俺たち反逆者連合は、連隊食戟の1stバウトを全勝で終えた。
薊の悔しそうな顔も見れたし、中々に満足だ。
一時間の休憩を挟んだ後、すぐに2ndバウトが開始される。連隊食戟は初日から飛ばしていくらしい。
現在は控え室に集まり、2ndバウトに誰が出場するかを話し合っていた。俺がこのまま一人で全滅させても良いのだが、流石にそれは人間離れし過ぎていて周りに引かれる可能性が高いので却下だ。体力的にはまだまだ問題ないからやれるとは思うんだけどな。
まあ、何にせよ相談ということで、チームリーダーであるえりなに話を持ちかけた。
「えっ? 次も出場したい? ……でも、正吾くんは連戦になるわ。しかも1stバウトでは三対一で戦っていたわけだし、2ndバウトは休んでも……」
三対一はやらないが、出場しないわけじゃない。当然、2ndバウトにも出るつもりだ。売られた喧嘩は買った上で、売ってきた相手を完膚なきまでに叩き潰すのが燦徳家の伝統。薙切薊を敵として認めた以上、容赦はしない。
「大丈夫。俺はあの程度じゃ消耗したりしないよ。一人では出たくないけどね」
「けれど……いえ、そうね。貴方が作ってくれた1stバウトの勢いを止めたくない。2ndバウトも全勝出来れば、一気に私たちが有利になる」
「その通り。……けど、そう上手くはいかないだろうね。向こうも次は本気で勝ちを取りにくるはずだし、第一席と第二席を投入してくる可能性が大きい」
原作では確か、司と竜胆が出ていたはずだ。後一人は記憶が曖昧だが、多分斎藤綜明か茜ヶ久保もものどちらかだ。まあ、どっちが出て来ても特に問題はないな。別に寿司もスイーツも、作った回数が多いわけじゃないけど。
「じゃあ俺が行くわ。さっきの正吾の料理見てから、落ち着かねぇんだよな。良いだろ? 薙切」
ちゃんとえりなに確認を取る創真。
自分勝手に思われがちだが、コイツはしっかりチームプレイの出来る男だ。実家の定食屋を継ぐ意思が固すぎて無理だが、叶うなら俺の店にスカウトしたいと思うぐらいには評価している。
「……そうね。……正吾くんはどう思う?」
「残念だけど、創真はまだ温存だな」
「ええっ!? なんでだよ?」
「なんとなくだ」
「……な、なんとなくかよ」
適当な返事に肩を落とす創真だが、これは仕方ないことなんだ。
今2ndバウトに出たとしても、創真じゃ司や竜胆には絶対に勝てない。ここで
「やっぱここは俺っしょ。司っさん潰すのは俺に任せてちょ」
「どんな相手が来ても俺なら対応出来る。正吾さんに鍛えてもらった『パーフェクトトレース』で、必ず勝利してみせる」
──というわけで、2ndバウトに出場するメンバーが決まった。
元十傑・第八席である久我照紀先輩と、美作と俺。この三人でオーダーが確定。相手側の選出は分からないが、原作から大きく外れることもないだろう。なにせ、もう俺が三人潰したからな。向こうのメンバー的に出せる料理人は限られてる。
不安要素を挙げるなら妨害工作とかになるが……その時はその時だな。薊がどれだけ追い詰められているのかも分かるし、別にされても問題はない。
プライドだけは高そうだけど、薊もこの勝負だけは負けられないはずだ。何なら自分が料理人として出てきてくれたら面白いんだけどな。回りくどいこと抜きにして真正面から叩き潰してやるのに。
「燦徳ちーん。そろそろ出番だよ?」
「行きましょう。正吾さん」
二人に呼ばれたので、考え事を中断して背中を追う。
本日最後の勝負。──2ndバウトの開始だ。
やはりと言うべきか、向こうの選出メンバーは俺が予想した通りとなった。
第一席、司瑛士。
第二席、小林竜胆。
第四席、斎藤綜明。
以上の三人だ。原作通りの選出に感謝しながら、電光掲示板に表示された対戦カードに視線を向ける。
第1カード。──『司瑛士』VS『久我照紀』。
テーマ食材・『緑茶(茶葉)』。
第2カード。──『小林竜胆』VS『美作昴』。
テーマ食材・『唐辛子』。
第3カード。──『斎藤綜明』VS『燦徳正吾』。
テーマ食材・『
話し合いによって決まった対戦カードだが、特に不満はない。司か竜胆を潰しておいても良かったのだが、それだと原作から大きく外れてしまう。何が起こるか分からなくなるよりは既存の流れを辿った方が良いと判断し、斎藤綜明を相手することにした。
元々久我先輩は司瑛士を狙っていたし、美作は誰が相手でも問題はない。話し合いはこれ以上ない程にスムーズに終わった。
テーマ食材に関しては1stバウトと同様にくじ引きなので運任せだ。寿司職人を相手に鮪を引き当てたのは不運としか言えないだろう。事実、多くの観客たちからは俺が敗北すると予想しているかのような声が聞こえてくる。
檻の中で観戦している反逆者メンバーたちも険しい顔をしていることから、考えていることは同じなようだ。まあ一時間前に三対一で戦ったばかりだし、消耗が激しいとか思われてる部分もあるんだろう。心配してもらえるのは嬉しいが、あの程度で消耗すると思われること自体が俺を舐めてるぞ。
「燦徳正吾。1stバウトでの戦い、見事であった。数の差をものともせず、己の腕のみで相手を斬り捨てる姿には感心させられたぞ」
調理開始前に、対戦相手となる斎藤が話しかけてきた。内容的には喧嘩を売りに来たというより褒めに来たようなので、俺の方も柔らかい対応を心がける。
「ありがとうございます、斎藤先輩。お手柔らかにお願いしますね」
「フッ、その必要はないだろう。……隠していても俺には分かる。お前からは殺気にも似た集中力を感じていた。手加減などすれば、俺とて容易に斬り捨てられるだろう」
武士に憧れているとかで、斎藤は武士っぽい発言が普段通りだ。実力があるから許されているようなものの、普通の奴がやっていたら痛い以外の言葉が出ない。実力があっても少し痛いのに。
「いやいや、お題は『鮪』ですから。胸をお借りするつもりで挑みますよ」
「過ぎた謙遜は嫌味だぞ? ……俺は決して油断はせん。全力で斬り合おうぞ、燦徳正吾」
鮪解体用のデカい包丁を担ぎながら、斎藤が自分の厨房へと歩いて行った。あの刀っぽく見える包丁も、武士プレイを加速させている原因なんだろうな。
「…………全力、ね」
離れていく背中を見ながら、思わず声が溢れる。出せると良いな、全力。
俺じゃなくて──アンタが。
『それでは2ndバウト! 調理開始ですっ!!』
司会の宣言によって、各厨房で料理人たちが動く。
俺のチートが連携に不向き過ぎて連隊食戟特有のサポートには参加出来ないため、俺はまた個人プレイでの勝負だ。美作が久我先輩を援護するみたいなので、心から応援しておこう。マジでソロプレイヤーしか出来ないんだよな、すまん。
「余所見か? 己の料理に集中せねば……後悔することになるぞ」
厨房を挟んでも話しかけてくる斎藤。この世界の料理人って調理中に会話するの好きだよな。自分で言ってる通り、料理に集中すれば良いのに。
俺の隣では久我先輩と美作が互いの調理を助け合う見事な連携を披露していた。参加出来ない立場からすると、なんか肩身が狭い。一緒にカラオケに来て、俺だけが知らない曲を歌われた気分だ。
『ああっと! 巨大な鮪をこれまた巨大な包丁で一刀両断! 鮮やかに鮪を解体しているぞぉっ! 流石は遠月学園が誇る寿司職人、斎藤先輩! 十傑・第四席は伊達じゃないっ!』
斎藤綜明。他の十傑たちとは違って、俺はこの男を知っていた。
もちろん、原作で知っていたというわけではなく、この二度目の人生の中で知っていたという意味だ。
斎藤の実家は小さな寿司屋。地元の人に愛される、名店だった。
寿司職人である母親の背中を見ながら育った斎藤が寿司職人を目指したのは、ある意味必然だったのかもしれない。幼い寿司職人の噂は俺の耳にも入り、一度店を訪れて寿司を食べたことがあった。
技術的にはまだまだの味だったが、強い可能性を感じさせられたのをよく覚えている。何を捨てたとしても、誰より美味い寿司を握りたいという信念を感じる味だった。母親の方は評判通りの腕前だったので、俺は当然スカウトした。普通に断られたけど。
思ったより美味い寿司が食べられたので、スカウトとは関係無しにもう一度訪れたほどだ。その時から、俺は斎藤家の寿司のファンになっていたんだろう。どうにかしてスカウト出来るチャンスはないかと、斎藤家のことを色々と調べ回ったものだ。なので、斎藤綜明という男の事情には少々詳しかったりする。
「斎藤先輩。実家の寿司屋はどうですか? 今も大将は変わらず、母親がやっているんでしょう?」
「……何故それを知っている?」
「二回ほど食べに行ったことがあるんですよ。斎藤先輩の寿司も食べました。大将と比べると、流石に落ちましたけどね」
「……フッ、そうだろうな。これは良いことを聞いた。この勝負で出す寿司をお前に食らわせ、その認識を改めさせるとしよう!」
なんか上手いこと流されたが、表情が強張ったのが見えた。痛い所を突かれた人間の顔だ。やはり、母親の話が地雷らしい。
武士道を重んじる斎藤が薊に従い、どうして『
全ては、憧れの母親が老舗の寿司屋に修行へ行ったことが始まりだった。男尊女卑という旧態の労働環境で身も心も疲れ果て、母親は過労で倒れる。その経験が斎藤を変え、母親と同じ思いをする人をなくすという考えで動いているらしい。腕を磨き、己の力のみで道を切り開く。まさに武士道精神と言ったところか。
弱い者を守りたいという考えは立派だが、やり方が気に入らない。それと、最高の寿司職人になるために全てを捧げるという信念を捨ててしまったことも気に入らない。
全国の美食足り得ない飲食店を潰そうとしているような集団に身を置き、本当の自分を押し殺して料理している姿は……ファンとして見ていられなかった。
「ほう? お主も寿司か。面白い! 真剣勝負ならば望むところっ!」
斎藤と同じように鮪を解体し始めたからか、寿司を作ろうとしていることがバレた。俺は相手の土俵で勝負するのが好きだが、今回は趣味が理由ではない。自分がどれだけ愚かなことをしているのか分からせてやるために、寿司を選んだのだ。
「我らは鮮度が命! 刀を魂で研ぎ澄まし、渾身の一振りにしてみせようぞ!」
「もうすぐ出来るって言いたいんですよね? ……安心してください。俺も、遅れませんよ」
解体し終えた部位を並べ、それぞれに合った調理を施す。
赤身、中トロ、大トロ、ほほ肉、カマ。これらを最高の状態で切り出し、最高の寿司へと姿を変えさせていく。
シャリを取り、ネタを乗せて握る。一度も練習したことないのに、笑えるぐらいに手際がいい。職人泣かせのチートに感謝しながら、全七貫の寿司を作り上げた。
「──お待ちどうっ!!」
「──こちらも同じく」
ほぼ同時に皿を審査員へ提供。机に出された寿司たちが照明に反射して神々しい美しさを放った。
俺の寿司が七貫で構成されているのに対して、斎藤の寿司は十貫。数の差で評価が決まるわけではないが、満足度は向こうの方が上だろうな。
「『まぐろ十貫〜小玉
「特に名前はありません。召し上がれ」
寿司の数が多いからか、審査員たちは最初に斎藤の品へと手を伸ばした。名前通り、宝石のように輝く赤色に目を奪われながら。
あんなの、美味いに決まっている。当然の如く絶賛の嵐だった。舌の上でとろけるとか、余韻がどうのこうのとか、興味なかったのであまり聞いてなかったが、多分そんな感じのことを言っていたと思う。
「さて、約束通りお主の分も用意しておいた。母を超える味、堪能するがいい」
「……いただきます」
促されるままに、俺も寿司を口に運ぶ。美味い。それ以外の感想が出てこないぐらいには美味い。──でも、
「……やっぱりな。こんなもんか」
「……何? 燦徳、今なんと言った?」
「予想していた通りの味だと言ったんですよ。斎藤先輩」
正直に言ったらめっちゃ睨まれた。仕方ないだろ、予想通りだったんだから。
「俺が作った寿司。見覚えがありませんか?」
「見覚え? ……ッ! こ、これは……!」
「そう。
俺が出した寿司は小学生ぐらいの時に斎藤が作っていた鮪寿司だ。今のように十貫ではなく七貫なのはそれで精一杯だったからだろう。俺が食べさせてもらった寿司をこの場で再現したというわけだ。もちろん、アレンジは加えているが。
「何のつもりだ? 燦徳。これは俺が幼い頃に考えたもの。今の俺と斬り合うには切れ味が足りんぞ」
「それは食べてみれば分かりますよ。審査員の方々、次は俺の方の審査をお願いします。──斎藤先輩も、召し上がれ」
「……こんな
斎藤は疑わない。自分自身でも気付いてないから。
今の自分が、過去の自分にも劣る──
「……こ、これは……ッ! 俺が、あの頃に目指していた味だ……ッ!」
味の世界に没頭している審査員たちとは違い、斎藤は目に見えて動揺を表した。寿司を持っていた手はガタガタと震えており、教えられた現実を拒むかのようにも見える。
俺は先に審査員たちが出した審査結果を確認するため、電光掲示板を見上げた。
──斎藤綜明【0】ー【3】燦徳正吾──。
いつも通りの完全勝利。
チートで設定した料理レベルは10段階中の『6』ってところだが、学生時代の十傑が相手ならこれぐらいで完勝出来るらしい。中々貴重なデータが取れたな、ちゃんと覚えとこ。
「分かりました? どっちの刀が……錆びているのか」
「……ッ」
「貴方は『
迷いは毒だ。
手を、思考を、覚悟を鈍らせ、何をしていても本来の力は発揮されない。迷いに支配されている料理人など、死んでいるも同然だ。これは決して、言い過ぎではない。
「俺は貴方の母親をスカウトしたことがある。断られたけど、その際に面白いことを言っていましたよ」
「……母さんが?」
「〝息子の成長を近くで見届けたいから〟……だとさ。全てを寿司に捧げて成長し続ける息子が居る。先輩の母親は、それだけで十分だったんじゃないですかね」
「……そ、それは……」
斎藤自身も迷っている自覚はあったんだろう。自分がしていることが、本当に正しいことなのかどうか。
だから全力ではなく、それなりの力しか込められていない、つまらない寿司を握っていた。自分で自分の切れ味を落としていたのだ。
「目を覚ませ、斎藤綜明。お前の切れ味は、お前のためにあるんだ。他の誰かのためじゃない。お前自身が上に行くためのものなんだよ」
「俺自身が……上に」
「お前が強くなれば、守りたいものだって守れるようになる。自分の信念を捨てるな。捨てずに全部手に入れる強欲さを持て。そう出来るだけの力が……お前にはあるだろ」
「……返す言葉も、ないな」
自分でもお節介だとは思うが、ノリと勢いで説教してしまった。俺は自分で思っている以上に、斎藤家の寿司が好きらしい。やっぱり日本人だし、その辺は仕方ない部分だよな。スカウトするのだって、正直まだ諦めてないぐらいだ。
「お主は……強いな。今のままの俺では絶対に勝てん」
「当たり前だ。──
こちとら掲げた野望を叶えるために、死ぬ気で準備してきたんだぞ。覚悟が違うよ、覚悟が。
「……フッ、最初から勝負にもなっていなかったというわけか。揺らぐことのない己の在り方……完敗だな。見事だ、燦徳正吾」
「つきましては、俺にスカウトされてみません? 燦徳家はいつでも歓迎してますよ。寿司は海外顧客からの評価が高いんで、是非とも手に入れたい戦力なんですよね」
「フハハッ! どこまでも強欲だな! ……母と相談するとしよう」
「良い返事を期待してますね」
こうして2ndバウトが終了。
勝利したのは俺だけで、久我先輩と美作は敗北してしまった。2ー1という結末だが、原作の全敗よりはマシな結果だ。これで向こうの残りメンバーは四人。対する俺たちはまだ六人も残っている。圧倒的に有利な状況だ。
「流石ね、正吾くん。……凄かったわ」
「やっぱすげぇよな! ナイス! 正吾!」
「や、やったね! 燦徳くんっ!」
えりなたちに迎えられ、肩の力が抜ける。
このままいけばこの連隊食戟、間違いなく俺たちが勝つだろう。順調ではある、出来過ぎなぐらいだ。
「……このまま終わる気か? 毒親」
やけに大人しい薊を不審に思いながら、全面対決の初日は幕を下ろした。
連隊食戟二日目。3rdバウト。
三回目ということもあり、対戦カードもスムーズに決まった。
第1カード。──『司瑛士』VS『一色慧』。
テーマ食材・『じゃがいも』。
第2カード。──『茜ヶ久保もも』VS『燦徳正吾』。
テーマ食材・『チョコレート』。
第3カード。──『叡山枝津也』VS『幸平創真』。
テーマ食材・『豚肉』。
両軍出揃い、準備完了。
俺は三連戦での出場にはなるが、何も問題はない。相手は第三席である茜ヶ久保もも。寧々の第六席から始まって、第五席、第四席、そして第三席を潰せるという順番通りの攻略となっていた。
全て順調、計画通り。
阻む者は誰も居ない。
そう、思っていた。
「──正吾様ッ!!」
会場に飛び込んで来たのは一人の女。俺の秘書である峰ヶ崎八重子だった。
ハイヒールで必死に地面を蹴りながら、血の気の引いた顔で俺の所まで駆け寄って来ると、切れた息のまま用件を叫び伝えてきた。
「燦徳グループの海外拠点が……
薙切薊が──
ここから投稿ペースを上げたい(願望)。