※この作品はR-18です。

こち亀   作:カイト__

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共犯の娘、仕組まれた二人きりの時間

【第一幕:計算された散策、繰り返される「偶然」】

 

フランソワーズ・アキモトの来日から数日が経過した。娘である麗子の計らい(という名の、巧妙な計画)によって、彼女は、両津勘吉という、自身の世界とはあまりにもかけ離れた、しかし妙に気になる存在の男と、奇妙な交流を重ねることになっていた。

 

「ママン、今日は、日本の美しい庭園にご案内するわ。きっと気に入るはずよ」

麗子は、そう言って、母と、そして「たまたま非番だったから」という名目で合流した両津を、都内でも有数の、静謐な美しさを湛えた日本庭園へと連れ出した。手入れの行き届いた緑、計算され尽くした石組み、そして水面に映る木々の影。フランソワーズは、その洗練された美しさに、素直に感嘆の声を漏らした。隣では、両津が「へえ、なかなかのもんじゃねえか。心が洗われるようだぜ」などと、場違いなようでいて、どこか的を射たような感想を述べている。麗子は、その都度、母に「彼は、見た目によらず、繊細な感受性も持っているのよ」とフランス語で囁き、両津には「ママンが、あなたの感性に感心しているわ」と、都合の良い通訳を続けた。

 

庭園を散策している途中、麗子のスマートフォンが鳴った。「あら、ごめんなさい、ママン、両ちゃん。派出所から緊急の連絡みたい。少しだけ、ここで待っていてくださる?」彼女は、申し訳なさそうな表情を作り、しかし、その瞳の奥には、計画通りの展開に満足するような光を宿して、足早にその場を離れていった。もちろん、それは緊急でも何でもない、偽りの呼び出しだった。

 

残されたのは、フランソワーズと両津、そして、言葉の壁だけだった。気まずい沈黙が流れるかと思いきや、両津は、臆することなく行動に出た。彼は、庭園の池で優雅に泳ぐ錦鯉を指差し、感嘆の声を上げるふりをして、フランソワーズの隣にぐっと近づいた。そして、彼女が池を覗き込もうとした瞬間、バランスを崩した(ように見せかけた)彼女の腕を、さりげなく、しかし力強く支えた。

「おっと、危ねえぜ、マダム!」

その瞬間、二人の身体が、不意に密着する。フランソワーズは、彼の腕の筋肉の硬さと、間近で感じる、汗と男性的な匂いが混じった、荒削りな体臭に、思わず息を呑んだ。普段、彼女の周りにいる男たちからは、決して感じることのない種類の、生々しい「雄」の気配。それは、不快であるはずなのに、なぜか彼女の心の奥底を、ざわつかせた。

「…Merci.」

彼女は、短く礼を言うと、すぐに身体を離したが、その頬は微かに赤らんでいた。両津は、その反応を見逃さず、内心でほくそ笑む。

 

別の日。今度は、麗子は「日本の活気ある市場も、きっとママンのビジネスの刺激になるはずよ」と言って、三人で上野のアメヤ横丁のような、雑多でエネルギッシュな商店街へと繰り出した。色とりどりの商品、飛び交う怒号にも似た呼び声、様々な匂いが混じり合う混沌とした空間。フランソワーズは、その圧倒的なエネルギーに、最初は眉をひそめたが、次第に、その飾らない、剥き出しの生命力のようなものに、興味を惹かれ始めていた。

 

両津は、ここではまさに水を得た魚だった。彼は、巧みな交渉術(という名のがめつさ)で、露天商から果物を値切り、それをフランソワーズに「ほらよ、マダム。サービスさせといたぜ!」と得意げに手渡す。あるいは、人混みの中で、自然な動きで彼女の手を取り、「こっちだ、はぐれるなよ!」とリードする。その、どこか強引で、しかし頼りがいのある(ように見える)態度に、フランソワーズは、戸惑いながらも、悪い気はしなかった。むしろ、普段、常に自分がトップに立ち、全てをコントロールしなければならない生活の中で、たまには、こうして誰かにリードされるのも悪くない、とさえ感じ始めていた。

 

そして、ここでもまた、麗子は「あら、すごい人混み…。私、少し気分が悪くなってきたわ…。ごめんなさい、そこのカフェで少し休んでいてもらえる? すぐに戻るから…」と言い残し、人混みの中へと消えていった。またしても、二人きりの時間が、意図的に作り出されたのだ。

 

【第二幕:言葉を超えたアピール、通じ合う(?)視線】

 

二人きりになると、両津のアプローチは、さらに直接的になった。言葉が通じないことを、彼は最大限に利用した。カフェで向かい合って座ると、彼は、フランソワーズの青い瞳を、まるで射抜くかのように、強い視線でじっと見つめ続けた。その視線には、隠しようのない欲望と、そして、彼女という存在への強い興味が込められていた。フランソワーズは、そのあまりにも真っ直ぐな視線に、最初は戸惑い、目を逸らそうとしたが、次第に、その力強さに引き込まれ、気づけば、彼女もまた、彼の、黒く、どこか少年のような、それでいて底知れない光を宿した瞳を、見つめ返していた。

 

言葉はない。しかし、視線と視線が交錯する中で、二人の間には、言葉以上の、濃密なコミュニケーションが生まれているかのようだった。彼は、時折、にやりと笑い、あるいは、真剣な表情を見せ、彼女の反応を探る。フランソワーズもまた、微笑みを返したり、あるいは、困ったように眉を寄せたりしながら、彼に応える。それは、まるで、言葉という鎧を脱ぎ捨てた、魂同士の対話のようでもあった。

 

両津は、テーブルの下で、さりげなく(しかし計算された)ボディタッチを試みた。彼女が落としたナプキンを拾うふりをして、その指先が、彼女のシルクのスカートに触れる。あるいは、コーヒーカップを渡す際に、わざと指先を触れ合わせる。その度に、フランソワーズの身体が、微かに反応するのを、彼は見逃さなかった。

 

さらに、彼は、男らしさのアピールも忘れない。カフェの窓の外で、何かトラブルがあった時(例えば、自転車が倒れた、など)、彼はさっと立ち上がり、素早く問題を解決してみせる(あるいは、解決したように見せかける)。そして、何事もなかったかのように席に戻り、フランソワーズに、にっと笑いかける。その、行動力と、さりげない頼もしさが、フランソワーズの心に、確実に響いていた。彼は、洗練された会話術など持ち合わせていない。しかし、彼の持つ、剥き出しの**「生」のエネルギー**そのものが、フランソワーズの心を、強く揺さぶり始めていたのだ。

 

【第三幕:共犯者からの囁き、遠隔操作される心】

 

一方、その頃、席を外していた(ということになっている)麗子は、近くの別の場所から、スマートフォンを使い、二人の心理を巧みに誘導していた。彼女は、まるでチェスの名手のように、盤上の駒(両津とフランソワーズ)を、意のままに動かそうとしていたのだ。

 

まず、両津へ。『両ちゃん、いい雰囲気じゃない。ママン、あなたのこと、かなり意識し始めてるわよ。もっと自信を持って、積極的にアプローチして。言葉なんて関係ないわ。あなたのその『野生の魅力』で、一気に畳みかけてしまいなさい』

 

次に、フランソワーズへ(もちろんフランス語で)。『ママン、ごめんなさい、少し長引いてしまって。…でも、両ちゃん、あなたのことを、とても心配していたわ。「マダムは、一人で退屈していないだろうか」って。彼は、少し不器用だけど、本当にあなたのことをもっと知りたがっているみたい。もう少しだけ、彼に心を開いてあげたら、きっと、彼も喜ぶと思うわ』

 

これらのメッセージは、絶妙なタイミングで送られ、それぞれの心に、深く作用した。両津は、麗子からのお墨付き(と煽り)を得て、さらに自信を深め、大胆な行動に出る勇気を得る。一方、フランソワーズは、両津が自分に強い関心を持っている(と麗子が言うのだから間違いないだろう)と感じ、そして、娘が二人の関係を(少なくとも、友情としては)応援してくれているという事実に、さらに警戒心を解き、彼を受け入れる気持ちを強めていく。麗子の存在が、彼女の背徳感に対する、強力な免罪符となっていたのだ。

 

【第四幕:満たされない渇望、揺らぎ始める境界線】

 

繰り返される、麗子によって仕組まれた二人きりの時間。その中で、フランソワーズの心は、確実に変化していた。最初は、単なる好奇心や、日常からの逃避願望だったかもしれない。しかし、両津勘吉という男が放つ、粗野だが抗いがたいエネルギー、言葉は通じなくても伝わってくる(ように見える)真っ直ぐな情熱、そして、娘である麗子が、なぜかこの関係を後押ししている(ように見える)という事実。それら全てが、彼女の心を、強く、そして深く、捉え始めていた。

 

(…なぜかしら…あの男の、あの強い視線を感じると…胸が、高鳴る…? 馬鹿げているわ。私には、夫も、地位も、名誉も、全てあるというのに…)

フランソワーズは、自問自答する。長年連れ添った夫、秋本飛飛丸への愛情が消えたわけではない。彼は、誠実で、優しく、信頼できるパートナーだ。しかし、二人の関係は、いつしか、穏やかで安定しているが故に、情熱的な刺激を失っていたのかもしれない。ビジネスの世界で、常に冷静沈着な仮面を被り続けなければならない彼女にとって、両津の、感情を剥き出しにするような、ある意味で「動物的」な存在感は、危険なほど魅力的に映り始めていた。

 

(…あの男に触れられたい…? あのような、下品で、粗野な男に…? でも…あの指が触れた時の、あの痺れるような感覚…忘れられない…)

彼女は、忘れかけていた**「女」としての感覚**が、呼び覚まされていくのを感じていた。それは、羞恥であり、同時に、抗いがたい欲求でもあった。

 

そして、**娘である麗子が、この状況を容認している(ように見える)**という事実が、彼女の最後の理性のタガを、外れさせようとしていた。(麗子がいいと言うなら…これは、それほど悪いことではないのかもしれない…? 日本では、こういう関係も、アリなのかしら…?)そんな、都合の良い自己正当化が、彼女の心の中で、静かに始まっていた。

 

【第五幕:運命の夜、最後の仕上げ】

 

ある夜、三人は、都内でも屈指の、夜景の美しい高級レストランで、最後の晩餐(フランソワーズの帰国が近づいていた)を楽しんでいた。麗子の手配したその席は、最高の料理と、最高のサービス、そして、最高の雰囲気を約束するものだった。会話は、麗子の巧みな通訳によって、和やかに、そして親密に進んでいた。フランソワーズも、両津も、そして麗子自身も、この奇妙な三角関係が、最終局面へと向かっていることを、暗黙のうちに理解していた。

 

食事が終わり、デザートと食後酒を楽しんでいる時だった。麗子が、ふと、時計を見て、立ち上がった。

「あら、もうこんな時間。私、明日の朝が早いの。ごめんなさい、ママン、両ちゃん。お先に失礼させてもらうわね」

彼女は、にっこりと微笑むと、フランソワーズの頬に軽くキスをし、そして、両津に向かって、意味ありげな視線を送りながら、こう言い残した。

「ママンのこと、よろしくね、両ちゃん。 …ちゃんと、ホテルまで、送って差し上げて」

 

その言葉は、誰が聞いても、残された二人に「後はご自由に」と言っているようなものだった。麗子は、完璧な笑顔を残して、颯爽とレストランを後にした。

 

残されたのは、テーブルを挟んで向かい合う、両津とフランソワーズ。そして、二人を取り巻く、甘く、危険なほどに熟した空気。言葉は通じない。しかし、もはや、言葉など必要なかった。互いの視線には、隠しようのない、燃えるような強い欲望と、そして、それを受け入れる期待が、はっきりと宿っていた。どちらからともなく、二人の手が、テーブルの下で、そっと触れ合った。その瞬間、まるで電流が走ったかのように、二人の身体が微かに震えた。

 

第2話終了時点: 麗子の巧妙な演出と、計算され尽くした心理誘導により、両津とフランソワーズの間の心理的な距離、そして物理的な距離は、完全にゼロになった。フランソワーズの警戒心は完全に消え去り、両津への本能的な惹かれ合いは、もはや否定できないレベルに達している。娘・麗子によって、完璧な舞台は整えられた。後は、両津勘吉が、このフランスから来た美しい女帝に、最後の一押しをするだけ…。運命の夜は、まだ始まったばかりだった。

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