば簡単にわかる。
連続した責めで返ってこれなくなることはあっても、強烈な波で一気に押し流されてはいない。
絶頂の寸前。
決壊するギリギリのところに透明な、分厚い蓋があって、そこから先には絶対に進めない。
できないと思うと、どんどん、欲求は強くなって。
無駄だとわかっているのに、一日に何度も慰めてしまう。
人修羅から与えられた露出の多い淫らな下着は常に湿り気を帯びるようになり、呼吸は整わず、ほんのりとした熱っぽさに常に支配されて。
「そろそろ素直になったらどうだ? そうすれば、いくらでも幸せにしてもらえるのだぞ?」
「うるさい……っ♡♡ 放って、おいてよ……っ!♡♡」
イきたい。
イきたい、イきたい、イきたい。
気持ちよくなることしか考えられない。
味方の助けももうどうでも良かった。
誘いこまれたエリセと違い、仲間たちは妨害されているに違いない。
位置特定、防衛線の突破にはまだ時間がかかるはず。
何日もさらに焦らされ、狂わされるのなら、そんなものはなんの役にも立たない。
それに、もし、こんな状態で解放されたとしても。
エリセはきっと、元のエリセには戻れない。
他のサーヴァントか、あるいはマスターである立香に頼んで思いっきり──未だ処女のこの身体を弄んでもらわなければ満足できない。
屈服する以外に助かる術はない。
けれど、敵の手に堕ちて、あまつさえ仲間を裏切るなんて真似は。
「────っ」
限界ギリギリまで追い詰められ、プライドだけで自分をつなぎ留めながら。
ある日、エリセはまた玉座の前まで連れて来られた。
何度も情交を見せつけられ、身体でも心でもその威容を感じさせられた今のエリセには、無造作に腰かけた人修羅の姿が何倍にも大きく見える。
傍らには笑みを浮かべたスカサハ。
裏切り者の彼女を信用できないと思う反面──その行動原理にある種の共感を覚えながら。
人修羅がスカサハに顎をしゃくるのを見て。
進み出た女は淡々と、しかしどこか楽しげにエリセに告げた。
「お前には三つの選択肢がある。このまま仲間の元へと戻るか、今一度人修羅様に挑むか──マシュのように悪魔合体を受け入れるか、だ」
◇ ◇ ◇
「悪魔、合体」
「お前に施したルーンは特別製だ。通常の手段では決して消すことはできない。方法はただ一つ──お前の存在を決定的に変質させること。すなわち悪魔合体だ」
『宇津見エリセ』を対象としているため、エリセがエリセではなくなれば効果は失われる。
そういう風に条件付けをしていたのだとスカサハは語った。
エリセはその理屈に嘘はないと判断しつつも「冗談じゃないわ」と吐き捨てて、
「結局、あなたたちの仲間になれってことじゃない」
「勘違いするな。悪魔合体は洗脳ではない。存在が変質しようと──お前が自意識を強く持っていれば、お前自身の心までは変えられない」
マシュ・キリエライトがマシュ・エンジェルになってもなお記憶を保っているように。
──きっと、これも真実だ。
エリセよりもじっくりと堕とされたらしいマシュ。
洗脳などではなく、人修羅への服従心が原因だったとしてもおかしくない。
いや、むしろそのほうがしっくりくる。
「……どれも選べない、と言ったら?」
睨むような視線に、スカサハは嘲笑で返してくる。
「ただで帰してやる、と言っているのに『嫌だ』と言うのか?」
「っ」
正論だ。
帰してくれると言っているのだからそうして、仲間と合流すればいい。
一人では敵わなかった相手でも力を合わせれば勝ち目はある。
手に入れた情報を合わせればなにか、マシュを元に戻す方法だって見つかるかもしれない。
別の時代や場所の英霊なら下腹部のルーンだって消せないとは限らない。
──本当に?
エリセの宝具をあっさり防いだ相手。
英霊クラスの存在が二人、ないしは三人傍に侍っており、配下には無数の悪魔たち。
本当に、敵うだろうか?
何より、エリセはもう一度『彼』に槍を向けることができるだろうか?
ここでもう一度、単騎で戦うのはよりありえない。
サーヴァントとしての誇りを守ることだけは可能かもしれないが、騎士でも王でもないエリセにはそこまでのプライドはない。
なら、なら。
頭の中で必死に思考を巡らせながら、ゆっくりと口を開く。
「マシュさんは、悪魔合体で前より強くなった」
「────」
人修羅も、スカサハもなにも答えない。
「記憶は残る。私がしっかりしていれば洗脳はされない」
「────」
「このルーンが消えれば全力で戦える。少なくとも、合体であなたたちの戦力は一体減る」
悪くない。むしろ、最も可能性のある選択と言える。
他に勝機がないのだから仕方がない。
普段ほどはまわらない頭で、焦らされた身体でそう決めつけて。
「結論は?」
冷徹な問いに、被虐の喜びを覚えながら答えた。
「……悪魔合体する。あなたたちに勝つために」
呼び出されたのはヤクシニーという悪魔だった。
青みを帯びた肌を持つ鬼女。
裸の上半身を頭髪のみで隠した姿はどこか煽情的だが──彼女(?)は恥じらうどころか誇るような雰囲気さえ帯びている。
相対し、思わず息を呑むと「良いんだな?」ともう一度尋ねられた。
「悪魔合体は不可逆だ。行えば、二度と元のお前には戻れん」
「別にそんなの、今更怖くない」
ランサーとしての力も言ってしまえば似たようなもの。
エリセは他のサーヴァントと違って「歴史上の英霊そのもの」ではないのだ。
もちろん、変わってしまう恐怖はあるが。
──同時に、奇妙な興奮も湧き上がってくる。
取り返しのつかない行為に臨もうとしている。
調教によって引き出された被虐性癖が声を上げているのだ。
違う。
自分は、そんなことのために悪魔合体を受け入れるわけじゃない。
自分自身に言い聞かせながら、人修羅の前にヤクシニーと並んで。
「────」
悪魔合体は、他では決して経験できない奇妙な感覚だった。
身体が触れ合い、重なり、溶けあうようにして境界を曖昧にしていく。
同時に自他の、心の境界までもが曖昧になって。
エリセはヤクシニーの記憶に、心に触れた。
文字通り二人が一人になっていく。
彼女が人修羅に出会い、忠誠を誓い、仕えるようになる過程が。
ヤクシニーの一生が流れ込んで、いや、染み込んでくる。
自分のことのようにすべてが感じられるようになり、文字通り自分のことになる。
最も深く、大きく、かけがえのない記憶は人修羅に愛された記憶。
かの『王』の寵愛はやはり、マシュやスカサハ、ティターニアだけでなく他の者にも及んでいた。
ヤクシニーもまた彼に愛され、抱かれ、精を注がれて、雌としての深い喜びを得た。
人は、異質なものを忌避するものだ。
肌の色が異なるだけで嫌悪を示す者もいるというのに、女として愛されたその喜びはどれほどのものだっただろうか。
しかもそれが、弱肉強食の理を持つ彼女たちにとって、絶対と言うべき強者なら。
忠誠、敬愛、恋慕。
全てがエリセ自身のものになって。
そのうえで、ヤクシニーは自意識の主導権をエリセに委ねてきた。
それはすなわち「自分を消す」ということだ。
どうして。
自問への自答は「それが人修羅様の望みだから」。
愛する主のためならば自身の魂さえも厭わない。
「ああ」
それは、いったいどれほど大きな愛だろうか。
ヤクシニーという一人の「女」への尊敬を抱いたエリセは、強靭な意志をもってその影響を排することができなくなった。
主人格はエリセのまま。
けれど、彼女の想いも記憶もすべて持っていく。
そうしようと思えたのは、もしかしたら心のどこかですでに人修羅への想いを育てていたからなのかもしれない。
多くの強者を従え、統べ、率いる存在。
それはどこか、マスターである藤丸立香に似ている。
けれど決定的に異なるのは──人修羅が、自分自身も前に立って戦う存在であること。
人修羅自身が圧倒的な強者であり、その存在をもって皆に示す『王』だということだ。
「ああ……♡♡」
合体が完了すると、エリセの姿は様変わりしていた。
基本的な形はエリセのまま。
肌はヤクシニーと同じ青みを帯びたそれに変わり、額からは二本の角が生えた。
顔つきは多少鋭くなっただろうか。
同時に表情や肌は今までにない艶を帯びた。
細身ながら、秘められた膂力は今までよりもさらに上になり。
エリセは、纏っていた衣装を自然な動作で払った。
上半身の衣を吹き飛ばし──ヤクシニーがそうしていたように半身を晒す。
赤のエクステをそのままに、以前よりも伸びた髪を垂らして最低限だけを覆って。
いつの間にかその場にいたらしいマシュ──マシュ・エンジェルが笑みを向けてくる。
彼女に微笑を返してから、エリセは──エリセ・ヤクシニーは愛する『主人』の前に跪いた。
「合体、完了いたしました、人修羅様♡♡ このエリセ・ヤクシニー、あなた様の槍として盾として誠心誠意お仕えいたします。どうぞ、今度ともよろしく……♡♡」
果てしない喜びが胸を満たす。
敵だったはずの男に頭を下げているというのに、それが当然に思える。
「ほう。あれだけ嫌がっていたというのに、どういう心境の変化だ?」
「私が馬鹿だったのよ。……くだらないプライドのせいで、本当にしたいこともわかってなかった」
説明を受けた通り、ルーンの効果はもう消えている。
どのみち、そんなものはもう必要ない。
「お願いいたします、人修羅様♡♡ エリセの処女を奪ってください♡♡ 私をあなた様の雌として完成させてください♡♡」
「────」
主はその懇願に、静かに応じた。
立ち上がったエリセは人修羅に軽々と抱え上げられる。
屹立した肉棒が尻に当たり、その硬さと大きさに思わず震えてしまう。
恐怖ではない。
十分開発されたエリセの身体と、人とは別次元で丈夫なヤクシニーの身体。
合体した今の身体はただ、期待と興奮から愛液をとめどなく分泌している。
前戯はもはや必要ない。
「ふふっ♡ 人修羅様、ずいぶん焦らされたのでもう我慢できないみたいです♡♡ ちょっと乱暴に犯されちゃいますけど──」
「ふあっ♡♡ あっ♡♡ あああああぁぁぁっっ♡♡」
「心配いらないみたいですね♡♡」
はしたなく足を開かされたまま、主の剛槍に貫かれた。
破瓜の痛みはまるでない。
代わりに、純潔から解放され──愛する人の所有となった喜びが全身を駆け巡る。
二度も、愛する方に処女を奪って『いただける』なんて、自分はなんて幸せなのだろう。
愛される喜びは、ただの快感とは質も量も段違いだった。
エリセのすべてを塗り替え、埋め尽くす至福。
夢中で彼にしがみつき、唇を求め、腰を動かした。
絶頂する。
波に押し流される感覚とはこうも強烈で、幸せなものなのか。
もう、これなしで生きていくことなんて考えられない。
「人修羅様♡ 人修羅様っ♡ 人修羅様ぁっ♡♡」
処女のきつさと雌奴隷の柔軟性、技術を併せ持った極上の膣が肉棒に絡みつき、締め付ける。
吐き出された精を余すことなく子宮が呑み込み、これが愛する人の精だと記憶する。
ようやく絶頂を許された身体は、これまでの分を取り戻そうとするかのようにイき続けて。
玉座に運ばれたエリセは後背位で犯され、マシュたちから羨望のまなざしを向けられながらさらなる精を甘受。
床に押し倒されると尻を持ち上げさせられ、乱暴に突かれながらマゾの喜びに浸った。
ようやく手に入れた女としての喜び。
かつての宇津見エリセならばとっくにへばっていたかもしれないが、ヤクシニーと一つになった今はまだまだ、人修羅を欲してしまっていて。
「……ふっ♡♡ エリセ、お前、この分では抱き潰されるぞ?♡♡」
「エリセさんがあんまり可愛らしい声で鳴くものだから、人修羅様、収まりがつかないみたいです♡♡」
「あっ♡♡ あああっ♡♡」
強い雄を前にした時、雌に許されるのは屈服し、寵愛を乞うことだけ。
宇津見エリセは、エリセ・ヤクシニーはそのことを魂と身体に刻み込んだ。
さらに寝室へと運ばれた彼女は、求められるままに責めを受ける。
マシュの豊満さやスカサハの妖艶さと比べると劣等感を覚えてしまう身体を、人修羅は「関係ない」とばかりに荒々しく愛してくれた。
唇を貪り、胸を揉みしだき、乳首を愛撫し、クリトリスを擦り上げ、膣を蹂躙。
膣内も髪も、顔も、身体も、人修羅の吐き出す濃厚かつ大量の精でべとべとになり、彼のにおいに全身が包まれる。
もう、これなしでは生きていけない。
陶酔に心を浸しながら、指に付着した精液を舐め取る。
跪くようにして、人修羅のペニスをお掃除。
そうして舐め取った精もまた、こくん……♡♡ と嚥下して、はあ……っ♡♡ と深い息を吐き出した。
「ほう、まだ余裕がありそうだな?」
「それじゃあ、わたしたちも参加しましょうか」
「人修羅様にお仕えする雌同士、仲良くしましょうね?」
スカサハ、マシュ、さらにティターニアまでが、あられもない姿でベッドに乗り上げてきて。
「あっ……♡♡」
形のいい乳房とぴんと勃った乳首が優しく淫らに愛撫される。
薄紫色の少女の唇がエリセのそれに重ねられて、ある種の愛情を示すように──それでいて、若干の嫉妬を織り交ぜて、主人の精の残滓を奪い取ろうとしてくる。
妖精の舌が溢れるエリセの愛液と人修羅の精液を舐め、呑み込み、さらなる寵愛に備えさせる。
主人の指が、肉棒が、そんな四人に容赦なく襲い掛かり。
「ああっ、人修羅様……っ!!♡♡」
嬌声が重なり合うようにして寝室に響いた。
長く、まるで終わりがないかのように、夜通し。
時を追うごとに女たちの欲情は激しさを増し、人修羅の精力は無尽蔵であるかのように尽きることはなかった。
雌と雄のにおいが満ちた寝室で、本能の命じるままに絡みあい、求めあい、責めあい、絶頂の幸福を心ゆくまで堪能して。
──エリセは、気づくとベッドの片隅に仰向けで転がっていた。
意識を失ってどれくらい経っていたのかさえわからない。
ぼんやりとしたまま視線をそっと横に向ければ、マシュたち三人もまた思い思いの格好で横たわっている。
かすかな呼吸を繰り返すだけの彼女たちもまた人修羅に「仕留められて」しまったらしい。
死屍累々と言ってもいい状況だが、その顔には、エリセも含めて安らぎと深い愛情が浮かんでいて。
「これが全部、人修羅様とこの子たちの計画だとして……これから、みんなはどうなるんだろう?」
まだ、計画に先があるのだとしたら。
これからもっと面白くなるのかもしれないと、エリセは唇を笑みの形に歪めた。
◆ ◆ ◆
知らない場所で、誰かが誰かに抱かれている。
抱かれているのは女、あるいは少女。
抱いているのは雄々しい肉棒を携えた男、あるいは青年。
顔は霞がかかったように見ることはできない。
しかし、女のほうはどこかで見覚えがあるような気もする。
行為は、恋人同士と考えるには激しく、支配的なもの。
唇を無造作に奪い、唾液を与えると共に余すことなく味わい。
乳房が形を変えるほどに揉みしだき、乳首を転がし、甘噛み。
秘所を指でかき回したかと思えば、指についた愛液を女に舐めさせ。
仰向けで足を大きく開かせたまま犯し、犬のように四つん這いで後ろからも犯す。
噛み痕やキスマーク、尻を張られた痕を女の身体に無数に刻み込んで。
なんの遠慮もなく精を膣に、子宮に、美しい身体に吐き出す。
だというのに、女の嬌声は甘く蕩けるようで。
支配を快いものとして受け入れ、服従の快感に打ち震えていることが簡単にわかる。
純朴な少年──まだまだ若い藤丸立香にとって、それはあまりにも淫らな『夢』で。
「……また、この夢か」
廃墟の片隅で目を覚ました立香は、立ち上がるとまず周囲に敵の気配がないことを確認した。
あれから、まだ仲間たちとは合流できていない。
分散したおかげで敵も散ったのか、それともサーヴァントたちを優先したのか──激しい攻撃はあれ以来受けていない。
散発的に遭遇する相手は立香の礼装でも撃退、あるいは追い払える程度のものだった。
携帯食や水はある程度持ってきていたし、いくらかは現地調達もできた。
おかげでこうして潜伏できているが……。
このところ眠るたびに同じ夢を見る。
誰か、おそらくは同じ女が誰か、おそらくは同じ男に抱かれる夢。
欲求不満なのかとも思ったが、どうやらそれだけではない。
夢はどんどんエスカレートして、プレイの内容も濃くなっている。
しかも、最初は輪郭さえはっきりしなかったのにだんだん鮮明になっていて、それどころか先ほどの夢は女の感じる『快感』さえも感じ取ることができた。
さらには視点もだんだんと近づいているような。
女の顔が見えにくくなり、代わりに男の姿に焦点が合う。
これはまるで、一方の主観とリンクしていっているような──。
怖い想像に身体が震えた。
「このまま助けを待つ、ってわけにもいかないよな」
夢に意味があるのかないのかはわからないが。
動かなければじり貧だ。
かと言って、迂闊に移動すれば網にかかってしまう可能性がある。
湿らせた布で拭く程度しかできていない身体に苦笑いを浮かべた立香は「仕方ないか」と決意する。
この廃墟をひとまずの隠れ家に選んだのは、敵が少ないこと以外に一つ理由があった。
「鬼が出るか蛇が出るか、って感じだけど」
近くに、使えそうな霊脈を見つけたからだ。
現地にて新たな英霊を召喚する。
そして、呼び出した英霊と共に包囲網を突破して仲間と合流する。
「よし」
今できる最善を前向きに実行する立香。
彼は、だからこそ気づくことができなかった。
スカサハによって密かに刻まれたルーン──それが静かに、妖しい輝きを放っていることに。