夏休み。
それは学生にとって貴重な長期休暇である。一ヶ月以上にも渡る連休を前に、テンションの上がらない学生なんて滅多に居ない。
当然、俺のテンションも上がっている。
夏休みなんてやりたい事やりたい放題のスーパーボーナスステージだ。面倒な授業もなければ、提出義務のある課題もすぐに終わるレベル。毎日女を抱いて、好きな物を食って、好きな事が出来るのだから、テンションが上がらない方がおかしい。
しかし、俺以外の学生はそうでもなさそうだ。
この遠月学園では、特に。
「くそっ、選ばれなかった……!」
「せっかく地獄の合宿を生き残ったってのにっ!」
「やった! 名前があった! この夏休み、死に物狂いで試作して最高の品を作るぞっ!」
学園の広場に、多くの学生たちが集まっていた。その大多数が俺と同じ高等部一年の生徒であり、ほぼ全ての人間が目当てのボードへと視線を向けていた。
そこに掲示されていた内容は──『秋の選抜』に出場する者たちの名前だった。
AとBの両方に分けられた中で三十人ずつ、合計で六十人の生徒の名前が発表されていた。
「……Bブロックの方か。原作はどんなんだったかな」
俺の名前が入っていたのはBの方だった。『燦徳正吾』なんて変わった名前をしているお陰で、同名を疑う必要がなくて助かる。
「おおー! 正吾じゃねえか。お前も選抜に選ばれたんだな」
「ああ、まあな」
和やかに笑いながら声をかけてきたのは創真。お前もという言葉から察するに、コイツも選抜出場権を手に入れたようだ。原作の大筋が変わるような動きはしていないので、当然と言えば当然だが。
「正吾はBブロックか……。じゃあ、お前とは本戦でやり合えるな。へへっ、楽しみだわ」
「そう上手くいくかは分からないぞ。選ばれた奴らは全員、腕が立つだろうしな」
「上等。そうでなきゃ面白くねぇって」
ワクワクしたように笑う創真と軽い感じで会話していると、創真の後ろから金髪碧眼のイケメンくんが大声を上げながら近付いて来た。
創真がタクミと呼んでいるので、イタリア料理を得意としていたタクミ・アルディーニで間違いないだろう。
どうやらタクミは創真と同じAブロックでの予選出場らしく、創真に対して自分が勝つと挑戦を叩き付けにきたようだ。そういえばコイツらはライバル関係だったな。
創真もタクミと話し始めたので、俺はすぐに背を向けて歩き出した。男同士の会話なんて興味ないし、早く部屋に戻って荷造りをしよう。
「あら、燦徳くん。ご機嫌よう」
部屋に向かって歩き出した俺を止めたのは、先日身体の隅々まで楽しませてもらった薙切アリス。従者である黒木場も後ろに見えることから、二人で選抜出場者に選ばれたかを確認しに来たのだろう。
この二人が選ばれないはずもないので、気楽に会話を促した。
「二人も選抜出場者に選ばれたんだね。おめでとう、アリスさん。黒木場も」
「ふふんっ、当然よ。私は遠月の頂点を獲る料理人だもの」
よく言うよ。ベッドの上ではあんあん叫びながら絶頂しまくった挙句、派手に漏らしたくせに。思い出したらムラムラしてきたな。制服を着ててもこんなにエロいってどうなってんだよ。もう歩く公然わいせつ罪だろ。
「いつか私と貴方とリョウくん。この三人で競い合える機会が来ると良いわね」
興味無いけど頷いておいた。心の底から興味無いけど。
「……そ、それと、燦徳くん? お願いしていたマッサージの件だけど……」
少しばかり恥ずかしそうな表情を見せるアリスに、俺は確かな手応えを感じた。
と言うのも、実は連絡先を交換した後でアリスの方から一度だけメッセージが来ている。内容は『もう一度マッサージを受けたい』というものだった。この女、完全にハマっている。
「施設がオープンしたばかりだからね。予約は大量に入ってるし、アリスさんだけ特別扱いは難しいよ。燦徳家にとって昔から付き合いのあるお得意様も多いからさ」
「そ、そう……」
俺の言葉を聞き、アリスがしゅんと肩を落とす。小動物みたいで可愛いが、落ち込む必要なんてない。俺はお前を逃すつもりなんてないんだから。
「──けど、アリスさんはせっかく出来た同年代の友達だし、俺もなるべく何とかしてあげたいな」
「えっ? ……じゃあ」
「うん。施設でのマッサージは無理かもしれないけど、ウチの別荘とかにマッサージ師を呼ぶことは出来ると思うよ。それでも良いなら、だけど」
「っ! 良いわねっ! じゃあ、そうしてもらえるかしら?」
「了解。黒木場も、それで良いかな?」
アリスの性格を考えれば黒木場も反対はしないだろうが、確認を取っておくに越したことはない。一応コイツはアリスの従者、薙切家に関わる人間なのだから。
「……まあ、良いんじゃねぇか? お嬢は言い出したら聞かないし、相手がお前なら特に問題もないだろ」
問題しかないんだよなぁ……。
燦徳の名前を信頼しているんだろうけどさ。このままだとお宅の大事なお嬢様、俺に喰われますよ?
「良かった。なら準備しておくから、近い内にね」
「ええ、ありがと。楽しみにしてるわ」
約束を取り付け、アリスと黒木場は去って行った。
自分から罠に飛び込んでいるなんて、考えもしてないんだろうな。次で確実に堕としてやる。楽しみだ。
さて、今度こそ部屋に戻ろうとしたのだが──。
「あんた、燦徳正吾だね? ちょっとツラ貸しなよ」
また呼び止められた。
なんなんだよ、もういいよこのパターンは。ポケ◯ントレーナーかってぐらい呼び止めてくるじゃん。せめて目と目が合ってからにしろよ。
少々うんざりしながら振り返ると、呼び止めて来た奴は声から予想した通り女。半袖で布地が薄い夏服では包みきれないぐらいの豊満な身体をした女子生徒だった。
紫色のショートカットでこの年齢の女子にしては高身長。こちらに向けられている鋭い目からはひしひしと敵意を感じた。女から恨みを買うようなことに心当たりは有りすぎるが、顔を忘れた女は一人も居ない。誰だ? この女。
「えーっと……どちら様ですか?」
「ハッ、アタシのことなんて眼中にないか。流石は合宿での成績トップ様だ」
挑発的な言葉と態度。名乗りもせずにこれとは中々失礼だ。
取り敢えず喧嘩を売られているということは分かったので、こちらもそれなりの対応をしていく。
「ははっ、悪いね。俺、下の方を気にしたことないんだ」
「……へぇ、言うじゃないか」
目の鋭さが更に増し、眉間に皺が寄った。
どうやら嫌味はしっかりと通じたらしい。良かった良かった。
「それで? 君の名前は? 喧嘩を売りたいなら、名乗るのが当たり前の礼儀じゃない?」
「……
割と素直だな。礼儀って言葉を出したのが効いたか。意外と可愛いところあるじゃん。
「──……ああ、北条って中華の」
あたかも名前で思い出した風にしたが、本当は目の前にあるエロい身体を見て思い出した。この北条という女、原作キャラだ。
登場頻度はそこまで多くないし、結果的に田所さんの踏み台としてその役割を終えてしまったような気がする。だからパッと出て来なかったんだな、納得した。
「それで? 北条さん。一応訊くけど、何の用?」
「宣戦布告だよ。あんたは『秋の選抜』でアタシが潰す。運も味方してるようだしね」
「と言うと?」
「アタシもあんたと同じBブロックでの予選出場だ。一ヶ月後が楽しみだよ」
どこまでも挑発してくる美代子。やはり踏み台で終わった女だからか、挑発にも怖さがない。
成績という言葉に強い執着を感じたし、学園で結果を残すということに焦っているのかもな。まだ一年目なのに生き急ぐねぇ。
「俺に勝てると?」
「負ける理由を探す方が難しいさ。選抜で評価されるのは、料理を作る『速度』でも客の興味を引く『奇抜さ』でもない。純粋な『味』を競うものだ」
「……まあ、そうだね」
言ってることは間違ってないんだけど、
「あんたを潰して、アタシが秋の選抜で優勝する。そして──遠月の頂点までいく」
「志が高いのは結構なことだけど……。実力が伴ってなきゃ、ただの夢見がちな女の子の可愛らしい宣言でしかないね」
「……なんだって?」
俺があまり言い返して来ないので、どこか調子に乗っていたのだろう。美代子は俺の言葉に眉をピクッと震えさせると、音が出そうな程に歯を食いしばった。
「アタシの実力を舐めてるのか……! 女だからって馬鹿にしてんだろっ!!」
「そんなつもりはなかったけど、君はそう捉えるんだね。よっぽど『女』ってだけで舐められるのが嫌なんだ」
「ッ! てめぇっ!!」
我慢の限界が来たのか、美代子が俺の胸ぐらを掴みにかかった。見た目通りの血の気の多さだが、簡単に掴ませてやるほど俺の胸ぐらは安くない。
名家の息子として護身術は一通り習得しているため、捌くのは容易かった。
「怒らせたなら謝るよ。北条さん」
「……お前、気に入らないな」
「それは残念。これでもモテる方なんだけどね」
軽口を叩いたら睨まれた。女子にこんな思いっきり睨まれたの緋沙子以来だな。
「まあでも気に入らないなら、さっき自分で言ってたように潰せばいい。潰せるなら、ね」
「……上等だ。燦徳正吾。お前はアタシが潰す……!」
完全に敵として見られたので、一つ挑発を挟んでおく。
「どうせ勝負するなら、条件を付けてやろう。その方がお互い、燃えるだろ?」
「条件……?」
「一応俺は燦徳家の人間なんでね。程度の低い勝負を受ける訳にはいかない立場なんだよ」
整った顔立ちに豊満な身体。
色白の肌に、服従させたくなる性格ときたもんだ。
──俺は北条美代子を手に入れると決めた。
「ハッ、構わないよ。どんな条件でも受けてやる」
「威勢が良くて助かるね。そうだな……じゃあ、互いの家を賭けようか」
「なんだって?」
「北条さんが勝ったら、燦徳家の権力を好きなだけ使わせてあげる。料理に関することもそうだし、実家の店を大きくするために利用しても良い」
「……そっちが勝ったら?」
「北条さんの実家──『北条楼』を貰う。つまり、燦徳グループの傘下に入ってもらう訳だね」
この女の実家は横浜中華街で五十年近く続いている中華料理の名店だ。傘下にしておいて損はない。
「どう? 受ける?」
「…………」
流石に勝手な判断で実家を賭けるというのには躊躇いがあるらしく、美代子は目に見えて大人しくなった。その辺の冷静さは残ってるのか。
雰囲気的に店を賭けるのは無理そうだと判断したので、煽りを混ぜながらもっと直接的な条件を提示してみた。
「店を賭けるのが怖いなら、
「……自分、自身を?」
「そう。近いうちに中華料理にも力を入れようと思っていてね。中華に精通した腕の良い料理人は何人でも欲しいところなんだ」
相変わらずペラペラとよく回る口だなと、自分の事ながら笑ってしまう。
だがまあ嘘は言ってないし、現実的な話でもある。実家の名前が有名だと色々便利だ。
「アタシが……燦徳家の料理人になるってことかい?」
「そういうことだね。さて、これで北条さんが負けてもデメリットらしきものは無くなったかな? 良かったね。北条さんがウチに来てくれたら『美人すぎる中華の鉄人』として有名にしてあげるよ」
「……どこまでも人を馬鹿にしやがって。……分かった。その条件で受けてやる」
薙切家だけじゃなくて、遠月に来ている料理人は結構な割合でプライドが高い。お陰で挑発しやすくて助かる。
「勝負は秋の選抜予選。……どちらの料理がより評価されるか、でいい?」
「ああ、一ヶ月後が楽しみだね。──そのスカした顔を歪ませてやるから覚悟しな」
最後にもう一度人を殺しそうな目で俺を睨んでから、美代子は背を向けて歩き去った。
とんだ狂犬だったな。どう調教して首輪を付けるか、なんとなく考えとこ。
「……エロい身体が二連続か。……生殺しだ」
アリスに美代子と股間にくる女が続いたので、性欲が高まってしまった。このままでは荷造りどころではない。
俺は今日やろうとしていた荷造りを明日の夜に変更し、逆に明日やろうと考えていた用件を今から済ませることにした。
「……もしもし? 今から俺の部屋に来てくれ。当然、無理なんて言わないよな? ──緋沙子」
都合良く呼び出され、都合良く抱かれる。
新戸緋沙子という少女にとって、そんな扱われ方をされるのは死にも等しい屈辱だった。
こちらの身体を好き放題に弄び、性欲のはけ口にされる。『男』という存在から離れて育ってきた緋沙子からすれば、全ての体験が未経験だった。
身体の奥に叩き付けられる電流のような快楽も、異性に裸体を隅々まで見られるという羞恥も、卑猥な技術を日々仕込まれていく絶望も。
自分の身体が根本から作り変えられるような恐怖すら覚えた。
「──あんっ! あっ、ひゃんっ!」
自らの性器にねじ込まれる禍々しい肉棒。
初めて挿入された時はその太さと長さで痛みすら覚えた凶器だ。しかし、今はその逆。痛みを感じないどころか、感じるのは際限なく溢れ出る快楽のみ。
膣内の形は肉棒の形に変えられ、肉棒を『異物』ではなく『あるべき物』として受け入れてしまっていた。
肉と肉が擦れ合う度に、口から獣のように汚い声が溢れる。最早、それを堪えようとも思わない。無駄な足掻きであると思い知らされているからだ。
「小慣れてきやがって、可愛い奴だ。緋沙子」
「んぐぅっ! んんっ! ああぁぁぁぁっ!」
コツンコツンと子宮口を突かれ、生で粘膜同士が絡み合う。
アフターピルを飲まされ始めてから、ゴム有りの性行為など一度もない。無遠慮に精液を流し込まれ続けている。子宮で精液を受け止める瞬間に途方もない幸福を感じてしまっているので、自分は既に色々と可笑しいのだろう。
「気持ち良いか? 緋沙子」
「きっ、気持ちいぃっ! きもちいぃっ!!」
一度言葉にしてしまえば、二度三度と次々に出てくる。
言わされているのでなく、自分の意思で言葉にしている。気持ち良い、もっとして、と。身体の奥から湧き上がってくる欲求に、緋沙子は完全に屈服していた。
「どこが気持ち良い? どうして欲しいんだ?」
「奥っ! 奥をもっと突いてくれぇっ……!」
「良い子だ。ご褒美に乳首も弄ってやるよ」
「乳首ぃ……! 乳首は……だめぇ……!」
下半身ばかりに気を取られていると、その隙を逃さず上半身が責められる。勃起し続ける乳首の敏感さは言うまでもなく、そこを同時に刺激されてしまえば緋沙子はただ喘ぐ事しか出来なかった。
「夏休みに入ったら緋沙子の相手もしてやれないからな。今日は朝まで楽しもうな」
「あ、朝までなんて……むりぃ……!」
「無理じゃないだろ? ほらほら、大好きな寝バックだぞ〜」
「んんぅっ!! そこぉ、だめぇぇぇっ!」
ベッドに顔ごと身体を押し付けられ、呼吸のし辛さで息が荒くなる。最初は苦しかったこの体位すら、緋沙子は何度もされている内に癖になってしまっていた。お互いの身体の面積が多く触れ合うため、伝わる体温も大きい。
無理矢理されている意識よりも、包まれているような安心感が勝るようになっていた。
「んぐっ、ちゅっ……んっ」
貪られるようなキスも、自ら舌を入れて受ける。だらしなく唾液を交え、何度もキスを繰り返す。生理的な嫌悪も既に感じることはなく、溶けてしまうような悦びに頬を緩ませた。
時間にして一時間。いつもよりは短い一回戦を終え、正吾と緋沙子が休憩を取る。正吾の用意した食事を堪能出来るこの瞬間も、緋沙子にとっては最大のご褒美と言える。
「緋沙子。秋の選抜出場おめでとう」
「……ああ。……ありがとう」
全裸のまま食事を取ることにも抵抗が──全くない訳ではないが、抵抗はかなり無くなっていた。下着も身に付けず、掛け布団一枚で身体を隠した気になるぐらいには。
「さっきも言ったけど、夏休みはお前を抱いてやれない。ごめんな」
「そ、そんなことを謝るな! ……まるで私が、お前を求めているように聞こえるだろう」
「ん? 求めてるだろ?」
「なっ……!」
赤く染まる顔を見せてしまえば、どんな言い訳も意味はない。
緋沙子は燦徳正吾という男に、完全にハマっていた。
「夏休みは選抜に出す料理の試作を頑張ってくれ。緋沙子なら、大丈夫だと思うけどな」
「……貴様に言われるまでもない。えりな様のため、私は負ける訳にはいかないんだ」
ぽつりと溢した緋沙子の呟きに、正吾が軽く笑う。ベッドに座る緋沙子の隣へと腰掛け、肩へ手を回した。
「それでいい。今はな」
「……今は?」
「その内、えりなのためじゃなく、俺のために生きてくれってことだ」
「なっ、何を言ってるんだ! お前はっ!」
「ははっ、本当に可愛いな。緋沙子は」
頭を撫でてくる手を、振り払いもしない。
ただ優しい温もりに癒されている自分に、驚くだけ。
「緋沙子のカレー料理。楽しみにしてるよ」
選抜予選のテーマを持ち出して発破をかける正吾。
緋沙子はそんな軽口に何故か、笑みが溢れた。
そして同時に理解した。理解させられてしまった。
自分は完全に、身も心も。
──この男の『モノ』になってしまったのだと。
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