※この作品はR-18です。

こち亀   作:カイト__

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"デート"という名の布石、深まる好意と油断

【第一幕:下町の風、計算されたエスコート】

 

数日後、早矢との「デート」の約束を取り付けた両津は、珍しく少しだけ身なりを整えて、待ち合わせ場所である亀有駅前に立っていた。といっても、いつものサンダル履きは変わらないが、着ているTシャツは比較的マシなものを選び、髪も(申し訳程度に)櫛でとかしてある。彼の内心は、これから始まる「攻略」への期待と、早矢という、なかなか手強い(しかし、非常に魅力的な)ターゲットをどう落とすかという計算でいっぱいだった。もちろん、その根底にあるのは「体目的」だが、同時に、あの清楚で、凛としていて、それでいてどこか天然な早矢と二人きりで過ごせること自体に、彼自身も少なからず浮かれた気持ちになっているのも事実だった。「気に入っている」のだ、彼女のことが。だからこそ、単に力ずくではなく、スマートに(彼なりに)エスコートして、彼女の心を掴もうと考えていた。

 

やがて、人混みの中から、少し緊張した面持ちの早矢が現れた。今日の彼女は、いつもの制服ではなく、上品な白いブラウスに、ふわりとした藍色のロングスカートという、清楚で女性らしい服装だった。派手さはないが、それがかえって彼女の持つ大和撫子的な魅力を引き立てている。両津は思わず「おっ」と声を漏らしそうになった。

 

「りょ、両津さん、お待たせしました」

早矢は、少し頬を赤らめながら、ぺこりと頭を下げた。

 

「よお、磯鷲! いやー、待ったぜ…ってのは嘘だが、時間ぴったりだな。真面目なこった」

両津は、いつもの軽口を叩きながらも、内心(やべえ、私服だと一段と美人だな…こりゃあ、なんとしてもモノにしねえと…)と、決意を新たにしていた。

「今日は、俺様がとっておきの下町ツアーに連れてってやるよ。京都のお嬢様には、ちと刺激が強いかもしれんがな!」

 

「ふふ、楽しみにしています」

早矢は、少しはにかみながら微笑んだ。

 

二人が向かったのは、両津の庭とも言える、浅草界隈だった。まずは定番の雷門をくぐり、仲見世通りを歩く。色とりどりの土産物、威勢の良い店員の呼び声、香ばしい匂い…。京都とは全く違う、活気と混沌に満ちた空気に、早矢は目を輝かせ、キョロキョロと周囲を見回していた。

 

「すごい…! テレビで見たことはありましたけど、実際に来ると、全然違いますね!」

その無邪気な反応に、両津は満足げな笑みを浮かべる。

「だろ? これが江戸っ子の心意気ってもんよ」

彼は、得意げに、仲見世の歴史や、浅草寺の由来などを(所々、かなり怪しい情報を織り交ぜながらも)解説して聞かせた。早矢は、「へぇー!」「そうなんですか!」と、素直に感心し、熱心に耳を傾けている。両津は、そんな彼女の純粋さを可愛いと感じると同時に、(こいつ、意外と簡単に信じ込むな…)と、攻略への手応えも感じていた。

 

彼は、巧みに人混みを避けながら、早矢を裏路地へと誘う。そこには、観光客向けの華やかさとは違う、昔ながらの職人の店や、小さな甘味処などが軒を連ねていた。

「こっちはな、地元のもんしか知らねえ、隠れた名店が多いんだぜ」

彼は、一軒の古びた煎餅屋の前で足を止めると、店のおばちゃんと軽妙なやり取りを交わし、焼きたての熱々を手渡された。

「ほら、食ってみろ。ここの手焼き煎餅は絶品だ」

 

「わ…! ありがとうございます!」

早矢は、恐る恐る、しかし嬉しそうに煎餅を受け取り、一口かじった。

「…! 美味しい…! 香ばしくて、お醤油の味がしっかりしていて…!」

目を丸くして喜ぶ早矢の姿に、両津は、計算とは別に、素直に嬉しい気持ちになった。普段、自分の周りにいる人間(特に女性)は、もっとスレているか、あるいは自分を利用しようとする輩が多い。早矢のような、純粋で、素直な反応は、彼にとって新鮮であり、心地よかったのだ。

 

(…まあ、可愛いっちゃ可愛いんだよな、こいつ…)

そんなことを考えながらも、彼の最終目的は揺るがない。この純粋さを利用して、自分のものにするのだ、と。

 

【第二幕:下町の味と酒、見抜かれた(?)弱点】

 

浅草散策を楽しんだ後、両津は「そろそろ腹も減っただろ? 俺様オススメの、安くて美味い店に連れてってやるよ」と、早矢を誘った。向かったのは、浅草寺の裏手にある、古くから地元の人々に愛されているような、小さな居酒屋だった。赤提灯がぶら下がり、店内はカウンターと小さなテーブル席がいくつかあるだけ。常連客らしい男たちが、楽しそうに酒を酌み交わしている。

 

「こ、こういうお店…私、初めてです…」

早矢は、少し戸惑いながらも、その活気ある雰囲気に、興味津々な様子だ。

 

「まあ、座れよ」

両津は、カウンターの隅の席に早矢を促し、自分も隣に座った。彼は、慣れた様子で、大将に声をかけ、手早くいくつかの料理(煮込み、焼き鳥、旬の刺身など)と、自分のためのビールを注文した。

「磯鷲は何飲む? ここは日本酒も美味いぞ」

 

「わ、私は…お酒は、あまり得意ではなくて…」

早矢は、申し訳なさそうに答える。

 

「ほう? 下戸なのか?」

両津の目が、キラリと光った。これは、使えるかもしれない…。

「まあ、無理に飲むこたねえよ。じゃあ、ウーロン茶でも頼むか?」

彼は、あくまで紳士的に振る舞う。

 

しかし、料理が運ばれてくると、そのあまりの美味しさに、早矢の顔が輝いた。

「美味しい…! この煮込み、すごく柔らかくて味が染みてますね! お刺身も新鮮!」

「だろ? 見た目はボロいが、ここの大将の腕は確かなんだ」

両津は、得意げに言う。彼は、早矢が伝統的なものや、本物志向であることを見抜き、あえてこういう「通好み」の店を選んだのだ。その狙いは、見事に的中していた。

 

美味しい料理と、両津の(計算された)面白い話(彼の武勇伝や、下町の変わった人々の話など)に、早矢はすっかり打ち解け、楽しそうに笑っていた。彼女の普段の堅い表情は完全に消え、年相応の、可愛らしい女性の顔になっている。

 

「…しかし、磯鷲も大変だよな。京都の名家のお嬢様が、こんなガラの悪い連中ばっかりの葛飾署で働いてるんだからよ」

両出したは、ふと、そんなことを言った。

 

「…そんなことありませんよ。皆さん、根は優しい方ばかりですし…それに、私は、自分の意志で警察官になったんですから。家のこととは関係ありません」

早矢は、少し真面目な顔になって答えた。

 

「へえ、そうなのか。てっきり、お堅いお父上の命令か何かだと思ってたぜ」

「父は…確かに厳しい人ですけど、私の選んだ道を、反対はしませんでした。ただ…少し、心配はしているみたいですけど」

早矢の声に、わずかな寂しさのようなものが混じる。

 

(…ほう、親父の話か…ここが突っ込みどころか…?)

両津は、聞き役に徹しながら、彼女の情報を収集していく。

 

会話が弾む中で、両津は、再び、さりげなくお酒を勧めてみた。

「なあ、磯鷲。せっかくだから、一口だけでもどうだ? ここの熱燗、本当に美味いんだぜ? 料理にも合うし、体も温まるぞ」

彼は、小さな御猪口に、ほんの少しだけ熱燗を注ぎ、彼女の前に置いた。

 

「…一口、だけ、ですよ?」

早矢は、楽しい雰囲気に流され、そして、両津に勧められたこともあり、少しだけ迷った後、その御猪口を手に取った。そして、ほんの少しだけ、唇を湿らせるように、くいっと飲んだ。

 

その瞬間だった。

「……っ!」

早矢の白い頬が、みるみるうちに、さっと赤く染まった。瞳が、潤んで、とろんとしてくる。口調も、心なしか、ふわふわとした感じになる。

「…あ、あれ…? なんだか…あったかい……ふふ……」

明らかに、酔いが回っている。ほんの一口で、これほど変わるとは…。

 

「おっと、大丈夫か? 磯鷲! やっぱり弱かったんだな!」

両津は、内心(しめしめ!大当たりだ!)と叫びながらも、表面上は、慌てて彼女に水を差し出し、心配するふりをする。

「ほら、無理すんなって言っただろ。もう飲むなよ」

 

「…う、うん…ごめんなさい…でも、なんだか、楽しい……ふふふ……」

早矢は、酔って、さらにガードが甘くなっている。もはや、両津に対して、何の警戒心も抱いていないようだった。

 

両津は、この絶好の機会を逃すはずがなかった。彼は、会計を済ませると、「ほら、立てるか? 送ってってやるよ」と、優しく(?)早矢の肩を支え、店を出た。

 

【第三幕:夜道とスキンシップ、仕掛けられた次の約束】

 

夜風が、火照った早矢の頬に心地よかった。しかし、足元は少しおぼつかない。

「…わ、私、一人で大丈夫ですから…」

彼女は強がるが、その身体は、両津の方へともたれかかっている。

 

「馬鹿野郎、こんなフラフラな状態で、一人で帰せるかよ」

両津は、ぶっきらぼうに言いながらも、しっかりと彼女の肩を抱き、支えて歩き始めた。駅へ向かう道は、週末の夜ということもあり、多くの人々で賑わっていた。

 

両津は、わざと人混みの中を選んで歩く。

「おっと、危ねえ!」

人がぶつかってきそうになると、彼は、さっと早矢を自分の腕の中に引き寄せ、庇う。自然な流れで、彼女の手を握り、あるいは、腰に手を回す。

 

「…!」

早矢の身体が、その度に、びくりと反応する。彼の腕の力強さ、手の温かさ、そして、間近で感じる彼の匂い…。酔いと、予期せぬスキンシップによって、彼女の心臓は、破裂しそうなほど高鳴っていた。しかし、不思議と嫌な感じはしない。むしろ、守られているという安心感と、彼に触れられているという、甘いときめきを感じていた。彼女は、なされるがままに、彼の腕の中で、小さな子供のように、彼に身を委ねていた。

 

(…両津さん…あったかい……なんだか、ドキドキする……)

彼女は、彼の胸に顔をうずめたいような衝動に駆られたが、かろうじてそれを抑えた。

 

両津は、そんな早矢の反応を、肌で感じ取っていた。抵抗しないどころか、むしろ身を委ねてくる。これは、完全に脈アリ、いや、もう落ちていると言っても過言ではないだろう。彼は、内心でほくそ笑みながら、計算通りにスキンシップを続け、彼女の心をさらに自分へと引き寄せていく。

 

やがて、駅の近くまで来たところで、両津は足を止めた。

「…さて、と。今日は、本当に面白かったぜ、磯鷲」

彼は、名残惜しそうな表情で、早矢を見つめた。

 

「…はい。私も…すごく、楽しかったです…」

早矢もまた、潤んだ瞳で彼を見つめ返す。

 

「でもよぉ…」両津は、わざとらしく溜息をつく。「まだまだ話し足りねえし、聞き足りねえよなぁ。お前の故郷の話とか、弓道の極意とかさ」

彼は、一歩、彼女に近づき、その耳元で囁いた。

「…なあ、今度はさ、もっと邪魔の入らないところで、ゆっくり話さないか?」

 

「…邪魔の、入らないところ…?」

早矢は、彼の意図を測りかねて、問い返す。

 

「ああ。例えば…そうだな、俺の部屋…は、ちと汚くてお前を呼ぶには忍びねえが…」彼は、少し考えるふりをして、「…あ、そうだ!お前の手料理、まだ食ってなかったな!今度、磯鷲の家で、ご馳走してくれよ!今日のお礼も兼ねて、な!」と、提案した。彼女のテリトリーである自宅へ行くことで、彼女をさらに安心させ、そして、確実に二人きりになれる空間を確保する。それが彼の狙いだった。

 

「わ、私の家…ですか?」

早矢は、驚きと、期待と、そしてほんの少しの戸惑いが混じった表情を見せた。しかし、酔いと、彼への好意が、その戸惑いを打ち消した。

「……はい!もちろんです! いつでも、いらしてください! 腕を振るって、美味しい京料理を、ご馳走します!」

彼女は、満面の、そして無邪気な笑顔で、その誘いを快諾した。

 

「よし、決まりだな!」

両津は、力強く頷いた。彼の計画は、最終段階へと駒を進めたのだ。

 

【終幕:それぞれの思惑、運命の夜へ】

 

駅の改札で、二人は別れた。早矢は、ふわふわとした幸福感に包まれながら、家路についた。(両津さんが、私の家に来てくれる…! もっと、色々な話ができる…!)彼女の頭の中は、次のデートへの期待でいっぱいだった。彼の下心など、微塵も疑うことなく。

 

一方、両津は、去っていく早矢の後ろ姿を見送りながら、ほくそ笑んでいた。

(ケケケ…チョロい、チョロすぎるぜ、磯鷲の奴。完全に俺様にメロメロじゃねえか。次の家デートで、一気にケリをつけてやるぜ…あの、完璧な体を、この手で…!)

彼は、早矢のことを「気に入っている」のは確かだったが、その根底にある「体目的」は、より強く、明確なものとなっていた。

 

純粋な好意を募らせる早矢と、下心を隠して接近する両津。二人の想いは、同じ方向を向いているようでいて、その実、全く違う場所を見ている。しかし、運命の歯車は、もはや止まることなく、二人を、避けられない「次」の夜へと、確実に導いていくのだった…。

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