Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Fort Chastre Ground
Krievci System,Chastre
Jade Falcon
25 September 3151
「「そぉれ、そぉれ」」
声を合わせて、大きな棒で鍋の具材を掻き回す若い女達の声が響く。
その鍋の上に組まれた足場から、シタはタイミングを見計らって具材や調味料を投げ込んだ。
軽量に使われているのは小さなスプーンではない。
体積を図るための目盛りがついたガラス製の円筒型の容器か、ポリタンクを使う。
ここで細かい重量が測られることはない。
どうしても、体積では測れない食材は彼女の手元を通らずに巨大な重量計へ繋がるコンベアーに並ぶ。
「はい次、よぉし。はい次ぃ。」
円盤の上で重量を指し示す針の前に立っている男の声が途切れることはない。
測りの針の動きが止まらないうちに、皿に載った食材は取り除かれ、次の食材がそこに載る。
針の動きを凝視している彼の普段の仕事は機関士だ。コックでも調理師でもない。
そんな彼が、声を張り上げているのは自分達が口にする食事のためだ。
無重力下では複雑な調理をするのが困難なことであるし、材料の積み込みという面倒も重なる。
固形の乾いた食料を何日も何ヶ月も続けるのが宇宙での食事だ。
ほとんど降下船は、わざわざ調理専門の人間を置くことはしない。
だから、宇宙を駆け回る戦士たちは地上に降りた後でも自分達で材料を確保して、作るのでなければ同じようなものを食べている。
エステロスの鉱山基地では糧食班がいて、彼らが常に決まった時間に決まった量の食事を作り続けていた。
だが、シャストルに駐留していた守備隊にはそんな部署は存在しない。
氏族の老兵や少年兵達は宇宙で食べるのと同じものを食べて日々を過ごしていた。
――とんでもないわ。
部隊のメンバーだけでも、真っ当な食事を摂らせなければ。
そう決心したシタは、シャストルの要塞に調理場があることを発見する。
冷蔵室も冷凍庫もすぐに見つけられた。
アレフに声をかけて、食品と幾らか香辛料の調達に走らせる。
そして、オーケと整備班の手を借りると、シタは半日で要塞の食事供給の機能を復元した。
全てが揃った今、シタは有志を集めて70食分の調理を試しに作っている。
「ひゃっほー、コイツは良く燃えるぞぉ!」
火炎放射器のタンクを背負ったままバヤルが、空気の通り道が無いと火力が出ない。と薪の位置を調節している。
「良いから、早く火ぃ付けてよ。」
狂人の趣味に付き合わされているオーケは、欠伸が出るほどに退屈そうだ。
「具材のカットが完了したので、後は煮込みが始まるだけです。」
シタの立っている足場まで駆けてきたプリヤンカが敬礼の後にそう叫んだ。
「ありがとう。待ってるといつまでも始まらなそうだから、もう、あなたが着けてきても良いわよ。」
足場から降りることなく、上から彼女にそう叫び返す。
「む、紫...」
白衣の下のスカートの中身が目に入ったのか、褐色の表情がさっと赤味を帯びた。
「牡蠣にアボガド、ショウガ、ニンニク、コーヒー豆の粉。今晩の彼はきっといつも以上になるわ。」
仁王立ちの姿勢のまま、自信を持って言い放つ。今晩、誰が彼と夜を過ごす予定なのか関係なく、シタはその前に検診と称してドルジを一跨ぎしようと企んでいた。
彼女が目にしたのは彼の興奮を更に煽るための小道具の布片の色。
「ズルいです。そんなの。」
下着のことか、それともつまみ食いをしようとしていることか、プリヤンカが口の先を尖らせる。
ズルいのは、わかっている。
ただ、部隊で唯一の医者の彼女にはそうでもしないと彼との時間はなかなか作れないのだ。
そういう立場であることはプリヤンカも良く知っている。
「今日はシタさんが彼の相手をする日ですからね、ちゃんと治まるまでやってあげてくださいね?」
だからこそ、彼女はシタのズルについては何も言わずにいつも彼の心配だけをしていた。
――・・・今日、私の日ですって?
それはそれはとても恐ろしいことを耳にしたような気がしたが、シタはそのことについて考えるのは一旦後に回すことにした。