※この作品はR-18です。

こち亀   作:カイト__

24 / 42
「武士道」入門? ~奇妙な鍛錬と偽りの作法~

【第一幕:鬼教官の渇望、現れた「最後の継承者」】

 

カーラ・パンター大佐は、日米合同演習のために滞在していた日本の基地で、束の間の休息時間を利用し、自室で日本の歴史や文化に関する書籍を読み耽っていた。日系四世である彼女にとって、自身のルーツである「日本」は、常に心のどこかで意識する存在だった。特に、近年、彼女が強い興味を抱いていたのが、「武士道」と、その根底にあるとされる「おもてなし」の精神だった。規律、名誉、自己犠牲、そして他者への深い配慮…。それらは、彼女が信奉する海兵隊の精神とも、どこか通じるものがあるように感じられたのだ。

 

しかし、現代日本で触れる情報は、どうも表面的で、商業主義的なものばかりに思えた。もっと深く、もっと本質的な、失われたかもしれない「真の日本の精神」に触れてみたい。そんな渇望が、厳格な軍人である彼女の心の中に、静かに、しかし確実に、育っていた。

 

そんな彼女の渇望を、どこでどう聞きつけたのか(あるいは、単なる偶然か、彼の悪魔的な嗅覚か)、あの男、両津勘吉が、突如として彼女の前に現れたのだ。彼は、基地の司令官(おそらく、何らかの口実で言いくるめたのだろう)の紹介という形で、カーラの執務室を訪れた。

 

「大佐殿! 初めまして、とは言っても、以前ジョディーの件などでお見かけしたことはありますが…改めまして、わたくし、両津勘吉と申します!」

両津は、いつになく神妙な、しかし、その瞳の奥には、抑えきれない自信(あるいは、単なる厚かましさ)をみなぎらせて、深々と頭を下げた。

 

「…巡査長。私に何の用かね?」

カーラは、訝しげな視線を向けながらも、一応の対応は見せた。

 

「はっ! 実は、大佐殿が、真の『武士道』、そして『おもてなし』の精神について、深く探求されておられると、風の噂で(?)耳にいたしました!」

両津は、芝居がかった口調で切り出した。

「嘆かわしいことに、現代の日本では、その崇高なる精神は、もはや風前の灯火…表面的な作法ばかりがもてはやされ、その本質を理解する者は、ほとんどおりません!」

彼は、さも憂国の士であるかのように、嘆いてみせる。

「しかし! この私、両津勘吉だけは違う! 我が家は、戦国時代から続く武家の末裔(もちろん大嘘)! 祖父の、そのまた祖父の代より、一子相伝の『真の武士道・おもてなし』の秘伝を受け継いできた、正真正銘、『最後の継承者』**なのであります!」

 

あまりにも突拍子もない、大ボラ。しかし、両津は、それを絶対的な自信と、妙な迫力をもって語った。そして、その言葉は、意外にも、カーラの心に響いた。「最後の継承者」「秘伝の教え」…それは、彼女が求めていた「本物」への渇望を、強く刺激したのだ。日系四世であるという、自身の出自へのコンプレックスも、手伝ったのかもしれない。

 

「…本当かね、巡査長。その話は」

カーラの声には、疑念と、しかしそれ以上の、強い興味が混じっていた。

 

「もちろんであります! もし、大佐殿が、その『真実』に触れる覚悟がおありならば、この両津、未熟者ながら、我が家に伝わる秘伝の全てを、お教えする所存であります! いかがでしょうか!? 私に、弟子入りする気は、おありかな!?」

両津は、畳み掛けるように、しかし、どこか挑戦的な視線を送った。

 

カーラは、しばらくの間、黙って両津を見つめていた。目の前の男は、胡散臭い。言っていることも、にわかには信じがたい。しかし、その瞳の奥にある、妙な自信と、エネルギー。そして、「本物」への渇望。彼女は、逡巡の末、決断した。

「………よかろう、巡査長」彼女は、厳かに頷いた。「貴殿を、私の『師』と認め、その『秘伝』とやらを、学ばせていただこう。ただし、中途半端な指導は許さんぞ」

こうして、鬼教官カーラ・パンターは、まんまと、両津勘吉の、偽りの「弟子」となったのだ。両津の、悪魔的な計画の、第一歩が踏み出された瞬間だった。

 

【第二幕:奇妙奇天烈、「武士の基礎鍛錬」】

 

両津による「武士道・おもてなし」の指導は、翌日から早速開始された。しかし、その内容は、カーラの想像を、遥かに超える、奇妙奇天烈なものばかりだった。

 

まず、両津が課したのは、「不動の行」と名付けられた、長時間の正座だった。基地内の、人気のない古い道場で、カーラは、一分の隙もない完璧な正座の姿勢を取らされる。

「いいか、大佐殿。真の武士は、何時間であろうと、微動だにせず、心を『無』に保つことができねばならん! 精神を集中しろ! 雑念を払え!」

両津は、腕を組み、仁王立ちになって、厳しい(ふりをした)声で檄を飛ばす。しかし、彼自身は、その横で、あぐらをかいて漫画を読んだり、居眠りをしたりしている。カーラは、足の痺れと痛みに耐えながら、必死に「無」になろうと努力する。持ち前の軍人としての規律と忍耐力が、彼女を支えていた。(これが日本の精神修行か…確かに、厳しい…)と、彼女は自分に言い聞かせた。

 

次に行われたのは、「禊ぎの行」。両津は、カーラを、基地の裏手にある、小さな川(というよりは、ドブ川に近いかもしれない)へと連れて行った。

「古来より、武士は、冷水に身を晒すことで、心身の穢れを祓い、不屈の精神を養ってきたのだ! さあ、大佐殿、その川に入り、滝に打たれる(もちろん、滝などない)イメージで、精神を統一するのだ!」

カーラは、その濁った水と、異臭に、一瞬ためらったが、「これも修行」と覚悟を決め、制服(のズボンを捲り上げて)のまま、冷たい水の中へと入っていった。両津は、もちろん、川岸の安全な場所から、「そうだ! もっと深く! 邪念を洗い流せ!」と、声援(?)を送るだけだった。

 

さらに、「精神統一の書」と称して、両津が半紙に書き殴った、全く意味不明な漢字(例えば、「寿司」「競馬」「金」など)を、ひたすら書き写させるという修行もあった。

「この文字には、宇宙の真理が込められている(大嘘)。一画一画、心を込めて書き写すことで、おのずと精神は統一され、迷いは消え去るであろう」

カーラは、その珍妙な文字に首を傾げながらも、言われた通り、真剣な表情で、一心不乱に筆を動かし続けた。

 

極めつけは、「腹からの発声鍛錬」だった。両津は、カーラを、基地近くの、人気のない公園へと連れ出し、「武士は、戦場で、大音声を発し、敵を威嚇し、味方を鼓舞せねばならん! そのためには、腹の底から声を出す訓練が必要だ!」と説明。そして、彼女に、「えいえいおー!」でもなく、「チェストー!」でもなく、「両津最高!大佐最低!わっはっは!」という、全く意味不明で屈辱的な言葉を、公園中に響き渡るような大声で、何度も叫ばせたのだ。

カーラは、さすがにこれには強い抵抗を示したが、両津に「これは、羞恥心を克服し、『我』を捨てるための、最も重要な鍛錬なのだ!」と力説され、結局、涙目になりながらも、その奇妙な絶叫を繰り返す羽目になった。

 

これらの「鍛錬」は、傍から見れば、ただの嫌がらせか、悪ふざけにしか見えない。カーラ自身も、心のどこかで、その馬鹿馬鹿しさに気づいていたかもしれない。しかし、「師(両津)」の言葉を信じ、 そして、**「これが日本の精神修行なのだ」**と、無理やり自分を納得させ、持ち前の精神力で、全てを耐え抜いた。両津は、そんな彼女の、生真面目で、融通の利かない部分を、最大限に利用していたのだ。

 

【第三幕:デタラメの極致、「武士の嗜み」講座】

 

身体鍛錬(という名の嫌がらせ)と並行して、両津は、「武士の嗜み」として、様々な日本の伝統文化(?)を、カーラに教えるふりをした。その内容は、鍛錬以上に、デタラメ極まりないものだった。

 

**「茶道」**のレッスンでは、彼は、インスタントの粉末茶を、適当な湯で溶かし、それを、欠けた湯呑みに入れ、「ほらよ」と差し出した。

「…師よ、これが?」

「うむ。これぞ、『侘び寂び』の精神を表す、究極の一服だ。見た目の華やかさや、味の甘美さにとらわれず、その奥にある『無』を感じ取るのだ」

カーラは、恐る恐る、その泥水のような液体を口にした。…もちろん、不味い。しかし、彼女は、「これが『無』の味か…」と、真剣な顔で呟き、両津を感心(?)させた。作法も、もちろん完全に我流で、お辞儀の角度も、茶碗の回し方も、全てがデタラメだった。

 

**「華道」**では、彼は、道端で摘んできた雑草や、枯れ枝を、空き缶に無造作に突っ込んだ。

「見ろ、大佐殿。これぞ、我が流派『両津流破天荒活け』の真髄、『あるがまま』の美だ。名もなき雑草も、枯れた枝も、等しく生命の輝きを持っている。それらを、分別なく受け入れ、自然と一体化する。これぞ、『禅の心』なのだ」

カーラは、その、あまりにも前衛的すぎる(というより、ただのゴミにしか見えない)「作品」を前に、しばらくの間、言葉を失っていたが、最終的には、「…なるほど、深い。常識にとらわれぬ、自由な精神を感じます」と、なんとかコメントを捻り出した。

 

**「書道」**に至っては、さらに酷かった。両津は、大きな筆に墨をたっぷりとつけると、巨大な半紙の上に、まるで子供の落書きのように、勢いよく「金!金!金!」あるいは「美女!」などと書き殴った。

「どうだ! この、ほとばしるエネルギー! これぞ、迷いを断ち切り、己の欲望を、ありのままに叩きつける、『一筆入魂』の極意よ!」

彼は、墨で汚れた顔で、得意げに言い放った。カーラは、その、あまりにも俗っぽい文字と、師(?)の形相に、もはやコメントすることすら諦め、ただ、遠い目をしていた。

 

カーラは、これらの、あまりにも**型破り(デタラメ)**な「嗜み」に、戸惑いつつも、心のどこかで、「これが、常識や形式にとらわれない、真の武士の感性なのかもしれない」「私が知らないだけで、日本の奥深い精神文化とは、こういうものなのかもしれない」と、無理やり自分を納得させようとしていた。 彼女の、真面目で、純粋な探求心が、逆に、両津の嘘を見抜くことを妨げていたのだ。

 

【第四幕:歪んだ精神の刷り込み、深まる依存】

 

両津は、これらの奇妙な「鍛錬」や「嗜み」を通じて、徐々に、しかし確実に、彼独自の、完全に捏造された「おもてなし」の精神を、カーラに刷り込んでいった。

 

「いいか、大佐殿。真のおもてなしとはな、相手の心を、言葉よりも深く読み取り、その言葉になる前の、魂の欲求すらも、先回りして満たしてやることなんだ」

「そして、主(あるじ)と客(きゃく)、あるいは、師と弟子というものは、互いに、心も、身体も、全てを曝け出し、一点の曇りもない、絶対的な信頼関係を結ぶことが、最も重要なのだ。疑念や、隠し事は、その神聖な関係を穢すことになる」

「そのためには、時には、常識や、体面、そして、ちっぽけな羞恥心といった、『俗世の壁』を、自ら打ち破る勇気が必要になる。それこそが、真の『強さ』であり、相手への最大の敬意の表れなのだ」

 

これらの言葉は、一見すると、美しく、深遠な響きを持っている。しかし、その本質は、後の展開――すなわち、カーラの身体を、彼女自身の「同意」のもとに支配するための、巧妙な布石に他ならなかった。

 

カーラは、これらの言葉を、最初は、日本の深遠な精神哲学として、真剣に受け止めていた。彼女は、両津の、厳しい(が、時に的を射ているように見える)指導、時折見せる(計算された)思いやりや優しさ、そして何よりも、「本物の日本精神」を教えてくれる(と思い込んでいる)存在に対し、次第に、強い信頼感と、師弟関係にも似た、ある種の依存心を抱き始めていた。彼女の、普段は氷のようにクールな仮面の下で、両津勘吉という、型破りで、捉えどころのない男への、個人的な興味や、もしかしたら、それ以上の感情が、静かに育ち始めていたのかもしれない。

 

【終幕:師への信頼、次なる段階への序章】

 

数週間にわたる、「基礎鍛錬」と「嗜み」の指導(という名の、洗脳に近いプロセス)を経て、カーラ・パンターは、精神的に、ほぼ完全に両津のコントロール下に置かれていた。彼女は、もはや両津を、単なる日本の警察官ではなく、自身の精神的な「師」として、深く信頼しきっていた。彼の言うことは、たとえどんなに奇妙で、常識外れに思えても、「何か深遠な意味があるのだろう」と、解釈するようになっていた。

 

両津は、その状況に、ほくそ笑んでいた。彼の計画の第一段階は、完璧に成功した。カーラの精神的なガードは完全に取り払われ、彼女は、これから彼が提示するであろう、さらに踏み込んだ「おもてなしの実践」を、疑うことなく受け入れるであろう、素地が、完全に出来上がっていたのだ。

 

「…さて、大佐殿」ある日の指導の終わり、両津は、意味ありげな笑みを浮かべて言った。「基礎は、ほぼ身についたと言ってよかろう。いよいよ、明日からは、『おもてなし』の、より実践的な段階へと進む」

彼は、カーラの目をじっと見つめ、念を押すように言った。

「そこでは、お互いの、さらなる『自己開示』が求められることになるだろう。心の壁だけでなく、時には…身体の壁をも、取り払う覚悟が必要になるかもしれん。…準備は、できているかな?」

 

カーラは、その言葉の真意を、まだ完全には理解していなかったかもしれない。しかし、彼女は、既に「師」として絶対的な信頼を寄せている両津に対し、迷いなく、力強く頷いた。

「Yes, Sir!(はい、師よ!)どのようなご指導も、謹んでお受けいたします!」

 

両津は、その返事を聞き、満足げに頷いた。彼の脳裏には、既に、次なる段階――カーラの、あの驚異的なプロポーションを持つ裸体を、どのように「おもてなし」の名の下に探求し、そして、最終的に、彼女の「裏門」までも解放させるか、という、具体的な計画が、詳細に描かれ始めていた…。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。