※この作品はR-18です。

食の魔王を(性的に)喰らう者   作:スイートズッキー

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33話 覇王の遊戯

 

 

 

 日本海の最北に位置する離島──礼文島(れぶんとう)

 

 進級試験の終着点であり、最終試験会場となる島だ。

 島には既に遠月学園によって特設会場が設立されており、連隊食戟の舞台は完成済み。ここで繰り広げられる勝負の結果によって、俺たち反逆者メンバーの生き死にが決まるというわけだ。

 

 会場内には最終試験をクリアした生徒に加えて講師の面々など、数百人以上の観客が今か今かと勝負開始を待ち侘びていた。登場前の控え通路に居ても、観客たちの熱気が伝わってくるようだった。

 謂わばこれは公開処刑。『中枢美食機関(セントラル)』に逆らう者たちを一掃し、薙切薊の思い描く世界を実現するための前座ぐらいにしか思われていない。

 

「……本当に、ムカつく奴」

 

 照明によって美しい輝きを放つ調理場を眺めながら、薊への苛立ちを高めておく。あの捻じ曲がった根性と終わっている人間性を叩き直してやるために、今回の勝負は必ず勝たなければならない。

 あんなのでも、えりなの実の父親だ。俺がえりなと結婚すれば書類上は家族になる。いつまでもガキのままでいられたんじゃいい迷惑だ。

 

『みなさーんっ! 今回の司会を務めさせて頂くのは〜! 九十二期のアイドルっ! 川島麗ちゃんで〜すっ!!』

 

 そして会場に響き渡る司会の声。猫かぶって清純派を気取っていた少女に、以前の面影はない。ヘビィメタルでも始めそうな荒々しい服装だ。形から入る分かりやすい闇落ちに、ちょっと笑った。

 

『それでは親愛なる薊政権の勝利を願って! 我らが十傑メンバーの登場を拍手でお迎えいたしましょうっ!』

 

 耳が痛くなるほどの歓声に包まれながら、現在の十傑が登場。

 司瑛士、小林竜胆、茜ヶ久保もも、斎藤綜明、叡山枝津也といった元々十傑だったメンバー五人に加えて、新たに十傑入りした三人のメンバーを合わせた計八人のチームが姿を現した。

 

『さあてっ! お次は愚かにも崇高なる薊政権に歯向かうゲボ同然の身の程知らずどもっ! 憎き反逆者共の登場だァッ! ──入って来いやッ!!』

 

 あまりにも贔屓が過ぎるコールによって、俺たちも会場入りを果たす。向こうのメンバーが八人であるように、こちらのメンバーも八人だ。

 元々居た俺、えりな、創真、田所さんの四人に加えて、新たに追加で四人のメンバーに参戦してもらった。

 

 極星寮の裸エプロン先輩。元十傑・第七席、一色慧。

 チビが禁句の中華ボーイ。元十傑・第八席、久我照紀。

 寡黙なラーメンマスター。元十傑・第三席、女木島冬輔。

 原作随一のチートキャラ。使える男、美作昴。

 

 以上の四人を加えた八人が、俺たち反逆者連合のチームとなる。

 現状集められる中で、最強のメンバーを集めたつもりだ。四人中三人は全員が元十傑だし、美作に至っては俺が鍛えたせいで原作よりも実力は上がっている。正直、俺が居なくても普通に勝てると思うぐらいには強いチームになってしまった。

 

「しょ、正吾! えりな様は無事かっ!?」

「正吾くんっ! 会えて嬉しいわっ」

「無事で良かった……!」

「フン、だから言ったろ? 心配なんてするだけ無駄だってな」

 

 観客席から巻き起こるブーイングの嵐を聞き流しながら、退学処分を受けてしまった愛すべき女たちの近くへ歩み寄る。何故か全員ゴツい檻に収監されていたので、鉄格子を挟んだ再会になってしまったのが残念だが。

 

「ん、元気そうで安心したよ」

「……すまない。敗北した上に、こんな無様な姿を見せて」

「も〜っ、秘書子ちゃんしつこいわよぉっ! いい加減切り替えて正吾くんたちを応援しなきゃっ!」

「そ、そうよ。緋沙子さん。アリスの言う通りだわっ」

「過ぎたことを言っても仕方ないからね。アタシらに出来るのは信じて結果を見届けることだけさ」

 

 意外と全員元気そうだったので一安心。

 退学した反逆者メンバーたちが学園へ強制送還されずに試合を観戦していた記憶があったので、この会場で会えることは確信していた。そんなに長い時間が経ったわけではないにも関わらず、少し懐かしさを覚えてしまった。

 

「大丈夫だ。さっさと終わらせるからな」

「が、頑張ってくれ……!」

「私たちを生き返らせてねっ!」

「し、信じてるから」

「……負けんじゃないよ」

 

 やはり、女から向けられる信頼は良いものだ。男冥利に尽きると言うか、なんだかやる気が湧いてきた。単純だな、男って。

 

『さあ、1stバウトの料理人が決定しました! 『中枢美食機関(セントラル)』からはこの三人ですっ!!』

 

 まだ闇落ちキャラも固まっていないのか、以前のあざとい川島の状態で対戦する料理人が発表された。

 スクリーンに映し出された名前は──『鏑木(かぶらぎ)祥子(しょうこ)』、『白津(しらつ)樹利夫(じゅりお)』、『上間瀬(かみませ)御貫(みぬき)』の三人。

 

 俺が寧々を潰した影響で、原作では登場すらしていない奴が十傑入りを果たしていた。これぐらいの改変なら問題はない。

 俺はえりなの近くに立ち、チームメンバーの証である黄色のバンダナを差し出して腕に結んでもらいたいと頼んだ。えりなは少し照れた顔を見せながらも、これを承諾。旦那のネクタイを結ぶ嫁に見えて、やる気が上がった。

 

「じゃあ、行ってくるよ」

「ええ。……行ってらっしゃい」

「へへっ、ぶちかましてこいよっ! 正吾!」

「が、頑張ってね! 燦徳くんっ!」

 

 えりなたちに一声かけ、美作と先輩たちに軽く視線を向けた後、俺は一人で調理場へと上がった。誰もついて来ることなく、たった一人で。

 調理場へ立った瞬間に〝負けちまえ〟や〝反逆者め〟といった野次が四方八方から飛んできた。それに紛れて〝女(たら)しクズ野郎〟や〝四股クソ男〟と叫んだ奴は絶対に特定して泣かすと決めた。会場の監視カメラから何から全て使って絶対に特定してやる。燦徳の力を舐めんなよ。

 

 とまあ、それはそれとして──目の前の相手を見定める。

 

 三人とも空いた穴に飛び込んだ新しい十傑だ。

 深めに帽子を被った唯一の女である第五席・鏑木祥子。なんか動きがナルシストっぽい白津樹利夫。そして……原作では寧々が担当していた第六席の上間瀬御貫。予想通りと言うか、誰一人記憶にない。所詮は当て馬連中だし、それも当然か。

 

「──燦徳正吾ッ!!」

「……うおっ、ビックリした」

 

 いきなり目の前に近寄ってきたのは上間瀬御貫。二年生である鏑木や白津の態度から察するに三年生だろう。つまり、司や竜胆と同期ということになる。遠月学園の過酷な生存競争を勝ち抜いてきた最上級生だ。

 何やら興奮している様子だったので、あまり刺激しないように心掛けながら対応することにした。

 

「どうも、上間瀬先輩。初めまして」

「……()()()()()、だと? ……僕のことを忘れたのかッ!!」

 

 おっと、刺激しないようにって決めた瞬間に地雷踏んだっぽい。マジかぁ、会ったことある系の奴かぁ。どうでもいい男の顔とか覚えらんねぇんだよな。ここまでブチギレてるってことは俺に何かされたんだろうし、下手なこと言えば更にキレさせちまうか。

 

「……すみません。実は──」

「僕はこの日を待ち望んでいたっ! 君と再戦出来るこの日をッ!」

「学園で生き残るのに必死で、相手の記憶が曖昧──」

「忘れもしないっ! 君に屈辱的な敗北を喫したあの勝負ッ! 僕の身体に刻み込まれたあの衝撃をッ!」

「失礼かと思いますが、どうかご容赦の程を──」

「君という料理人に全てを狂わされたっ! そして、全てを変えられたッ! 僕の人生で……最も幸せな日だったというのにッ!!!」

 

 圧が強い。てか、顔が近い。

 男と至近距離で顔を合わせる趣味はないので、一歩退がって距離を取る。

 

 なんなんだこの熱量。

 憎悪を込めてキレられていたかと思えば、最後には幸せな日だったとか言い出すし、マジで意味が分からん。こっちはお前の顔も覚えてなければ、お前に対して何をしたのかも覚えてないんだよ。勝手に盛り上がるな、説明をしろ。

 

「学園内でも天才と称され、十傑入りも間近と言われていた僕の前に……君は現れたッ!」

 

 なんか知らんけど説明してくれるっぽい。心の祈りが届いたのかな。

 

「下級生から挑まれた食戟ッ! 断るわけにもいかず、僕は快諾した! 僕が賭けたのは()()()()()! 君は燦徳家の権力を使用出来る権利を提示してきたんだっ!」

「……?」

 

 そんなことあったか? 自身の部屋ってことは個室を賭けて……あっ、思い出した。

 

「……俺が遠月学園で、()()()()()()()()()だったんですね」

「ッ! ああっ! 思い出したのかっ! 燦徳正吾! そうだっ! 僕は君のハジメテを貰った男だッ!」

「その言い方不愉快なんでやめてもらえます?」

「僕は何の抵抗も出来ずに蹂躙され、大切なモノを奪われた……」

「部屋な? 部屋」

「あの時の熱はまだ僕の身体に残っているんだ。……忘れられるはずがない。あんなに凄い味、君以外では考えられないよ」

「よし分かった。気持ち悪いからもう喋るな」

「……んんっ、その瞳。やはり君は最高だ! 殺気すら纏った立ち振る舞い……! それでこそ、僕を生まれ変わらせた男だっ!」

 

 ダメだコイツ、無敵の人だ。

 まあでも、俺に何されたかは大体分かった。女を連れ込むヤリ部屋が欲しくて、入学してからすぐに食戟で潰した先輩だ。一年近く前のことだったから、すっかり忘れてた。元々男が相手だし、覚える気もなかったんだけど。

 

「生まれ変わった僕は更なる研鑽を積んだっ! 君の料理に近付けるようっ! 君に見てもらえるようっ! 薊総帥のお力添えもあって、僕は強くなったんだッ!」

「……そ、そうですか」

 

 後ろでこちらを見ている鏑木と白津が若干引いてた。分かる、俺も引いてる。なんなら俺もそっち側に行きたいぐらいだ。誰かこのモンスターを止めてくれ。

 

「失望はさせないっ! 退屈もさせないっ! 僕は君と再び戦えるこの日を、ずっと待っていたのだからっ!! 弱かった僕では踏み台にすらなれなかった! あんな思いはもうさせないっ! ──さあ! 共に踊ろうッ! 燦徳正吾ッ!!」

「時間がもったいないので、テーマ食材のくじ引きは俺が全部引かせてもらいますね。鏑木先輩、白津先輩」

 

 真正面から相手しては敵わないので、華麗にスルーを決めておく。鏑木と白津も助かったという表情をしていることから、どう進めて良いか分からなかったのだろう。これには敵ながら同情する。

 

「ふっふっふ、そんな態度もまた味がある。当然! 燦徳正吾の相手はこの僕! 上間瀬御貫と決まっているッ!」

「はぁ、そうですか」

「鏑木! 白津! お前たちには他の二人を任せるよ! 僕たちの戦いに負けないよう、ベストを尽くしてくれッ!」

「そうですねー」

「1stバウトは我々『中枢美食機関(セントラル)』が全勝を……待て、燦徳正吾」

「なんですか?」

「……後の二人は何故出て来ない? さっきから調理場に立っているのは君一人ではないか」

 

 沸騰していた頭が勝手に冷えたようだ。これなら話も聞いてくれるだろう。

 

「これで問題ありません」

「……何? それはどういう意味なんだい?」

 

 上間瀬だけでなく、鏑木と白津も怪訝そうな顔を見せる。先程までの呆れた表情とは違って、プライドを傷つけられた料理人の顔だ。

 オブラートに包んでやる必要もないので、単刀直入にこちらの意図を伝えておく。

 

 

「1stバウト、反逆者側から出る料理人は──()()()()()

 

 

 その瞬間、会場の空気が凍った。

 俺としては猛烈な批判の数々が飛んでくると思っていたので、拍子抜けといったところだ。俺の目の前に居る三人も、これから始まる試合を観戦しようとしている観客も、全てを見下ろす席に座っている薊ですら、状況の理解に思考が追いついていないようだ。

 

 列車の中で行った特訓で俺は気付いた。俺のチートが、連携に全く向いていないということを。

 考えてみれば当然だ。そもそもが俺の身体を勝手に動かしているわけだし、他人との連携なんて出来るはずがなかった。互いをサポートしようとすること自体が間違い。俺は俺の料理にしか力を発揮出来ないということがハッキリと分かった。

 

 意外な弱点を自覚出来たという点については、特訓の成果と言えるだろう。えりなの前で野菜の皮剥きに徹した無様な姿にも、意味はあったというものだ。

 

「ふ、ふざけるなっ! 君の相手はこの僕だっ! 一対一でなければダメなんだっ! 僕だけを見てくれっ! 僕だけを……!」

 

 相変わらず発言が危ない男だ。初対面の時はこんなんじゃなかったと思うんだけどな。俺の料理のせいだとしたら、なんか申し訳ない。

 だが、この決定を覆すつもりもない。1stバウトは俺一人で戦う。これはチーム全員が認めている作戦であり、勝負を有利に進めるための最善手。……という建前でゴリ押した。

 

「私たちを相手に……一人で? 舐められたものね」

「威勢が良いのは結構だが、後悔することになる!」

「……ぼ、僕だけを……僕とだけ……!」

 

 一人を除いて想定通りのリアクションだ。プライドの高い料理人を相手に三対一を挑もうとしているのだから、当然の反応ではある。

 

「舐めているのか、後悔することになるのか。……どうなるのか。すぐに分かりますよ」

 

 手に取った三枚のくじをオープンし、対決テーマを発表。

 

 鏑木祥子との勝負は──『牛肉』。

 白津樹利夫との勝負は──『うなぎ』。

 上間瀬御貫との勝負は──『ピザ』。

 

 それぞれの対決テーマが決定し、食材保管庫から各自必要な食材の用意も完了。流石に三品分の食材を運ぶのは中々に骨が折れた。

 

 そして今回の連隊食戟全ての試合で審査員を務める者たち、WGO(ワールドグルメオーガニゼーション)執行官(ブックマン)と呼ばれる三人も到着した。アンという紅一点の女は好みだが、俺の獲物ではない。WGOには他に狙いたい女が居るので、候補からは外してある。

 

 さて、これで食戟の準備は整った。

 未だに会場中が騒ついているので、余程信じられない光景なのだろう。俺としては城一郎さんの一対五十の方がヤバいと思うんだけどな。それに比べれば可愛いもんだろ。今回の食戟でも一対多数は認められているし、ルール上も問題はないのだ。

 

 この1stバウトで何故一人で戦おうと思ったのか、それにはもちろん理由がある。

 一人で相手を三人落とせれば有利になる、一人に三人落とされたとなれば相手の動揺を誘える、ただの嫌がらせなどなど。取って付けたような理由は幾らでも挙げられるが、答えはもっと単純な話だ。

 

 この場所に来るまで、俺は列車生活を送っていた。

 身近に居たのはえりな、創真、田所さん、城一郎さん、堂島シェフ、遠月学園前総帥・薙切仙左衛門。手を出せる女が一人として居ない。つまり、性に対する禁欲を余儀なくされていたのだ。苦痛、それ以外の言葉が見つからない地獄のような時間だった。

 

 連携の練習には参加出来ないのでえりなと触れ合う時間も少ないし、ストレスと性欲はどんどん溜まっていった。

 だから思った。噛ませ犬が出てくる1stバウトは俺が貰おうと。溜め込んだストレスを発散するためのサンドバッグにしてやろうと。以上が、俺が一人で戦いたかった理由の全てだ。

 

「……よし、始めるか」

 

 愛用の包丁を手に取り、意識を集中。

 チートを発動させ、溢れ出る衝動に身を委ねた。

 

 

 

「──()()()()()

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

「……すっげぇ」

 

 どこまでも純粋な賞賛が、幸平創真の口から溢れた。

 視線の先に居るのは三品を同時に調理している料理人、燦徳正吾。次から次に作業を終わらせ調理場を移動する様子は、さながら美しい舞を見せられているようにも感じてしまう。全ての動作に無駄がなく、作業と作業の繋ぎ目にもタイムロスがない。まるで最初から、全ての動きを決めていたかのような滑らかさだ。

 

「さ、燦徳くん。凄い……! 一度に三品作るだけでも大変なのに、あんな複雑な調理を……」

 

 信じられないものを見るかのような目で、田所恵が呟く。その瞳に宿っているのは羨望というより、僅かばかりの恐怖だった。

 そんな人間業ではない技術に、薙切えりなだけが驚きを見せなかった。

 

「あの複雑な調理を三品同時にこなしている。……流石は正吾くんね」

「で、でも! どうしてあんなに早く!? 一人で作業してるのに、相手チームの三人と調理速度が変わってないよ!?」

「……本当だな。正吾の奴、仕事が早いのは確かだけど、それだけじゃねぇ気がする」

 

 田所の言葉に頷きながら、創真が目を細める。手際が良いのは言うまでもないが、それだけでは説明がつかないスピードだ。

 

「幸平くんの言う通り、正吾くんは別次元の調理を行っているわ。ただ作業スピードが早い、なんて単純な話ではなくてね」

 

 創真の疑問をえりなが肯定しつつ、冷静に捕捉した。

 

「彼は三品を一つずつ調理しているのではなく、()()()()()()調()()()()()()()()

「「……?」」

 

 言っている意味が理解出来ないといった様子で、創真と田所が首を傾げる。同時に調理していることなど、一目瞭然。疑問を解消する解答にはならなかった。

 

「それは、そうなんじゃねぇか?」

「同時に調理……してるよね?」

「私が言ったのは一品ずつを同時にではなく、()()()()()()よ。ここには大きな違いがあるわ」

「「……???」」

 

 やはり理解が及ばないようで、二人は首を傾げたままだ。

 えりなは分かりやすく説明しようと、腕を組みながら口を開いた。

 

「白津さんとの勝負で使用している『うなぎ』。鏑木さんとの勝負で使用している『牛肉』。そして上間瀬さんとの勝負で使用している『チーズ』。正吾くんは全ての調理を繋げて、調()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「調理時間を……」

「削る……?」

 

 えりなの説明を耳に残しながら、創真と田所は改めて正吾の動きを目で追った。

 

 うなぎ料理に使ったであろう出汁をそのままフライパンに注ぎ入れ、牛肉料理に使う和風ソースの土台へ。牛肉を焼いた時に出た油で野菜を炒め、ピザの具材に。チーズの風味を生かした特製の山椒を作り上げ、うなぎの味を押し上げた。

 

 何一つ、無駄がない。

 一瞬たりとも止まらない動きの中に、創真たちは戦慄させられるほどの技術を見た。一品ずつを同時にではなく、三品を同時にというえりなの言葉の意味を、ようやく理解したのだ。そして同時に、あり得ないと理性が否定する。テーマ食材は先程決まったばかり、こんな綱渡りの調整をアドリブで成功させるなど信じられるはずもなかった。

 

 三つの料理が同時に味を高め合い、完成されていく。

 確かにあの方法ならば一人での調理であっても、制限時間内に三品を作り上げることが出来る。一つ問題があるとすれば、そんな技術を持った料理人がたった一人を除いて存在しないことぐらいだろう。

 

「……なんじゃ、そりゃ」

「あ、あんなの……どうやったら」

「二人とも、落ち込むことはないわ。……あれが──燦徳正吾なのだから」

 

 制限時間の二時間を迎え、全ての料理が出揃った。

 十傑側の料理は言うまでもなく高レベルの完成度を誇り、真の美食と名乗れる一品ばかりだった。

 

 しかし、そんな料理たちを──覇王が粉砕。

 

 自信を、プライドを、尊厳を、料理人としての全てを圧倒的な実力差で破壊した。

 

 

 ──燦徳正吾【3】ー【0】鏑木祥子──。

 

 ──燦徳正吾【3】ー【0】白津樹利夫──。

 

 ──燦徳正吾【3】ー【0】上間瀬御貫──。

 

 

 全試合、満場一致の完勝。

 四人で争っていた調理場に最後まで立っていたのは、燦徳正吾だけだった。

 

「……う、んあぁっ」

「……す、すばら、しぃ」

「やはり君が……ボクの神、なんだね……!」

 

 床に倒れ込む三人を一瞥すらすることもなく、正吾が調理場を降りた。少しばかり、晴れやかな顔をして。

 えりなたちと勝利のハイタッチをした後に、観戦していた薙切薊へ向かって嘲笑を浮かべたのは言うまでもない。

 

 

 1stバウト、燦徳正吾の全勝により──『反逆者連合』の勝利。

 

 

 正吾のストレスが、大幅に解消されたのだった。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

「……忌々しい」

 

 試合会場から繋がる通路を、薙切薊が不機嫌そうに歩いていた。子供のように親指の爪を噛み、眉間にシワを寄せながら怒りを滲ませている。

 理由はもちろん、先程決着した1stバウト。完敗以外の言葉が見当たらない試合結果に、薊は苛立っていた。そして何より、その結果をもたらした相手が燦徳正吾だということが薊の不快度を跳ね上げる。明らかに自分へ向けたであろう見下したような顔も、脳裏に張り付いて離れない。

 

「……やはり、君は危険だ。燦徳正吾」

 

 他には誰も居ない通路に、薊の憎しみが宿った声が響く。

 大勢の生徒の前で見せていた余裕の表情は完全に崩れ、薊は燦徳正吾ただ一人に憎悪の炎を燃え上がらせた。

 

 予想していた通りの危険度に、予想していた通りの実力。このまま好きに暴れてさせてしまえば、全滅させられる未来も十分にあり得る。

 薊はそこで立ち止まり、一つ息を吐く。懐からスマホを取り出し、自身を落ち着かせるように登録されている連絡先をコールした。

 

 何があっても負けるわけにはいかない戦い。それに勝つためならば、手段も選ばない。

 

 薊は己のプライドを捨て──燦徳正吾の排除を決めた。

 

 




 遅れて申し訳ねぇ。
 最近マジで暑すぎます……。北海道行きてぇよぉ……。

 ちなみに上間瀬御貫先輩の名前は『かみませみぬき』として、『かみませ』から『〝み〟抜き』で『かませ』となります(笑)。
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