Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ep.12_01
DropPort Pad 5
Esteros System,Bern
Jade Falcon
20 August 3151
「正直、二度と会うことは無いと思ってたわ。」
アリマは呆れた顔をして、仲介業者の男を見た。
宇宙港の待合室に彼女ご指名の来客が来ていると言うので、誰かと思って会いに来てみればSeaFoxの諜報員が待っていた。
この男をいい様に扱ったという自覚があるアリマにとっては、少し心臓に悪い再会になる。
彼を利用して、星の権力者に喧嘩を売ったのも、破壊されたKitFoxの新品を用意させたのも、つい先日の話だ。
悔しそうな顔をする男の表情を見て、アリマは何の用かと首を傾げる。
「今日は、仲介の仕事で来たんですよ。」
鞄から取り出した書類を彼女の前に投げ出すように置いた。
「ここから約70光年離れたクリエフチ。そこの執政官からの悲鳴です。」
紙の束を取り上げて、一枚一枚内容を検める。
この星系はJadeFalconが支配する前はHell'sHorce氏族が蹂躙した星系だった。
氏族に蹂躙される前の支配者だったライラの公爵が今更帰ってきて星系の支配権を主張し始める。
最近、よく聞く珍しくもない話だった。
少し違うのは、公爵の帰還に対してここの執政官は有効な対策を打っているところか。
今まで犬猿の仲だった、氏族への反乱勢力と手を組んで公爵の支配に抵抗しようとしている。
公爵側が現地の抵抗を潰すために傭兵を雇用し、執政官側もそれに対抗して傭兵を探していた。
ただ、氏族側に好意的な傭兵が見つからず、集まりが悪い。
そんなところだろう。
「一応、ドルジの耳には入れてみるけど、受けるかどうかは話は別よ。」
HinterLandsではそこら中で起こっている事件に一々首を突っ込んではいられない。
余程の事情がなければ、引き受けることはないだろう。
「......何も裏はないんでしょうね?」
念のために訊ねると男は両手を広げた。
「喋る権限がない。」
いつぞやの仕返しのつもりだろうか?身に覚えのある返事が返ってくる。
ただ、受けるかどうかわからない、どちらかと言えば話にノリ気でない相手へ向けた彼のこの返答は気になった。
──何も見返りなしには喋れないということね。
「それを話してもらえるような交渉材料がこちらにあるかしら?」
条件が厳しければ、引き受けなければいいだけの話だ。
そんなつもりでアリマは男に訊ねてみる。
彼女の問いに彼は、意外な条件を出してきた。
「もう一度、......マリアさんに会えないだろうか?」
「はぁ?」
こいつは何を言っているんだろうか?
この男の諜報員としての人生に終止符を付けた、アリマが「変装した姿」にもう一度逢いたいと、言うのだ。
ただ復讐をしたいだけであれば、今ここでアリマを殺せばいい。
殺したあとにアリマの変装を解けば、お望みのマリアの遺体に再会できる。
今、彼が相対しているこの姿の方こそ、よほど偽りの姿と言えた。
彼とは一度、抜き身の姿で抱き合っている。
まだ、マリアが「変装後の姿」だと思っているということはないだろう。
「正気?」
彼の真意をはかりかねて、問いかけた。
「どうせ、俺はあと数時間後には消される。もしかしたら、この宇宙港の外にすら出らないかもな。」
言われてみれば、大失敗した諜報員のクセに未だにアリマ達に接触できているのが、不思議だった。
ツォンシャンにてドルジにアンネを奪われた後のSeaFoxの動きは鈍い。
SeaFoxのエージェント達としてはSpiritCat氏族からの預かり物を奪回したいはず。
動けない理由は単純で、彼らにはアンネを抑える手段がないのだ。
そんな手段はこの世界のどこにもないと言っても過言ではない。
SpiritCat氏族の神秘術者が持つ予知や幻視に加えて、更なる超常の力を操る霊能力者。
稀有な能力を持つ彼女の身柄を奪い返そうとするのなら、彼女の同意が無ければ彼女の元に辿り着くことすら不可能だった。
だが、ドルジに脅されているのではなく、彼女は自分の意思でこの部隊にいる。
彼女を殺そうと思うなら、瞬間移動で逃げられないように星ごと焼くという乱暴な手段が使えた。
しかし、それは簡単に決断できる内容ではない。
この星のSeaFoxの管理官は打てる手のなさに頭を抱えていることだろう。
この男が未だに無事な理由は、彼が一番アンネに近い場所にいるからなのかもしれない。
そんな予想を裏切るように男は言葉を続ける。
「いよいよ、逃げられそうにないんで、死ぬ前に良かった女を抱いておこうってだけだ。」
身勝手な言い分だった。人の体をなんだと思っているのか。
諜報員の命や体の軽さは知っている。だが、今のアリマはただの諜報員ではなくドルジの女でもあった。
不必要に別の男に抱かれるのは御免だ。
──やりすぎたかしら?
思い返してみれば、確かにお互いの体の相性は良かったかもしれない。
男の理性を粉々に砕くほどには情熱的に抱き合った自覚はある。
それに加えて、ここ数日で降下船を囲む複数の気配が増えた理由も知りたかった。
増えた気配は全て同一の勢力ということでゾリグとも意見が一致している。
アリマの諜報員としての勘は踏み込め。と言っていた。
一つ、大きなため息をつく。
「船の中に案内するわ。言っとくけど、内壁、薄いわよ。」