【第一幕:失意の射手、どん底と静寂】
あの、悪夢のような弓道大会から、数日が過ぎた。しかし、飛鷹 左京(ひだか さきょう)の世界から、色と音は消え失せたままだった。
自室に閉じこもり、カーテンを閉め切り、外界との接触を完全に断っていた。スマートフォンの電源は、あの日の午後からずっと切ったままだ。鳴り続けるであろう、心配する家族や、おそらくは同情を隠さない友人たち、そして…最大のライバルであり、今はその存在を考えることすら苦痛な、磯鷲 早矢からの着信やメッセージを見る勇気など、欠片もなかった。
部屋の隅には、彼女の魂そのものであったはずの、美しい漆塗りの弓と、羽根を休める矢たちが、まるで持ち主の心を映す鏡のように、力なく、埃をかぶりかけて立てかけられている。しかし、今の彼女には、それに触れることすらできなかった。弓を手にすれば、あの日の、信じられないほどに逸れていった矢の軌道、凍り付くような観客たちの視線、審判員の冷たく厳しい詰問の声、そして、何よりも…早矢の、心配と、戸惑いと、ほんのわずかな憐れみが入り混じったような、あの忘れられない表情が、悪夢のようにフラッシュバックし、胸を締め付け、呼吸すら苦しくなるのだ。
飛鷹左京。常にクールで、冷静沈着。他者にも、そして自分自身にも、誰よりも厳しい鍛錬を課し、弓道という、静謐で、しかし তীব্রしい精神力が求められる世界で、常に頂点を目指してきた。そのプライドは、富士山よりも高く、天狗の鼻よりも長かったはずだ。しかし、今の彼女は、嵐に打たれ、泥の中に翼を汚した、哀れな一羽の鶴のように、ただただ深い失意の底に沈んでいた。
予期せぬ惨敗。それはまだ、受け入れられるかもしれない。勝負の世界は非情だ。しかし、それに追い打ちをかけるような、根も葉もない「不正疑惑」。ネットの匿名掲示板や、ゴシップ好きの週刊誌(両津が情報をリークした可能性も…?)は、面白おかしく「クールビューティー射手の凋落」「名門弓道家のスキャンダルか?」などと、無責任な憶測を書き立てている。その一つ一つが、鋭利な鏃(やじり)となって、彼女の心を深く、深く抉っていく。一番許せないのは、自分自身の不甲斐なさだった。なぜ、あんな初歩的なミスを繰り返したのか。なぜ、弓具の、あの僅かな違和感にもっと早く気づけなかったのか。(もちろん、それが両津勘吉という悪魔の仕業であることなど、彼女は知る由もなかった)。積み上げてきた自信は、ガラガラと音を立てて崩れ落ち、自己嫌悪という名の、底なし沼に沈んでいく。クールな仮面は、もうどこにもない。鏡に映る自分の顔は、生気を失い、やつれ、まるで幽鬼のようだった。
(もう…終わりだわ…私の、弓道は…こんな、惨めな形で…)
涙は、もう出なかった。感情すら、枯れ果ててしまったのかもしれない。ただ、重く、冷たい虚無感だけが、部屋の淀んだ空気と共に、彼女の全身を、支配していた。
【第二幕:珍客(?)来訪、大げさすぎる同情劇】
ピンポーン、ピンポーン…
そんな、深い絶望の中に沈む左京の部屋のインターホンが、けたたましく鳴り響いた。最初は無視した。どうせ、心配した家族か、面白半分なマスコミだろう、と。しかし、チャイムは、壊れたかのように、しつこく、しつこく鳴り続ける。そして、やがて、ドアをドンドンと叩く音と、聞き覚えのある、しかし、今は聞きたくない、あの男の声が聞こえてきた。
「おーい! 飛鷹さーん! 生きてるかー!? ちょっと顔見せろってんだ、この石頭ー!」
(…! りょ、両津さん…!? なぜ、この人が、私の家を…!?)
左京は、反射的に身を隠そうとした。今、世界で一番会いたくない人間。しかし、ドアを叩く音は、ますます激しくなる。
「おい! いるのは分かってんだぞ! 心配して来てやったんだ、少しは顔を見せやがれってんだ!」
心配? この、ガサツで、デリカシーのない男が、私のことを? 左京は、訝しみながらも、このまま無視し続ければ、ドアを破壊されかねない、と判断し、重い足取りで玄関へと向かった。ドアを、ほんの少しだけ開けると、そこには、なぜか、スーパーの安売りで買ったような、不釣り合いなほど大きな花束(しかも、少し萎びている)を抱えた両津勘吉が、これ以上ないほど神妙な顔つき(に見せかけている)で立っていた。
「……何の、ご用でしょうか」
左京の声は、自分でも驚くほど、か細く、弱々しかった。
「よう、飛鷹ちゃん!」両津は、打って変わって、驚くほど穏やかで、心配そうな声色で言った。「いやー、大会の後、全然顔見せないから、心配で、様子を見に来ちまったよ。…大変だったな、色々と。まあ、元気出せよ! これ、見舞いだ!」
彼は、そう言って、その安っぽい花束を、強引に左京に押し付けた。
「……どうも……」
左京は、その予想外の(そして、場違いな)行動に、戸惑いながらも、花束を受け取ってしまう。
「ひでえ顔だな、おい」両津は、彼女のやつれた顔を、じっと見つめ、大げさに眉を顰めた。「ちゃんと飯食ってるのか? 前より、ちったあ痩せたじゃねえか。まるで、干物みたいだぞ」
その、失礼極まりないようでいて、しかし、妙に直接的な物言いが、かえって、今の左京の心には、少しだけ響いたのかもしれない。誰もが、腫れ物に触るように接してくる中で、この男だけが、良くも悪くも、いつも通り(?)なのだ。
「…ほら、とりあえず中に入れろよ。こんな玄関先で、しんみりした話もなんだろ。温かいお茶でも淹れてやるからよ」
両津は、半ば強引に、しかし、その手つきには、どこか不器用な優しさ(を装っている)が感じられなくもない勢いで、彼女を部屋の中へと促した。左京は、もはや抵抗する気力もなく、彼を招き入れてしまう。
部屋に入り、隅に力なく立てかけられた弓具に目をやると、両津は、わざとらしく、深いため息をついた。
「…しかし、あの日の試合…俺も、この目で、しかと見ていたが…やっぱり、どう考えてもおかしいぜ!」彼は、拳を握りしめ、憤慨したように言った。「お前の、あの寸分の狂いもない、美しい射。それが、あんなことになるなんて…! 絶対に、何かあったに違いねえ! お前の実力は、あんなもんじゃねえ! 断じてな!」
その、力強い言葉は、失意の底にいた左京の心に、小さな、しかし確かな波紋を広げた。(…この人も、そう思ってくれるんだ…私の実力を、信じて…)
「…! あなたも、そう思いますか…?」
彼女の声に、ほんの少しだけ、力が戻る。
「ああ、思うね! 大いに思うとも!」両津は、力強く頷いた。「それでな、俺、どうにも腑に落ちなくて、この名探偵両津が、こっそり、秘密裏に、調査を進めてみたんだよ!」
彼は、声を潜め、重大な秘密を打ち明けるかのように、勿体ぶって続けた。
「…そしたらな、やっぱりだ! どうやら、君の弓具…特に、あの、弓を支える押し手カケとかいうやつと、弦にだな…誰かが、故意に、悪質な細工をした形跡があるらしいんだ! しかも、非常に巧妙で、素人目には絶対に分からないが、超一流の鑑定士(俺様のことだが)が見れば、一発で分かるレベルのな! つまりだ、飛鷹ちゃんよぉ…君は、誰かに、嵌められたんだよ! 卑劣な罠によってな!」
彼は、自分が仕掛けた罠を逆手に取り、 外部の、しかも極めて悪質な犯人がいるかのように、見事にストーリーを捏造してみせた。
【第三幕:口八丁の救済劇、仕掛けられる依存の罠】
「…! な、なんですって…!? 誰かが、弓具に、細工を…!? そ、そんな…!」
左京は、愕然として両津を見つめた。自分が嵌められた? もし、それが本当なら、あの日の不調も、敗北も、全て説明がつくかもしれない…! 絶望の闇の中に、一筋の、しかし、非常に怪しげな光が差し込んだかのように感じられた。
「ああ、間違いない!」両津は、さらに畳み掛ける。「だがな、問題は山積みだぜ? 誰が、何の目的で、そんな卑劣な真似をしたのか? そして、もっと重要なのは、このままじゃ、君の潔白は、絶対に証明されねえってことだ! 弓道連盟の、あの頭の固いジジイどもは、おそらく君の言い分なんぞ、ハナから聞く耳持たねえだろうよ。不正の疑いがある、ってんで、厳しい処分を下して、おしまいだ。そうなったら、君の、輝かしいはずの弓道家としての生命は、ここで、あっけなく、プッツリと終わりだぜ?」
両津の言葉は、左京を、再び絶望の淵へと突き落とす。そうだ、たとえ誰かの仕業だったとしても、証拠がなければ、自分が疑われたまま、全てを失うことになるのだ…。弓を、取り上げられてしまうかもしれない。もう二度と、あの舞台には立てないのかもしれない…。
「…じゃあ…私は、もう…どうすれば……」
左京の声は、絶望に震えていた。もはや、彼女は、目の前の、普段なら絶対に頼ろうなどとは思わない、この破天荒な男に、完全にすがりつくしかない状態だった。
両津は、(よし、かかった!)と内心でガッツポーズをしながらも、待ってましたとばかりに、自信ありげな(しかし、どこか胡散臭い) 救世主のような表情を浮かべた。
「…まあ、普通なら、ここでゲームオーバー、人生真っ暗だろうな。将棋で言えば、詰みってやつだ。だがな!」彼は、ビシッと、自分の胸を叩いた。「この俺様には、普通のサラリーマン刑事にはない、スペシャルな『裏ルート』ってもんがあるんだよ!」
彼は、勿体ぶるように、声を潜める。
「警察内部の、トップシークレット扱いの情報とか、あるいは、ちとヤバい筋だが、そういう裏社会の、凄腕の『情報屋』とか、果ては、神田明神の地下に眠る、秘密結社のネットワーク(!?)とか…そういうのを駆使すればだな、もしかしたら、今回の事件の真犯人…お前を陥れた、卑劣な**『弓具破壊工作員』**を、突き止められるかもしれん! そして、君の弓具に細工されたっていう、動かぬ証拠を掴み、君の濡れ衣を晴らし、名誉を完全に回復することも…! この両津様の手にかかれば、不可能じゃないかもしれんぜ? どうだ、すごいだろ!」
彼の口からは、もはや、どこまでが嘘で、どこからが誇張なのか、本人ですら分かっていないような、壮大で、荒唐無稽な話が、よどみなく繰り出される。
「…! ほ、本当ですか!? 両津さん! そんなことが…!?」
左京の目に、再び、しかし、今度は、以前よりも遥かに強く、希望の光が灯る。神田明神の地下? 秘密結社? 弓具破壊工作員? 冷静に考えれば、あまりにも馬鹿馬鹿しい話だ。しかし、孤立無援で、絶望の淵にいた彼女にとって、両津の、その根拠のない自信と、力強い(ように聞こえる)言葉は、まさに地獄に仏、暗闇に差し込む一筋の光明のように思えてしまったのだ。普段なら、絶対に信じない。しかし、今の彼女には、それにすがりつく以外に、道はなかった。
【第四幕:『誠意』という名の代償、口車に乗せられて】
「ああ、本当だとも!」両津は、力強く頷いた。そして、ここで、ゆっくりと、しかし確実に、本題を切り出す。「…ああ、だがな、左京ちゃんよぉ…」
彼の口調が、わずかに変わる。
「俺様が、そこまで動くとなるとだな、そりゃあ、**かなりの『リスク』**ってもんが伴うわけよ。警察の情報をコッソリ持ち出したり、裏社会のヤベー連中と丁々発止やりあったり、秘密結社(?)に潜入したり…ヘタすりゃ、俺様自身、クビが飛ぶか、最悪、東京湾にコンクリ詰めになって沈められるかもしれねえからな!」
彼は、大げさに、自分の身の危険をアピールする。
「そ、そんな…! 私のために、そこまで…!」
左京は、申し訳なさと、彼への(誤った)感謝の念で、胸がいっぱいになる。
「だからよぉ」両津は、左京の目をじっと見つめ、重々しく言った。「君にも、相応の**『覚悟』と『誠意』**ってやつを、見せてもらう必要があるわけだ。この俺様が、そこまでの、命がけの(?)リスクを冒してまで、君を助けるだけの『価値』がある女だということを、ちゃーんと、示してもらわねばならんのだよ」
「…誠意…ですか? 私に、何ができるというのですか…? お金なら、今は、ほとんど…」
左京は、必死に考える。しかし、今の自分に、彼が満足するような「誠意」を示せるものなど、何も思いつかなかった。
「金? ハッ! この両津様が、そんなはした金で動くような、安っぽい男に見えるか?」両津は、鼻で笑い、そして、その目を、いやらしい光で細め、彼女の、やつれてはいるが、それでもなお美しい身体を、頭の先からつま先まで、ねっとりと舐め上げるように見つめながら言った。「俺様が欲しいのは、そんな、紙切れみてえなもんじゃねえ。もっと、お前の…**お前自身の、その『全て』**だよ」
「…え…?」
左京は、その言葉の、真の意味を、すぐには理解できなかった。
「つまりだな…」両津は、さらに顔を近づけ、低い、囁くような声で言った。「俺様が、お前の潔白を証明するために、裏で、命がけで(?)動き回っている間、お前は、俺様の**『所有物』…いや、『大切なパートナー』として、全面的に、身も心も、協力してもらうってことだ。俺様の『調査』はな、夜を徹することも多いだろうからな…その間の、『身の回りのお世話』や、『精神的なサポート』…まあ、分かりやすく言えばだな…夜の、『特別捜査協力』も、当然、含まれるということだ。お前の、その素晴らしい身体を使って、俺様に『誠意』を示してもらうんだよ。どうだ? なかなか、『リーズナブル』な取引だろ?」
彼は、要求の内容は前回と同じだが、その言い方を、より口車に乗せる**ような、巧妙な(?)ものへと変えていた。「所有物」ではなく「パートナー」、「夜の協力」ではなく「特別捜査協力」、「身体を使え」ではなく「素晴らしい身体で誠意を示せ」。言葉のマジックで、屈辱的な要求を、あたかも「対等な協力関係」であるかのように、すり替えようとしているのだ。
しかし、その言葉の奥にある、真の意図は、左京にも痛いほど分かっていた。それは、紛れもない、身体の要求だった。彼女の顔から、サッと血の気が引き、全身が、怒りと、羞恥と、そして恐怖で、再びわなわなと震え始めた。
「ふ、ふざけないでっ!!!」彼女は、最後の力を振り絞って、叫んだ。「い、いくらなんでも、そんな…! あなたに、この身体を、そんな…! それくらいなら…! 私は、弓道を、もう二度とできなくなっても、構わない!!!」
プライドの高い彼女にとって、それは、魂を売り渡すことに等しい、絶対に受け入れられない要求のはずだった。
しかし、両津は、そんな彼女の必死の抵抗を、まるで柳に風と受け流すかのように、冷ややかに見下ろしていた。彼は、ゆっくりと立ち上がり、窓の外を眺めるふりをしながら、まるで独り言のように、しかし、彼女にはっきりと聞こえる声で、決定的な一言を放った。
「…そうか。残念だな」
その声は、先ほどまでの、おどけたような響きとは打って変わり、氷のように冷たかった。
「まあ、お前がそういうなら、仕方ねえ。俺も、無理強いはしたくねえからな。今回の『極秘調査』は、なかったことにしよう。お前の名誉も、弓道家としての未来も、まあ、諦めるこったな」
彼は、あっさりと引き下がるかのように見せかけた。しかし、部屋を出て行こうとする、その直前、わざとらしく、思い出したように振り返り、**少しだけコミカルに、しかし、その実、悪魔のような笑みを浮かべて、**こう付け加えたのだ。
「…ああ、そうだ。ついでだから、君の、愛しのライバル、磯鷲 早矢ちゃんには、今回の『疑惑』の件、俺様から、よーく、面白おかしく、説明しておいてやろうと思ってな!」
「…!?」
早矢の名前が出た瞬間、左京の動きが、完全に、凍り付いた。
「あいつ、お前のこと、すっごく心配してたぜぇ? 『左京さんが、あんなことになるなんて…何か、私にできることはないでしょうか?』って、健気に聞いてきやがってな。きっと、『真実』とやらを、知りたがるだろうからなあ? お前が、大事な試合で、見たこともねえようなヘマをやらかして、おまけに不正まで疑われて…今じゃ、薄暗い部屋に引きこもって、シクシク、メソメソ、まるで捨てられた子犬みてえに泣いてるってこと…全部、面白おかしく脚色して、話してやるよ! いやー、あの清楚な早矢ちゃんが、ライバルの、そんな、最高に惨めで、ダッセー姿を知ったら、一体、どんな顔するだろうなあ? 心配してくれるかな? それとも、内心、**『ザマアミロ!』**って、ほくそ笑むかな? どっちにしても、お前の、その高ーい、高ーいプライドは、木っ端微塵! 再起不能! だろうけどなぁ! わっはっは!」
両津は、わざとらしく、大きな声で笑ってみせた。その脅し文句は、前回よりも、さらに悪意に満ち、そして、滑稽であればあるほど、残酷だった。
その言葉は、毒の矢のように、左京の、心の最も脆い部分…ライバルである早矢に対する、複雑で、そして守りたかった最後のプライドを、正確に、そして容赦なく射抜いた。
早矢にだけは、知られたくない。自分の、こんな惨めな姿。彼女の、あの真っ直ぐな瞳に、同情や、憐れみ、あるいは、嘲笑の色を浮かべて見られることだけは、死んでも耐えられない。
「…………やめて…………」
左京の唇から、か細い、ほとんど空気のような、懇願の声が漏れた。
「やめてほしけりゃ、どうすればいいか、もう、分かるよなぁ?」
両津は、笑いを収め、しかし、その目は全く笑っておらず、冷たく、追い打ちをかけるように問い詰める。
左京は、その場に、力なく崩れ落ちた。涙が、後から後から溢れ出し、床に染みを作っていく。もはや、彼女に、選択の余地は、欠片も残されていなかった。弓道家としての未来、自身の潔白、そして、何よりも、ライバルに対する、最後の、最後のプライド。それら全てを守るためには、この悪魔の、あまりにも屈辱的な要求を、受け入れるしかないのだ。
「………………わかり…………ました…………」
彼女は、絞り出すような声で、そう言った。その声は、絶望と、屈辱と、そして、完全な諦観に満ちていた。
「………………あなたの………言う通りに………します……………だから……………早矢には……………絶対に、言わないで…………ください……………」
「…ふん、それでいい」
両津は、満足げに、しかし、その表情には一切の温情もなく、頷いた。「話の分かる女は、嫌いじゃねえぜ。じゃあ、早速、今夜から、お前の、その素晴らしい身体を使った**『誠意』**とやらを、見せてもらうとしようか。まずは、手始めに…そうだな…」
彼は、左京の、涙に濡れ、震える身体を、品定めするように見つめながら、次なる、屈辱的な命令を下そうとしていた。その顔には、獲物を完全に罠にかけた、狡猾な猟師のような、満足げな笑みが浮かんでいた。