Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Fort Chastre Ground
Krievci System,Chastre
Jade Falcon
23 September 3151
相手が悪いと言えば、確かにそうだったかもしれない。
でも、執政官側の戦力の疲弊は想定以上だった。
士官候補生の正装に身を包んだアリマが金属鎧に身を包んだ5人の男たちと相対している。
鎧の上からでは拳は届かない。だが、その板を一部でも外してしまえば、そこには打撃が通じるようになる。
金属の鱗がするっと引きはがされ、露わにされた脛や腹に彼女の肘や蹴りが加えられた。
軽くなった身体を他の兵士に投げつければ、一度に何人も無力化できる。
武器を持たない、一見ひ弱に見える少女が重装の兵士達を徐々に無力化していく様子にドルマー達の横にいたマラートとタニスが頭を掻いた。
ドルジの部隊と出迎えたソラマの老人の初邂逅。彼女の演出は空振りだった。
ソラマの老兵士達はアリマの用意した見た目や血統では騙されてくれなかった。
メック3機の戦力では納得してくれず、パイロット2人の戦歴の提示を求められたところで、アリマの策は詰みを迎えた。
ドルマーにもゾリグにも海賊退治や傭兵との小競り合い以上の戦歴はない。
ソラマの老兵士が期待するような、大きな戦場は未経験。説得力のある戦歴は持っていなかった。
白けそうになった空気の中、アリマはTimberWolfの上のドルジに助けを求めた。
それで、全てが解決した。
ドルジ達は、守備隊の状況説明のために練兵場へ案内された。
ドルマー達が彼らの苦境を聞く間、アリマは頭を冷やすと言って、兵士たちの訓練に混じった。
そして今、赤面しながら、まるで猛獣が唸るように、彼女は声を荒げている。
怒り、羞恥、どんな感情がアリマの中で渦巻いているのかはドルマーにはわからなかった。
「知らないわよ、そんなのっ!」
アリマが虚空に向かって叫ぶ。
彼女の苛立ちはいつも理不尽だ。
自身への怒りが暴力という形で兵士たちを襲っている。
怒りは彼女の繊細な技を研ぎ澄まし、荒々しさは破壊にのみ込められた。
それでも、相手に大怪我を負わせないように、手かげんがされている。
「17年ぶりですな。」
マラートの言葉にドルジは何も返さない。
老兵士はそれに何も不満を抱く様子は無かった。
スカイア、タッカード、アークロイヤル、コンベントリ。
無言の彼は老兵士2人が手を叩くほどに大きな戦場を渡り歩いていた。
スカイア星系ではウルフ氏族を相手に老兵と不名誉戦士を束ねて戦い抜き、TimberWolfはその勝利の証だった。
ソラマの老兵2人は、その戦場で彼と共にいた。
もう、言葉は不要だった。
「どこも、若いのか老いたのしかおらん。」
タニスは練兵場に目をやりながら、現状をボヤく。
死に場所を求める老兵とそれに巻き込まれる若い戦士しかいない。
タニスもマラートもアリマを10代半ばの士官候補生だと信じている。
部隊のお披露目に失敗したとは言え、それで彼女の仕事が終わりではない。
むしろ、彼女の仕事は始まったばかりとさえ言える。
彼女の戦歴はツォンシャン星系以前は空白だった。
機体不足で機体を与えられていないメック戦士。
彼女は今もその役を全うしていた。
今回の失敗はアリマにしては珍しい失敗だったが、アリマらしい失敗でもあった。
――ドルジならきっとどうにかしてくれる。でも、ドルジで問題を解決するのはイヤだ。
彼女の抱える矛盾の一つ。
ドルジが絡むとどうしても判断に私情や色眼鏡が混じる。
アリマとドルジの関係は進展しても、彼女が彼に素直に向き合えているかは別問題だった。
もしも彼女の苛立ちが欲望という形を取れば、その感情はドルマーを襲う。
気づけばドルマーは老兵士たちの話から意識を逸らして、可愛い猛獣の姿を目で追っていた。