樋口円香さん、怪しいエステ店で施術師のお姉さんたちに気持ちよくさせられてしまう 作:ふりーじ屋/家庭内禁書
原作:アイドルマスター
タグ:R-18 ガールズラブ アイドルマスターシャイニーカラーズ 樋口円香
ご依頼は http://skeb.jp/@freege_affected か、 http://twpf.jp/freege_affected からどうぞ。pixivリクエスト https://www.pixiv.net/request/plans/7443 も受け付けています。 ※pixiv、ハーメルンとくるっぷに転載しています。
「円香先輩、ねぇ~円香先輩っ」
「……何?」
「もう~っ、ようすがますますおかしくなっちゃって~っ!」
「いつもと大差ないでしょ」
「さっきから、それ、じ~っと眺めて……あれ、そんなに気に入ったんだ」
「……雛菜が気に……まぁ、そんなに気にすることじゃないわ」
「そんなにこってるんなら、雛菜がマッサージしてあげようか~」
「……加減してよ、揉み返しがきちゃいそう」
※
『これは……エステのチケット? なんで雛菜が』
『このあいだお仕事で、雛菜に向かって……うわーお山だぁーっ! ……とかってはしゃいで飛びついてきた子がくれたの。迷惑かけたおわびに、って』
雛菜が押しつけてきたそれを、円香は露骨にうさんくさげに見やった。
『2枚あるんなら、透や小糸を誘えばいいのに』
『透先輩は最近プロデューサーとべたべたして付きあい悪いの~、あと小糸ちゃんは……一人は怖いの~、小糸ちゃんより円香先輩のほうが頼りになる~っ』
横長の洋形2号に、“飛びついてきた子”の手書きらしきおわびのメッセージカードと、とあるエステ店のお試しチケット2枚が収まっていた。
エステ店の住所をスマートフォンで調べてみると、オフィス街にほど近いテナントがヒットした。デスクワークなどで疲れた女性向けのサービスも行っている、とのこと。
最寄り駅に妙に見覚えがある、と思ってマップアプリをズームアウトする。テレビ局や芸能事務所などからのアクセスもそれなりによい、と気づく。業界人ご用達のお店とも考えられる。
『……必要あるの? これ……雛菜に』
円香はあえて、自分にこれが“必要あるの?”と聞き返さなかった。聞けば雛菜が呆れる、と聞くまでもなくわかっている。
雛菜が面白がったり寂しがったりしている“透先輩は最近プロデューサーとべたべたして付きあい悪い”こそ、円香にとってはまったく面白くない。
最近いつももやもやして気分が晴れない。それを雛菜に隠しきれている自信もない。
『しょうじきただの興味本位かな~。それに、いちおう、もらいものだし』
『こういうの、たいがい菓子折りでしょうに』
円香は小さく笑った。幼馴染4人組、アイドルユニット・noctchillの中でもとりわけ儀礼などを軽んじがちな雛菜が“いちおう”と言っているのがおかしかった。
『……いつにする? 予約、入れなきゃダメなんでしょ』
『え、付きあってくれるの? あ~よかった~っ!』
『私が断ったら誰を付きあわせるのか、心配になっただけ』
平日の夕方の予約を入れて、2人の学校帰りに向かうよう予定を合わせた。
その当日。
『雛菜、その格好で?』
『うん、みんな気にしないと思うな~、円香先輩じゃあるまいし』
『……はぁ』
セーラージャケット、ワイシャツにプリーツスカート。いかにも放課後の女子高生、という制服姿でオフィス街を行くだけで円香は気恥ずかしかった。ひどく場違いだと思った。アイドルとしての仕事でテレビ局に制服のまま入った経験があるおかげでどうにか耐えられた。外気温に対して少し暑くコートを着込んで服装を隠していて、雛菜に不思議がられた。雛菜がその姿で隣を歩いているせいで、コートを羽織ったのが馬鹿馬鹿しく思えてしまった。
『円香先輩ったら、実は楽しみにしてた?』
『……早く済ませたいだけよ』
『早く着いちゃうかも』
テナントビルのエレベーターから降りて、エステ店へ向かう。受付が見える。あるのは机と、その天板に店名を示す小さなスタンドと受付用のタブレット端末。エステ店というよりオフィスを連想させる。
コートを脱いで、雛菜と色違いのセーラージャケット姿になる。雛菜についていく、という名目がなければ立ち去っていただろう、と心中で独りごちる。
『予約していた市川です~』
『お待ちしておりましたー』
『……樋口です』
『こちらへどうぞー』
円香がしびれを切らす前に、受付横の扉を開けて女性がひとり現れた。
かなり白に近い水色の半袖・ヒザ丈のシンプルなレディースチュニックをまとっている。雛菜と同じぐらい間延びした声が、やや丸い顔と妙に合っている。年ごろは円香、雛菜より少し上で、高く見積もっても20代半ばか。2人を先導し、扉の奥へと案内する。円香と同じぐらいの背丈で、チュニックごしの後ろ姿からゆったり女性らしい曲線がうかがえる。
『スムージーは何にしましょうー? ああ、メニューはそこですー』
『……カフェみたいですね~?』
通された部屋は、シーリングファンにフローリング床、スツールと小さなテーブルが4組、一角がカウンターらしく区切られジューサーやポットが乗り、その向こうに冷蔵庫や流し台が据え付けられている。
エステ店よりもカフェにふさわしい内装が、チュニック姿の店員とアンバランスに見える。
『これはサービスに入っています、施術で汗をかいちゃう人が多いのでー。お好みがなかったら、そこのミネラルウォーターをどうぞー』
円香が決める前に、雛菜がバナナとゴマのスムージーを頼む。店員がすぐ手を洗ってビニール手袋を着け、冷蔵庫を開けてバナナを取り出して皮をむきナイフで切り――『いまから作るんですか?』『できたてをご提供しますー。バナナ、豆乳、練りゴマ、ハチミツ……ああ、アレルギーとかありますー?』『……私もそれで』――ジューサーの騒音ごしに声を張り上げて会話した。
よくも悪くも気が抜けてくる。円香の想像よりなかなかざっくばらんである。
『お姉さんがエステやってくださるんですか~?』
『はーい、私と……あともう一人、施術室の準備してましてー……予約のときお聞きしましたけど、お2人同室で構いませんねー?』
『円香先輩の横で気持ちよくなって居眠りしちゃったり、ツボ押されて痛い痛いってなっちゃったらどうしよ、恥ずかし~』
『ついたてだけの区切りなんですが……別室にできるか聞いてみますかー』
『いえ、いえ、冗談です~……円香先輩も、いい~?』
『……ええ、もとよりそのつもり』
テーブルにスムージーの入ったコップが2つ。このエステ店が入っているテナントビル1階にあったカフェチェーンのアイスコーヒーだったらLサイズだろう、と妙な連想をしてしまう――『……おやつにしては高カロリーかも~』『雛菜、半分あげる』『ええ~っ!?』――2人が飲み切る前に、店員がやってくる。
『更衣室はあちらですー。中のカゴにガウンとディスポーザブルの下着が入ってますので、施術前にそれをお召しくださいー』
『ひな……ええと、わたしたちぐらいのお客さんって、けっこう来られますか~?』
『10人のうち1-2人ぐらいですねー……それ、ゆっくり飲んだほうがいいですよ、冷たいでしょう?』
2人がスムージーを飲み干すまで、女性が簡単な質問をしてくる。予約を入れる際に、ウェブフォームに悩んでいることや施術の目的を書く欄があり――『当店を知ったきっかけ……知人からの紹介。お悩みのことがあれば……うーん、何もないけど興味本位~っ……円香先輩は?』『てきとうでいい』『じゃあ……冷え性にでも~』――記入内容を確かめる程度の軽いやり取りだった。
『開業されてけっこう経ってるみたいですね~』
『私は最近入ったんですけどねー、あぁでも、もちろん施術はちゃんとしますからご安心をー』
雛菜がいつになく多弁だ、と円香の意識に引っかかる。質問を受けるだけでなく、店員に向かって積極的に質問を向ける。
緊張、あるいは警戒しているのだろうか。
『……先に着替えてる』
雛菜にかぶれてか、いつもの慎重さを少し取り戻す。更衣室に入って棚やカゴ、ガウン、下着などをじろじろと調べる。
白一色のガウンを手にとって広げる。円香にはかなりゆとりのあるサイズで、ふわふわとした感触が心地よいいっぽう、柔軟剤の甘ったるい匂いがやや鼻につく。
次に下着を手に取る。平たいビニール包装に密封されて、こちらも白一色。密封でついた折り目が少々気になるが、もんだり伸ばしたりするとだいぶやわらいでくる。円香のバストやヒップをスポーツ用下着ぐらいの大きさとフィット感で覆ってくれて、使い捨てにしてはしっかりしている。
雛菜に合わせたつもりの警戒がもう緩みかける。
『お待たせしましたー』
『市川さま、樋口さま、こちらにどうぞ……ヒナちゃんが市川さんお願い』
『では先輩が樋口さんですねー』
円香を担当する施術者は、先にスムージーを作ったり“お姉さん”やら“ヒナちゃん”と呼ばれたりしたほうの店員と揃いのチュニックをまとっている。比べると何歳か年上らしき線の細い女性だった。
案内された施術室は、ベージュの防水シーツで覆われた施術台が2台置かれていた。
ほかにオイル容器や小型アロマディフューザーを乗せたアルミ脚のセット台や、クリーム色のアコーディオンパーティションが目についた。すべて脚にキャスターつきで、“準備”のとき配置されたらしかった。
嗅ぎ慣れないごく薄い匂いが軽く鼻を撫でた。円香は美容院や保健室を連想したが、どちらともぴったりとこない。
『お手荷物はこちらのカゴにどうぞ。背中や肩から入りますので、その台に腰掛けてください』
施術台の天板は円香のへそぐらいの高さで、腰掛けると爪先がぶらつく。ベンチというにはだいぶ広く、noctchillの4人で並んで座ってもまだゆとりがありそうだった。
『さっきヒナちゃんって聞こえたんですけど、もしかして~』
『私も名前にヒナがついているんです、偶然ですねー、日向のヒナって書くんで漢字が別ですけどー』
パーティションの向こうで、先の店員と雛菜がおしゃべりを続けている。予約時のアンケートに“興味本位”などと書いていたせいか、店員もあいかわらずの調子で合わせている。
背中側から、円香にも声がかけられる。
『冷え性でお悩みとうかがっておりますが、寝起きとかけっこうたいへんですか?』
『そこまで深刻なものでは……』
内心きまり悪いのを押し隠しながら円香はぼんやりと答える。
口に出して認めていないが、不調の原因が担当プロデューサーと透との距離感が縮まってきたことにある、との自覚はある。意識して抑えているものの、ふと見せつけられた気にさせられる一瞬、口元や指先がついこわばってしまう。
学校生活ならばまだいい。
アイドルとして視線を受ける場面では隠しがたい。幸か不幸か、担当プロデューサーも透も、雛菜より察しが悪いのだが。
『大きめの筋肉をほぐしがてら、樋口さまのいまのコンディションを拝見します』
『……はい』
『人の筋肉のうち、体積が大きいのはお尻とか太ももとかですが、広いのは背中の筋肉です。背中と肩と首の筋肉は一体と言っていいでしょう。僧帽筋とか広背筋とか。背筋を伸ばして姿勢を安定させています』
“先輩”の施術者から、ガウンごしに肩甲骨や背骨のあたりを撫でられる。施術しながら、触るところについていちいち説明してくる。
パーティションの向こうでも――『もしかして、スポーツとかやってらっしゃいますー?』『ん~……まぁダンスとか……触ると、わかっちゃいます~?』『ダンサーさんとかモデルさんとかもごひいきいただいててー……』――雑談とともに施術が始まっているらしかった。
『いまから、私の言う通りに、深呼吸で息を吸って、吐いて……と、お願いします。呼吸と血行には密接な関係がありまして』
『……そこまでごていねいに説明してくださらなくても』
『息を大きく吸って、少し止めて……ふふ、心電図やエコーよりは気楽ですよ』
『心電図、エコー……ですか?』
『……ああ、高校生だとなじみがないかも、ですね』
こちらの施術者が、円香の体をどう判断するだろうか、いまさら気になってくる。
雛菜は事前のアンケートに“学生”と書いているはずだった。わざわざ“アイドル”とは書いていないが、レッスンによってシェイプアップされた体から見抜かれるだろうか。学校の部活でダンスでもやっていると言えばごまかせるか。
あるいは名前と顔で見抜かれているかもしれない。noctchillでは本名で活動している――(市川雛菜、樋口円香となると同姓同名などごくまれだろう。アイドルデビューしてからようやく1年ぐらいで知名度はまだまだのはず。ただこのエステ店に芸能界の客がそれなりにいるとすれば施術者も業界に詳しくても)――円香の思考が散漫になっている。
『息を吸って、はい止めて……ゆっくり吐いてください。頭の中をすっきり空っぽにするイメージです。もう一度……ここから、首とか、耳のあたりとかも刺激していきます』
『そこも、何か効果が……?』
『立ったり座ったりで体の上半分の姿勢を安定させる負荷が、ふつうなら背中、肩、首とバランスよくかかっています。もしそのバランスが崩れてるとどこかにしわ寄せがきてしまいます。耳の周りにそれが出ることもあります。というのも首の筋肉の付け根があります。鎖骨とこめかみのあいだをつないでいます』
円香をマッサージする“先輩”施術者の口ぶりが理屈っぽく感じる。パーティションの向こうから聞こえる会話が――『肩をぐぅっと後ろにー……肩甲骨どうしを背骨あたりでくっつけるようにできますか……わぁっ、やわらかいですねー』『そうですか~? あんまり自覚ないですね~』――ふわふわと響くせいか、余計にそう感じる。
『オイルが温まってきましたので塗っていきます。これからぽかぽかしてくると思います』
『そう……ですか』
『背中だけガウンをはだけるようにできますか? 前はだいじょうぶです』
肩からガウンをはらりと落として背中をさらけ出す。あまった布地を胸元でかきあわせる。思ったよりガウンがじっとりしていて、そんなに自分が汗をかいていたか、と密かに驚く。
施術者が指先で少しずつオイルを塗り拡げていく。いつもの浴槽のお湯よりほんのり熱い加減だった。まだ塗られていないところがぬるく感じられて、手のひらで早く塗ってしまえばいいのにと思う。
『きれいな背中ですね。しなやかで、すべすべで……私の立場で言うのもなんですが、うらやましい』
『……そうそう、見せるものでも、ないので』
『そうですね。当店には、ウェディングドレスを着るから肩とかデコルテとかいい感じにしてください、というご依頼の方がときどきご来店します。それぐらいでしょうか』
円香の内心にさざなみが立つ。アイドルになる前の円香も背中の見映えに無関心だった。ウェディングドレス、という言葉から意識をそらそうとする。そんな自分がかえって――(飛躍しすぎ、プロデューサーはともかく透は自分と同じ高校生、世間から見ればまだ子供だし性格もそこそこ子供っぽい)――不自然に思える。
『背中を刺激していきます。痛みがあったらおっしゃってくださいね』
口ぶりのとおり、左右5本ずつの指先で圧してくる。なかなか力を入れられ、2-3センチぐらい皮膚や筋肉を押しこまれている感覚だが痛みや違和感より心地よさが勝る。
彼女の指先が離れると、そこから押し出されていた血がじわじわ戻って来るのを感じる。それをうなじから両肩、腰近くまで順々にこなされる。寄せて返す熱が少しずつ高まる。
『次は爪先から太ももまでを、同じようにほぐしていきます。ガウンは背中に羽織り直して、うつ伏せになってください』
円香は爪先や足の裏を撫でられ、指のあいだもくまなくオイルを塗られる。施術者の女性らしいやわらかい手の皮膚に対して、自分の足がやけにごつごつしていて恥ずかしくなる。実のところダンスに苦手意識がある。それをプロデューサーに隠したくて密かに多めに練習する。入浴時にできるだけフットケアしていてもなお、かかとや親指がカチコチになりがちだった。
『エステって、肩を細くしたり、お尻を小さくしたりってできます~?』
『もとがお水でむくんでいるならできますが……そうじゃなきゃ、あはきだと……しょうじきむりですー、特に市川さんみたいに元がじゅうぶん健康的だと』
『あはき?』
『按摩(あんま)、鍼(はり)、灸(きゅう)をまとめて呼ぶ業界用語で……いまはお役所絡みでしか使わないかも』
『そんな~、円香先輩みたいなほっそりスタイルに憧れてたのに……なんちゃってっ』
『市川さんはいまの調子でいったほうがいいですよ、お墨付きあげちゃいますー』
施術者の手が足首とふくらはぎに移る。
『足ツボと言うと生理学的な根拠がいまいち不明瞭なんですが、それはさておき、足にはふだんの姿勢や運動習慣が反映されます』
『……手入れが行き届かず、お恥ずかしい』
『冷え性とうかがっていたのですが、思ったよりご健康な気がしますね』
こんなことなら雛菜と同じ“興味本位”と書くべきだったか、と自嘲する。
『血液は心臓から手足の先まで行き渡って、それからまた心臓まで戻って循環します。戻る時にふくらはぎの筋肉がはたらきます。だからふくらはぎは第二の心臓、とも言われています。血流が悪くなるとすぐむくんでくるのも、その裏返し』
円香は何かあいづちを打ったつもりだったが、言葉のあやふやな声しか出ていなかった。予想よりずっと心地よい。ちょうどいい湯加減で入浴している具合で、このままだとのぼせてしまうかもと心配になる。風呂なら上がればいいが、ここではどうしたらいいのか。
施術者が円香のふくらはぎや太ももをぐにぐにともんでいる。背中のときと異なり、指先も手のひらも手首もすべて使って圧迫と解放を繰り返す。円香の下半身をまたいで体重をかけているのか、どし、どし、と力強くも思える。
円香のまつ毛に汗の雫がいくらか落ちてきて引っかかる。いまだ触れられていない手もぽかぽかと熱が行き渡り、気づけば汗をかいていた。それもレッスンが佳境かという汗みずくだった。
けれど胸のもやもやがすっかり溶けている。施術者が一定のリズムで与えてくる刺激が、ひどく頼もしく安心できる。逆にそのリズムが途切れると物足りなくなる。時おり施術のリズムが途切れ、息を整えているらしき気配が背中越しに伝わってくる。リラックスしつつある円香と裏腹に、施術する側の負担がなかなか重いらしい。
『少し上のほう、腰やお尻にも施術をしていきます。失礼しますね』
ガウンをまくりあげられ、うつ伏せのお尻と腰をあらわにされる。そこだけ風呂上がりの脱衣所めいて涼しい感覚にそわそわと覆われる。汗の熱気がこもっていて施術者に匂いを嗅がれたら、あるいは汗で下着がぴったりくっついていたら、と羞恥心が湧き起こる。
『デリケートなところですので、気持ち抑えめから参ります』
施術者から“気持ち”と聞いたが、その手つきがいきなりかすめるぐらい控えめなものに切り替わって、円香は密かに困惑する。
くすぐったい。せっかく気持ちよかったのに。
『――ダイコンって、入れます~? うちで入れてるって言ったら、友達が――』
『――んー、煮物っちゃ煮物ですし、夏にナス入れるんなら冬に――』
パーティションを挟んだ隣で間延びした声音で会話している2人が、だんだん遠くなっていく。そんなことが、と考えるのも一瞬で止まる。くすぐったさにかき乱され心地よさに沈んでいく。
『ん……ぅ……っ』
もっと強くしてほしい。もし強くされてしまったらという不安もある。ふくらはぎにされたように力と体重を込めて施術されたら、と想像するだけでお尻やお腹がびくりと緊張する。施術者の言う通りデリケートなのだろう、あんまりしっかり刺激されてしまったら困るかもしれない。
『ん……ふ……ゃ……』
『違和感、ございました?』
背骨と骨盤の結合部近く、お尻のふくらみや割れ目が始めるところから少し上半身よりのところを、指先で軽く押しこまれる。触られたのはそこだけなのに、脇腹や太ももまでくすぐったさがぴくんと広がる。お尻にきゅっと力が入って恥ずかしくなる。
『このあたりは仙骨ですね。にんべんに山と書く、仙人の骨と書いて“せんこつ”です』
『その……そこ、なんだか……』
『仙骨は骨盤の腰側ですね。穴が8つ空いていて、その穴それぞれに上半身と下半身をつなぐ神経が通っています』
胸の底からお腹、太ももの付け根にかけて、むず痒いような疼いているような、とにかくそこへ意識を引き寄せようとする感覚がわだかまっている。くすぐったさのような、そこに触れないでほしいという気持ちがいつしか薄れている。
むしろそこに触れてほしい。
『ぁ……っ……』
ガウンのそでに手の爪先をめいっぱい食いこませてしまう。痛みで気を紛らわせてようやく姿勢を保てる。気を抜けばむずむずと尻や腰を揺すってしまうだろう。そんな羞恥に耐えられないし、不意に動いて施術者の手先が狂えば、ますますおかしな展開になってしまいそうだ。
『肩、お尻、太もも、ふくらはぎ、と……メインの筋肉を一通り刺激して、ほぐれてきましたね』
『ふっ、うっ……ぁ……!?』
『うつ伏せのまま、楽にして……失礼しますよ。オイル足していきます。汗で流れちゃってますし』
円香の下半身を拘束するように、彼女の両ヒザを挟んで施術者が腰を下ろしてくる。腕と首は自由だが、敏感な腰やお尻が無防備のまま。
『んっ、んっ……んくっ……!』
『もっと体が熱くなってくると思います。ご希望なら、終わったあとシャワーも使っていってくださいね』
無防備のそこにずしんと深くまで刺激が響く。思わず息をのみ、歯を食いしばって声を抑える。とはいえ痛みがない。施術者が片手を円香の敏感なところに添えて、もう片方の手で彼女自身の前腕か手首をべしん、どしんと叩いているらしい。
痛みではないのに、痛みのように否応なく彼女の意識を占領する。
『ぁ……っ……!』
それが性的快楽である、とはっきり認識させられる。
『ひぃ……あッ……!?』
少しでも刺激をいなそうと上半身をそらすと、胸に強烈な刺激が走る。
完全にむき出しの嬌声を上げてしまう。
『血流がよくなっていますと、敏感になりますからね……乱暴に言えば、たんこぶとか腫れてるところと同じです』
『ちょ、ちょっと……やすま、せ……んぅぅうッ……』
胸を誰かに触れられたわけではない。うつ伏せのまま、円香の体と施術台のシートとのあいだでガウンがもみくちゃになっているだけである。
それでも反応してしまう。施術者の言葉どおり、円香の乳房が敏感になってしまっている。
『……一息いれましょうか?』
『ふっ、うっ、あ……』
『冷え性にはよく効きます。こんやはぐっすり寝られること請け合いですっ』
『あ、あの……』
『汗かいてらっしゃいますね。水分、用意しておりますが、いかがでしょう』
気力を振り絞って体を起こそうとするが、胸への刺激が怖くて、たっぷり時間をかけた。渡されたミネラルウォーターをゆっくりと飲む。
『……連れも、同じコース、ですか……?』
『ええ、同じチケットをお持ちいただきましたので……と、言っても時間がだいたい同じってだけです』
施術者から、嚥下するノドの動きをじっくり見られている気がして、つい手でそこを隠す。
『……時間以外は』
円香が続きをうながすも、施術者がじっと見つめ返してくるばかりで、答えをやけにためる。円香がボトルを半分以上飲み干してから、ようやくささやいてくる。
『施術者とお客様のお悩みに合わせて、もう、千差万別ですね』
触られてもいない胸か腹の奥が、どくんと揺らされた気がする。
円香の内面を言い当てられたかのように思え、羞恥心に襲われる。円香自身が理解しきれていない機微を、施術者に勘づかれているのかもしれない。
『円香さんは、何か特に気になるところでも?』
『な、ない……です』
『ご希望があればお聞かせくださいね。お疲れのところ、お悩みのところ。お客さまに合わせるのがこちらのお仕事です』
再びうつ伏せになるよう円香はうながされ、施術を再開される。さっきまでよりずっと力強い。ずしん、と腰の底に響くたび、ぞくぞくと体を震えさせてしまう。
背骨と腰の結合部、さきほど仙骨と説明されたところに指先が触れるだけで、背筋がぴくんと緊張する。太ももや脇腹までぞわりとした感覚が広がる。
『少し力を入れすぎましたか?』
『ん、ぁ……は、ぁはっ……い、いいえっ……』
ガウンのそでに深いシワが刻まれるほど握りしめてしまっている。深呼吸して息を整えようとするも、腰に響く刺激に合わせて全身がずりずり動き、ガウンやベッドにまでくすぐられているように息が乱れてしまう。触られていないはずの乳首や割れ目が敏感になり、施術者の指先がどこかを通るだけでたまらない。
『ん、ぅ、あっ……は、あっ……』
円香はガウンのそでを口元にあて、押し殺す。そうしなければどんな声を出してしまうか、と恐れてしまう。
『我慢なさらずに……体の気持ちよさに集中してください、そのほうが効きますので……』
『んふっ……んんぅッ……』
自分の声がどんどん甘くなっている。もう円香自身にもはっきりしているが、甘くなるのを止められない。
『ふっ、ぁ……んっ、は……ぅあぁっ……』
施術者の手だけでなく、自分の声に脳の芯がくすぐられるような気さえしてくる。円香にとって、こんなふうに体が熱くなる体験は初めてだった。
『んっ、あ……!?』
さらに頭の中が痺れてくる。もっと強い刺激が欲しくなってしまう。
『ひゃっ……!?』
『少し、デリケートなところに参りますよ……?』
思わずお尻と太ももを強張らせてしまう。これでは刺激をねだっているようでは、と焦る。
『あ、あの……!』
『施術中は無理に話さなくていいです。力抜いて、リラックスしてくださいね』
『ふっ、あっ……!?』
円香の内ももから、ちょうど下着のヒモをかすめる腰骨の両サイド、さらに脇腹まで、施術者の指先がじんわりと移動してくる。触れた指先はささやかな圧力だったが、円香の秘所はその感触だけでどくんどくんと脈打つ。
『あのっ……』
『ん?』
『そ、そこはっ……』
『気持ちよさそうですね』
円香は必死で首を振るが、言葉をつまらせて否定しきれない。
とうとう内ももの付け根に指先が触れてくる。知らない衝撃が内側から円香を襲う。
『んっ……ふぁ……ぁ…んっ……あ、やめ……っ!』
『どうかなさいましたか?』
秘所がじわっと潤む。雛菜に助けを求めかける。いまの自分を雛菜に見られてしまう、という想像だけで余計に恥ずかしくなり、くちびるを噛む。
『ふっ……ぁ……』
ついお尻を浮かせてしまう。施術者の指から逃げたつもりが、円香自身でさえ逃げられると思っていない。むしろ押さえつけてほしい。押さえつけられたらしかたがない。しかたがなくなったらどうなるのか。
『あっ……ぁあっ……!』
施術者の指先が、ついに下着と秘所のあいだにねじこまれる。
『もっと濡らしてくださいね、そのほうが、樋口さまにはいいと思いますので……』
明らかにマッサージの域を超えた淫行であるが、円香の体が火照ったままあらがえない。
『んっ、あッ! やッ……んんぅ……っ……!』
もはや絶頂が目の前に迫って、それしか考えられなくなっている。必死になって腕で表情を隠す。
『んっ、あ……ッ!』
施術者がそのタイミングを見計らったように、円香の秘所から指を離す。
『――ああー、もうこんな時間……マッサージよりおしゃべりしてたって感じですねー……』
『それはそれでいいかもって思います~、楽しかったですし、勉強にもなった気が~』
パーティションの向こうで、雛菜の施術が終わったらしき会話をかろうじて聞き取る。
『……先輩~?』
『ひ、雛菜、待ってっ……』
雛菜がこちらを見ようとしかけたところを、とっさに止めてしまう。
『樋口さま、確かに時間は来ましたけれど、もう少し休まれていくこともできますよ』
『……アロマとかにあてられちゃった? 先輩、繊細でしょ』
『そうかも……しれない、わね』
『雛菜は帰るよ……先輩も、少しお外の空気を吸ったら?』
『それは……』
パーティションごしの雛菜から顔をそむけて、さっきまで自分を追い詰めていた施術者をそっとうかがう。
『……もう少し休まれていくこともできますよ』
『具合悪いの? 一人で帰れる?』
雛菜に答えなければ、と理性が叫ぶように訴える。
『先輩?』
『……雛菜……』
しかし円香の肉体が、どうしてもそれを求めてしまう。
『……もう少し、休んでいく、わ……先、帰っていいから……』
※
『ヒナちゃんは、雛菜ちゃんを帰しちゃってよかったの? もっと楽しくできたでしょうに』
『……無理しないでおきましたー』
『そうね、引き際が大事ね』
雛菜を相手していた後輩の施術師が雛菜を店外まで送っているあいだ、円香は屈辱的、背徳的な期待に胸を高鳴らせたまま、施術台にあお向けに寝かされ天井を見上げていた。
どうにかなってしまったに違いない。しかしこのまま帰れる気もしない。
『……まさかnoctchillの2人が、ねえ』
『やっぱり、あなた、は……ん、ダメ、んっ、はぅ、んっ……んぅうっ……!』
言葉では抵抗できても、手を伸ばされるとすぐに体がもだえるばかりになってしまう。
『ヒナちゃんもお相手してあげて? 樋口さん、とってもかわいいわよ』
『……よく声を抑えられてましたね、このありさまで』
『ひっ……ま、まだぁ……くひぃっ……!! ハッ、はァッ……』
後輩の施術者に手足を押さえつけられ、円香を昂らせてきた先輩にあらためてガウンをはだけさせられる。下着ごしにもぷっくり形が浮いている乳首の突起を、くるくるとからかうようになぞられる。
『お友達が隣にいたときにはできなかったこと、してほしい?』
拒めるものなら拒んでみろ、という挑発的に甘ったるい声が、円香の抵抗心をぐりぐり踏みにじる。
『ほら、素直になって?』
『ん、くっ……ふぁっ……! あッ、ぁはぁぁ……』
乳首に触れられようとする仕草だけで、声を跳ねさせてしまう。
『ふ、ぅ……んっ……』
『ここだけでイけるよね?』
『なっ、何……をっ……んぅぅッ……!』
施術師の手がひらひらさせられるたびに、甘い期待を煽られ、ひとりでに胸を突き出しつつ腰をもぞもぞ踊らせてしまう。それを恥じらうどころか、不意打ちの快楽を重ねられ、どこをどう愛撫されるのかさえ感じ取る余裕を失う。
『ん、ぁっ……』
『こらっ、ちゃんと抵抗しないと、好きにされちゃうよ?』
『ふっ、ぁあッ……!』
さんざん焦らしたくせに前触れなくあっさり乳首をつままれる。思わず上ずった嬌声とともに腰を浮かせる。
『い、イく、わけ、なっ……ぁっ……!! あっ……!? ひっ……んぅううっ……!!』
『直に触っちゃっても、同じように言えるかしら?』
『わぁ、先輩ったらいつになく……そんなにお気に召したんですかー』
『だってこんなにかわいいんですもの』
『ん、くぅっ……!』
指先で乳房のなだらかな稜線をたどられる。小刻みにお尻やかかとが施術台をずりずりこする。乳首愛撫の邪魔にならない程度の抵抗しかできない。
先輩の指先が円香の胸元を行き来するたび、ふぅはぁと荒くなった呼吸以上にそこを浮き沈みさせてしまう。なんとか声だけに抑えつつ身を固くする。
指先が乳輪に届く。円香の期待感をなじるように、軽くくすぐっただけで離れてしまう。
『ふ……う、んっ……』
『もっと気持ちよくしてあげるから』
神経がますます乳首に集中してしまう。浅ましい、と恥じる円香の理性が、ふらふら揺らいで傾ぐ。
『で、もっ……んぁっ、んっ、ふわぁっ……』
『でもじゃないの』
ついに片方の乳首を指2本につままれ、くりくりともてあそばれる。くすぐったく、けれどもっと甘い衝撃が胸の先端から腰へ抜けていく。
『ぁ……っ、ふ、ぁぅ……!』
まともな言葉もつむげなくなる。先輩施術者が追い打ちとばかりに、乳首の片方をピンと弾く。
『あふっ! んッ! やぁあっ!』
『うわぁ、そんなの』
『もう痛くないでしょう?』
施術者の呼びかけに答えたのは、円香のノドでも舌でもなく、秘所だった。
『や、ぁ……ちが、ぁ、め……っ……!』
腹部に力を込めても、施術者2人を微笑させるばかりで、それが下着を濡らすのを止められない。いつのまにかひたひた迫ってきた尿意が決壊して、受け止めきれなかった失禁がしとしとと施術台を濡らし、ほのかなアンモニア臭を部屋に漂わせる。
『くふっ……ん、ふぁっ……! め、なさッ……ぁっ! 止まらなっ……』
一度味わったら止まらない。しょわぁあっという景気のいい音が弱るまで噴出しきっても、失禁の生温さと背徳的な解放感が、理性をぐずぐずにする。
『は、ぁっ……あッ! んくぅっ!』
『はぁ、これがアイドルのおしっこですかー……』
『恥ずかしがらなくていいわ、よくあることよ』
羞恥でさらに敏感になった乳首が、またくりくりとなぶられる。なすすべもなく快楽を与え痴態を引きずり出され続けるうちに、もう抵抗しても無駄なのでは、とどんどん諦めたくなってしまう。どれだけもがいても、前の凌辱も背後の拘束も振り切れない。
『あッ、ん……く、ぅうッ……! こ、こんな、の……っ……』
『いいわ、まだまだおっぱいをわからせてあげる』
『……私までサドになっちゃいそうです』
乳首がまだ物足りないかのようにぷっくりふくらんだままで、そこへ指先が迫ってくる。焦らされる。希望と拷問で締め上げられ、円香がいよいよ瞳に涙を浮かべる。
『も、もう……やめっ……あはぅ!? ん、ぐ……んふあっ!』
円香自身は自覚していないが、もう許して、と彼女の目つきや息遣いが訴えはじめている。
『だ、めぇッ……ぁはぁっ……!』
それどころか、肌が露骨に快楽を訴えだす。もう押し隠しきれない。乳首をこねられるたびに、スレンダーな円香の下腹部にきゅうっと力が入ってしまう。
『そろそろ、私もー……』
後ろの施術者が不意打ちに、そっと円香の下着をずり下ろす。
『やッ!? あ、あっ……んくぅっ!』
『ふふ、ヒナちゃんもそそられちゃうって、円香さん……』
とろりと糸を引くそれを見られまいとするが、太ももを閉じようとしたり腰をよじったりする仕草がかえって淫らに彼女らを誘う。
『これなら、こっちも触ってよさそうね』
『……ッ!? ……!』
愛撫する指が秘唇を開いてしまい、にちゃにちゃと濡れてピンク色に染まった大事なところをあらわにさせられる。何かを叫ぶが言葉にならない。
『……んッ! あ、あァッ!』
手足の先までもが強張る。全身をふるふると震わせる。2人の愛撫がそれを追いかける。円香の全身からすればごく小さな乳首や秘所からの感覚が、彼女の理性のすべてを優しく脅かす。
『はッ……あ! あふっ、んくっ……! もっ、やめ……や……ってぇっ……!』
『こんなものじゃ、まだ円香さんのお悩みは忘れられないと思うわ』
『どんなお悩みがー……? 雛菜さんとのおしゃべりで、こっちのお話を聞いていなくて』
『ふふふっ……』
羞恥が快感で上書きされていく。抵抗が少しずつ着実に侵食されて、円香の理性が風前の灯のようにはらはら揺らぐ。
『はぁぁっ、んくぅっ……! ハッ、はッ……ひぁ!?』
何度目かの絶頂寸前で手が離される。自覚なしにお尻をもじつかせる円香の両脚から下着がすっかり引き抜かれる。普段なら死守するところだが、いまは前後から抑えこまれて、抵抗のマネも笑われるばかり。
『ふあっ、あぅ……んひあっ!』
ついにブラジャーも取り去られ、2人の目の前に円香の乳首があらわにされる。無防備になった性感帯が、先に施術された効果で痛々しいほど勃起してしまっている。
『……切ないでしょう』
『い、ゃ、あっ……』
消え入りかけた否定を口にするのがせいぜいにまで弱ってしまう。もっとこのもどかしい快楽を受け入れて堕ちてみたら、という恐怖に似た欲求がとめどなく湧き出てしまう。本当に、ダメになってしまう。どうしても震えが止まらないのはもしかすると怖いのかもしれない。怒りや羞恥といった、愛撫に反発できる感情が一撫でごとに薄れ、かき消されていってしまう。
『やぇ……んふあっ! あ、あ、あああああっ!』
『強情ですねー……』
『強情な人ほど苦しんでるのよ。困らせる人は困ってる人なの。かわいいわね』
『……そうですかねー……』
『ヒナちゃんもいずれわかるわ』
乳首とクリトリスとを同時に責められ、円香が息も絶え絶えになるほどもだえさせられる。
それでも円香は理性の瀬戸際で抵抗する。かえって2人の嗜虐心をくすぐっていると察していても、そうするしかない。止めた瞬間、もう流されるままになってどこまで堕ちてしまうか、想像するだけで体がばらばらになる錯覚さえする。
『あッ……や、ぅああっ! やっ、め……んくぅうっ!』
『もっと感じて、汗も涙もよだれもおしっこもえっちなお汁も流して、すっきりしましょうね』
『いや、なのに……いやっ! 嫌ッ、んくぅ……ッ……!』
快楽に流される自分がどれほど無様でいやらしく、必死に快楽を受け入れまいとする自分の姿がどんなに悲痛でいじらしく2人の目に映っているか、想像できてしまう。
円香は年齢の割には自分を客観視できる少女だったが、それがいますっかり裏目に出てしまっている。
『……あ、あっ……! ひぃ……うッ……!』
円香の体ががくんと跳ね、そのまま弛緩する。施術台の上で四肢を投げ出すように脱力してしまっている。
もはや絶頂の否定すら諦めてしまう。
『女からめちゃくちゃにされるのもいいものでしょう』
『……っ、は、ぁ……あ……』
『アイドルって、同性の恋愛も禁止でしたっけー?』
『いやだわ、こんな若い子と惚れた腫れたなんて恥ずかしい! もっとあっさり、ビジネスライクに……というのも語弊が……学校の保健室の先生ぐらいのノリでごひいきいただければ、と』
快楽責めで朦朧となるまで理性を殺されてしまったところに、“学校の保健室の先生”などと気の抜けた言い回しを聞かされ、つい円香は薄く笑う。
笑っていられる状況などとうに通りすぎているのに、と自嘲もあとから着いてくる。
『……もっとすっきりさせてあげましょうか』
『例えば、指で直に腟内を施術したほうがすっきりしますよー』
悪態をつくことも首を横にふることすらもできず、かろうじて目を閉じて顔をそらす。
『……まぁ、おっぱいとクリトリスでもけっこうイケるでしょうけど。そうしてみせるわ、こちとらプロですもの』
愛撫が再開され、ますます逆らいがたく強い快楽に円香の身も心もさらされる。
『……く、ぁっ……! やあッ……はぁぁぁあっ!』
絶頂寸前まであっけなく高められ、もうダメだと思ったところにちょうど手を止められる。快楽に加え、完全に見抜かれているという屈辱感がどんどん募る。対して涙や汗や愛液がとめどなく、円香が身震いするたびに施術台や施術着のチュニックまで濡らす。
『だいじょうぶよ、傷つけたりしないわ……だいたい、文字通りの膜なんて張ってないし』
『あッ……! あァッ……んくぅっ!』
『ぴっちり張られてたら月経なんて無理ですものね』
『そういう、問題じゃ……こんな、ところ、さわら、せ……!? だ、め…………待って、まっ……ッ!』
敏感なところをこすられるたびに軽く達してしまう。もう腕や足さえ、抵抗というより電流のような快楽にめちゃくちゃに動かされて、円香の意思など無視してしまっている。
『……っ、はッ、んくぁ……! あっ、ああぁ……!』
『円香さん、またイッちゃったんですかー、おっぱいですか、クリですかー?』
『……っ、はッ……ん、く……』
『ナカでもしてもらったら、もっとすっきりしますよー』
『……ヒナちゃん、してもらったことあったっけ』
『いいえー。でも、してあげたことならー』
限界を超えていたと思っていた羞恥が、さらにもう一段引き上げられる。淫行の片棒を担ぐこの年下の施術者さえ膣内への他人の侵入を許したことがないのに、自分はいまにも許してしまうぐらい追い詰められている。
『……あッ、んくっ! ひぁあっ……! あッ、や、めっ……!』
『ヒナちゃんの言う通りにしても、いいけどね……』
『……くふっ……やめっ、あっ! あァッ!』
『でも、円香さんがいい、って言ってくれないとな』
『だれが……あっ、やあっ!』
『ヒナちゃんの言う通りにしても、いいけどね……』
円香がまた絶頂に達する。秘所が泣きじゃくるようにしゃくりあげながら愛液をこぼす。
『黙ってうなずいてくれるだけでもいいわ』
『こんな、のっ……ふぅぅっ! ちが、ぅッ……!』
『ちゃんと言葉にしておきましょうよー、首までふらふらして紛らわしいですー』
『あッ……ダメぇっ……! んひぅ……っ!』
2人に指摘された通り、もはや円香は形ばかりの拒絶さえも覚束なくなっている。けれど施術者たちが巧みに攻めのリズムを変えて、本当に堕ちきろうという瞬間にだけ刺激を弱める。
くすくす笑われる。嘲笑か愉悦か。
『あっ、ああっ……あああっ……!』
円香の両脚が勝手に開いてしまう。その股間の前で、先輩施術者がわざとらしく手をこまねく。
『ほら、こんなに欲しがっちゃって』
『あっ……あ、あ……っ、うぅ……っ』
これから見知らぬ他人に触れさせてしまう。処女膜が無事だから、といってもこの痴態だった。ぎりぎり正気を保たせてくれる程度のなぐさめだろうか。
『あっ、ああっ……あああっ……!』
乳首かクリトリスかの刺激で、思考がたやすく吹き飛ぶ。快楽へ逃げ出したくなるほど辛い。死んでしまいたいほど恥ずかしく悔しい。
『……もう一押し、二押しってところかしら』
『私、汗だくだくになってきちゃいましたよー。円香さんと先輩にあてられちゃったかな』
『ヒナちゃんのシャワーは円香さんのあとよ、お客さん優先』
頭の中からお腹の奥、手足の先まで、体のそこかしこで泡のように小さな絶頂がいつまでもさわさわと弾ける。
『ひぁあっ……! あっ……や、ああっ……! ……んふあっ! あ、あ、あああああっ!』
『うんっ、アイドルらしい声量になってきたわね』
『聞いてるこっちはいいんですけど、円香さんにあんまり声出させちゃうと、ノドがやられちゃうのでは?』
『……うちの特製スムージーで』
『おまじないがせいぜいですよー……』
嫌がらせじみた気遣いに、円香はついに嗚咽を漏らす。それでもまだ一線を超えたくない。それを懇願してしまったとしたら、そのみじめさに耐えられなくなるか、受け入れてしまうか。どちらも恐ろしい。
『あッ……!? あァッ……!』
『ほら……円香さん?』
先輩施術者が円香の顔をのぞきこんでくる。目をそらす。そのあいだに指が膣口のあたりをつつく。遊びのように無造作だが、それでも処女肉が指を受け入れたそうに震えてしまう。
もはや自らの粘膜にすらも裏切られつつある。涙も汗も愛液も相変わらず施術台にぱたぱた垂れて、その音がやけに耳に障る。2人がこんな瞬間だけ静かにしている。
『……円香ちゃんのおねだり、聞きたいな』
『ぅ、う……ひぐっ……ぅう……っ……』
『秘密よ、誰にも言いやしないわ』
『言ったら警察にしょっぴかれますもんねー』
『ヒナちゃんちょっと静かにして』
『はーいー……』
『もうちょっと、あと一歩でしょう、ねえ……円香ちゃん』
『そ、こ……んふあああっ!』
『ほら……』
繊細だった指使いに、ほんの少し焦れが混じる。それを認識できる自分を円香は不思議に思う。そんな細かいことを感知できる余裕なんてどこにあったのだろう。
『やぇ……んふあっ! あ、あ、あああああっ……!』
胸と秘部から広がる暑苦しいほどの性感が、円香の頭を朦朧とさせる。もはや空気に撫でられても感じてしまいそうなぐらい、全身が昂ぶってしまっている。体の奥の渇きがいや増し、それを満たしてほしい気持ちも抑えきれなくなっている。
『……もう手加減してられなくなってきたかも』
『うわぁ』
ぞっとするほどぞっとしないつぶやきを聞いてしまう。
『あっ、だっ……お、お、く、や、め……ぁ、あ、い、イク、ぅ、ぁ、ああぁあっ!』
『まだ入口よ……』
『もう、もうむぃ、むりぃぃいっ……んぉ、いや、ぁ……ぉお、ッほおぉ……!』
『……処女とは思えないのが、出てますねー……』
嬌声が黄色く甲高い響きから、徐々にお腹の底から絞り出される低い響きに塗り替えられる。もだえながら、施術台の上で何度も身を跳ねさせる。
『ダメ、ダメよ、ダメ……! これ……もぉ、おォッ……』
『円香ちゃんが望んでるのよね……?』
『ダメ、だえぇあ……イクッ、イクッ、イ……んお゙ぉ゙……っ!』
これまで開発された性感帯か、もっとその奥か、何も考えられないほど強烈な快感で、殴り飛ばされるように容赦なく深く絶頂させられる。
『あっ、あぅ、ぁ……ぃ、いま、の……』
『できれば、もっと優しくしてあげたいのだけど』
揺さぶられて、無理やり覚醒させられる。絶頂直後にもかかわらず、体の奥の熱はいっこうに冷める気配がない。むしろ強まっている。
『円香さんのナカがね、もっと欲しいって』
『あっ、あ、あぁっ、ひ……!?』
『私の指を離してくれないの……でも、円香さんの口から聞きたいなぁ、ねえ?』
『……ぁ、あっ、は、ぅ……』
『ちゃんと、お願いできるわよね』
『そもそも、いまの円香さんってしゃべれる状態なんでしょうかー……』
円香の秘所がぶるぶるっと震え、また思い出したようにちょろちょろと失禁する。まだ半覚醒のもやの向こうで、先輩施術者が濡らされるがまま微笑んでいるようすを認めてしまう。
『ぃ……れ、て……』
『円香さん?』
『ゆ、び……いれて、くださ、い……おねが、ぃっ、します……』
『んー……何度でも言ってほしいけど、まぁいいや、1回聞けたから……ふふっ』
そこが円香の一線だった。
『んひぃっ、お゙っ、ほぉぉおっ――ぐ、んんっあ……あ、いっく……っくイ、グイ……! あ゙あ……ま、またっ、あ゙、あ゙っ……!』
これ以上は本当にどうしようもなく崩れてしまう。絶頂に押し上げられたまま、もとの意識まで帰ってこられなくなるかもしれない。
それどころではなかった。
『私も脱いじゃおうかしら、びちゃびちゃにされちゃったし』
『嬉々として濡れにいってましたよねー?』
『……キスももらっちゃおうかしら』
『シャワー先に使っていいですか?』
『……いいわ、ゆっくりしてきて』
円香のファーストキスは、生乾きにされた粘膜をぴりりと刺す塩辛い汗と涙の味だった。
※
「あれはまぁまぁ楽しかったよ~。お金払ってわざわざ行くかなぁ、とも思うけど~……って、言っておいたよ」
「……そう」
「透先輩も小糸ちゃんも、ふーんって感じだった」
「……でしょうね」
「円香先輩は?」
「別に……」
「あのおわびしてきた子には、雛菜がもうちょっとちゃんとした感想を伝えておいたよ」
「……なら、いいのだけれど」
「さっきから、それ、じっと見てて」
「雛菜に心配されるようだったら、もう1回お世話にならなきゃ、かも」
「……そう」
(おしまい)