人気モデルのヤリチンがクラスの女子をファン食いする話 作:小暮こなり
藤堂あかりを食う。それはもう決定事項だ。
男慣れしていない藤堂なんて、強引に誘えば簡単に堕ちるだろう。ましてや藤堂は氷室玲にガチ恋しているのだ、もう堕とさないほうが難しい。つーか勝手に堕ちてる。
でも、本当にそれでいいのだろうか?
俺の目的は彼女をつくること。ヤったあとも良好な関係を築かなければいけない。
だとしたら、身体だけじゃない、心も徹底的に堕とす必要がある。俺から堕とすのではなく、藤堂が自ら堕ちる選択をさせる必要があるのだ。
それに、藤堂はもしかしたらそんなテクニックなどに流される女ではないかもしれない。
どこかそんな期待をしている自分に気づく。
自分のたくらみが通用しない、特別な女だと。
意外と俺も乙女なところがあるな。
ま、とりあえずは身体からだ。まずはクラスの男子が想像でしか触れたことのない真っ白な肌を――
そんなことを考えながら部屋のドアを開けた。
「もう~、そんなとこ触らないでよぉ~♡」
女の猫撫で声が聞こえた。
部屋の奥の席で、幹事とさっきの女がイチャコラくっついていた。
少し離れたところでは、もうひと組みの男女も、くっついてコソコソ話している。
「……もうおっぱじめてんのかよ」
俺はややあきれながらつぶやいた。
「っ~~!?」
隣では藤堂が混乱したように顔を真っ赤にしている。
そうだよな、そうなるよな。
さっきまでの楽しいカラオケの空気が一転、何か妖しげな雰囲気に変わっているのだから。
今日の集まりは合コンという名のヤリコン。カラオケはあくまで前座であり、聞こえのいい建前だ。
すでに楽しんでいる女たちを見るに、藤堂以外はこの集まりをしっかり知ったうえで来てるっぽい。とりあえずは安心だ。
空気を壊さないように、ゆっくりと部屋に入っていく。
空いてるスペースに腰を下ろし、藤堂を誘った。
「あかりちゃん、こっちに来なよ」
「ふぇ!? え、と……は、はい……」
藤堂は戸惑いながらも、場の流れに逆らえず、俺の隣に座った。
ドリンクをテーブルの上に置き、緊張した面持ちでうつむいている藤堂。
まずは不安を取り除いてやることが大事だ。そして……。
「びっくりしちゃったよね? ごめんね。今日の合コンってこういう集まりだったから」
「あっ、こ、こういう集まり……ですか?」
「そ、みんなで楽しんで、それで……」
言いつつ、藤堂の肩に腕を回して耳元でささやいた。
「エッチなことする集まり」
「っ~~~~!?」
藤堂は今日一番というくらい顔を真っ赤にさせ、身体をガチガチに固くした。視線をあちこちに飛ばし、息遣いが荒くなる。
だが、どこか期待している部分も見えた。藤堂も年頃の女の子。ヤリコンということを知らなかったとはいえ、憧れの推しとこういう流れになること自体は妄想していたのだろう。これはそういう反応だ。
顔をのぞきこんでやると、動揺した目の奥には、はっきりと欲情が感じられた。
初めて見る藤堂の女の顔に、思わず俺のものまで反応してしまう。
「で、でも私……まだそういうことは、あの……したことなくて……」
しかし、さすがにこの急展開は受け入れる準備ができていないのか、震えながらもしっかりと拒否の態度をとってきた。ついでに処女という情報まで漏らしてくる。
「うん、大丈夫だよ。俺も無理にそんなことしたりしないから。このまま少しやり過ごそう」
まったく思ってもいないようなことをささやく俺。ほんとヤリチンってクズだなと思う。
藤堂は俺の言葉に安堵した笑みを浮かべ、コクンとうなずいていた。
「じゃ、今はこうしてお話してよっか」
「っ~~~~!」
そのあいだ、ガチ恋距離でこのヤリコンのことやモデルの仕事のことを話してやっていた。
* * * * *
しばらくすると、ほかのメンツが男女カップルになって部屋から出ていった。いつものパターンだ。
例の女が部屋を出るとき、「あかりもがんばってね」と鼓舞していたが、藤堂はやはり顔を真っ赤にするだけだった。
部屋に残された俺たちは、同時に脱力していた。
「今日はごめんね、びっくりさせちゃって」
「あ、いえ……びっくりはしましたけど、すごく楽しかったので……」
すっかり信用されているようだが、今日で堕とすためにはもうひと押し必要だ。
リスクを軽減するためにも、さらに信用を得るためにも、俺はある行動に出ることにした。
「あかりちゃん、ちょっといいかな?」
「は、はい。なんでしょうか?」
俺は無言で財布から学生証を出し、藤堂の前に差し出した。
「……え? ええ!? ……霧島くん?」
驚愕する藤堂。
「ごめんね。途中で言うタイミングなくて。俺も今日会ってびっくりしちゃってさ」
「え? え?」
たぶん今日一番で混乱している藤堂。
それはそうだろう。差し出された学生証の名前は霧島修二。つまり、氷室玲と霧島修二は同一人物ということなのだから。
いつも顔を合わせているクラスメイト。それが自分がガチ恋していたモデルだったのだ。混乱するのも無理はない。
俺もちょっと混乱してたし。
「普通は誰にも言わないんだけどさ……ちょっと今回はあかりちゃん何も知らないみたいだったからね……」
「そ、そうだったんですか……」
混乱からの放心状態。少し落ち着かせる必要があるだろう。
それからさらに事情を説明した。
* * * * *
「――ってことがあって」
「あはは」
適当な笑い話も含め、場の空気を和ませることに成功していた。
くわえて、俺がこの合コンに来たのは人数が足りないからで、普段はこんな品のない合コンは絶対にこないということも補足しておいた。実際そんなに来ているわけではないので嘘というわけでもない。
「んじゃ、そろそろ帰ろうか」
「は、はい!」
クラスメイトと明かしたあとも、藤堂は敬語を使っていた。やはりこの姿だと、藤堂にとってはクラスメイトの霧島修二ではなく、人気モデルの氷室玲ということなのだろう。
それでも、かなり打ち解けることはできた。
目的は達成した。あとはもう最後の仕上げに入るだけだ……。
カラオケ店を出て、駅への道を歩く。
「でも、玲様が霧島くんだったなんてほんとびっくりしちゃいました……今でも信じられない」
「はは、そうだね。あ、このことなんだけど……学校では秘密にしてもらえるかな? さすがに学校でバレちゃうと仕事に影響出ちゃうからね」
「も、もちろんです! 誰にも言いません!」
「ありがと。んじゃ……俺とあかりちゃんだけの秘密だね」
「っ~~~~!?」
すっかり安心し、もとの藤堂あかりに戻っていた。
「が、学校では霧島くん、ですよね?」
「そうだね。あと、敬語もなしで」
「は、はい! あ……うん!」
「うん、そんな感じ」
安心、信頼、そして幸せ。
藤堂あかりにとって俺は、憧れの推しで、クラスメイトで、警戒する必要のない男になってしまったことだろう。危ないことからは守ってくれて、学校に行けば会える安心感。そして推しとのふたりだけの秘密。
……ダメだよ藤堂。俺みたいなヤリチンにそんなに気を許しちゃ。
駅に到着した。
「あかりちゃん、ちょっといいかな?」
駅に入って行こうとする藤堂を呼び止めて、少し陰になっている場所に誘った。
「はい、なんでしょうか……?」
警戒心もなく、純粋に疑問符を浮かべながら聞いてくる藤堂。
本当にかわいいよ。本当にね……。
「今日楽しかったしさ、ちょっと運命感じちゃったから……俺からの気持ち」
「っ~~~~!?」
藤堂の肩をやさしく引き寄せてやると、毎度のように顔を真っ赤にした。
しかし藤堂はほとんど抵抗することはなく、うっすらと期待を浮かべた顔でうつむく。
「顔上げて」
やさしくささやいてやると、しばらく逡巡したのち、おそるおそる顔を上げた。
そのまましばらく見つめ合い、ゆっくり目を閉じる。
――ゲームセット。
きっと甘いキスを想像していたのだろう。
初恋。ファーストキス。甘酸っぱい味。
そんな青春の1ページになるような……。
でも残念。
きみの目の前にいるのはそんな相手ではない。
クラスメイトの霧島修二でもない――人気モデルでクズヤリチンの、氷室玲だ。
藤堂の唇を奪う。
「っ!?」
抵抗する暇も与えないように舌を入れた。
瞬間、藤堂の身体がビクンと跳ねた。
「っ~~!?」
甘いキスなんかじゃない。
女を発情させるためのキス。一度は収まった欲情を煽り、理性を駆逐するためのキス。
雄が雌を支配する捕食としてのキスだ。
「んっ~~♡ んんっ~~♡」
藤堂の声色が変わる。
藤堂ならもしかしたらと思っていた。藤堂なら、俺のたくらみを退けて――。
「んんっ――♡ んっ♡ んっ♡ んんっ♡」
だが、違った。
藤堂も女だった。
欲情に流される雌だった。
それでも、たまらなく藤堂のことがほしくなった。
自分の中の感情が落ち着かないのは新鮮な感覚だ。
思っていたよりも、藤堂に興味を抱いていたらしい。
「んっ♡ んっ♡ んんっ♡ んんっ♡ んぐぅ!? んんっんんっ~~~~♡ んぐぅぅぅぅぅ~~~~♡」
限界を迎えた藤堂の身体がビクビクッと痙攣する。
――はい、もう戻れない。
ゆっくりと舌を引き抜き、藤堂の顔を見下ろす。
虚ろになった瞳。蕩けた頬。物欲しそうな唇。乱れた黒髪。
「ぁ……♡ ぁ……♡」
そこに、ファンクラブもできるクラスで人気のやさしい女子、藤堂あかりの姿はなかった。
いるのは、クズヤリチンにいいように踊らされ、欲望のコントロールを失った哀れな女子高生。
肩を大胆に露出したトップスも、ふとももをがっつり晒しているミニスカートも、色っぽいブーツも……。その遊んでいる女の子みたいな格好が、今ではすっかり似合っていた。
「……あかりちゃん、今日、もう少し一緒にいたくない?」
「っ~~♡」
一度心を許してしまった相手。
断る理由すべてを奪われてしまった相手。
もとよりガチ恋の相手だ。嫌われたくないだろう?
いや、もうそんなことも考えられないか。
今はもう、目の前の雄のことしか考えられないんでしょ?
知ってるよ。
俺は最後に、藤堂あかり自らにそれを言わせた。
ガチ恋距離で。
心を堕とすために。すべてを手に入れるために。
「ちゃんと言ってごらん、この後どうしたい? 帰る? それとも……ホテル?」
藤堂はわずかに残った理性と戦っているようだったが、所詮はもう消化試合。
口をパクパクと動かしながら、最後に残った理性を、自らの欲情で塗りつぶしていた。
従順に、素直に、本能の奴隷となった一匹の雌として……、
「ぁ……♡ ぁ……♡ わ、わらしは……れ、玲様と――ホテルに行きたいです……♡」
思わず悪い笑みを浮かべた。
悪いね、ファンクラブの男子くんたち。