Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Mining district
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
15 August 3151
「それでは、このご身内の不始末をどうSeaFox氏族に説明なさるおつもりか。」
プリヤンカは電話の向こうに冷たく言い放った。不満の声は隠さない。
契約終了と同時に契約相手に誘拐行為を働くというのは感心できる行いではなかった。
核恫喝の放送を終えたプリヤンカは、ここからルヒ軍閥の中枢に電話をかけた。
制圧した基地の交換機に繋がっている電話は彼女の手元にある一台だけだ。
最初は尊大だった相手も彼女の心がもう軍閥の側にないことを悟ると、遜った。
「示談が成立するのなら、仲介は今回の件を深くは問わないと言っております。」
ちらっと後ろを振り返ると、アリマが連れてきた男が彼女の言葉に首を傾げている。
今の言葉は彼女らが受けた警告だったかもしれないが、嘘はついていない。
「こちらの人員の救出後、停戦に応じていただけるのであれば、本作戦にて必要以上の被害は出さないとお約束しましょう。」
あくまで、選ぶのはこちら側という姿勢は崩さない。
「せっかくご用意しましたが......こちらも撃たずに済みます。」
少しつまらなそうに、惜しむように声を落とす。沈黙で更に圧をかけた。
僅かな沈黙の後、電話の向こうから承知したと言葉が返ってきた。
優雅に礼を告げて、プリヤンカはもう一言告げる。
「ご厚意をいただけるのであれば、宇宙港に在る私たちの船の拘束も解いていただけると。脚がないことには去ることもままなりませんので。」
アリマの顔を思い浮かべる。
果たして彼女のようにうまく演技ができているだろうか?
「では、そのように......」
小さな音を立てて、受話器を置いた。
「お若いのにご立派で」
交渉を一人で終えたプリヤンカに「仲介業者」の男が声をかける。
正体は知っている。SeaFoxの監視者だ。
「核は......どうやら、ご披露できないようです。」
「そもそも、お持ちなのですか?」
硬い表情を崩さない彼女に探るように男は問いかける。
「核の有無について答える権限を私は持っていません。」
でも......とプリヤンカは言葉を続ける。
「SeaFoxの皆さまは核などより、気になる方が在るのでは?」
ママ。とプリヤンカが陰に声をかける。
窓のない部屋に風が吹いた。闇の帳のような衣に包まれ、その存在を浮かび上がらせるように音もなく、アンネが現れた。
「紹介いたしましょうか。精霊猫の神秘術者、アンネ様でございます。」
男は目を見開くと2筋の銀光を放つが、どちらもアンネには届かない。空中で何かに妨げられたかのように不自然に動きを止めた。
遅れてアンネの前にプリヤンカが立ち塞がる。
男は構わず追撃の動きを見せるが、銀光は閃かない。代わりに彼の手元からいくつかの割れた小さな金属の塊がこぼれるように落ちた。
男は観念したように、手のひらを見せて両手を静かに上げる。
「本物かどうか確かめさせていただきました、ご無礼を。」
降参の意を受けて、宙に留まったままだった鋲のような暗器が床に落ちた。いつの間にか、鋲の先端は男の方を向いていた。
「彼女は我らの元に在ります。」
アンネの前から離れないまま、プリヤンカが口を開く。
「私たちの母にどのような興味があるかは存じ上げませぬが、お渡しはできません。」
「......母。......どのような興味が......」
男の口から困惑の言葉が漏れる。彼にとっては余程想定外だったのか「母?」と何度も疑問の言葉を繰り返す。
更に口を開こうとしたプリヤンカをアンネが後ろから止めた。
黒いフェイスベールの下から彼女が言葉を紡ぐ。
「鮫の長にお伝えください。アンネと子の間を引き裂くのなら、それなりのご覚悟を。と」
それを聞いて男は考え込むように嘆息した。
「......確かにお伝えします。」