Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Over Gostivar
Krievci System,Gostivar
Jade Falcon
02 October 3151
──もう、気がついてるんでしょう?
わざわざ何にとは言わない。
──郵便屋さん、やってよ。
届ける物も届け先すらもこの娘は言わない。
それでも、大男は彼女の言葉に頷きを返した。
今回のアリマは、いつもに増して秘密主義を強めていた。
彼女の立てた作戦の全貌を知る者は、この部隊の中でも彼女とドルジしかいない。
彼女がいつもつるんで悪さをしているゾリグに声をかけなかった理由は明確だ。
今回の作戦で、アリマ1人にかかる負荷のなんと多いことか。
作戦の成否の全てが彼女の双肩にかかっている。
だが、機体の損失の可能性を減らしながら、限られた数の爆弾を正確に投爆するならば、目標への誘導は必須だった。
情報に関わる人間の数を減らせば、漏れ出すリスクは最小限に抑えられる。
仮に漏れるにしても、それは制御された情報でなくてはならない。
執政官の組織の内部にライラ諜報部の手の者が居るというなら、尚更だ。
ナランのVisigothは夜間に基地を発った。
増槽を付けて、海を渡る。
成層圏まで機体の高度を上げ、一路目的地に向かう。
それ以上の高度は取らない。
機体の胴部に抱えた中古の降下ポッドは、35000ft以上の高度からの降下には耐えられない。
逆にそれ以上の高度を飛んでも中の人間の命が約束できない。と厳に言われていた。
とんだ欠陥品の中に若い女が一人で潜んでいる。
「リンツ上空に入ります、真下はもう港湾です。」
通信機に話しかけても応答はない。
代わりに3度、マイクを叩くような音が返ってくる。
少なくとも彼女が生きていることだけは知ることができた。
「落とします。」
コンソールを操作して左右の翼下の増槽と一緒に胴部から錐型の降下ポッドを切り離す。
ここから先、仮に彼女が窮地に陥ったとしても、手助けできる人間は誰もいない。
切り離しを確認すると、機体をUターンさせて、帰還のルートを辿る。
キャノピー越しに振り返ると彼女を詰め込んだ鉄槽が増槽と紛れて、地上に向かって落ちていくのが見えた。
機体のセンサーとリンクしたバイザーが無ければ、こうして目で追うこともできなかったろう。
黒く塗られた表面は空の闇に紛れて、センサーの範囲を外れるとナランからは追えなくなった。
はるか遠くの空から、偵察機を追い払いに来た迎撃機の気配を感じる。
ナランはVisigothの高度と速度を一気に上げていく。
積み荷さえ放ってしまえば、帰り道に制約はない。
誰かのスコープに捉われる前に、彼は敵地から姿を眩ませた。