Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Fort Chastre Briefing Room
Krievci System,Chastre
Jade Falcon
01 October 3151
「ここの元公爵様がニューウィーンのトリニティタワーに入ったそうよ。」
ドルジ達に遅れること数週間。
相手の総大将が本陣とする都市を現在の首都シャストルとは別の大陸にある都市に定めた。
「完全武装の歩兵、15000人付き。」
アリマは左手の手のひらを広げ、右手の人差し指と揃えて、ブリーフィングルームで彼女を見上げる面々に見せつける。
この物量が機甲部隊と航空部隊を伴ってどこかの都市に押し寄せれば、守り切るのは難しい。
「この星系で私たちみたいに戦闘用のメックに乗って大砲を撃っているような部隊はほぼいない。」
エステロスと同じように、この星系の戦争も内燃機関で動く工業用メックと戦車が主力だ。
違うところと言えば、この星系は比較的メックが手に入りやすいことと、航空戦力が存在することか。
宇宙艦隊からの軌道爆撃の心配はしなくていいけれども、降下船による降下は警戒しなくてはならない。
つまり、ここでは全周囲をあらゆる脅威に対して警戒しなければならなかった。
「どういうご縁かはわからないけれど、私たちと相対するメック集団は......カロリンジャン警備保障、ローリングストーンズの2傭兵団。」
壁面のディスプレイに写し出された5枚航空写真には合わせて10機近い数の戦闘メックが写されている。
所属を現すマークは全て、ツォンシャンで見たことのある傭兵団の印章だった。
これらの傭兵団と相対しながら、押し寄せる公爵の陸上戦力を同時に排除するのは無理がある。
だからと言って、それらの相手を任せるには抵抗軍や執政官の守備隊はあまりに彼らは頼りない。
「みんなもう知ってると思うけど、ローリングストーンズは最大メック2個小隊を一度に展開できるこの星系でも珍しい傭兵団よ。」
――私たちを狙った傭兵団。
戦歴はほとんど常勝無敗で構成員の情報には謎の部分が多い。
腕利きも新顔も全員が顔を仮面で隠していて、それぞれの性別すら定かでなかった。
「ここ最近で、この傭兵団に泥を付けたのはウチだけ。」
最後の情報は老兵士2人と目を合わせながら、少し強めに言う。
降下船で飛んでやってくる彼らを上陸前に止めるのは、ドルジ達でも執政官の航空戦力でも守備範囲が広すぎて現実的ではなかった。彼らとの戦闘は止められない。
「止めるなら、海を渡ってくる歩兵と機甲戦力よ。」
ディスプレイの表示を切り替えて、リンツという街の港湾の地形図を表示する。
「集結中の陸上戦力はこの都市の港湾から輸送船に分乗して、渡海してくる。」
港湾の地形図上の数ヶ所に赤く丸が描かれた。まだ全ての船は海の上に浮かんでいた。
沖にはこれらを護衛するための艦船が何隻も浮いている。
「チャンスは1度。輸送船を護衛する艦隊が訓練のために出払った瞬間を狙うわ。用意した2000lb爆弾は16発。これと通常の航空攻撃と合わせて、できる限り焼き払って。第一目標は輸送船6隻。第二目標は備蓄の燃料設備。」
アリマが手元のリモコンを操作すると、陸地の多くの区画がオレンジ色で塗りつぶされる。
ここに少しでも火の手が入れば、港湾区画の大半は連鎖的に地獄絵図と化す。
もし、そこに人間が居れば熱で一瞬で炭になるかもしれない。
「先行して、工作員が誘導マーカーの設置と港湾の対空設備の無力化を試みるわ。航空隊への抵抗は軽微で済むはず。ほとんどオーバーフライトみたいな任務よ。」
ゾリグとナランが表情を大きく曇らせる。彼らはもう勘づいている。
港湾に侵入するのはアリマ一人だ。
最低限以下の通信と支援で、敵地のど真ん中に潜り込む。
それは、ここでは誰にも言わない。最低限のメンバーしか知らない。
特に気圏戦闘機隊のメンバーには誰にも伝えていなかった。
「これができれば、彼らのゴスティヴァルへの上陸を少なくとも年末にまで先延ばしにできるわ。」
マラート、タニスが顔を見合わせる。老兵士達にはまだ想像がついていないのだろう。
この作戦では自分たちに出番がないことすら、わかっていない。
気化爆弾が降る中に強襲歩兵を降ろすわけにいかないのはもちろん、彼らの死期が3ヶ月先に伸びたことすら、アリマは言わなかった。
「そういうわけで、私は準備のためにしばらく不在にするわよ。」
詳細は別ブリーフィングで。
アリマはそう言ったが、そのブリーフィングで壇上に立つのはプリヤンカだ。
その頃にはアリマはもう現地にいる。
脱出が遅れれば、味方が落とす爆弾の影響で焼死か窒息死。
成功すれば、この星にドルジ達が滞在する期間内に公爵の用意した戦力が上陸することはなくなる。
その後のことはアリマの知ったことではなかった。