Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Outskirts of Bern
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
15 August 3151
Fleaからワイヤーで降下したアリマは建物の影に身を預けると、Fleaのコクピットに向けてサインを送った。
建物の裏手に聳えていた背の高い構造物にレーザー砲を打ち込んでいたが、サインに気が付くと移動を再開する。
アレフは建物の玄関口に陣取っているボルド隊に合流しに行く手筈だ。
1発のArrowⅣの弾着音と同時に、警報が館内に鳴り響いた。敵襲を知らせる警報ではなく、倉庫設備に甚大な問題が出たことを知らせる警報だ。
ツェレン達が捕まっている倉庫は穀物を蓄えている。とうもろこしに近しい品種だ。どの設備にどんな問題が出たのかを知らせる機械音声が流れたが、音が割れていて内容は聞き取れない。
建物が軋み、爆音が地面を揺らす。
建物の壁から粉塵が舞い、一部がアリマの髪と肩を白く染めた。
バトルアーマー隊はもう正面のゲートを割っている。建物の背面を守っていた敵もFleaを追った。
これで敵の戦力のほとんどが正面に向かったはず。
アリマは呼吸を整える。
裏手の入り口から、足を踏み入れて暗視スコープを装着する。
頭に付けた無線機を短く指で打つ。
無線の向こうで突入成功のサインを受け取った反応が返ってくる。
正面は陽動で、ツェレン達を救出する作戦の本命はアリマだった。
廊下の奥、開いたドアの向こうで小銃が火を噴く。
「くそっ、敵だ!」
軍閥の兵士が混乱した声をあげる。
アリマは素早く姿勢を低くすると、手にした短機関銃で部屋を制圧していく。
狭い廊下に反響する足音と、断続的な銃声。敵味方も把握できていない混沌が広がっている。
それでも一応、潜入は作戦通りだった。
ここまでは。
目的の独房がある場所が近づくにつれて、交戦するはずだった相手が既に誰かに倒されている状況が増えた。
逆にバトルアーマー隊は何故か倉庫への突入ができていない。
倉庫の裏側で、アリマが想定していないことが起きていた。
嫌な予感がして、脚を早める。
目的の場所に到着したアリマは、自分の不運を確信した。
ツェレンとトヤーが監禁されていたはずの独房は両方とも空だった。
その場に倒れている兵士の体を改める。遺体はまだ体温を失ってから時間を経ていなかった。
何人かの兵士は独房側の通路から撃たれている。
ツェレン達が独房から脱出を遂げていることについては間違いがない。
だが、不思議なことに独房の鍵の束はまだ兵士が持っていた。
――鍵がそもそもかかっていなかった?
そんなはずがあるものか。
相手には独房の鍵を開けておく理由がない。
不可思議な現象に混乱したが、アリマはすぐに首を振って頭を切り替えた。
考えるのは後でいい。
すぐにツェレン達の痕跡を追い始めた。
幸いにもツェレン達は派手に動き回っているらしく、追いやすい痕跡が残っている。
脱走した彼女達はまず倉庫内の武器庫を襲って、小銃とその弾薬を持ち去った。
小銃と言っても彼女らが選んだのは軽機関銃のような連射の利く銃だ。
長時間の連続使用には銃身が耐えられない不良品。
彼女達が持ち出した数の弾を使い切れるかどうかすら怪しい。
アリマは先を急いだ。
館内は混沌としている。2人の痕跡は管理棟に向かっていた。
煙が流れ、爆音が近づき、銃声が交錯する。
倉庫と管理棟を繋ぐ渡り廊下に近づいてみれば、ツェレンとトヤーがそこにいた。
倉庫と管理棟の天井の高さを差を埋めるための中階層で彼女達は敵と銃撃戦を繰り広げている。
「私も撃とうか?」
「絶対ダメよ」
逸るトヤーを嗜めるツェレン。そんな声が銃声に混じって聞こえる。
小銃を構えて、敵に射撃を繰り返しているのがツェレン。
トヤーは物陰から様子を窺っている。大きなカバンを持って、時々ツェレンに弾倉を手渡している。
「次の角、クリア!」
ツェレンが左手で合図を出して駆け出した。トヤーがその後を身を低くしてしっかりと付いて行く。
2人は正面の玄関口を目指していた。
――私、必要だったかしら?
軽口は心の中にしまう。
2人とも下着姿だ。白い肌を晒しての銃撃戦は遠目にも目立ち過ぎていた。
何かの破片を受ければ、即負傷に繋がる。そのリスクを考えれば、彼女達には今すぐにでも後方に下がってほしかった。
特にツェレンはトヤーへの注目を減らすように相手の視線を意識した動きをしている。
ツェレン達はバトルアーマー隊の存在をまだ知るはずがない。
不意の同士討ちを避けるためにも、アリマはここに居た方が良かった。
二人が駆け抜ける先、偶然遭遇した敵兵士が一人。
ツェレンが無言で後ろから襲いかかり、腕ごとねじ伏せて床に叩きつける。
骨が圧力に屈して折れる音が聞こえた。痛みに緊張した指がトリガーを数度引く。
銃声が響き、弾が壁をえぐる。
ツェレンの格闘戦の最中に距離を詰めたアリマはついに彼女達に声をかけた。
「トヤー、ツェレン!」
「アリマ!?」
呼びかけが伝わったことを確認してから、アリマは姿勢を変えずに二人の元に近づく。
「迎えに来たわよ。」
近づいて見ればトヤーの体付きもなかなかだったが、やはりツェレンの肢体の立派さは格が違った。
「……紐?」
あまりの彼女の下着の形状に作戦中であることを忘れそうになる。
さっきの格闘戦でどうして身体から外れてしまわなかったのか不思議で仕方がない。
――隠れて無いし。
目の毒だから一刻も早く何かを着て欲しかった。
しかし、この倉庫で彼女らの身体に合う服を探すのは不可能。
最低限は隠れているので、アリマは今それ以上のことを考えるのはやめにした。
「じゃあ、行くわよ。」
弾倉の交換の終わった小銃を構えて、ツェレンが立ち上がった。
彼女の目は真っ直ぐに倉庫の正面の方向を見ていた。
「裏口から出ないの?」
アリマが訊ねる。本来の作戦は裏口からの脱出だ。
「ボルド達も来てるのでしょう?正面ならばバトルアーマー隊が相手の目を引きつけてくれてる。彼ら、統率が乱れているから相手の後ろを突いた方が安全よ。」
部隊のNo.2の判断だ。従うしかない。
アリマは通信機の向こうのプリヤンカに合流成功と作戦変更を伝える。
アリマの携行弾数は正面突破を想定していない。
ツェレンが倒した兵士の銃と予備の弾倉を拾い上げて、短機関銃は背に預けた。
その間に階段の下から現れた敵にツェレンが対処をしている。
銃口から閃く光がツェレンの起伏に富んだ肢体を幾度か照らした。
しばらく進むとトヤーが窓の先を指差した。
「ここ、玄関の前じゃない?」
「本当に?」
爆発音の中、基地の入口が見えた。
ツェレンがトヤーの頭を抑えて、彼女の姿勢を戻す。
管理棟の一階。高い階よりも、狙撃を受ける可能性が高かった。
装甲車が一台、倉庫の管理棟玄関の前を塞いでいる。
軍閥の装軌車両だった。
狭い範囲を細かく動いて、対光学兵器用の装甲でバトルアーマーのレーザー攻撃を弾きながら、車体上部の機関砲で奮戦している。
Fleaの支援射撃もレーザー兵器で有効打にならない。
玄関口からの突入が遅れているのはこれが理由だった。
ドルジの副官の決断は素早かった。
弾の減った弾倉を床に投げ捨てて、長い大型の弾倉を小銃に装着する。
「行くわよ。トヤー、手榴弾。」
ほいきたとトヤーが大振りの手榴弾を手渡す。
ツェレンは窓を開くとそこから飛び出して駆けだした。
下着姿のまま。
「待って!その格好で行くつもり!?」
アリマの制止は間に合わなかった。
ツェレンは低い姿勢で駆けながら、装甲車を盾にして彼女に背を向けていた兵士たちを小銃で制圧する。
突然の乱入者に気がついたボルド隊からの射撃が止む。
弾を使い切ったのか、銃身が寿命を迎えたのか、迷わずにツェレンが小銃を投げ捨てて、装甲車に取り付く。
バトルアーマー隊に向けて機関砲の制圧射撃を続ける装甲車の反射装甲に一旦、ツェレンは背を預けた。
アリマの短機関銃では距離が遠く、奪った小銃の精度は信頼出来ない。
ツェレンの様子を伺うだけにして、トヤーの安全確保に専念するしかなかった。
「手榴弾より大きいんだけど、あれ何?」
「知るわけないじゃん。」
ツェレンの胸を親指で指さす。
トヤーの緊張を解くための冗談だったが、彼女には真顔で返事をされてしまった。
――羨ましい。
つい、羨望がアリマの頭をよぎる。
ツェレンと並んでいた時は霞んでいたが、目の前の彼女も面積の小さな下着に中身がみっちりと詰まっているタイプだ。
彼女にはアリマの雑念をわかってもらえそうにない。
機関砲の連射の合間を縫って、ツェレンが車体側面の取っ手を掴んだ。
装甲車の上によじ登って、上部の装甲ハッチに取り付く。
力を振り絞ってハッチを開けると咄嗟に上半身をそのまま弓なりに反らす。
ハッチの下から数発の拳銃弾が宙を舞い、ツェレンの白い肌に掠めて、赤い線が走らせた。
左手で手榴弾をハッチの中に投げ込んで、勢いのまま脚でハッチを閉じる。
「ツェレン! 戻ってきて!」
装甲車から飛び降りたツェレンが地に伏せた後ろで装甲車の覗き窓から閃光が走る。直後に爆発音がした。
噴き上がる黒煙にアリマと同じように様子を伺っていたバトルアーマー隊が歓声をあげる。
「ツェレンさん、何か着てください!」
歓声に紛れてボルドの大声が聞こえた。
「なんで私には言わないのさ!」
「君もか!」
トヤーが不公平だと抗議の声を上げるが、彼女はボルドに怒られる。
乙女心に興味を示す彼ではない。
障害が取り除かれたバトルアーマー隊は続々と館内に突撃する。
入れ替わるようにアリマやトヤーは管理棟から離れた。
ツェレンに背を向けてしまえば、バトルアーマー隊は視界の心配をしなくて済む。
そういう事情かは分からないが、彼らは足早に倉庫の中に消えて行く。
あれだけの大立ち回りをしたにも関わらず、なぜかツェレンの下着は定位置を保っていた。