それから俺は彼女をバーで待ってはいたけど、自信がなくてメールを送ることすらできなかった。
俺はそれからも大学に通い続けた。
半年通ってみたが、全く社会に役立たないことしか教えないゴミみたいな場所だと結論づけた。
それでも、他に行く場所もないから、通うしかなかった。
そんなある日、雪永から二年ぶりに連絡が来た。
「ねえ、今日暇?」
「ああ」と俺は答えた。
「ちょっと付き合ってほしいところがあるんだけど……東田くん、暇?」
「ああ、暇だけど」と俺は答えた。
「じゃあ付き合ってよ」と言って、彼女は電話を切った。
俺は新宿の駅に呼び出された。
「お待たせ」と雪永が現れた。
「で? どこに行くんだよ……?」
「焼肉!」
「は? 焼肉?」
「そうだよ。私とデートって聞いたら喜ぶ女の子多いんだから」と彼女は自慢げに言った。
それから俺たちは焼肉屋に向かった。
店内は個室になっていて、ゆっくり話せる雰囲気だった。
「まずは乾杯しよっか」と言って、雪永がドリンクメニューを見せてきた。
俺はビールを注文し、グラスに注がれたビールを受け取った。
適当に肉を頼んで食事を始めた。
しばらく無言で食べ続け、ある程度腹が満たされて落ち着いてきたところで口を開いた。
「それで、雪永、何か用か?」
「何が?」
「急に呼び出したんだろ? 何か用があるんじゃないのか?」
「別にないよ」と雪永は言った。「ただ会いたかっただけ」と笑った。
「は? それだけのために呼んだのかよ?」と俺は少し呆れながら言った。
「うん」と彼女はまた微笑んだ。
「だとしても、飯ぐらい他の男でもいいだろ。」
「……まあ、たまにはね」と雪永は言ってビールを飲み干した。
「はぁ……」と俺はため息をついた。
「どうしたの? ため息なんかついて」と雪永が悪戯っぽく笑った。「もしかして女の子のことで悩んでるとか?」
なかなか鋭いところをついてくる。
「いや、別に……」と俺は答えた。
「ふーん」と雪永はニヤついた。
「悩みなら、私が聞いてあげるよ。」
「いや、いいよ……」と俺は断ったが、彼女はしつこく食い下がってきた。
仕方なく、千鳥さんのことを話すことにした。
「へぇ、お兄さんの彼女が好きになっちゃったんだ……」と雪永が興味深そうに言った。
「元だよ。元! もう別れてる」と俺は否定した。
「へぇ、でもお兄さんと好きな人が被っちゃったんだ。それは大変だ」と雪永は他人事みたいに言った。
俺は黙ってビールを飲んだ。
「でも、わからないなー。私も妹がいるけど、兄弟で同じ人を好きになったことなんてないよ。よっぽどそのお姉さんが魅力的だったんだろうね」と雪永が言った。
「それか、よっぽどお兄さんと価値観が同じなんじゃない?」
「どういうことだよ……」と俺は聞き返した。
「その東田くんのお兄さんも、東田くんも、同じタイプってこと」と雪永は答えた。
「同じ? そんなわけないだろ。兄貴と俺は全然似てないし、趣味も趣向も違う。考え方だって全く違う。」
「うーん、趣向は違っても異性の好みって案外似てるもんだよ。それに考え方だって人それぞれなんだから、全部同じなんてことはないでしょ」と雪永が言った。
「じゃあ、さっき言った雪永の妹はどうなんだ? 同じタイプが好きじゃないんだろ?」
「うん、全然違うね。私はハリソン・フォードみたいな人がタイプで、妹はアイドルみたいなキラキラした男の子が好きだから。」
「じゃあ、俺と兄貴は違うじゃないか」と俺は反論した。
「まあ、妹はまだ小学生だから恋愛対象として見てないってのもあるかもね。でも、将来どうなるかは分からないよ。もしかしたら、妹も東田くんみたいになるかもしれないし」と雪永は笑った。
「なんだよそれ……」と俺は呆れた。
それから俺たちは酒を飲みながら会話を楽しんだ。
「あーあ、もう時間か……」と雪永が腕時計を見てため息をついた。
俺も時計を見ると、21時30分だった。
「ねぇ、送ってってよ」と雪永が言った。
「は? なんでだよ?」と俺は驚いて返す。
「いいじゃん、どうせ暇なんでしょ? 私みたいな可愛い女の子を一人で帰らせるつもり?」と彼女は俺の腕を掴んだ。
「自分で言うな……」と文句を言いながらも、俺は渋々了承した。会計を済ませて店を出た。
「ねぇ、東田くん、手繋ごうよ」と雪永が言ってきた。
「はぁ? 何でだよ」と俺は反論したが、強引に手を握られた。
「いいじゃん、別に減るもんじゃないし」と彼女は俺の手を引いた。
少し抵抗したが、結局そのまま手を繋いで歩いた。
しばらくすると、ホテル街に入った。
「ねぇ、東田くん、あそこ入ろうよ」と雪永が一つのホテルを指差した。
「はぁ? 何考えてんだよ!?」と俺は驚いて言った。
「いいじゃん、一度行ってみたかったんだよね」と彼女は俺の手を引いてホテルに入った。
「おい、ちょっと!」と俺は慌てたが、彼女は聞く耳を持たなかった。部屋を選び、エレベーターに乗った。
部屋に入ると、雪永はベッドに横になった。
「へぇ、こうなってるんだぁ。なんか楽しいね」と彼女は笑った。
「何が楽しいんだよ……もう帰るぞ、俺」と呆れて帰ろうとしたが、腕を引っ張られて止められた。
そのままベッドに押し倒された。
「おい……」と抗議したが、彼女は俺の口を塞いできた。
「んっ……ちゅっ……」と舌を絡めてくる。
俺は抵抗しようとしたが、力がうまく入らない。
あまりに唐突であり、体がしびれた。
そしてそのまま服を脱がされた。
すると、雪永は目に涙を浮かべながら言った。
「ねぇ、東田くん、そのお姉さんと失恋したんでしょ?」
「失恋って……単に一ヶ月連絡取ってないだけだ……」
「……それはもう失恋だよ。諦めなよ」と彼女は言った。
「女の意見を教えてあげるけど、それは恋でも愛でもない。ただの情だよ」と雪永は続けた。
俺は何も言い返せなかった。
「私も今日、フラれたの」と彼女は自分の服を脱ぎ始めた。
「え?」と俺は驚いた。
雪永は黒の下着姿になった。
「だから、慰めてよ……」と雪永は言って俺に抱きついてきた。
「おい、やめろって……」と俺が言うが、彼女は聞く耳を持たなかった。そしてそのまま俺のズボンを下ろした。
ペニスが露出すると、「わ! こう見ると結構大きいね」と彼女は掴んだ。
「おい! 何やってんだよ!」と俺は抵抗したが、彼女は離そうとしない。ゆっくり上下に手を動かし始めた。
「気持ちいい?」と雪永が聞いてきた。
「気持ち……よくなんてない……」と俺は答えた。でも、正直だんだん気持ちよくなっているのは確かだった。
しばらくして、彼女は手を止めた。
「ねぇ、東田くん」と雪永が言った。
「私のおっぱい揉んでみる? 結構自信あるよ」と胸を突き出すように見せつけた。
「はぁ? 何言ってんだよ……」と俺は言い返したが、彼女は強引に俺の手を掴んで自分の胸に押し付けた。
柔らかい感触が伝わり、少し力を入れると先端が硬くなってくるのが分かった。
「あ……んん……ふぅ」と雪永は甘い吐息を漏らした。顔が少し赤くなっていた。
俺は手を離そうとしたが、彼女は強く握って離してくれなかった。
雪永の乳房は大きく、俺の手では収まりきらないほどだった。
「ねぇ……舐めてみてよ……」と彼女が言った。
俺は言われるがままに、ピンク色の先端を口に含んだ。舌先で転がすように舐めていくと、どんどん硬くなっていくのが分かった。
完全に勃起した状態になると、今度は強く吸ってみた。
すると雪永は体を大きく仰け反らせた。同時に、俺の股間が再び熱くなるのを感じた。
「大きいね……」と彼女は言い、カバンからコンドームを取り出した。
「ねぇ、東田くん……つけるね……」と手際よく装着した。
そして俺の上に跨がると、ゆっくり腰を落とした。「あっ……」と雪永は苦しそうな表情をしたが、なんとか根元まで飲み込んだようだった。
「全部入ったよ」と彼女は笑った。そしてゆっくり上下に動き始めた。
根元を見ると血が滲んでいた。処女だったんだと気付いた。
「おい……大丈夫なのか?」と俺は聞いたが、雪永は答えなかった。ただ黙って腰を動かし続けた。
やがて射精感が込み上げてきた。それと同時に彼女の動きも激しくなった。
雪永の大きな胸が揺れ、先端の乳首はビンビンに勃起していた。俺はそれを口に含み、強く吸った。
すると彼女は体を大きく痙攣させ、絶頂を迎えたようだった。
俺は雪永の尻を抱え、下から突き上げるように腰を動かした。
「ん……」と雪永は俺の口にキスをしてきた。舌で口内を刺激してくる。
彼女は膣を締め上げながら、激しくピストン運動を繰り返した。
やがて俺も限界を迎え、コンドーム越しに雪永の中で放出した。
「あ…あ……」と彼女はビクビク痙攣していた。
俺はゆっくりペニスを引き抜いた。コンドームの先端には大量の精液が溜まっていた。
「へぇ……これが精液か……」と雪永はそれを観察した。
「そんなもん、見なくていい」と俺は目を逸らした。
すると彼女はコンドームの先を外し、手に垂らすと俺に見せてきた。「これが東田くんの精液ね……」と言って舐め取った。
「汚いだろ……」と俺が言うと、彼女は笑った。
「別に平気だよ。それに東田くんだから汚くなんかないし……でもちょっと苦いね」と彼女は言った。
俺たちは後始末を済ませた後、泊まる場所がないからとそのままラブホに泊まることにした。
シングルルームでベッドは一つしかないので、並んで寝ることになった。
「フラれたって、どういうこと?」と俺は雪永に聞いた。
「そのまんまだよ。大学の先輩、4年の文学部にいる人に告白したんだけど振られちゃって。それで、東田くんのこと思い出して、慰めてほしかったの。」
「俺なら、その先輩の代わりになるってか?」
「まあね……。だって東田くん、私のこと好きでしょ?」
「はぁ!? 何言ってんだよ……」
「女の意見として言うけど、絶対そうよ。本心じゃ気づいてないだけ。」
「……」俺は何も言い返せなかった。
「まぁいいや、とりあえず寝よう。明日も大学だし」と彼女は先に眠りについた。
俺は雪永の寝顔を見ながら考えた。
俺は本当に雪永が好きだったんだろうか? 確かに彼女には好意がある。容姿も美人で、話していて楽しい相手だ。
でも、それはあくまで友達としての好意だと思っていた。
いや、そう思い込みたかっただけかもしれない。
俺は雪永への好意を自分に隠して、告白もせず、恋愛もせず、ただ友人としての関係を続けようとしていたのか。
わざと気持ちを胸の奥にしまい込んでいたのか……。
俺はまた女というものが分からなくなった。好意を隠し、好意を持ってくれる相手に気づかぬふりをして、
あえて何も言葉をかけられず、自分の気持ちすら深く考えずに今まで過ごしてきたんだ……。
でも、今はっきり分かることがある。俺は雪永に惹かれていたんだ。
眠りにつく中、俺はそのことだけを考えていた……。
■
それから俺と雪永は何度かデートをして、ホテルでセックスをした。
ある日、気になって雪永に聞いてみた。
「なぁ、俺たち付き合わないか?」
「うーん、いいかな?」
行為の後、彼女は少し間を置いて答えた。
「え?」俺は驚いた。
「だって、なんか付き合っちゃうと大変じゃない?」
「でも……こんな関係続けていくのか?」
「うん。いいじゃない? お互いに恋人ができてもセフレなら浮気にならないし。私、都合のいい彼氏が欲しかったの。」
「……」俺は何も言えなかった。
「ていうか、多分付き合おうって言うのは、男として責任うんたらって理由だよね? それって愛情じゃないよね。そんな理由で付き合おうって言われても嫌だよ。」
雪永は俺がまだ千鳥さんに未練があることを見抜いていた。
「でも……それでも俺は……」
「私は東田くんのこと好きだけど、それは恋じゃない。あなたに抱かれて気持ちいいだけ。それだけだよ」と雪永は言った。
「……ところで、私、将来設計は決まってるの」と彼女は続けた。
「将来設計?」
「うん。私ね、25歳までに赤ちゃんを産みたいんだ。だから、精液はいつでも都合よく用意してほしいの。」
「……なんだよそれ。普通に結婚相手を探せばいいじゃねぇか。」
「今の日本じゃ、この若さで結婚相手探すのって難しいよ。まず資金がないでしょ。たとえあったとしても、出産適齢期が過ぎちゃう。それに男だってそう都合よく協力してくれるとは限らない。いても生でセックスできることしか頭にない猿みたいなやつばっかり。でも、東田くんなら性欲まみれってわけじゃないし、安心してお願いできると思ったの。どう?」
「は? 何考えてんだよ。」
「私は恋愛がしたいわけじゃない。それに相手にとっても悪い条件じゃないでしょ? 愛を求める気はゼロだし、デキた子供は認知しなくていいから。」
「結婚願望はないのかよ。」
「そりゃできればしたいけど、今の日本で結婚と仕事の両立は難しすぎるよ。そんな男もいないし。だから、ちょうどいい東田くんがいれば楽だなって。」
「そんなもんかね……。」
「まぁ、在学中に子供まで作る気はないから安心していいよ。私が産みたいのは24歳くらいかな。だからその頃までよろしくね。でも、東田くんが他に女作ったりしたら乗り換えてもいいよ。私が怒る理由ないし。」
雪永は俺の顔を見て言った。
「でも、シングルマザーって大変じゃないか?」
「大丈夫、私、全国育児支援協会に申請してるから。」
「え? なんだそれ?」
「ニュース見てないの?」と言って、雪永はカバンからパンフレットを取り出した。
「政府はこれまでの育児・出産支援の在り方を根本から見直して、『恋愛・結婚というプロセスに依存しない出産支援制度』を作ったのよ。ようするにシングルマザーを増やそうって政策。ここに申請すればお金や教育とかの支援が受けられるのよ」
「そんなのがあるのかよ……」
「うん。まぁ、私もまだ子どもを産みたいとは思わないけど、考えておいてよ。」
雪永は笑いながら言った。
「でも、いくら金や教育が不十分でもひとり親ってのはどうしても不都合な部分は出るだろう」
「私はそうは思わないな」雪永は言う。
「だって、例え両親が居ても虐待やネグレクトで不幸な子どもはたくさんいるでしょ? それに、私の周りにだってそういう子が何人もいる。それに、シングルマザーで育てる方がより親子の絆は強くなると思うわ」
確かに、雪永の言っていることは一理ある。両親での育児はその分余裕があり、どちらか片方に負担が偏りがちだ。でも、シングルマザーだとより密接に子どもに関われるというメリットもある。
「まぁ、良かったら考えて置いて」雪永は言う。
その後、俺たちは別れて家に帰った。帰り道、雪永に言われたことを考えた。
千鳥さんへの好意を見抜かれたこと、雪永が俺への好意を嘯いたこと、そして精液提供を頼まれたこと……。
雪永は俺のことなんて眼中になく、断ったら他の誰かを探すだけだろう。そう確信した。
でも、俺は雪永を非難できない。俺だって彼女をちゃんと見ていなかったのだから。
「千鳥さんをきっぱり諦めろ」なんて言われても、俺にはできそうになかった。
帰りの電車から夜の街を見ながら、そう思った。