※この作品はR-18です。

ゾンビにならないためにすべきちょっとのこと   作:リター

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性欲の発散

さぁ、俺もいよいよ待ちに待った入浴の時間だ。

 

脱衣所にて意気揚々と服を脱いで全裸になると、タオル片手に上機嫌で風呂場に突入する。

木桶で湯を掬い、さっと体を流すとすかさず湯船に足を着ける。本当はシャワーで身体を流してからにしたかったが、出ないものは仕方がない。

 

「熱い湯舟があるだけでも十分贅沢だが、シャワーも何とかした方がいいかねぇ」

 

そう言いながら入った湯の温度は家で使っていた風呂と比べるとそこそこといった熱さだったが、久々に感じる湯の感覚の前では気にもならない問題だ。

 

肩までゆっくりと湯舟に浸かっていると身体が解れてきたのか、疲労や身体の節々の痛みがじんわりと消え、筋肉が弛緩したような感覚に上書きされていく。

大きく伸びをするとバキボキと音が鳴った。凝り固まった全身の関節が悲鳴を上げているが、それが逆に気持ちいい。

 

「はぁ…ゾンビになっても生き返っちゃうな~」

 

全身を包む安堵感から不謹慎ジョークが思わず口を飛び出す。シズカに聞かれたら怒られるだろうか?

外から響く燃える薪の音を楽しみながら、俺は目を閉じて至福の時を過ごした。やはり風呂は命の洗濯だ……

 

そうして数分。湯舟との再会という感動が薄れ始めた頃だろうか、浴室内に充満する空気が気になり始めてきて火照った身体が落ち着かなくなってきた。

 

ここには濃厚な女の香り―――シズカの香りが充満している。

 

「これは…まずいな」

 

ショッピングモールで利用していたシャワー室でも、時折女の匂いというものを感じることはあったが…今回の『それ』は今までと少しレベルが違う。

湯舟で身体を温めたことによってシズカの出汁でも取れたのだろうかという勢いで、風呂には女の汗とフェロモンの匂いが残っている。

 

ここでナニかしてしまってはいけないと、邪な気持ちを払拭するように桶で湯を掬って頭から被ってみたが完全に逆効果だった。

考えてみれば、この行為はシズカ出汁を頭から被ったようなものだ。

 

近くにシズカが居ながら彼女の残り香を堪能しているという状況に、背徳感からムクムクと股間が反応してしまう。

 

…そもそも俺はこのゾンビパニックが起きてから数か月以上もの間、当然ながら一度も女を抱いていない。

シズカと生活するようになってからは彼女に気を使ってまともに自慰もできていない。その禁欲の日々が安全圏を確保したことで限界に来ている。

以前までの生活では日常の傍に危険があり、その対策を第一に努めてきたからこそ今日までシズカに変な気を起こすような事はしなかっただけなのだ。

こうして平和的な環境での日々が続いていくと、その心境に変化が生じてしまう事が嫌でもわかる。

 

俺はいつか我慢できなくなってしまうだろう。

 

……いや、もう俺はすでにシズカの事を女として強く意識しているのだ、あの女を自分の物にしたいという強い欲望に支配されている。

身体を湯舟に深く沈みこませると、水面に映った自分の余裕がない顔をひとしきり眺めた後、勢いよく立ち上がり裸身を空気に晒した。

 

「……………いい加減なんとかしないとな」

 

癒しを得るための湯舟で考え込んでしまった俺は、身体を回復する代わりに精神的に深い疲労を負ったのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

この家にはベッドが寝室に鎮座しているキングサイズのもの一つしかない。前の住人は同じベッドでしか寝ないくらいに夫婦仲が良かったと見える。

であるから別々の部屋で就寝することを提案したのだが、「論外」と頭のいいバリキャリ女によってにべもなく却下されてしまった。

 

「この別荘地は開発途中で周辺情報が安定していないの、ゾンビが来襲する可能性の有無も判明していないのに個別に生活するのはベストではないと言っているだけよ」

「そもそもこの別荘地がショッピングモールに住んでいた時のように外界から隔絶された場所でない事をちゃんと理解できているかしら?」

「こういった状況下において男女のプライバシーといった生存の為に直接関わりがないものを重視して居所を分けるという行為がプライオリティの高いタスクとは思えないわ」

「好き勝手に生活がしたいのであれば安全性を考慮して、最低でもゾンビが侵入できるような平坦な道は破壊するか、ブービートラップくらいは設置しなければならないの」

「それにあの軽トラの集団のようにゾンビ以外の危険も潜んでいないとは限らないのよ?狙ってくるものが命だけだとわかっているゾンビよりもある意味厄介といえるわね」

 

まるで洪水のように講釈を垂れ流しながら彼女は真剣な顔で地図とにらめっこしている。

どうやらこの地図は日が昇っている間にわざわざ屋根へとよじ登って自作したものらしい。

 

…彼女が屋根の上に引きこもってしまったのは不機嫌にしてしまったからだと思っていたが…流石はデキる女だ。無駄がない。

 

「現実的な手段で可能な限りの安全圏に逃れたからと言っても油断は……………ちょっと、聞いてる?」

「ああ、うん勿論聞いてるとも」

 

気のない返事をするがシズカの目は相変わらず手元の地図から離れない。今はトラップの配置する場所や仕掛ける罠についての選定に熱中しているようだ。

 

…まあ俺としても、別部屋での就寝を提案したのは彼女との関係性を考慮した上での建前に過ぎないのだ。

彼女にそう言った意図はないのかもしれないが、男としてはこれだけ可愛い女から同じ部屋で寝ろと誘われて嬉しくない筈がない。

据え膳食わねば万死に値する、とかなんとか言うヤツだ。

 

ベッドに腰かけるシズカへとおもむろに近付き、互いの肩が触れるほどの距離に腰かける。

流石に突然のこいうった行動には驚いたのか、彼女は警戒するようにバッと顔を上げると、俺の顔を覗き込んできた。

 

「いきなりどうしたの…?ちょっ…!」

 

その対応への返答とばかりに、俺はシズカの太ももに手を乗せ軽く揉みしだいた。普段から運動を欠かさない彼女は筋肉のついたとても触り心地の良い脚をしており、煽情的だ。

揉んでいる手をスッと足の内側まで舐るように這わせ、指で内ももをなぞると彼女の足は少し跳ね、くすぐったそうな小さい声を漏らす。

シズカは声をごまかすようかのに身じろぎをすると、肌の感覚を愉しむようにスリスリと動く俺の手を止める為に手首を掴んだ。

 

「………」

「おい、どうかしたか?男と寝るってこういうことだよな?」

 

こちらの目を見つめながら口をもごもごと動かしてはいるものの、彼女からはっきりと聞き取れるような言葉は出ない。

そうこうしている内に俺の手は彼女の制止を振り切り、やがて指はピンク色のショートパンツと太ももの隙間から中へと滑り込んだ。

鼠径部へと伸ばした指先に素肌とショーツとの境目が振れる。ショートパンツの内側に籠った熱は理性を溶かしていく。

 

「……っ」

「嫌なら言え、そしたらなにもしねぇよ。ただ、いま止めないなら俺は最後までやるぞ」

 

今の俺が性欲のままに行動しているのは否定しないが、唯一の隣人をこんなことで失うぼど考えなしでは、この世界を生きていけない。

だからシズカが嫌と言えばやめる、それが最後の一線だった。

 

「何よ……やっぱあんたもそれ目的じゃない……最低」

「なんだ、他のヤツにもヤられそうになったのか?」

 

外は危険地帯ばかりで警察もまともに機能していない状況だ。逃げ場のない閉鎖空間で男女が暮らせば『そういうこと』があっても不思議ではない。

俺と会うまで一か月間、彼女が無事でいられたのは慎重な性格と計画性のみの賜物ではなく、運も良かったのだろう。

 

「サービスエリアで……だから、その前に逃げ出した…でも、今回は逃げられないみたい」

 

小声でそう言うと目を逸らす。シズカの手はベッドの上に力なく置かれており、逃げる素振りも軽い抵抗すらも見せなかった。

その態度でもう答えを言われているようなものだが、俺はあえて返答を待つ。待たなければ最後の一線を越えてはならない。

 

それから数分後、ついに意を決したシズカが小さく「勝手にしなさいよ…」と半ば諦めたように呟いた。

 

夜は長くなりそうだ。

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