遠月学園高等部一年最大の行事である秋の選抜が終わり、俺たち生徒には平穏な日常が戻って──来るようなことは特になく、既に新たな課題に直面していた。
学園外部にある料理施設へと派遣され、実際の現場を学ぶ行事。──
実施期間は一ヶ月。生徒は各自、全部で四箇所の派遣先を回る。一箇所につき一週間だ。生徒たちに与えられた合格基準は『目に見える実績』を残すこと。
合格基準を満たせない者、遠月の名前に泥を塗るような行為をした者は容赦なく退学となる。また大量に同級生が減るんだろうな。
退学なんて論外なので、当然俺も真剣に望まざるを得ない。適当にやっても料理は出来るが、接客や周りとの連携も評価対象だからだ。明らかにやる気のない奴なんて評価されるはずもない。
今日で三つ目の派遣先を無事に終えたが、中々に疲れた。普段女を攻略すること以外は適当に流しているツケが回ってきたかな。
帰りのリムジンの中で
「……んんっ! な、なんかぁ、他のこと……考えてる、でしょ! ちゃんと、私に……んあっ! 集中、しなさいよね……!」
座席に腰掛ける俺に跨り、対面座位の体勢でイチモツを受け入れているのは──薙切アリス。
三箇所目の派遣先が偶然同じだったこともあり、どうせならと一緒に帰ることを提案したのだ。このリムジンは俺が手配したものなので、こうしてセックスしていても咎められることはない。窓にはカーテンをかけてあるし、外から見られることもない。安心安全なプライベート空間だ。
「はいはい。悪かったよ、お姫様。ほら、お詫びに奥の方突いてやるから。……よっと」
「んぐっ!! あんっ、おく、気持ち良い……! もっと! もっと突いてぇっ……!」
俺がイチモツで突き上げるのに合わせて、アリスも腰を動かす。教えれば教えた分だけこういった技術を覚えるのには感心させられてしまう。
天才肌は何をやらせても天才ということか。
アリスを最後に抱いたのはもう一ヶ月以上前のこと。秋の選抜予選で黒木場を負かした後に電話してから、アリスには連絡すら取っていなかった。俺の方から連絡するまで待つなんて生意気なことを言われたので、放置したのだ。他の女を抱く予定もあったし、俺の方は何も問題なかった。
三日ほどでアリスの方から泣きついてくると予想していたが、プライドのためか一週間ほどは我慢出来ていた。そこからは毎日のように電話とSNS通知がバンバン来るようになったけど。
だから抱いてやる以前に、顔を合わせるのが久しぶりのこと。今週のスタジエール先だったラーメン屋でもチラチラ俺の顔を見ていたし、可愛かった。よっぽどセックスしたかったのか、始めてからずっと腰使いが激しい。
「……ふぅー。出た出た」
「……んんっ。ッ……!」
学園に戻る途中なので中出しを決める訳にもいかず、ゴムの中に射精する。
「……もう、生でしてほしかったのに」
「それは無理だろ。精液の臭いとかでバレたらどうすんだよ。もう抱いてやれないぞ?」
渋々といった様子ではあるが、素直に頷くアリス。こういう理性が働く辺り、最も重要な部分が俺に抱いてもらうことなのは変わらないようだ。それでいい、中出しなんて環境を整えればいつでもしてやれるんだから。
精液の溜まったゴムを処理し、着崩れていた制服をアリスと一緒に正す。そろそろ学園に到着するので、シートベルトをして座り直した。
「スタジエールも後一箇所か。一ヶ月がこんなに長く感じたのは久しぶりだったよ」
「そう? 私は楽しんでますけどね」
「そりゃそうだろ。ラーメン屋で働く薙切アリスなんてもう二度と見られないだろうしな。そういう意味じゃ、俺はラッキーだったかも」
黒いTシャツが白い肌をより一層輝かせ、頭に巻いていた白いタオルが銀髪を更に引き立たせる。ラーメン屋の店員とは思えない可愛さだった。Tシャツが薄生地だから胸の大きさもハッキリ分かってエロさも兼ね備えていたし。
「もうすぐ秋も終わりか。冬になってもこういう試験が多いんだろうな」
「私達なら問題ないでしょ? 秋の本戦出場者なんだもの。……貴方が葉山くんに負けたことはまだ納得出来ていないけどね」
「またその話か。負けは負けだ。それ以上でも以下でもねぇよ」
流石に気付く奴は気付くようで、アリスは俺の敗北に疑問を抱いていた。予選の時に本気出したから、そう思うのも無理はないが。
なんならアリスだけじゃなく、えりなも似たような疑問は感じているはずだ。『わざと負けた』まではいかないかもしれないが、『理由のある敗北』ぐらいは見透かされていると考えて良いだろう。何か手を打っておかないとな。
そんなことを考えていると、リムジンが学園に到着。燦徳家のリムジンなので、運転手を労ってから帰らせた。
当然の配慮として、アリスを住んでいる屋敷まで送り届ける。アリスは屋敷の扉の前で振り返ると、名残惜しそうな表情で言葉を投げかけてきた。
「ねぇ、正吾くん。……私の身体、気持ち良かったかしら?」
「ああ。当たり前だろ。アリスの身体は最高だよ」
「……ふふっ。……ねぇ、キスして?」
「ダメだ。見られたら洒落にならん」
「……むーっ」
頬を膨らませて抗議するアリスだが、俺の返答は変わらない。ここは既に薙切家の敷地内で屋敷の前。日が落ちているとは言え、誰が見ているか分からない状況だ。そんなリスクのある行動は起こせない。
しかし、それで納得出来るほどアリスは大人ではない。俺は仕方なく、アリスだけに聞こえる声量を出した。
「……今度は、中に出してやるよ」
その言葉に、アリスの顔が赤く染まる。そして同時に目を蕩けさせながら、嬉しそうに頷いた。自分で調教しておいてなんだが、令嬢がしていい反応じゃないよな。本当に俺が言うことじゃないんだけど。
「最後のスタジエールも頑張ろうな。おやすみ、アリス」
「……ええ、おやすみなさい。正吾くん」
恋する乙女のような顔で屋敷に入って行ったアリス。精液の臭いでセックスバレはしなくとも、あの表情で恋していることがバレそうだ。
まあ、それは別に問題ない……だろう。超が付く親バカな父親は海外に居るし、従者の黒木場は色恋に興味がないタイプだ。精々気付くとしてもどこか浮かれている、ぐらいだろう。
「……さて、えりなへの言い訳はどうするかな」
寮への帰り道、俺の頭はそのことについてだけ考えていた。
下手な言い訳をすれば好感度が下がりかねないし、今後の攻略の難易度にも関わってくる。そもそも言い訳する機会をどうするかだ。電話でするほど軽い話ではないし、スタジエール中だから直接会いに行くのも控えたい。
「最後のスタジエール先が一緒なら楽なんだけどなぁ……」
流石に都合が良すぎるかと短絡的な考えを振り払いながら、俺は明日に備えて早めに眠りについた。
最後のスタジエール先で、俺は顎が外れそうなほどに驚かされた。
店はそれなりに有名なレストランだった。星を獲得するほどではないが、何度も雑誌に取り上げられているぐらいには知名度もある店だ。
目に見える実績を作る難易度はまあまあといった感じだが、俺が驚かされたのはもちろんそこではない。
──薙切えりなが、
俺にとっては宝くじの一等が当たるぐらいの激運。昨日、短絡的で浅はかだと切り捨てた思考に助走つけてぶん殴られた気分だ。
まさに神の一手。俺が抱えている問題を一撃で解決出来る運命としか言えない巡り合わせだった。
焦るな。焦りは禁物だ。
と言うのも、えりなはスタジエール中、俺と顔を合わせて話したがらなかった。必要な会話自体はしてくれるし、無視されている訳ではないのがまだ救いだったのだが。
予想していた通り、明らかに俺が葉山に負けたことを意識されている感じだ。どう接していいか分からない、どう話して良いか分からない、そんな感情がえりなの方から伝わってきた。
むしろやりやすくて助かる。一週間のスタジエール中に解決しなくて良い。勝負をかけるのはスタジエールが終わった後。アリスと同じように二人きりで話すチャンスは必ず来るのだから。
この一週間、ただただ真面目に研修をこなし、えりなと共に合格。一ヶ月にも渡るスタジエールを無事に乗り切った。
しかし、俺にとっての正念場は今から始まる。えりなと一緒に迎えの車を待つ──この時間から。
「……ふぅ。……いくか」
天候は
先に店を出ていたえりなの背中を見て、気合いを入れる。ここでの会話はとても重要だ。俺の野望が叶うかどうか決まるぐらいの気持ちで挑むとしよう。
「お疲れ、薙切さん。……凄い雨だね。もう少し屋根の方に入ったら?」
「さ、燦徳くん……。そ、そうね。そうするわ」
やはり顔を合わせてはくれないが、無視はされない。
ここからどう切り出すか、それが問題だ。一番簡単なのはえりなの方から訊いてきてくれることなのだが、そう上手くはいかないだろう。……が、その可能性が全く無い訳でもなさそうなので、少し切り出しやすい流れを作ってみる。
「これでスタジエールも終わりか。秋の選抜も終わったし、冬が近くなってきたね」
「……え、ええ」
「秋の選抜では負けちゃったからなぁ。今回の試験で成長出来てると良いんだけど」
「…………」
えりなの隣に立ち、並んで雨音を聞く。無理に会話しようとはせずに、待ちの姿勢だ。
こうして時間を与えてやれば、ぶら下げた餌にえりなは食いつく。俺はこの一週間えりなを観察していて確信している。間違いなく、えりなはあの敗北の真相を確かめたがっていると。
「──……本当に、負けたの?」
雨音にかき消されそうな呟きだったが、俺の耳は確かにその問いかけを拾った。食いついた瞬間を逃さないよう、俺は笑みを深めながら聞き返す。
「それって……葉山に負けたこと? どういう意味かな?」
「あっ、そ、その……ごめんなさい。失礼なことを言いました。……忘れてください」
「別に怒ったわけじゃないよ? 少し……驚いたって言うかさ。薙切さんは……俺がわざと葉山に負けたって思ってるの?」
謝罪で会話を切り上げようとなんてさせない。気になっていたんだろ? もっと問い詰めてこい。
「そ、それは……」
「安心して。薙切さんに何を言われたって怒ったりしないよ。大切な友達だからね」
話しやすい状況は丁寧に整えてやった。後はえりながどう動くか次第だ。
「…………あの時、燦徳くんが出した品。予選の時に比べて……その、随分と劣っていたように感じたの」
えりなはようやく目を合わせて話をしてくれた。失礼なことを言っている自覚があるからか、少しだけ申し訳なさそうな顔をして。
「予選の品を見た時、正直言って貴方の優勝を確信したわ。だから……葉山くんに負けたことが理解出来なかったの」
「……驚いたな」
「ご、誤解しないで! 葉山くんとの勝負で出した品も十分完成された品だった!」
「でも、それが俺の本気の品だとは思えなかった……ってことだよね?」
「……ええ。それがずっと、気になっていたの。だから貴方の顔を見ることが出来なくて。……ごめんなさい」
もう一度謝罪し、律儀に頭を下げたえりな。ここまで曝け出したなら十分だ。後は俺がその疑問に考えておいた答えをぶつけるだけ。
「──ありがとう。薙切さん」
「……えっ?」
突然感謝されたことに首を傾げるえりな。嫌われるとでも思っていたのか、間の抜けた声を溢した。
「まさか気付かれるなんてなぁ。流石は薙切さん」
「じゃ、じゃあ……やっぱりわざと?」
軽く頷いて肯定。視線を暗くなった空に向けながら、えりなが求めているであろう答えを与える。
「……俺は、ずっと一人で料理してきたんだ。才能ってやつがあったんだろうね。誰と勝負しても負けることはなくて、勝つのが当たり前だった」
どこか悲しそうに話すことを意識しながら、続ける。
「それがなんか……寂しかったんだ。競える相手が欲しかった。俺と同じぐらいか、それ以上の実力を持った
「……燦徳くん」
「遠月学園はいい場所だよね。期待出来る才能を持った料理人が大勢居る。……
共感される……まではいかないかもしれないが、えりなにとってこの感覚は全く理解出来ないものではないはずだ。圧倒的実力で高みに居続けてきた女王、薙切えりななら。
「だから、かな。葉山には期待したんだ。これからもっと強くなるアイツは……俺が求めてる料理人になってくれるんじゃないかってさ。準決勝で俺が勝てば、その才能を摘んでしまうかもって思ったんだ。決勝に上がらせて、そこでまた才能と才能をぶつけ合わせれば、料理人としてまた一つ成長する。──……俺は、それに期待したんだ」
再びえりなの顔に視線を向けると、えりなは目を見開いて驚いていた。どんな答えを予想していたかは分からないが、少なくとも好感度が下がっているような様子は見受けられない。これは、上手くいったと見て良いんだろうか?
「……燦徳くんは、孤独だったの?」
「……かもね。傲慢だって、思うでしょ? けど、俺は何人も見てきた。俺に挑んだ料理人たちが、才能の差に絶望して辞めていくのを」
「才能の……差」
「人は誰しも思いたいんだ。天才には勝てない。どれだけ努力しても、無駄なんだってね」
悲劇の天才みたいなことを言っているが、実際に才能100%でやってきているのでどの口が言ってんだよと自分にツッコミを入れたくなる。
「だから俺は、遠月に来て良かった。秋の選抜で優勝した葉山に、準優勝した創真。予選から本戦に勝ち上がった料理人は全員、俺なんかに潰されない才能の持ち主だって分かったから。この出会いに感謝だよ。──もちろん、薙切さんと会えたことにもね」
「……私との、出会い」
「料理人は出会うことでしか成長出来ない。一人で皿を覗いても、そこに映るのはそれまでと同じ自分なんだ。……なんてね」
これだけ話せば言い訳に足りたか? さて、どうなるか。頼むから良い感じに誤解して俺への好感度を下げないでくれ。贅沢を言えば跳ね上がってくれ。めっちゃ贅沢を言えば惚れてくれ。……流石にそれはないか。そんな簡単に攻略出来る女なら逆に拍子抜けしてしまう。
しかし、そんな心配は杞憂だ。薙切えりなは、極上の獲物なのだから。
「……私が、なってみせるわ」
「薙切さん?」
「私が──貴方の
やっぱり、良い女だ。俺の見る目は確かだったと改めて思う。
この世界に転生して決めた野望をこの女にして、本当に良かった。
「……うん。期待してるよ、薙切さん」
「『神の舌』の力、見せてあげます。燦徳くん」
数秒見つめ合い、その後──二人で笑った。
狙っていた通り……いや、それ以上の成果が得られたと見て良いだろう。今後は葉山の時のように手を抜く予定もないし、えりなに失望されるようなこともないだろう。これからえりなを攻略するための一大イベントも控えているし、気が抜けないな。
「あっ、迎えが来たね。……あれは、薙切家のリムジンか。薙切さん、本当にお疲れ様。また学園でね」
「え、ええ。そうね。……また、学園で」
丁度良いところでえりなの迎えが到着。別れの時間がやって来た。
だが今回の山場を乗り切ったことで、えりなとの関係は改善。また学園で他愛もない話も出来るだろうし、電話をかけてみても良いかもしれない。料理という便利すぎる口実もあることだし、攻め方には困らない。
「…………」
「……?」
俺が満足感に浸っていると、何故かえりなが動きを止めていた。リムジンの扉は開かれ、後は乗り込むだけだというのに。
「どうしたの? 薙切さん。何か忘れ物?」
「……え、えっと。その……」
何か言いたそうだが、その言葉が出てこない。そのままえりなが数十秒ほど固まっていると、俺を迎えに来たであろうリムジンが店の近くまで来た。
「俺も迎えが来たみたいだ」
「あっ……」
口から出かかった言葉を飲み込むえりな。余程言いにくいことなんだろうか。仕方ないので助け舟を出すことにした。
「薙切さん。何か言いたいことがあるんだよね? ちゃんと聞くから、言ってみて?」
「燦徳くん……」
促したことで決意が固まったのか、えりなが口を開く。恥ずかしいのか頬を赤らめながら、俺の目を見て不安そうに言葉を告げた。
「……良かったら、学園まで一緒に帰らない? ……もう少し、燦徳くんと……その、話したくて……」
──今度は俺の方が固まった。
何を言われたのか一瞬理解出来ず、思考がフリーズしてしまった。え? なに? 一緒に帰ろうって誘いたかったのか? は? 可愛すぎるんだが?
「ご、ごめんなさい……! 今のは忘れ──」
「──喜んで。俺もまだ薙切さんと話したかったんだ」
「……えっ?」
こんな豪華な餌をぶら下げられたんだ。食いつかない訳にはいかない。俺はすぐにスマホを取り出して、迎えに来た運転手へ電話をかけた。
「もしもし。来てもらって悪いが、薙切さんの車に乗せてもらうことにした。……ああ、そうだ。すまない。気を付けて帰ってくれ」
「さ、燦徳くん……?」
「これで帰りの車がなくなっちゃったよ。薙切さん。申し訳ないんだけど、乗せてもらっても……良いかな?」
あくまでも低姿勢に、受け入れやすい状態を作る。こんな風に異性を誘ったことなどないであろうえりなには、これぐらい慎重でいなければ。
「も、もちろん! さあ、乗って」
「お邪魔します。誘ってくれてありがとうね。薙切さん」
俺が自分で思っているよりも、えりなからの好感度は高いのかもしれない。
攻略が順調に進んでいることを実感しながら、俺は学園までの帰り道でえりなと肩を並べて会話に花を咲かせた。
しゅ、週一の投稿はしたい……(震え声)。