人気モデルのヤリチンがクラスの女子をファン食いする話 作:小暮こなり
「と、藤堂あかりです! きょきょっ、今日は、よろしくお願いします……!」
「「「よろしくー!」」」とテンション高めの声が上がる。
部屋に入って男女で対面に分かれて座り、自己紹介が始まっていた。
そして俺の正面には、たった今自己紹介を終えたばかりの藤堂あかりが、顔を赤くしながら腰を下している。
なぜ藤堂あかりがここにいる?
俺はそのことで頭がいっぱいだった。
今日はファンを食うための合コンだったはず。それなのに何でうちの高校の生徒である藤堂あかりが……。
それだけじゃない。その藤堂あかりの格好も、俺の頭を混乱させる原因になっていた。
肩が大胆に露出された黒のオフショルダーのトップス。真っ白なふとももをこれでもかと協調する赤いチェック柄のミニスカート。かわいさよりも色気に振ったようなヒールが高めの黒いブーツ。
そして普段はほとんどしていないであろうメイクも、今日ははっきりわかるレベルで大人っぽく仕上げている。
学校での藤堂あかりのイメージとはかけ離れた姿だ。
陰キャ男子でも親しみやすい素朴な雰囲気とは違い、今はどちらかというと遊んでそうなビッチに近い格好である。クラスの男子が見たら卒倒しそうだ。
しかし緊張している様子から、本人の軸はやはり真面目側にあるように見える。あまりその格好やこういう場に慣れている感じではない。
「この子、玲くんの大ファンなんですよ~。いつもは全然おしゃれとか興味ないんだけど、今日は玲くんに会えるからってめっちゃ頑張ってきたんですよ~!」
藤堂が安堵しながら座ったところで、女子のひとりが俺に向かってそう言った。
「え!? やっ! その……ぁ……」
こちらをうかがいながらうろたえる藤堂。
そういうことか。
いやいや俺のファンってどういう確率だよ。学校でいつも起こしてた不良少年が自分の憧れのモデルとか。世間狭すぎるだろ。
ああ、この前イベントのチラシに興味を示していたのはこういうことだったのか。微妙に納得がいった。
そうとわかったら俺も相応の態度をとらないといけない。いちおうプロのモデルだしな。夢を壊すわけにはいかない。
自分の中のギアを変え、焦って顔を赤くした藤堂に向かって、
「へー、そうなんだ。あかりちゃんって言ったっけ? 今日の格好、すっごくかわいいよ。思わずドキっとしちゃった」
「ふぇ!?」
氷室玲モードのイケメンスマイルで答えてやると、藤堂はさらに顔を真っ赤にし、変な声を上げた。
藤堂ってそんな声出すんだ。学校での落ち着いた様子とはまったく違う挙動だ。
「あらためてよろしくね」
「よ、よよ、よろしくおねがいひましゅ……」
噛んでふにゃふにゃになった表情も、学校では見れないものだった。
藤堂にもこんな一面があるんだなと思うと、少し興味がわいてきた。
その後、ひととおり自己紹介を終えると、幹事のやつがリードしながら女子たちに好きな歌などをヒアリングしていく。
そんななか、俺がデュエットの曲を入れると、またあの女子が喋りだした。
「あかり、玲くんと一緒に歌わせてもらいなよ? この曲、ガチ恋のあんたにぴったりじゃん」
「ちょ、ちょちょ!? が、ガチ恋ってのは言わない約束って……あ、玲様ちが……あっ……」
うろたえまくる藤堂。
ガチ恋――いわゆる現実で恋愛関係になることは難しいながらも、本気で推しなどに恋してる状態を指す言葉。
まあ雰囲気からそんな感じはしていたが……あの藤堂がか。しかも何か玲様とか聞こえたし。
いつもなら面倒で適当に流すところだが、今日はなんとなく面白そうだったので悪ノリすることにした。
「え? そうなの? うれしいなー、あかりちゃんみたいにかわいい子にガチ恋されてるなんて。俺も本気になっちゃいそうだから気をつけないと」
「っ~~~~!?」
藤堂は沸騰しそうなほど顔を赤くすると、そのままうつむいてしまった。
何んだかだんだんかわいく思えてきてしまう。
「じゃ、一緒に歌おっか?」
やさしくそう語りかけてやると、藤堂は下を向いたまま、コクンとうなずいた。
クラスの男子に人気なのが、いまさらながらわかったような気がした。
* * * * *
しばらくはカラオケを楽しんでいた。
こういう場を上手く盛り上げるのはモデル仲間たちの得意なところだ。
しかし今日のこの合コンはただカラオケを楽しむ集まりではない。最初からヤることが目的の品のない集まりなのだ。
何でそんな場に藤堂あかりが出てきたのかはわからないが……。
ともかく、ここまでくれば今日は誰が誰を食うのかというのはだいたい透けて見える。
そしておそらく流れ的に、藤堂あかりを食うのは俺だ。
最初からどんな女だろうが食うつもりだったし、何なら彼女にすることも考えていた。
だが、藤堂あかりというイレギュラーによってその予定は狂わされた。
ヤることしか頭にない俺でも、さすがにいつも顔を合わせているクラスメイトを、正体も明かさずに食うのは気が引ける。
ベッドの上で一戦交えたあとではバレるリスクも高いし、わずかに残った良心がチクリと痛む。藤堂みたいな真面目で純粋なタイプ相手ならなおさらだ。
藤堂がドリンクバーに立った。
そもそも藤堂は、これがヤること前提の集まりだってことすら知らない可能性もある。少し探りを入れた方がいいかもしれない。
自然な流れで俺も立ち上がった。
「んじゃ、俺も」
「っ~~!?」
俺の行動にいちいち顔を赤くする藤堂。
こいつ今日一日この調子なのだろうか。
ドリンクバーに向かいながら、ぎこちない動きをしている藤堂に話しかけた。
「今日はさっきの子に誘われたの?」
「は、はい! 中学のころの同級生で……私が玲様の大ファンってこと知ってて……」
そういうつながりだったのか。まあ学校ではあんなタイプの友達いなさそうだもんな。
ていうかもう玲様呼び隠さなくなってるし。
「んじゃ、この後のことも聞いてるの?」
「え? この後、ですか……?」
きょとん、とした顔で首を傾げていた。
あぁ……これ、聞かされてないやつだ。
もし知っているなら、藤堂みたいなタイプはさっきみたいに顔を真っ赤にするはず。
こんな小動物じみた表情は絶対にしない。
「ああ……いや、なんでもない……。ところで、あかりちゃんかわいいよね。学校でもモテるんじゃないの?」
そのことはいったん後回しにして話題を変えた。
「いえ……そんなことは……。学校での私は、こんな私じゃないので……」
少し暗い表情を浮かべる藤堂。
この前の教室のときと同じだ。学校での自分の振る舞いにうしろめたさがあるような。
「で、でも! 玲様を見てると私もがんばろうって思えて……少しは玲様の気持ちもわかるかなって……あっ、私なんかがそんなこと言っちゃいけないんですけど……」
せわしなく表情を変えながら、何かを伝えるように言葉を紡いでくれた。
学校での自分の苦労から、俺の大変さを想像しているのだろうか。行き過ぎた妄想だと自覚しながらも、俺のこと想って言ってくれたのだろう。
まあ別に、そんなことで心動かされる氷室玲ではないが、悪い気分はしない。
「……ありがとね。あかりちゃんも学校で同じ苦労をしてるんだね。一緒だね?」
「っ~~~~!?」
氷室玲スマイルで返してやると、ふたたび顔を真っ赤にしていた。
「さ、ドリンク何にしよっか――」
何も知らないなら無事に帰すことも考えていたがやめた。
こんなに女の中身に興味を持ったのは初めてだし、ちょっとした巡り合わせに身を任せるのも、案外悪くないかもしれない。
隣でうれしそうにドリンクを入れている藤堂を見ながら、心の内で決意を固めた。
俺は今日、学校でファンクラブもできる陰キャ男子憧れの女子――藤堂あかりを食う。