Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
戦乱で荒廃した内天に、一度は星間連盟を離れた者たちが氏族(クラン)と呼ばれる戦闘民族となり帰還する。彼らの帰還は、すでに混迷する銀河にさらなる火種をもたらした。
幾多の戦乱を経て、今やWolf氏族とJade Falcon氏族が地球(テラ)を巡って激しく争っている。
西暦3151年、Jade Falcon氏族は地球侵攻のため、勢力内のほぼすべての戦力を地球に投入した。その代償として、彼らの支配圏だった数多の星々は、いまや防衛すらままならぬ巨大な空白地帯と化している。
ここ、ツォンシャン星系は、かつてそのJade Falcon氏族が支配していた辺境の一つ。
ライラ共和国との境界に位置し、今や誰にも顧みられぬ空白の星系である——
Ep.01_01
Ammo Dump Runway
Zhongshan System,Zuhai
Jade Falcon
24 December 3150
「北西方向から基地に接近する機影。識別信号なし。呼びかけにも応じない。」
スクランブル発進した偵察機からの通信が管制塔のスピーカーを揺らす。
夜明け前の滑走路は深い霧が立ち込めていた。
背の低い急ごしらえの管制塔の窓からは、誘導灯の赤い明滅だけがぼんやりと見えている。
管制塔の中ではスピーカーから時折聞こえる偵察機からの報告以外に、音はない。
管制官は一人、無線に耳を澄ませていた。
「緑色の重い機体が単騎...足が早い...TimberWolf?ん?味方機か...?」
高度を下げた偵察機が不審機の肩と脛に白隼のマーキングを認めた。
「いや、デルタ銀河隊はもうこの星を去ってる。ここに彼らが残っているはずがない。」
だが、そう言い切るには妙なひっかかりが残っていた。
氏族の戦士というのは戦闘以外のことは何もしない。というのは有名な話だ。この基地は指揮官達がこぞって地球に旅立ってしまったので、ここの戦士連中は航空管制すらままならない。全体指揮、基地運営など忘れ去られている。
コボルは戦士階級ではなかったが、この環境を良いことに今やこの基地の管制塔、格納庫、弾薬庫を掌握している。残る指揮所は今はがらんどうだ。オペレーター1人いない指揮所に用はなく、コボルにとっては基地全体が見渡せる管制塔が何かと都合が良かった。
思い返してみれば、心当たりが一つある。デルタが来た時は降下船に確かに在ったはずのTimberwolfが1機、いつの間にかどこにも見当たらなくなっていた。あの降下船の格納庫で妙に間を取って停められていた1機——あれが今、ここに現れたというのか。
「右ノーズに53のマークはないか?」
コボルがマイクに問いかけると、しばらくあとに偵察機からマークがあると答えが返ってきた。
少しでも戦力が欲しいと、この弾薬集積所の補給品を根こそぎ持って行ったにも関わらず、どうして彼らが貴重な機体をこの星に残していったのかはわからないが、少なくともこの機体の出処はわかったのだ。
再三の通信機での呼びかけにも応じず、誰が乗っているのかもわからないとあっては機体を基地に近づけるわけにもいかない。重量級の氏族メックとなればなおさらだ。1機でも基地一つ潰せる能力がある。
だが、コボルは上空の偵察機に待機を指示した。
TimberWolfが基地に進入し、駐機場にゆっくりと機体を止めるのを見届けてから、コボルはタワーを降り、霧の中へと歩き出した。
「奇貨居くべし」
彼は低く呟き、その足元でTimberWolfのハッチが開くのを静かに待った。